『先日墜落したアメリカの航空輸送会社フロンティア・エア・カーゴ所属の輸送機が東京湾に墜落した事故の続報です』
隊長室に置かれたテレビは先日起こった輸送機墜落事故のニュースを延々と流し続けていた。
その映像をちらっと一瞥しながら秋子さんは言った。
「それにしても今回の事故、輸送機でまだ良かったですね。
旅客機でしたらまたぞろ愁嘆場を見せられるところでした」
すると書類をまとめていた第一小隊隊長の小坂由起子警部補は眉をひそめた。
「先輩、不謹慎ですよ。乗務員の死者だって出ているんですから」
「程度の差をいっているんですよ。三桁の気の毒よりは一桁の気の毒の方がまだマシってことです。
乗客の家族が何百何十人も絶望で押しつぶされそうになって一夜を過ごすんですよ。
現場にいるといたたまれなくて見ていられませんよ」
「先輩の部下たちはいちどそういう現場を経験しておいた方が良いかもしれませんね」
「あらあら、事故を期待するなんて由起子さんの方が不謹慎ですよ」
「まあそうかもしれませんね」
立ち上がりながら由起子さんは苦笑した。
「それじゃあ本庁に用がありますので行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
部屋を出て行く由起子さんの背中を見ながら秋子さんはつぶやいたのであった。
「…この稼業、わざわざ熱望しなくてもいくらでも辛い目は見られますからね…」
パラパラパラパラ
東京湾上空を数機のヘリコプターが飛んでいた。
それだけではない、海上には海上保安庁の巡視船が必死になって飛行機事故の行方不明者を捜している。
「大騒ぎだな」
「東京湾に飛行機が落ちるなんて何年ぶりなんだろう?」
「…おかげでこちらの作業がやりにくくてしょうがない」
部下たちの発言にシャフトジャパン社員にて企画七課課長代理の川澄舞は無表情でつぶやく。
するとその中の一人明石がフォローした。
「仕方がないですよ。今海に潜ると海上保安庁や警察と鉢合わせしちゃいますから」
「…グリフォンの捜索が打ち切られた矢先だというのに」
悔しそうな舞。
まあせっかく佐祐理さんから任された仕事が飛行機事故でなかなか全うできないと言うのは舞にとって非常に悔しいのであろう。
「何もこんなところに墜なくったってもなあ…他にいくらでも墜ちるところなんてあるのに」
ぼやく企画七課の面子たち。
しかし今は危険を避けるべき状況だ。
そのことを重々承知している舞は苦渋の決断を下した。
「…今は危険を避けるが大事。当局が墜落機の引き上げ作業を終了するまでASURAの捜索は延期する。
佐祐理が戻って来る前に失敗するわけにはいかない」
「了解しました、課長代理。それでは今日は釣りでも楽しみますか」
「はちみつくまん」
こうして課長代理の命令に釣船は東京湾を出ると出向した横須賀へと戻っていくのであった。
所変わって特車二課。
その屋根の上で第二小隊の面々はひなたぼっこ? をしていた。
「八王子から戻ってきたらどうだ、あの黒いやつの捜索は打ち切りだってよ」
憤懣やるせないといった表情の祐一、そんな祐一に名雪は尋ねた。
「これまでに引き上げた残骸で何か分かったのかな?」
「さあね」
すると情報通の栞が口を挟んできた。
「今のところはかばかしくないみたいですよ。似た機械がないそうですから」
「似た機械?」
首をかしげる名雪に祐一が解説した。
「だからさ、普通はどんな機械だってメーカーごとに特徴があるんだよ。
その特徴を対照していけばたいていのメカニックはその製造者が特定できる。
たとえばKanon、あれは今までのKey製品とは相当似ていない機械なんだがそれでもオートバランサー機構でKey製と分かるわけだ」
「へ〜、そうなんだ〜」
感心する名雪に祐一は思わずあきれた。
「…お前一年近く特車二課にいながらそんなことも知らなかったのか?」
「だ、だって…わたしけろぴーしか興味なかったから……」
「お前な〜」
その雰囲気を察知したのだろう、あわてて栞がフォローに入った。
「お姉ちゃんが引き揚げた残骸を見てきたんですけどしいて言うとKanonに似ているらしいですよ」
「そりゃあ設計理念が似ていたんだろうな」
「うぐぅ、それってまさかKey重工で作ったとか?」
そこにあゆも口を挟んでくる。しかし祐一はきっぱり否定した。
「まさか、それは考えられんぞ」
「うぐぅ、どうして? 政治家だって裁判官だって弁護士だって先生だって警察官だって悪いことする時代なんだよ。
一企業が悪いことしたってちっともおかしくないと思うけど」
「いいや、きっぱり否定できる。
なぜならばじっちゃんや高志さんがそんなことするはずがないからな」
「祐一くんが知り合いをかばう気持ちは分かるけど…」
「根拠は他にもある。
もしKeyが黒い奴を製造したとしよう、それならばわざわざこんな犯罪まがいというか犯罪を犯してKanonとやり合うはずないからな」
「どうして?」
「新型レイバー開発したのでテストしてください、って警察に頼み込めば良いだけの話だ。
なんせあの実力だぞ、警察だって喜んで採用するさ」
「そうだね〜」
「そうですよね」
「そう言われてみれば…」
名雪・栞・あゆもこれには賛同するが真琴は一人、この意見には与しなかった。
「機械の似ている、似ていないはどうでもいいけどせっかく撃退、墜落させた物が手がかりとして活かせないなら真琴たちの苦労はいったい何だったのよ〜!!」
叫ぶ真琴に祐一が至極冷静につっこんだ。
「お前が何苦労したんだ? ただ二号機壊されただけじゃないか」
「何よ〜!! あのとき真琴が発砲していなかったら!!!」
祐一につかみかかる真琴。
そこへ秋子さんがやってきた。
「はいはい、みんなが高いところが好きなのはわかっていますけど」
秋子さんのその言葉に五人はへこんだ。
「そりゃあどういう意味ですか、秋子さん」
「お母さんひどいよ…」
「うぐぅ…」
「えう〜っ…」
「あう〜っ」
だがあっさりと秋子さんは流した。
「最近は報道屋さんのヘリが上空を飛び回って居るんです。
ひなたぼっこは自粛して、出来れば中にいてもらいたいんですけど」
「「「「「えっ!?」」」」」
そんな上空をヘリコプターが一機、通過していったのであった。
そして同じ頃東京湾沿岸部にて。
一体の遺体が回収、検死されているところであった。
「…これ、本当に今回の事故機から出た遺体なの?」
検死医の質問に救急隊員の一人がうなずいた。
「それは間違いないと思います。着衣が乗務員のものに間違いありませんから」
「にしたってね…?」
首をかしげる検死医。
なぜならばそこに安置されていた遺体はとんでもないほど破損していたからだ。
「やはり墜落の衝撃がものすごかったのではないですか? それとも魚につつかれたとか…」
「一昼夜ぐらいじゃこうなはならないと思うんだがな…」
「所長、貴島です」
『貴島くんか、ご苦労だ。ところで荷物の方は?』
「はい、貨物は引き上げられて羽田に保管されているんですが…その…13号があがっていないんです」
『なに、13号が!?』
これが東京湾を震撼させたあの事件の始まりとなるのであった。
あとがき
廃棄物十三号編エピローグです。
当然映画「]V」は見ていないので漫画に沿った形で展開していく所存であります。
それでは長くなると思いますがよろしくごひいきのほどを。
2002.07.13