機動警察Kanon第127話

 

 

 

 東京湾のど真ん中にて。

海上保安庁の巡視船ミウラが暴風吹き荒れる中、懸命の捜索を行っているところであった。

「ちくしょう、昨日までは穏やかだったんだがな!!」

「これじゃあつきなみの回収も困難だぞ!!」

ちなみに「つきなみ」とは淵山のノーチラス9800のことだ。

小型の無人レイバーでありながら各種カメラやセンサーが充実・小型のマニピュレターも備えており海上保安庁のちょっと大型の巡視船には標準装備された傑作機だ。

しかしその傑作機もこの荒天では思うように性能を発揮することは出来なかった。

 

 

 

 「一番目立つ部品は発見されたんだってな」

東京港を一望できる堤防にて。

警察庁広域犯罪捜査官国崎往人部長刑事の言葉に秋子さんはうなずいた。

「あの翼は特徴ありますからね」

翼を持つレイバーというものは世界広しといえどもあの黒いレイバーしかいないのでその判明は簡単なはずだった。

「しかし本物かどうかはわからない」

「一度だまされていますからね」

一度墜落を偽装している黒いレイバーだ。

今回もそうしていないとはとてもいえないのである。

「引き上げてもまたまた偽物を掴まされる可能性があるからな」

「しかしそれでもやらなければいけないわけです。

こうしてみますとお役所仕事もそれなりに大変ですよね」

「これで成果が上がらなければ税金の無駄遣いと叩かれるし……公務員もつらいよ」

「それはわたしも同感ですね。いつも税金泥棒って叩かれていますし」

(そう言われるのは仕方がないと思うぞ……)

特車二課の実体を知っている身としてはそう思わざるを得ない往人。

さしずめ祐一だったら考えていることを口から漏らして自爆するところだろう(笑)。

「そういえば国崎さん、観鈴ちゃんはどうしたんです?」

たしかにいつもセットで行動している神尾観鈴巡査の姿が見えない。

秋子さんならずとも気になるところであろう。

「観鈴なら先におたくの天野さんから話を聞いているはずだが。

そうそう、観鈴が描いた似てない似顔絵の元、天野巡査から聞いた人相、シャフトエンタープライズジャパンの誰に聞いても同じ答えが返ってきたんだ」

「倉田っていう課長さんですか? あたってみました?」

秋子さんの言葉に往人は首を横に振った。

「それが一向につかまらなくて」

「名雪も祐一さんも……倉田っていう課長に違いないって言ってましたよ」

「似顔絵もモンタージュもなし、たんなる特徴だけなんだがそんなに一致しているのか?」

「そうなんじゃないですか? まあもっともそれだけでは手配する根拠も弱いですけど」

「倉田という課長、写真一つないんだよな」

「リリー=田という女も写真は全く無いそうですね」

秋子さんの何気ない一言に往人は目を丸くした。

「何でそんなこと知っているんです?」

「撃たれたのはわたしの部下ですよ。気になるじゃありませんか」

「いや、そうじゃないんですけどね……」

しかし秋子さんに情報源を尋ねてもはぐらかされるだけと思った往人はそれ以上尋ねなかった。

無言で秋子さんとともに車に乗り込むと現在入院中の天野美汐巡査部長からもう一度事情聴取するために

病院へと向かったのであった。

 

 

 

 「天野さんを撃った男の車に同乗していたのがリリー=田として幕張のレイバー乱入事件とどんな関係があるんだろうね?」

観鈴の言葉に美汐は首を傾げた。

「捜査本部の見解はどうなんですか?」

「にははは〜、みんなどうしたらいいのか困ってるよ」

病室内にいた秋子さん・往人・美汐・観鈴の四人は思わず黙り込む。

がすぐに秋子さんが顔をあげて発言した。

「リリー=田は地球防衛軍を初めとするテロリストの金づるといっていましたよね」

「はい」

秋子さんの言葉に美汐はうなずく。

「もしかするとタイプ7の密輸に一役かっていたのではないでしょうか」

「「「!!!」」」

「これは全部仮定の話ですからそのつもりで聞いてほしいんですけど……」

「聞きましょう」

往人の言葉に秋子さんはうなずくと続けた。

「わたしたち第二小隊は三機密輸されたとされるタイプ7全てと一戦交えているわけですが、

そのたびに犯人はタイプ7のデータディスクを持ち去っています。

出てくるたびに動きがよくなっていたわけですから持ち去ったデータを移植して使っていたのは間違いないと思います」

「最新型のレイバーはコンピューターが経験値を上げていくことでどんどん性能が向上していくというからな」

「ええ、国崎さんの言うとおりです。

これから本題なんですが三機目のタイプ7から持ち去ったディスクの中身は何に使うつもりだったんでしょう?

タイプ7はもうないのにですよ」

「秋子さんはあの黒いレイバーに移植したと?」

美汐の言葉に秋子さんはうなずいた。

「はい、そうです。そうすれば幕張にリリー=田がいたことについて説明できます」

「あれはタイプ7の続きだったのか」

往人の言葉に秋子さんか首を横に振った。

「それだけではありません。いえ、むしろ本命はあのビーム砲をつんだやつだったかもしれません」

「東京テレポートと伊豆大島に上陸したのもそうだったと?」

「はい、タイプ7は東京テレポートの後ですが伊豆大島の時には移植されたと思っています」

「にははは〜、たしかにビームつんでるのとタイプ7ってそっくりだもんね〜」

観鈴の言葉に往人は首を傾げた。

「そうか? 俺は似ているとは思わないが」

しかし秋子さんと美汐はうなずいた。

「観鈴ちゃんの言う通りよ。タイプ7とあのレイバーはそっくり」

「私も同感です。外見は似ていませんが骨格や構造体はタイプ7に酷似しています」

「ふむ、そんなものかな」

レイバー専門家が断言するのだから間違いないのであろう。

しかし往人はいまいち納得出来なかった。

「しかしタイプ7にしてもビームをつんだ奴にしてもあの黒いレバーとは似ても似つかないぞ」

「それはたぶん元々は強力な武器と装甲を持つ戦闘用重レイバーとして開発したものだったのでしょう。

しかしそれではKanonに勝てません、ですから…」

「あの黒いレイバーのようになったと?」

「はい、わたしはそう思います」

「ふむ」

往人は軽くうなずくと秋子さんに向かって言った。

「すると秋子さんはリリー=田と倉田佐祐理というSEJの課長は同一人物であるとお考えですか?」

「ええ。もっともわたしは二人とも会ったこと無いんですけどね。

ただ……倉田がリリー=田ならタイプ7の密輸はしやすいと思いますよ。

表向きは違う会社ですけどやはりシャフトの製品であるわけですからね、タイプ7は」

「秋子さん、ちょっとよろしいでしょうか?」

「はい、了承です」

秋子さんに了承をもらったので美汐は反論した。

「秋子さんのお話の通りですとつまるところ地球防衛軍を初めとするテロリストたちの財源はシャフトということになりますが

香港や東南アジアではテロリストたちの矛先は主にシャフトの開発地域に向けられていました。

いわば犬猿の仲です」

「それでシャフトは開発を断念しました?」

「いえ、それはなかったですが…」

 

 

 「やはり倉田をとっつかまえてみないと話は進展しないようだな。

疑わしい人物が一人手つかずになっているというだけでも気分が悪い」

往人はコートを脇に抱えて席を立ち、観鈴も慌てて立ち上がる。

そして病室を出ようとしてはたと足を止めた。

そして振り返ると秋子さんに尋ねた。

「そういえば秋子さん、おたくの隊員は倉田をどのように見ているんです?

その…印象とかですが」

「どう見ているかは聞いていないですけど年がら年中にこやかに笑っている感じの女性だそうですよ」

 

 

 

「あははは〜っ♪

そういうわけで佐祐理は今度シャフト・エンタープライズ・ジャパンブラジル支社に転勤することになりました」

企画七課の面々の前でそう挨拶する佐祐理さん。

しかし誰も驚きはしなかった。

すでに分かり切っていたことだったからである。

しかし誰も驚かないので佐祐理さんはちょっと不満げだった。

「むぅ〜、はりあいないですね〜。まあ良いですけど……。

で新課長が誰になるかは未定なんですけどとりあえず舞に代理勤めてもらいますね♪」

佐祐理さんに言われた舞はちょっと不満げな顔をした。

「私は佐祐理と一緒にいたかった」

「あははは〜っ、ごめんね舞〜。でも佐祐理の代わりは舞しか出来ないから仕方がないよ〜」

そこまで言われては舞としてもわがまま言うわけには行かない。

仕方が無く舞はうなずいた。

「わかった、佐祐理の留守は私が守る」

「それでこそ舞です〜♪ ところで舞、佐祐理の留守中何をすればいいのかわかっているよね〜?」

佐祐理さんの質問に舞はこくんとうなずく。

「何もしないこと」

「その通りですよ〜♪楽しいことは全部佐祐理にとっておいてくださいね〜♪」

「わかった。ところでみちるはどうやって取り返す?」

みちるは回収能力を失った企画七課の代わりに極東マネージャーを通じてSEUSA支社の手で回収、

いまだにその身柄はUSA支社のものだったからである。

「それでしたら佐祐理が極東マネージャーを通じて交渉しますよ。

いざとなればASURAのデータと引き替えにするという手段だって出来ますからね」

「ASURAと引き替えに?」

「データのコピーはこっちの手にあるんですよ。あげちゃったって平気ですよ。

ASURAが単体ではまだ未完成なのをUSA支社では知らないんですし、引っかけには出来ますよ〜♪」

「わかった」

「それじゃあ舞、後は任せましたね〜♪」

 

 こうして佐祐理さんはブラジルへと高飛びしたのでした。

 

 そしてそれから数日後のこと。

ようやくと修理を終えたKanon二機が無事特車二課へと帰ってきた。

 

 「うにゅ〜♪ それじゃあ試運転だぉ〜♪

ってその前にけろぴー、せっかく直ってきたんだからピカピカにしてあげるんだよ〜♪」

 

 

 「……名雪さん変わらないね」

「そうですね、やはり名雪さんは名雪さんですよね」

「良いのか? 名雪はあれで本当に良いのか?」

 

少しは成長したかと思ったもののやっぱり変わらない名雪にちょっとあきれ顔の面々でした。

 

 

 

「真琴に銃を撃たせなさいよ〜っ!!!」

 

 

 

 

あとがき

これで第一回グリフォン編は完全にお終い。

で次は廃棄物十三号編に行くのですがいきなりじゃなんですしね。

二ヶ月ぐらい(あくまでも話の中でですが)間をあける予定です。

 

2002.05.19

 

 

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