機動警察Kanon第126話

 

 

 

 カツカツカツ

 

 まだ人気のろくに無いSEJ本社の廊下を徳永専務は歩いていた。

その背後には平光常務、そして数名のSSS隊員も一緒だ。

やがて一同はある一枚のドアの前に立ちつくした。

そのドアには「企画七課」と書かれてあった。

 

 

 「回線は回復させた。倉田と話がしたい」

単刀直入な徳永の言葉に企画七課の留守番組、明石と翠川と蒼杜の三人は一瞬びっくりする。

しかしすぐに我に返ると徳永に尋ねた。

「え〜っと専務、課長にですか?」

「そうだ。お前らならば倉田の連絡先は知っているはずだ」

「それはまあ知っていることは知っていますが……」

「なら早急に連絡しろ!!」

「は、はい!!」

徳永に怒鳴られた明石は慌てて受話器を取ると佐祐理さんの携帯電話の番号をダイヤルする。

(課長出るだろうか?)

いつ電話してもなかなか捕まえることの出来ないので明石はそう危惧したのだがそれはとんだ懸念であった。

なぜならば佐祐理さんが一発で電話に出たからである。

 

 

 『あははは〜っ、佐祐理ですよ〜♪』

「……徳永だ」

徳永専務は佐祐理さんの明るい声に苦々しさを感じながらそう言う。

すると佐祐理さんは明るく返した。

『あははは〜っ、専務お久しぶりですね〜 ♪何年ぶりですかね? 元気してました?』

「元気なわけないだろ。貴様はこれからどうするつもりだ!」

『あははは〜っ、佐祐理はちょっぴり頭の悪い女の子ですからわかりません♪』

「女の子なんて年か!!」

なめきった佐祐理さんの言葉に激怒する徳永専務。

しかしその口から発せられた言葉は決していってはならない禁句であった。

『女の子の年齢は気にしちゃいけないんですよ。人生五十有余年すごしてきてそんなこと

わからないんですか?

そんなにデリカシーが無いと奥さんや娘さんに嫌われてしまいますよ〜♪』

図星を突かれて徳永専務は叫んだ。

「お前にそんなこと言われる筋合いは無い!! 

それよりもグリフォンはどうしたんだ!?」

『………』

佐祐理さんの返事はない。

聞いているのか不安になった徳永専務は受話器に向かって叫んだ。

「もしもし!! もしもし!?」

『あははは〜っ、心配ないですよ。脱出しましたからね、あっちの方に』

「企画七課にはもう回収能力はないはずだぞ。どうやって回収するつもりだ?」

『極東マネージャーに回収を依頼しておきましたから大丈夫ですよ』

「ASURAとあの小娘をタダで極東マネージャーに引き渡したのか!?」

『ふぇ〜、専務はASURAとみちるが警察の手に落ちた方がよかったですか?』

「そ、そんなわけ無いが……」

トーンダウンする徳永専務の口調。

たしかに警察の手に落ちるよりは極東マネージャーの保護下にある方がずっとましだったからだ。

『あははは〜っ、そうですよね〜。

というわけで佐祐理、これから本社に出社したいんですけどSSSのイヌども、何とかしてくれません?』

 

 

 

 「司令、数名が警察の事情聴取に引っかかっていますがほとんどの隊員は撤収できます」

SSS司令車の中に入った鮫島は司令にそう報告する。

すると司令はうなずいた。

「死者を出したのは痛恨事でした」

「不幸な事故だ、気にするな。それよりも倉田を完全に逃してしまったのがいまいましい」

「まだです。追跡すれば……」

しかし司令は首を横に振った。

「今さっき社長自ら電話をかけてこられてな」

「社長が直々にですか?」

「倉田は使えるので手を出すなということだ」

「馬鹿な! あの女を野放しにしておけばいずれ社に重大な災厄をもたらします!!」

鮫島は佐祐理さんの危険性を説いたが司令にしても鮫島にしても所詮は現場の指揮官にすぎない。

「トップの決定だ。我々には逆らえんよ」

司令の言葉に鮫島は悔しそうにうつむくと手をぎゅっと握りしめた。

「…よほど企画七課が大事なようで……」

「それは言うな」

「はっ、わかりました。それでは撤収に入ります」

「うむ」

 

 

 

 ギチギチギチ   カチッ

 

 「佐祐理、それどうする気?」

舞は佐祐理さんがなにやら円盤形のものをいじくっているので不思議そうに尋ねた。

すると佐祐理さんは笑った。

「あははは〜っ、うっぷん晴らしに使うんですよ〜♪」

「うっぷん晴らし?」

「はい、そうですよ〜」

その時、外で見張りをしていた久瀬が車に戻ってきた。

「課長、SSSが引き上げます」

「ふぇ〜、それじゃあ出してください」

「了解しました」

久瀬は車を前へと出した。

すると目の前をSSSの司令車、追跡車、トレーラーが走り抜けていく。

「それでは行きます」

「あははは〜っ、行ってください。でSSSの司令車にぴったりつけるんですよ。

失敗したらお仕置きですからね〜♪」

「は、はい」

失敗したらどうしよう? と思いつつもそれもまたいいかも? なって思ってしまうMな久瀬なのであった。

 

 

 ゴン

 

 いきなり車内に響いた音にSSS司令は眉をひそめた。

「今のは何の音だ?」

「さあ?」

オペレーターも首を傾げるのみ。

そこへ指揮車から鮫島の報告が飛び込んできた。

『司令! 今の車!? 倉田です!! 倉田の車です!!』

「何!?」

思わず席を立ち、身を乗り出して走り去っていく車を見るとそこには確かに「あははは〜っ」と笑いながら

手を振る佐祐理さんの姿がある。

しかし社長命令により佐祐理さんに手を出すことは禁じられている。

司令はどっかり席に腰を下ろすとつぶやいた。

「ふん。いずれその首をとってやるさ」

しかし彼のその言葉が実行されることはもはや無かった。

 

 ドォオオオオオン〜

 

 突如司令車が大爆発を引き起こし、彼と彼に部下たちは一瞬にしてこの世から消えたからである。

 

 

 

 「佐祐理……」

舞の言葉に佐祐理さんはうれしそうに笑った。

「あははは〜っ、SSSの爆弾って本当強力ですね〜♪

あんなのが至近距離で爆発すればグリフォンもたまらないわけです」

「…SSSに警察が入る。本社の方も大わらわ」

しかし佐祐理さんは笑顔を全く崩さなかった。

「あははは〜っ、舞〜♪

たかが一部門に警察の手入れがあったからって倒産した総合企業はありませんよ。

それにあんな暴力バカどもが2〜3人死んだところでどれほどの損失です?

佐祐理からみちるとグリフォンを奪った報いです、安い代償ですよ♪」

 

 

 

 ピィー ピィー ピィー ピィー

 

 第一小隊ならびに第二小隊が特車二課に戻ってきた。

たちまちハンガー内は慌ただしさを増す。

その中にはあゆが運転する一号指揮車の姿があった。

「名雪さん、ついたよ。名雪さん!!」

助手席で寝ている名雪を起こそうと声を荒げるあゆ。

しかしそんなことで名雪が起きるはずがない。

「くぅ〜 くぅ〜 くぅ〜」

気持ちよさそうに寝息をたてている。

「名雪さん!! 名雪さんたら!!!」

シートベルトを外して名雪の体をガクガクゆするあゆ。

それでもやっぱり名雪は起きてこない。

「うぐぅ、名雪さんが起きないよ〜。やっぱり祐一くんじゃないとダメなのかな?」

そこへいきなり指揮車の助手席が開いた。

「「えっ!?」」

あっという間に名雪は助手席から車外へと滑り落ちた。

 

ゴチン

 

 「「………」」

思わず沈黙が走る、がすぐに気を取り直したのであろう。

助手席のドアを開けた香里があゆにおそるおそる尋ねた。

「なかなか出てこないから開けちゃったんだけど…まずかったかしらね?」

「うぐぅ、今かなり良い音がしたんだよ〜!!」

あゆの叫び声に香里は慌てて名雪を抱き起こした。

「名雪!! 名雪、起きなさいよ!!! ねえちょっと名雪ったら!?」

「名雪さん!! しっかりしてよ!!!」

するとその叫び声に反応したのだろうか、名雪の口が開いた。

「うにゅう……わたしけろぴー大好きだぉ。…猫さんはもっと好きだぉ」

「あれ?」

「……まだ寝てる?」

そう、名雪は下手したら脳挫傷しそうな勢いで床に頭をぶつけたにもかかわらず安眠中だったのである。

「…わたしけろぴーだって食べられるよ。猫さんだって食べられるぉ」

それは怖い。

しかしこの名雪の言葉に香里とあゆは思わず脱力した。

「寝ているんなら寝ているっって言いなさいよ!! 心配したじゃないの!!!」

「うぐぅ、それは無理だと思うよ」

あゆにつっこまれたらお終いだぞ、香里。

それはさて置きさっぱり目を覚ます気配のない名雪に香里はため息をついた。

「やはり相沢くんじゃないと名雪は起きないみたいね」

「うぐぅ、そう言えば祐一くんは?」

いつの間にか祐一がいなくなっていたことに気がついたあゆは香里に尋ねた。

すると香里は肩をすくめていった。

「相沢くんなら痛み止めを寮に忘れてきたとかで脂汗流していたから帰り道で寮に放り込んでくるって秋子さんは言ってたけど」

「うぐぅ、祐一くん大丈夫かな?」

「若いからすぐ治るでしょ」

「すぐになおるか……」

あゆは感慨深げにつぶやくとボロボロになったけろぴーを見上げた。

「祐一くんは全治一ヶ月の重傷、名雪さんは唇切っただけ。本当、Kanonってすごいよね」

「立派なものよ、Kanonは」

香里も満足そうだ。

「これってすぐに直るんだよね?」

あゆの言葉に香里はうなずいた。

「一昨日の真琴機に比べたら遙かに軽傷。背骨も腰骨もやられていないんだし電池取り替えれば自力で立てるしね。

メーカーに部品あればオートバランサーの調整なしで帰ってくると思うわよ……って北川くん、こっち来なさい!!」

「は、はい!!」

香里の呼びつけに走り込んでくる北川。

その北川に香里は指示した。

「名雪を宿直室に放り込んできなさい。でも変なことしたら滅殺よ!!」

「わかりました、班長!!」

そして北川は整備員数名とで名雪を宿直室へと運んでいったのであった。

 

 

 「何か釈然としないわよ〜!」

特車二課に戻ってくるなり真琴は叫んだ。すごく不機嫌そうだ。

「あら真琴、どうしました? 言いたいことがあったらはき出しちゃった方が楽ですよ」

秋子さんのその言葉に真琴はうなずくと口を開いた。

「あたしたち現場から帰って来ちゃってよかったの? 

相手が逃げたことで一段落ついたなんてとても思えないんだけど」

「でもレイバー全部を失ったわたしたちに何が出来るんですか?」

秋子さんの的確すぎるつっこみに真琴は思わず詰まった。

「あう〜ぅ、それはその……そうそう!! 帰り道のあの爆発音とか……」

「あれでしたらいま鑑識の方々が調査中。あとのお仕事は機動隊ですしその後のことは捜査部の方々にお任せです」

「あう〜ぅ、で、でも……」

真琴は反論しようとするが秋子さんは遮った。

「わずか三日間で第二小隊はボロボロなんです。今後の建て直しのことを考えると頭痛いです」

「それじゃあ真琴は何をしたらいいの?」

すると秋子さんは苦笑しながら答えた。

「名雪を見習えというつもりはないですが今日のところは休息がわたしたちのお仕事だと思ってくださいね」

 

 

 

あとがき

久しぶりにあゆの出番が多かったです。

栞はかけらも出番がなかったですけど。

 

 

2002.05.18

 

 

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