20××年、このころ都内では8000台あまりのレイバーが工事現場を始めとしてあちこちの現場で稼働していた。
それらの大半は当然のことながら厳重な管理下の元、社会に貢献していた。
しかしそんな中にも一部の不心得者はいるわけだし、またレイバーの性能の高さに注目する犯罪者もいた。
その結果、レイバーの普及ともにレイバー犯罪と呼ばれる新たな社会的脅威が生じた。
そのためレイバー犯罪に対抗すべく警視庁に設けられた特殊車両二課、通称パトレイバー中隊。
彼らはその予算的制限により二個小隊、予備機を含めてたった六機のレイバーでこれに対抗するしかなかった。
しかし何かと便利な使えるレイバーという機器を装備した特車二課である。
このほかにもテロリストやら交通事故やらなにやら訳のわからない任務からVIPの警備まで。
警察のお仕事で言えば捜査以外は何でもやらされる羽目に陥った。
得手不得手を問わず……。
今回のお話はそんな彼らの適正を無視して警察上層部がポイント稼ぎに走った結果起こったある事件のお話である。
「おい名雪、異常はないか?」
祐一のその言葉に名雪はうなずいた。
『うん、異常はないよ。でも…何かあったらどうするの?』
名雪がそう言うのも無理はないことであった。
なぜならば今第二小隊がいるのは皇居正門(二重橋)。
これから天皇陛下による新年一般参賀が行われるのだ。
そのため特車二課から第二小隊が警備のために派遣されてきたのだがいかんせん参列者が多すぎた。
手に日の丸の旗を持った老若男女が第二小隊の面々のそばを通っていくのだが…その人数の多さは半端ではなかった。
はっきり言って足の踏み場もないとはまさにこのこと。
はっきり言って何か事が起こったとき対処できるのかどうか?
こういったVIP警護の経験が少ない彼らには自信がないのであった。
『何で真琴がこんな退屈な仕事しなくちゃいけないのよ!!』
ボケーッと突っ立っていることに耐えかねた真琴が一人二号機コクピット内で叫ぶ。
任務の重要性が全くわかっていない大変な暴言だ。
しかしそれをいさめるはずの美汐はこの場にはいない。
未だ幕張で撃たれた怪我が治りきっておらず入院中だからだ。
それゆえ今は美汐の代理で二号機の指揮を執っているあゆが真琴に注意を促せた。
「うぐぅ、真琴ちゃん 。今はお仕事中だよ」
『そんなことぐらいあゆあゆに言われ無くったって分かっているわよ!! ただ真琴は退屈なの!!!』
「だ、だめだよ。そんなこと言うの!!」
『ねえ、祐一』
「ん? 一体なんだ?」
真琴とあゆの口論を指揮車内でボケーッと聞いていた祐一は大きな欠伸を一発すると声をかけてきた名雪に聞き返した。
すると名雪は不思議そうな口調で続けた。
『いつも要人警護って第一小隊が出動していたよね。何で今回はわたし達なの?』
「何だ、そんなことか。なに単純なことだ、第一小隊は昨日明治神宮やら何やらの夜間警護に当たっていただろ」
『うん、そうだったね』
「そんな寝不足な状態でまともな勤務が出来るわけがない、そうだろ」
『そうだよね〜。寝不足は健康にも美容にも良くないもんね』
「だから夜徹夜した第一小隊に変わって俺たちが警備に当たっていると。まあそう言うわけだ」
祐一がそこまで言ったところで一号キャリア内の栞も話に割り込んできた。
『それでしたら私たち第二小隊が夜間の警護に出て、第一小隊が昼間警護に出た方が良いと思いますけど』
『そうだよね。栞ちゃんの言うとおりだと思うよ〜』
しかしその案には致命的な欠陥があった。だからこそ今のような編成が組まれたのだから……。
「甘いな、栞に名雪。その案は常識的であるが致命的な欠陥があるのだぞ」
『えっ!? 何々?』
『えぅ〜、私も知りたいです〜』
名雪と栞、二人に懇願された祐一はちょっとだけ考えた後、重い口を開いた。
「良いだろう、話してやろう。しかしこれから話すことは特車二課の機密だ、他言無用だぞ」
『分かったよ』
『任せてください』
その口の軽さでは特車二課内で五本の指に入る二人の約束など全く当てになど出来ない。だが祐一は二人に真相を打ち明けた。
「実はだな……」
『『実は?』』
「名雪、お前のせいだよ」
『えっ、わたし!?』
「そうだよ。お前に夜間の警護なんて出来る訳ないだろうが」
祐一の言葉に栞はコクコクうなずいた。
『そうですね、名雪さんには夜間の警護無理ですよね』
『……もしかして二人とも根も葉もない酷いこと言ってる?』
「うんにゃあ(事実だからな)」
『いいえ、言ってませんよ( 事実ですからね♪)』
まあそんなやりとりは置いておくとして皇居正門前には人が溢れかえっていた。
そのため現場を整理・警備する現場の警察官たちは大変な状況であった。
なんせ昔と違い今はこういった時の誘導も警察官の重要な任務、事故でも起こったらたちまち出世コースからは離脱してしまうからである。
しかし警察官とはいえ所詮は人間である。その出来ることには限界があった。
『なんか人手がすごいね、祐一。こっちの方はいつもこんななの?』
生まれ育った北の国とはまったく違う光景に名雪は思わず目を見張り、つい祐一に尋ねる。
しかし祐一は首を横に振った。
「まさか。いつもいつもこんなに人で溢れかえることなんかあるものか」
『じゃあ何で?』
「そ、それはだな……」
実はよく知らなかったので言葉が詰まってしまう祐一、だがそこへ栞が助け船を出してきた。
『名雪さん知らないんですか? 今日の一般参賀では内親王さまがお目見えするんですよ』『えっ!? 内親王さまってもしかして……』
『そのもしかしてですよ』
栞の言葉に名雪は叫んだ。
『いいな〜、わたしも見たいよ〜!』
『名雪さんもですか? 実はわたしも見たいんですよ!』
しかし今二人に課せられているのは皇居の警護である。
持ち場を離れて一般参賀に加わることはとうてい認められることではないのだ。
だから祐一は釘を指した。
「お前ら今自分がなすべき任務は理解しているんだろうな?」
『も、もちろんだよ』
『あ、当たり前です、祐一さん』
どもって返事する二人に祐一はため息をつくのであった。
まあ名雪と栞はさておいておくとして一般参賀への参加者はバンバン増えていった。
どうやら名雪と栞のような考えの人間がとても多かったらしい。
あっという間に皇居正門から参賀会場である宮殿東庭まで人が埋め尽くす。
正直言ってこれほどの人出を予想していなかった宮内庁・警察関係者ではもはや対処不可能だ。
しかたがなく入場者制限を設けることで混雑に対処しようとする。
これによって確かに皇居内の混雑は少しは収まった。
しかしその代わりといっては変だが皇居正門前が人で溢れかえってしまう。
これが普段であったならばそれほど支障はなかったであろう。
しかし今はお正月である。中には酒に酔ってほろ酔い加減の者もいたはずだ。
そう言った人間に理性などあるはずもない。
口々に不満を周囲にばらまく。
「クソ! 何で正月早々こんな人混みにいなくちゃいけないんだよ!!」
「そうだそうだ、警察は怠慢だぞ!!」
「早く中に入れてくれ!!!」
それならこんなところにこなければいいと思うのだが……。
まあそれはさておき群集心理とは恐ろしいものである。
一人一人ならば全くをもって何でもないのだがこれほど人が集まるとみんな気が大きくなってしまう。
というわけで自らの不満を目の前にいる警護の警察官にぶつけ始めたのだ。
あちこちで怒号やら何やらが飛び交い始める。
すっかり皇居正門前は殺気に包まれた。
ここに至ってはもはや通常の警察力では押さえきれないとふんだ現場の責任者が秋子さんを呼びだした。
『水瀬警部補、君の小隊でちょっと威嚇してくれ。もはや我々だけでは対処しきれない』「了承(一秒)」
秋子さんはうなずくと無線のマイクを手にした。
「みんな、聞こえました?」
『『『『『は〜い』』』』』
「そういうわけですのでこの混乱を沈めちゃいましょう。でも正月早々怪我人出したらダメですよ♪」
『『『『『は〜い』』』』』
「ちょっと大人しくしなさいよ!!」
真琴は頭をつきだして群衆に向かって叫んだ。
しかし群衆は大人しくなどなりはしなかった。いやむしろいっそうその激しさを増す。
『真琴ちゃん!! 火に油を注いでどうするんだよ』
あゆはそう言うがあゆがあゆである故に真琴はあゆの言うことなど聞きはしなかった。
もう一度強圧的な態度で群衆を一喝する。
「いい加減にしなさいよ〜!! 正月早々何するつもり!?」
だがやはり真琴のやったことは火に油を注ぐ結果でしかなかった。
たちまち群衆は真琴に罵声を浴びせる。
「おまわりは引っ込んでろ!!」
「そうだ、そうだ!! 税金泥棒は大人しく家で寝てろ!!」
「第二小隊の通ったあとにはぺんぺん草も生えないって本当かよ!?」
「プッツン暴走野郎は引っ込んでろ!!」
どうやら特車二課やら第二小隊の内部事情はすっかり一般に知れ渡っているらしい。
的確なつっこみに真琴は思わず切れた。
「絶対に許さないんだから!!」
そう叫ぶや否や真琴は37mmリボルバーカノンを引き抜いた。
そして両手でしっかり保持すると真琴を罵倒した男……二重橋の上にいたのだが、これにねらいを定めた。
ここで謝罪すれば真琴とて発砲などしなかったであろう。
しかしこいつは心底バカだったというか命知らずだった。
「撃てるもんなら撃ってみやがれ!!!」
そう真琴をを挑発したのだ。
「よ…よくもまあそこまで言ってくれたわね……」
真琴は完全に切れた。
操縦桿を握る手がプルプル震えている。
『ま、真琴ちゃん!! だ、ダメだよ!!!』
あゆの必死の懇願もむなしかった。
「へっ、どうせ脅しだろ。腰抜け警察官がこんなことで銃をぶっ放すもんかよ」
だが男の認識は甘かった。
それはもうコーヒーに砂糖を大さじ十杯入れたぐらい甘かった。
真琴の本質というのを全くとらえずに罵倒していたのだから。
「あんなこといってるぜ、あのバカ」
男は笑いながら傍らの友人に声をかけた…が返事がない。
おかしいな? と思いつつ隣を見ると誰もいない。
いや二重橋の上から人がすっかりいなくなっていたのだ。警察官も含めて……。
「……もしかして……みんな本当に撃つと思ったの?」
アホ男の声に逃げた全員が一斉にうなずく。
ここで男は初めて自分がとんでもないことを言ってしまったことに気がついた。
しかしそれはもう遅かった。
ドガァーンン
「うぐぅ!!」
「えぅ〜!!」
「だぉ!?」
「やちまった!!」
「あらあら」
37mmリボルバーカノンから発射された徹甲弾は男の脇をかすめた!!
衝撃波でアホ男は吹っ飛ぶ!
そしてはずれた弾丸は皇居に直撃!! ではなくいきなりお堀に顔を出したレイバーに直撃した。
シュポーン
37mmリボルバーカノンの弾丸が直撃したレイバー……KV−98ぴっけるくんの機体横から迫撃砲弾が発射された。
「「「「へっ!?」」」」
「あらあら」
あまりの事態に驚愕する祐一・名雪・あゆ・栞、そしてマイペースな秋子さん。
「「「「テ、テロリスト!?」」」」
だが真琴は躊躇しなかった。
そのままリボルバーカノンのシリンダーに残っていた弾丸五発をレイバーにぶち込んだのであった。
翌日
「それにしても大変でしたね、先輩」
第一小隊隊長の由起子さんの言葉に秋子さんは笑った。
「一体何がです?」
「…真琴ちゃんの一件ですよ。もうニュースじゃ大騒ぎですよ」
「新聞が休刊で良かったですね」
「……明日の一面を飾るのは間違いないと思いますけど」
「いつものことですから」
(第二小隊は良いかもしれないですけど私たち第一小隊も特車二課と言うことで一緒くたにされてしまうんですよ…)
秋子さんの返事に由起子さんはただため息をつくしかないのであった。
あとがき
グリフォン編が年末なのでお正月編を書いてみました。
始めは純粋なオリジナルの予定だったんですがいつのまにやらアニメや漫画の影響受けていますね。
なお私はお正月の一般参賀には参加したことないので想像というか妄想で書いてます。
2002.05.26