機動警察Kanon第134話

 

 

 

 「わっ、びっくり」

名雪は川上から流れてきたものを拾い上げてつぶやいた。

なぜならばそれは福沢諭吉先生こと一万円札だったのだ。

はっきり言って安月給の警察官にとって一万円はかなりの大金である。

おもわずにんまりする名雪。

「これだけあればイチゴサンデーが10杯は食べられるよ〜」

どうやらねこばばする気らしい。とても警察官とは思えない言動だ。

しかし腐っても警察官である、すぐに名雪は首をかしげた。

「でも何で川に一万円札が流れてくるのかな?」

不思議に思った名雪は川をじっと見つめ始めたのであった。

 

 

 

 そのころ特機研修所では…

 

 「どこまで行ったんだ、名雪の奴は? まさか道路で寝ているのか?」

「うぐぅ、ボクには分からないよ」

いつまで経っても帰ってこない名雪に焦れていた。

「真琴さんがお風呂に入っている間に帰ってきて欲しいんですけどね」

栞の言葉に祐一とあゆはうなずいた。

「あいつは規律規律ってうるさいからな」

「うぐぅ、自分じゃちっとも守らないのにね」

しかしやっぱり名雪は帰ってこないのであった。

 

 

 

 「ま、また流れてきたんだぉ!」

二枚目の一万円札を回収した名雪は思わず驚喜した。

「二万円拾っちゃったぉ〜! これでイチゴサンデーが22杯食べられるよ〜♪」

しかしすぐに我に返った。

「いけない、いけない。そんなこと言っている場合じゃなかった、上流だよ!!」

 

そして名雪は川に沿って上流めがけて突き進むのであった。

 

 

 

 「うぐぅ、真琴ちゃんあがっちゃったよ」

鼻歌交じりで廊下を歩いてくる真琴の姿を認めたあゆは思わず叫んだ。

そしてその言葉に顔を思わず見合わせてしまう祐一と栞。

「どうします? まだ名雪さん帰ってきていませんよ」

「どこへ行きやがったんだ、名雪は!!」

だが名雪はやっぱり帰ってこない。

そして無情にも彼ら三人が待つ小汚い部屋の扉が開いたのであった。

 

 

 

 「三枚目だよ…」

また一枚一万円札を回収した名雪。思わずつぶやく。

はっきり言って川上から一万円札が次々と流れてくるのははっきり言って尋常ではない。

「これは間違いなく事件のにおいがするんだよ…」

名雪の短いながらも警察官としての勘がそう告げているのだ。

(とにかく上流に向かうんだよ!)

決意を新たに名雪はぐんぐん上流へと向かって歩くのであった。

 

 

 

 小汚い部屋は沈黙に包まれていた。

三人のうち誰一人として口を開こうとはしない。

ただ口をつぐんでいるだけだ。

そして部屋の入り口に秋子さんと真琴が立っている、そんな状況だったのである。

 

「率直に答えて欲しいんですけど名雪はどこに行ったんです?」

しかし祐一・あゆ・栞の三人は答えようとはしない。

そのことが明確に物語っていた。名雪が今この場にいないことを……。

しかしそんな繊細なことを察することが出来ないの者いた。

真琴だ。

「名雪はいるの、いないの!? はっきりしなさいよ!!」

「いばるなよ、真琴」

名雪が今いないことを認識した秋子さんは珍しく困った表情を浮かべた。

「あらあら、名雪一人おいて帰るわけにはいきませんし困りましたね」

「えっ、もう帰るんですか?」

「えう〜っ、訓練はまだ一日残っていますよ」

「うぐぅ、何か重大な事件でも起こったの?」

秋子さんの言葉にそう反応する三人。すると秋子さんはうなずいた。

「はい、たぶん今夜中に帰還命令が出ると思いますよ」

「そうですか…実は……」

ここに至ってはもう隠しようもない、祐一は渋々名雪が外出中であることを伝えたのであった。

 

 

 

 「許可も取らないで外出に帰ってこない!? 規律をなんだと思っているのよ!!」

これが美汐あたりに言われるのだったらば祐一たちも「はい、そうです」とうなずいたことだろう。

しかし同じく規律違反の常習者である真琴にそう言われておとなしく黙っていられるほど彼らは出来た性格ではなかった。

「えぅ〜、そんなこと言う人、嫌いです!」

「うぐぅ、ボク真琴ちゃんにだけはそんなこと言われたくないよ!」

「規律違反の常習者のお前にそんなこと言われたくないわ!!」

三人の正論に真琴は思わず後ずさりした。

「あう〜っ、秋子さん……」

「はいはい、みんな喧嘩はだめですよ。それより名雪を捜しに行きましょうね」

「「「「は〜い」」」」

 

 かくして臨時に水瀬名雪巡査捜索隊が結成された。

早速彼彼女ら五人は名雪が買い物に使ったルートを進む。

するとその面前に一台のパトカーが止まった。

そして警察官が一人助手席から顔を出して尋ねる。

「すいません、怪しい人物を見かけませんでした?」

「怪しい人物と言われても…どういう人が怪しい人物なのかしら?」

秋子さんのもっともな言葉に警察官は苦笑した。

「生憎とそれがわかれば苦労はしないんですがね」

「何かあったんですか?」

「はい」

警察官はうなずくと状況を説明し始めた。

「実は一昨日、板橋で起きた金融強盗事件で逃走に使われた車が先ほど八王子の山中で発見されまして

犯人が山の中に逃げ込んだのではないかという疑いが……」

「あらあら、それは大変ですね」

そのとき五人&警察官の前方で大きな歓声が上がった。

「何でしょう?」

「さあ?」

とりあえず「百聞は一見に如かず」ということわざ通り様子を見に行くみんな。

すると橋の上に百人近くの人間が集まっていたのだ。

 

 「どうした、どうした?」

「上流から一万円札が流れてくるんだってよ」

「おおっ、来た来た!!」

「拾え! 拾え!!」

何枚目かは分からないがまた一万円札が流れてくる。

もう橋の上はパニック状態だ。

 

 

 「あのねぼすけ娘め!! これを拾いながら上流に行ったのか!?」

「うぐぅ、待っているのは強盗犯かもしれないのに!」

「あう〜っ、どうして名雪は考えなしに行動するのよ〜!!」

真琴のその言葉に祐一とあゆは真琴をじろっとにらみつけた。

「な、何よ…」

「名雪だってお前だけには言われたくないと思うぞ」

「ボクもそう思うよ」

「あう〜っ!!」

そこへ栞が駆け足でやってきた。

「秋子さんが車出すそうですよ」

栞のその言葉に真琴は不満を漏らした。

「何で特車二課ともあろう者が何でこんなばかばかしい、つまらない事に借り出されなくちゃいけないのよ!!」

「その割には気合い入っているな」

つっこむ祐一。

なぜならば真琴ははちまきにたすきがけ、懐中電灯も複数用意と準備万端だったからである。

「しかたがないでしょ。まさか祐一,名雪なんか見捨てろって言うの!?」

「まさか。そんなことしたら秋子さんのお仕置きが怖い」

祐一のその言葉にあゆ・栞・真琴の三人はオレンジ色の悪夢を思い出したのであろう、ブルっと震える。

しかし真琴はその恐怖を振り払うかのように叫んだ。

「な、名雪はねぼすけでイチゴジャンキーでかえるふぇちだけど同僚には違いないんだから!!

行くわよ、悪党!! この沢渡真琴が正義の鉄槌を下してあげる!!!」

「うぐぅ、真琴ちゃんって良い子だよね」

「はい、私もそう思いますよ。素直でないのが玉に瑕ですけどね」

笑うあゆと栞。

しかしそんな笑いを全く気にするでもなく祐一はつぶやいた。

「しかし名雪の奴どうしたっていうんだ? 勝手にこんなことをする奴じゃないと思っていたんだが……」

「そういえば今日の名雪さん、変でしたね」

「変?」

栞の言葉に聞き返す祐一、すると栞はうなずいた。

「ええ。なんかいらついているようでしたしそれに格納庫でも……」

「ふんふん」

栞の情報に耳を貸す祐一、するといつまで経っても動こうとしない祐一たちに真琴が叫んだ。

「ちょっと!! 早くしなさいよ〜!!」

 

 

 

 しかるにそのころ。

「水瀬警部補!」

本署からの連絡を受けた警察官が秋子さんに報告しようと近づいてきた。

「あらあら、何ですか?」

「本署からの報告なんですが…かくがくしかじかこういうわけでして…」

「あら、そうでしたか」

うなずく秋子さん、しかしすぐに笑った。

「何にせよ上流から次々と一万円札が流れてくるのも事件には違いありませんよ」

「そりゃあまあそうですな」

するとそこへ四人がやってきた。

「「「「秋子さん〜!!」」」」

「もう準備は万端みたいですね」

真琴の姿を見てそう言う秋子さん、すると真琴は元気よくうなずいた。

「うん、もちろんよ!!」

「それじゃあちょっと待ってくださいね」

そう言うと秋子さんは川の見張りをしていた警察官に声をかけた。

「どうです、まだ一万円札流れてきます?」

「いえ、もう流れてきませんね」

「そうですか。それでまだ名雪の姿も見つけられない…。まっすぐ進むと林道にぶつかりますよね?」

「はい、川に降りるのは一苦労になりますよ。街灯もありませんしね」

警察官の言葉に祐一は首をかしげた。

「それじゃあ名雪はどこへ行ったんだ?」

「そんなの決まっているわよ、まっすぐよ、まっすぐ!!

名雪が一万円札の出所を求めて行動しているなら川をさかのぼったに決まっているでしょ!!」

「まあそういうことですね」

真琴の言葉にうなずく秋子さん、そしてぽんと手をたたいた。

「「それじゃあ人数を分けて捜索しましょう。真琴」

「はい!!」

「懐中電灯をいっぱい持っているから川に降りて」

「はい!」

「祐一さんとあゆちゃんは無線機を持って一緒に行ってちょうだい」

「俺がこいつとですか?」

「こいつとは何よ、こいつとは!」

口論し始める祐一と真琴、しかし秋子さんはあっさり流した。

「で残った栞ちゃんは私と一緒に車で道路から捜索します」

「はい!」

 

かくして名雪捜索隊は本格的に始動し始めたのであった。

 

 

 

あとがき

ゲームに夢中になってしまい更新が遅れたことを深くお詫び申し上げます。

 

 

2002.07.03

 

 

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