「ところで祐一、大丈夫なの? 撃ってこないよね?」
ドシュカに相対した名雪は不安を漏らした。
まあ無理もあるまい。
ドシュカが搭載してるのはATMランチャーと40mm機関砲である。
とてもではないがKanonのFRP装甲など一溜まりもないからだ。
しかし祐一はそんな名雪の不安を一蹴した。
「いくら軍用レイバーといえども輸送中の機体に実包なんか積んであるわけ無いだろ」
「そっか。そうだよね」
ほっとして胸をなで下ろす名雪、しかしそうはいかなかった。
いきなりドシュカがATMランチャーをぶっ放したのだ。
ドガァーン
発射された弾丸が高畠&その部下一同が乗ってきた覆面パトカーを吹っ飛ばす。
「だぉ〜!!」
思わず絶叫する名雪、しかしそれは公安外事一課の高畠も同様だった。
「や、止めるんだ〜!! STOP!! STOP!! 撃ち方止めっぃ〜!!!」
大声で必死に叫ぶ高畠、しかしドシュカコクピット内の将校にその言葉が届くことはなかった。
立て続けにATMランチャーをぶっ放す。
その状況に祐一はあわてて名雪に指示した。
「遮蔽物の陰に隠れろ名雪! ドシュカの砲撃にKanonのFRP装甲は一溜まりもないぞ!!」
「祐一の嘘つき〜!!」
「そんなこと言ってる場合か!!」
祐一がそう叫ぶと同時にキャリアが動きだした。
「名雪さん、はやくコンテナの陰に隠れてください!!」
どうやら栞は名雪とけろぴーが遮蔽物の陰に隠れるまでキャリアを盾にするらしい。
しかしそれは祐一にとってはたまったものではなかった。
「わっ!! あたたた!!!」
ATMランチャーの弾丸やら40mm機関砲弾の破片が祐一を襲う。
あわてて祐一はキャリアを飛び降りるとけろぴー同様コンテナの陰へと飛び込んだのであった。
ドドドドドドドドドドドド
ドシュカの放つ40mm機関砲弾がけろぴーの隠れたコンテナ周辺に立て続けに着弾する。
むろん名雪とて黙っていたわけではない。
37mmリボルバーカノンをぶっ放して反撃する。
しかし軍用レイバーのドシュカの装甲を貫くはずがなかった。あっさりと弾丸をはじき返す。
そして再び40mm機関砲をぶっ放してくる。
その状況に祐一は思わず弱音を漏らした。
「駄目だこりゃ」
その一言に計画を台無しにされた高畠がきれた。
「当たり前だ!! 軍用レイバー相手にKanonが何の役に立つ!!
おとなしく見物していればいいものをしゃしゃり出てききやがって!!!
この騒ぎの責任を誰がとるつもりなんだ!!!」
「お前に決まっているだろ!
だいたい身内でも何でも利用できるものは利用しようと言う公安の体質がこの事態を招いたんだろが!!」
状況を忘れてのの知り合う二人。
思わず名雪は叫んだ。
「喧嘩している場合じゃないんだよ!! 一体どうしたらいいんだよ〜ってあ〜っ!!」
名雪は心底びっくりした。
なぜならば貨物船の中からもう一機、ドシュカが姿を現したのだ。
「畜生、よくもやりやがったな!!」
ドシュカ二号機の中で海の家テロリスト犬走一直は叫ぶやいなやトリガーを引き絞った。
ATMランチャーからぶっ放された弾丸はロシア陸軍将校の乗るドシュカに直撃する。
だが……ドシュカにはまったく異常がない。
完全に弾丸を弾ききったらしい。
しかし新たな敵の出現はロシア陸軍将校を心理的に追いやった。
「畜生!!こうなったらやけくそだ!!(ロシア語を日本語に翻訳)」
将校は大して驚異にならないけろぴーを無視してドシュカに向かって突進する。
ATMランチャー・40mm機関砲をぶっ放しながら。
これに犬走は応戦した。
たちまちATMランチャーの弾丸が岸壁や倉庫・コンテナ・クレーンを吹っ飛ばす。
あっという間に山形県酒田市の港は火の海と化した!!
それから数十分後
「くそっ! 弾が切れた!!( ロシア語を日本語に翻訳)」
元々軍用レイバーというのは長時間戦闘出来るようには出来ていない。
ましてそれが強力な火力を保有する重量級レイバーならばなおさらだ。
むろんそのことはレイバー専門家である祐一たちにも常識であった。
というわけで動きを止めたドシュカが弾切れになったとすぐにわかる。
そこで祐一は名雪に指示した。
「今だ、名雪!! スタンスティックを使え!!!」
しかしさっきのこともある。名雪は思わず渋った。
「え〜っ、大丈夫なの?」
「良いからやれ!!」
「わかったぉ〜」
スタンスティックを引き抜くとドシュカの背後から音を立てずに接近する。そして
「えい、食らうんだよ!」
ドシュカの砲塔にスタンスティックを突き立てる。
たちまち高電圧がドシュカを包み込む。
普通ならばこれでレイバーは動かなくなるはずだ。
しかしドシュカは違っていた。
核攻撃時に発生する電磁波に対する防御のためLSIなどコンピューターチップを使用せずに真空管を使用している独自の構造……口が悪い軍事関係者曰くまともなコンピュターチップが手に入らないからとも言われるが……がスタンスティックの高電圧を退けた。
名雪の乗るけろぴーを押し倒す。
そして弾切れのはずなのにけろぴーにATMランチャーの照準を合わせる。
「だ、だぉ〜!!」
だがそこへもう一機のドシュカ……犬走の操縦する二号機が突っ込んできた。
そして一号機に体当たりをぶちかます。
「うわっ!(ロシア語を日本語に翻訳)」
ドボォーン!!
そしてドシュカ一号機は酒田港に沈んだのであった。
「やった…」
ドシュカ二号機のハッチを開けて一号機が海没した様子を見て犬走は嬉しそうにつぶやいた。
彼を利用したこと……そして彼をぶん殴ったこと……。
これらの恨みを晴らすことが出来たからだ。
しかし彼は現状をはっきり認識していなかった、いや観察していなかった。
「動くんじゃないんだよ! レイバー強奪の現行犯で逮捕する!!」」
傍らにいた名雪の乗るけろぴーが37mmリボルバーカノンを突きつけたからだ。
「汚ね〜!」
両手を渋々あげてつぶやく犬走。
そんな彼の姿を見て祐一はつぶやくのであった
「これだから警察って嫌われるんだよな」
そしてその背後では作戦に失敗、大失態をやらかした高畠が肩を落としてがっくりしているのであった。
翌日、隊長室にて。
祐一と名雪・栞・由起子さんの前で秋子さんが一枚の写真を撮りだした。
「イワン・イワノビッチ・イワノフスキー。
レイバー開発に携わったロシア陸軍の技術将校だったそうです。
テロリストを泳がせて利用した上、レイバー隊を巻き込んでの大芝居。
すべてはこの男の亡命から周囲の目をごまかすためのお膳立てだったわけですね」
「うちもなめられたものですね」
由起子さんの言葉に秋子さんはうなずいた。
「バカな話ですよね。
最新鋭レイバーだかなんだか知りませんけど亡命将校だけで満足していればいいものを色気だしちゃったから。
山形県警はもうカンカン、警備部の方でも厳重抗議。今回は公安の大黒星ですね」
そう言ってにっこりほほえむ秋子さん。
そんな秋子さんに由起子さんが尋ねた。
「ところで先輩、あの高畠という男、一体どうなるんです?」
「ああ、高畠さんですか。彼は警部から巡査への降格処分の上、左遷。沖ノ鳥島駐在所に島流しにされるみたいですよ」
「お、沖ノ鳥島駐在所ですか……」
「だ、だぉ〜」
「えぅ〜!」
あまりに哀れな末路に憎ったらしかった高畠もあわれにしか思えなかった。
思わず同情する祐一・名雪・栞の三人。
だが祐一はふと気がついた。
「警部から巡査に降格なんてあるんですか?」
一階級降格ならあるかもしれないが警部補・巡査部長・巡査長とすっ飛ばしての降格はちと考えにくい。
名雪と栞もうんうんとうなずく。
「そうだよね。左遷はわかるけど降格は変だよ〜」
「祐一さんの言う通りです〜」
すると秋子さんは珍しくにやっと笑うと言った。
「祐一さん、聞きたいですか?」
その笑いに祐一・名雪・栞は瞬時に悟った。
これは聞いてはいけない、聞いたら最後とんでもないことに巻き込まれると……。
だから三人は思わず叫んだ。
「いいえ!! 聞きたくありませんです、はい!!!」
「却下だよ!!」
「えぅ〜! そんな話聞きたくありません!!」
「本当に? 興味ありそうだけど…」
「いいえ! それより勤務があるので失礼します!!」
そう叫んで隊長室を飛び出る祐一。
「わたしも失礼するんだよ!!」
「私もです!!」
そして隊長室には秋子さんと由起子さんだけが残された。
「先輩、いくら可愛いのはわかりますけどいじめちゃ可哀想ですよ」
由起子さんのその言葉に秋子さんは笑った。
「あら、心外ですね。みんな知りたがっていたようだから教えてあげようと思ったのに」
だが娘である名雪よりも秋子さんの裏の顔を知っている由起子さんは眉をしかめた。
「先輩、策士策におぼれるっていいますし注意した方が良いですよ」
「あらあらそうですかね?」
「そうですよ」
由起子さんがそこまで言ったところで特車二課内にサイレンが鳴り響く。
第一小隊出動だ。
「それじゃあ先輩、行ってきます。後はよろしく!!」
そう言って飛び出していく由起子さんの背中を見ながら秋子さんはつぶやくのであった。
「そんな手強い相手が出てくれると嬉しいんですけどね♪」
あとがき
結構難産だった「赤いレイバー」編完成です。
しかしこの話は呪われていたな、129話・130話なんか二回ずつ書いているし。
まあこれでこのネタもおしまい、そろそろ廃棄物十三号編にれっつごーですな。
2002.06.21