機動警察Kanon第139話

 

 

 

 「…ASURAの発信している信号は微弱すぎて海上から正確に捉えるのは難しい。

苦労をかけるけどやって」

舞のその一言に翠川は反論した。

「しかし課長が不在の間はなるべく動くなと言う命令が…」

だが舞はその反論をぴしゃりと打ち切った。

「今沈んでいるASURAは貴重な実戦経験者。急いで引き上げないとダメ」

「…分かりました、課長代理。それではらふれしあ号の出向の準備をさせます」

「急がせて」

 

 かくして佐祐理さん不在の企画七課は動き出した。

 

 

 

 「東京湾なんて潜りたくないな」

「同感だね。どうせ潜るなら休暇とって南の島が良いよな」

ぼやくダイバー二人。

しかしこれはお仕事である、二人は深夜への東京湾へと潜っていった。

 

 

 

 「それにしてもASURAが当局の手に渡らなかったのは幸いでした。

部下の言葉に舞はうなずいた。

「はちみつくまさん」

「…課長代理、それやめません?」

どうやら舞の『はちみつくまさん』が気になるらしい。だが…

「ぽんぽこたぬきさん」

舞はあっさり却下した。

どうやら舞はあくまでも自分の流儀を変えるつもりはないらしい。

そのことを察した部下は大きなため息をつくと続けた。

「東京湾は穴だらけですからきっとその中の一つにはまっているでしょうね」

「問題はどのあたりにはまりこんでいるかだけど…」

しかしそれが船上の舞に分かるはずがない。

ASURA捜索の全ては東京湾に潜ったダイバーたちにかかっているのであった。

 

 

 

 コポコポ

ダイバー二人は真っ暗な東京湾海中をライトを手に捜索する。

その甲斐あってであろうか、彼らは何かを発見した。

『何か発見したの?』

船上から舞が聞いてくる。

しかしダイバーAは首を横に振った。

「いえ、グリフォンとは関係ない部品のようです。

直径50〜60cmのカプセル状の物体…13とナンバーが彫ってあります。…中身は空っぽです」

『無関係だからほっといて』

「了解です」

舞の指示にうなずくダイバー。

そのとき何かが水中を接近して来るのに気がついた。

あわてて二人は物陰へと隠れる。

 

 

 

 そのころ海上では…一隻の船がらふれしあ号に近づいてきた。

「あれはアメリカ海軍の特務艦?」

舞は思わず首をかしげた。

こんなところでアメリカ海軍の特務艦が行動しているなどあきらかに変だったからである。

「こんなところで何をしているんでしょうね?」

「…あやしい…」

「人のこと言えませんよ、課長代理」

怪しいのはアメリカ海軍の特務艦も舞たち企画七課の人間も同類なのであった。

 

 

 「なんだあれは?」

目の前を通り過ぎていく巨大な何かにダイバーAは驚きの声を上げた。

すると相棒のダイバーBは冷静に答えた。

「米軍の水中作業艇だな」

「…あんなのがうろついているとやりにくな」

「おい!」

そのときダイバーBが叫んだ。

「どうした?」

近づくダイバーA、するとダイバーBは腕にはめた発信電波受信機を示しながら叫んだ。

「ASURAの信号が近いぞ!」

「本当だ、この近くらしいな」

「行くぞ!」

「おう!!」

二人はASURAが沈んでいると予想されるポイントへと泳いでいく。

 

 

 「この奥か」

「ラッキーだ! もしかしたら一発で探り当てたかもしれんぞ!!」

汚い東京湾に潜るのはこれでおしまいかと思うとうれしくなる二人。

「課長代理に連絡を入れてくれ。俺はもう少し先に…」

だがダイバーAはその言葉を最後まで発することは出来なかった。

「おい、どうしたんだ?」

いきなり相棒の声がとぎれたことに不審がったダイバーBはAがいた所へと近づく。

そしてそこで驚くべき光景を目にした。

「何だよこれは……」

だが彼のその疑問に答える者は誰一人としていなかったのであった。

 

 

 「連絡が途絶えました!!」

翠川の叫び言葉に舞は思わず聞き返した。

「ASURAを発見したんじゃないの?」

「それがいきなりダイバーの応答が……」

「出るまで呼び出して!」

「は、はい!!」

舞の命令に翠川は無線に向かって呼び出し続ける。

「…気に入らない」

その背中を見て舞はつぶやいたのであった。

 

 

 ドドドドドドドドッ

 

 ズダダダダダァー

 

 「だぉおおおお〜!!」

「うぐぅ〜!!」

「あうぅ〜!!」

「えう〜っ!!」

「こん畜生!!!」

第二小隊の面々が障害物を乗り越えながら突き進む。

 

 

 その様子を隊長室から眺めていた秋子さんはにっこりほほえんだ。

「美汐ちゃんが帰ってきただけで引き締まりましたね♪」

「…いいんですか?」

由起子さんの問いかけに秋子さんは首をかしげた。

「何がですか?」

「いざというとき疲れて使い物にならないなんて状況になる心配はないんですか?」

「心配ありませんよ。まあクラブ活動みたいなものですからね。

本業にさし障りの出ない程度にさせておきますよ。

それになんと言ってもあの子たち、みんな若いんですから」

 

 

 

 「あ〜しんど〜」

「ゼエゼエ…そ…それでも現役の警察官? 」

「うぐぅ、真琴ちゃんの息だって切れているよ……」

「ハアハアハアハアハアハアハアハア」

祐一・真琴・あゆ・栞の息はグロッキー状態であった。だいぶヘタレたらしい。

そんな中名雪は一人かなり余力を残していた。

 

 トントントーン

 

 障害物の上を軽やかに名雪は飛び跳ねる。

その姿を見て祐一は感心した。

 

 「さすが元陸上部部長…『体力だけは』ありあまっているな…」

「さすがでしょ…って祐一、どういうことだよ〜」

『体力だけは』という点に気がついたらしい、名雪は唇をとがらせて祐一に抗議する。

しかし祐一はいつものように名雪をからかった。

「言葉通りだ」

「香里の真似しないでよ〜」

「そんなこと言う人、嫌いです」

「そ…それは私の台詞です……」

息も絶え絶えなのにも関わらず栞まで口を挟んでくる。なかなか立派な根性だ。

そこへ涼しい顔で美汐が歩いてきた。

 

 「これで今日の訓練を終えますがいかがでしたか? ちょっとハードでしたかね?」

名雪を除く四人の姿にそう言う美汐。だが真琴は見栄を張った。

「こ、この程度真琴にはちょちょいのちょいよ! か、軽いもんね」

だがやっぱり息は絶え絶えだ。やはりかなりしんどかったらしい。

「あ…天野さん……」

そこへ栞が手を挙げた。

「はい、栞さん。何でしょう?」

「こ、こういう訓練…私たち特車二課にはどういう意味があるんですか…?」

「意味なんかありません」

栞の質問にあっさり爆弾発言で返してくれた美汐。思わず五人はその場で脱力した。

「うぐぅ、じゃ…じゃあ何でこんなことするの?」

「強いて言うならば最後にモノ言うのは体力です。運動不足のヒッキーには特車二課は勤まりません」

「ヒ、ヒッキーって……」

「ちなみに某有名歌手とは関係ありません」

美汐はそう言うと空を見上げた。

「あとは…あれですね」

そこには一機の報道ヘリが飛んでいた。

「まじめなフリしていれば相沢さんたちもまじめに見えますので」

「…俺は十分まじめだ」

「うぐぅ、祐一くんのどこがまじめなんだよ〜」

「そうよ、そうよ!! 祐一のどこがまじめなのよ〜!!」

「どっちもどっちという気がします」

「栞ちゃん、自分一人だけ真面目ぶるのは良くないと思うよ〜」

「えう〜っ、名雪さん酷いです!!」

 

 やっぱり第二小隊の面々は真面目とはとても言えなかった…。

 

 

 

 

あとがき

特になしです。すいません

 

 

2002.07.18

 

 

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