機動警察Kanon第141話

 

 

 

 「うぅ〜、また出動だよ…」

名雪は起動中のけろぴーのコクピット内で弱音をはいた。

だがそれも無理はあるまい。

あの雑誌掲載事件から三週間あまり…その間第二小隊は非番時を除いて毎日出動出動また出動という過酷な勤務状態だったのだ。

第一小隊は出動しない日もあったというのに…。

どうやらすっかり課長に睨まれてしまったらしい。

そんな中、今日は珍しく出動がなかったのだが…そうは問屋がおろさなかったらしい。

第一小隊に任務を引き渡す直前に通報された事件…かくして第二小隊は現場へと直行したのであった。

 

 

 

 『警邏203より特車二課第二小隊へ、当該レイバーは引き続き羽田線より昭和島ランプへ逃走中。

繰り返す、当該レイバーは引き続き羽田線より昭和島ランプへ逃走中』

無線機から聞こえてきた状況に秋子さんは指示するため無線機のマイクを取った。

「名雪、真琴」

だがその指示が二人に伝わることはなかった。

なぜならばいきなり目の前に当該レイバー…四脚式の作業用レイバークラブマンが現れたのだ。

「あらあら、来ちゃいましたね」

 

 

 するといきなり真琴の乗る二号機がクラブマンに向かって突貫した。

「覚悟しなさいよ〜!!」

そしてクラブマンに殴りかかる。

だが…クラブマンはあっさりその一撃を躱わすと痛烈な反撃をかました。

二号機の右腕が吹っ飛ぶ!

「あう〜っ!!

そしてクラブマンは二号機を無視して逃走を図る。

「何やっているんだよ〜!!」

仕方が無く名雪が今度はクラブマンを迎え撃つ。

だがクラブマンは…勢いよくジャンプするとけろぴーとキャリアを飛び越えた。

「わっ、びっくり。行っちゃった」

呆然とする名雪。

だが腕を一本やられた真琴は頭にすっかり血がのぼりきっていた。

「させはしなんだから〜!!」

残った左腕で強引に右足に装備された37mmリボルバーカノンを引き抜く。

「くたばれ、悪党!!」

そしてそのままトリガーを引き絞った。

 

 ドキューンー

 

 ドガァーン

 

 いきなり二号機の頭が吹っ飛んだ。

「な、何よ!?」

混乱する真琴に美汐の指示が飛んできた。

『何をやっているのですか!? 銃が逆さまですよ!』

「あうっ!?」

あわてて真琴は天井のハッチを開けて頭を突き出した。

するとそこには凶悪に黒光りする37mmリボルバーカノンの銃口が二号機を狙っていた。

「…それならこうよ!!」

真琴は二号機を180度回転させ、後ろを向いた。

そして後ろ向きに銃を構える。

「くたばりなさい!!」

 

 ドキューンー

二発目は停車中のパトカーに直撃、木っ端みじんに吹っ飛ばす。

 

 ドキューンー

三発目は同じく停車中の装甲車を火だるまにする

 

 ドキューンー

四発目はむなしく虚空を貫く。

 

 ドキューンー

五発目も同じく虚空を貫く。

 

 ドキューンー

最後の六発目…これも直撃はしなかった。

だが…外れた弾丸がアスファルトによって跳弾、クラブマンの右足車輪に命中した。

そのため高速移動中にパンクしたクラブマンはコントロールを失い、倉庫へとつっこんだのであった。

 

 

 

 「…メーカー修理にまわすか?」

あんまりな二号機の状況に北川は呆然としたように呟いた。

目の前の二号機には今や頭と右腕がついていない。クラブマンに破壊されたのだ。

しかし整備班長美坂香里香里は却下した。

「パーツまだあったでしょ」

「あるにはあるが…腕はともかく吹っ飛んだ頭部はセンサーの固まりだからな…。

うちではとても…それとも三号機稼働状況にして二号機の代替機に?」

「あんな高い機械、むやみに現場に出せるわけないでしょ。それに使うのは自分で自機の頭部を吹っ飛ばすバカなのよ。

頭はいらないから腕だけ修理しなさい。頭の方は発注しておいて」

「…了解」

気の乗らない様子の北川、その北川に香里は不満げな表情を浮かべた。

「何よ?」

「いや…今からだと総出でかかっても明日の昼間までかかるなって……」

「徹夜はイヤ?」

「いや…俺は良いんだが他の奴らが…。最近フル稼働が続いていたんで今晩は半分だけでも帰してやりたいなっと…」

そう言う北川。

たしかにハンガー内で整備していた整備員たちはみ眠そうな目、重い足取り…一様に疲れ果てていたようだった。

だが香里は…

「いつおこるかわからない事件を相手にしているんだから仕方がないでしょ」

とあっさり言い放つ。そこで北川渋々反論した。

「…班長にこんなことまで言いたくないんだが相当参っているんだよ、連中。

特に今月に入ってからは交代で仮眠を取るのが精一杯、そのうち事故でも起こさないかと心配で心配で…」

「そう…」

そう呟くと香里はいきなり歩き出した。あわてて北川もその後を追う。

そして香里がたどり着いたのは…整備員たちの仮眠室だった。

 

 

 

 グースーピー

 

 そこでは整備員たちが仮眠室で雑魚寝していた。

気持ち良くいびきをかいている。そうとう疲れているのであろう。

「…北川くん」

「な、何だ?」

「キャリアに二号機載せて今日中にメーカーに搬入しなさ…」

香里の言葉がそこで止まった。

なぜならば仮眠室にあるものが転がっていたのを発見したのだ。

それは健全な男子の夜のお供…平たく言えばエロ本だったのだ。

(な、なんでしっかり隠しておかないんだよ!?)

心の中で絶叫しつつ北川は冷静を装う。しかしそれは上手くはいかなかった。

ダラダラと冷や汗を垂らして動揺する北川。

だが香里はそんな北川を気にせずにエロ本をペラペラとめくる。

やがてチェックが終了したのであろう、無言で立ち上がる。

(み、見逃してくれるのか?)

だが当然香里は見逃してくれたりはしなかった。

仮眠室に置かれているテレビの前に立つと周囲に置かれているビデオテープを一本手に取った。

「『日本の四季 長良川の美』ね…」

そう呟くとビデオテープをデッキに挿入する。

(や、やばい…)

内容に予想がつく北川は絶望した。

 

 

 

 「ふぁぁ〜」

大あくびをしながらトイレに向かうべく廊下を歩く祐一。

すると整備員たちが使っている仮眠室のドアが開け放たれているのに気がついた。

(なんで閉め切っていないんだ? いくら二課とはいえ何でもたるんでいるぞ…)

仮眠室をのぞき込む祐一。

そしてその目の前の光景に驚愕した。

 

 

 『んぁっ! あぅっ……ひゃぁっ……!』

『ぁ、ふぅんっ、ん、んぁっ……!』

『あぅっ! だめ、だめぇ! いっ、いっちゃうっ……!!』

 

 そんな声と映像を香里がじっと見つめ続けていたのだ。

「あ、相沢…」

香里の傍らに棒立ちになっていた北川が祐一に気がついて小声でささやく。

だが祐一は無言で首を横に振った。

(すまん、北川。俺にはどうすることも出来ん)

(そ、そんな薄情な……)

 

 

 やがてビデオは終了した。

それを確認した香里は無表情のまま立ち上がる。

そして叫んだ。

「総員起床!!」

 

 

 

 整備員たち全員を廊下に並べさせた香里は北川を使って二課構内を一斉に捜索を開始する。

すると出るわ、出るわ。

 

 畳をはがすと…そこには床一面のエロ本の山。

 

 天井裏を捜索すれば多量のアダルトビデオ。

 

 床下からは多量の官能小説。

 

 畳をナイフで切り裂けばその中から多量の無修正エロ本。

 

 電算室のコンピューターのHDDをチェックすればエロゲーのデータ。

 

 そのほかにも環境ビデオを装った多量の無修正裏ビデオ。

 

 音楽CDを装った裏が青いCD-ROMなどなど。

 

 

 あっという間に二課構内一角に多量の没収品の山が出来た。

 

 

 

 捜索が終わると整備員たちは一人残らず一カ所に集められていた。

その目の前には多量の没収品の山。整備員たちは全員不安げな表情でその山を眺めていた。

 

(俺の愛蔵の逸品が……)

(せっかく押収品を横流ししてもらったのに……)

(発禁処分を受けて回収されてしまった名作が……)

(もはや絶対に入手不可能な幻の名作が……)

 

 しかし香里はそんなことは全く意に介さなかった。

「北川くん、やりなさい」

「…了解」

香里の命令に北川は没収品の山にガソリンをなみなみと注ぐ。

「火をつけなさい」

「…了解」

あっというまにエロ本・アダルトビデオ・官能小説・エロゲー等が炎に包まれる。

「あああ…わが心の友が……」

「酷い…この世に神は居ないのか!?」

「天は我らを見放した!!」

 

 こうして特車二課整備員たちのコレクションは灰燼と化した。

 

 

 そしてこれこそが特車二課を震撼させ、高貴ある特車二課整備班に唯一の汚点を残した『火の七日間』の始まりとなるのであった。

 

 

 

 

あとがき

おわかりの通り「火の七日間」編です。

まあすぐに終わると思いますので廃棄物十三号の活躍はそれからと言うことで。

それでは〜。

 

 

2002.07.26

 

 

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