機動警察Kanon第138話

 

 

 

 それは突然の来訪者だった。

 

 

 

 「あら、珍しいわね。課長が埋め立て地にやってくるなんて」

「たぶん、雑誌の一件だと思いますよ、班長」

 

 

 

 「これはどういうことかね、水瀬くん!?」

出番が少ないので影は薄いが一応ここ特車二課のNO.1であるはずの課長は一冊の雑誌をデスクにたたきつけながら叫んだ。

しかし怒鳴られた秋子さんはまったく気にせず軽く受け流した。

「どういうことかといわれましても内容を知らないことには…」

「ここだ、このページの記事だよ!!」

そう言って課長は雑誌を開くと秋子さんに見せつけた。

そこにはこうでかでかと書かれていた。

 

『屋根の上の油売り!! 

警視庁特車二課−これだけヒマなら帝都は平和?』

 

 そこには第二小隊の面々が二課の屋根の上でだべっていたあの日の写真がばっちり掲載されていたのだ。

 

 「どういう事かと言われましてもごらんの通りの物ですよ」

あっさりそう言う秋子さんに課長は怒鳴りつけた。

「ごらんの通りじゃないぞ!!

 君は一体部下にどんな教育をしているんだ!?」

 

かくして『ぬかに釘』状態の課長の説教が始まったのであった。

 

 

 

 

 「へ〜、課長が来て居るんだ」

「珍しい人が来ているね」

突然の来訪者に第二小隊のオフィス内もこの噂で持ちきりだった。

なんせほとんど本庁にいて、ここ埋め立て地に来ることなど滅多になかったからである。

 

 「わたし元課長による二課襲撃事件(第69話〜第71話参照)以降会ってないんじゃないかな?」

名雪のその言葉を祐一は否定した。

「そりゃあないぞ」

「あれ、そう?」

「そうとも。少なくともあと2〜3回は来ているのは確実だ」

「…祐一さん、課長週に一回は来ていますよ」

栞の訂正に名雪は祐一をジト目でにらんだ。

「祐一、嘘つき……」

「俺は嘘はついていないぞ!! 間違いなく2〜3回は来ているじゃないか!!!」

「うぅ〜」

 

 これではちっとも話が進まない。

そこでお茶と、そしてお茶請けにたい焼きをを運んできたあゆが口を挟んだ。

「で、でも今日は埋め立て地に来る日じゃないよね?」

「どういう風の吹き回しなんだろうね?」

首をかしげる名雪に栞は沈痛な面持ちで答えた。

「理由は見当つきます」

「えっ、何々?」

「うぐぅ、ボクも知りたいよ〜」

「あう〜っ、しおしおもったいぶっていないで早く言いなさいよ〜!!」

一斉に尋ねる名雪・あゆ・真琴の三人。当然祐一も興味津々だ。

「昨日発売されたこの雑誌のグラフですよたぶん」

栞はそう言って一冊の雑誌を取り出した。

それはまぎれもなく課長が秋子さんに見せた雑誌そのものであった。

「実は…」

「「「「実は?」」」」

「私たちのことが載っているんですよ、この雑誌に」

「「「「どれどれどれ!!!」」」」

一斉に栞の手にした雑誌を奪い取る四人。

そして雑誌をのぞき込んだ。

 

 

 

 「「「「おおっ!!」」」」

雑誌に自分たちの写真が載っていることに思わず感動する?四人。

 

 「あっ、これわたしだよ。…帰りに一冊買って永久保存しよっと」

あっさりそう言う名雪に思わず祐一は聞き返した。

「おい、名雪。こりゃああんまり名誉な記事じゃないぞ」

「あまりなんて生やさしい物ではありませんよ」

訂正する栞。

すると真琴が叫んだ。

「はっきり言って不名誉よ!! 真琴はすっごく情けないんだから!!!

誰よ、屋上でひなたぼっこしようなって馬鹿言ったのは!?」

「…別に反対意見もなかったけどな」

祐一がつっこむと真琴は詰め寄った。

「おかげで恥さらしな記事が出ちゃったじゃないのよ!!」

「なら初めから反対しろ。お前結構乗り気だったじゃないか!!」

「あう〜っ」

所詮真琴は祐一に口で勝つことは出来ないのであった。

まあそれはさておいて……

 

 

 「ひょっとして課長ってわたしたちを怒りに来たの?」

そう尋ねる名雪に栞とあゆはうなずいた。

「うぐぅ、そうだと思うよ。まあ怒られるのは秋子さんだけだと思うけど」

「けどそのためにわざわざ埋め立て地に足を運ぶ課長もマメですよね」

「仕方がないさ。秋子さん、都合が悪いときはいつもすっとぼけてなかなか行かないもんな」

祐一の言葉に皆は顔を見合わせると大きなため息をついたのであった。

 

 

 

 「現場復帰早々つまらない騒ぎが起こってしまってすいませんね」

秋子さんの言葉に無事現場復帰を果たした天野美汐巡査部長は首を横に振った。

「いいえ、とくに驚くようなこととは思っていません。

第二小隊がニュースになるとしたらもっと大迷惑な事態を引き起こした時だと思っていましたので」

美汐のその言葉に秋子さんは苦笑した。

「課長もそこいらへんを分かってくれると助かるんですけどね。

まあもっとも上層部にしてみればあの程度のことでも迷惑なんでしょうね。

警察官の不祥事ってなかなか減りませんから」

「それで…私は級長として何をするべきなのでしょうか?」

珍しく冗談を言った美汐に秋子さんはクスリと笑った。

「それじゃあ一度ホームルームでも開いてみます?」

 

 

 

 「き、来ました! 天野さん来ましたよ!!」

偵察に出ていた栞が第二小隊オフィスに飛び込んできた。

その姿を確認した祐一は落ち着き払った様子で口を開いた。

「誰がやるんだ?」

「やるって何よ〜」

祐一の言葉の意味が分からない真琴は尋ねる、すると名雪はあっさり言った。

「それはやっぱり真琴だよ〜。これからもまたコンビ組むんでしょ?」

「うむ、そうだよな」

うなずく祐一。

しかしやっぱり意味が分からない真琴はもう一度尋ねた。

「一体何よ?」

「それはもちろん天野さんへの花束贈呈ですよ」

真琴の耳にささやく栞、その言葉に真琴は照れた。

「な、なんで真琴が花束贈呈しなくっちゃいけないのよ〜!?」

「だって…」

「うぐぅ、だってそれは…」

「もちろん…」

「決まっていますよね?」

栞は花束を真琴に押しつけた。そしてそれを祐一・名雪・あゆがサポートする。

実に息のぴったりと合った四人である。

しかし恥ずかしがり屋の真琴は素直に自分の感情を表すのは思いっきりいやがった。

「ま、真琴はそんなことできないわよ!! そ、それよりあゆあゆ、あんたがやりなさいよ!!」

「うぐぅ、なんでボクが……」

一応抵抗はしたがあゆに真琴の要求を拒みきることは出来ず、結局花束をあゆは受け取った。

そこへ美汐が現れた。

「おはようございます、みなさん。今日からまた……」

復帰の挨拶しようとする美汐、しかしその挨拶は最後まで口から紡がれることはなかった。

「天野巡査部長、全快おめでとう!!!」

「!!!」

 

ヒョイ

 

ズシャー

 

ドガァン!!

 

 「うぐぅ、天野さんがよけた……」

「な、な、な…」

涙ぐむあゆ、呆然とする美汐。そこへ祐一がつっこんだ。

「お前は何か天野に恨みでもあるのか?」

「うぐぅ! そんなわけないよ!!」

「じゃあ何で病み上がりの天野に体当たりをぶちかまそうとするんだ!?」

「体当たりじゃないよ!! 感動の再会だよ!!!」

「誰がどう見たってヒットマンだぞ、お前の行為は」

「うぐぅ!!」

そこへようやく落ち着きを取り戻した美汐が口を開いた。

「あゆさん、花束はうれしいですが体当たりは病み上がりですので…」

 

 「うぐぅ…ボクは……ボクは………」

美汐にまでそう言われてしまい落ち込むあゆなのであった。

 

 

 

 

 そのころ東京湾では

 

 「これが最後のコンテナか…」

作業を見守っていた班長はつぶやいた。

今まさに海上保安庁の巡視艇がNO.13と大きく書かれたコンテナを引き上げているところであったのだ。

「ずいぶんひしゃげちゃってますね」

確かにそのコンテナは大きくひしゃげていた。もはや原型ですらとどめていない状況だ。

「口が開いていたようだからな。しっかり閉じてあればもっと衝撃には強いはずなんだが……。

中の貨物は全部海の底に沈んだか」

「ばらけた荷物はほぼさらいましたよ。今受け取り人に確認してもらっているところですから」

「そうか…」

そうつぶやいた班長はふとある物に気がついた。

「どうしたんだ、その傷は? 塗料がはげちゃっているじゃないか」

海中作業を終え、船上に引き上げられた水中用レイバー菱井製 ML-98「セルキーH10」の肩の塗料が削られてしまっていたのだ。

「海の中で何かにひっっかれたんですよ。こんなことは初めてだ」

答えるパイロット。

しかし班長はその答えを否定した。

「おおかた現場で近くで墜落機の残骸にでも引っかけたんだろ。海中にレイバーをひっかくような生き物がいるか」

それを傍らで聞いていた部下は手で何かをひっかくようなジェスチャーしながら言った。

「『ウミネコ』とかいたらどうですかね、班長?」

「ウミネコは鳥だぞ。馬鹿なこと言っていないで仕事しろ」

 

部下と上司の間で行われた何気ないやりとり。

これがあの戦慄の事件の始まりなのであった。

 

 

 

 

あとがき

久しぶりに美汐登場〜!

それだけですが

 

 

2002.07.16

 

 

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