機動警察Kanon第124話

 

 

 

 「この手離しなさいよ!!」

みちるは思わずそう叫んだ。

今やグリフォンの左腕は完全にけろぴーに固められている。

あわててその腕をふりほどこうとするのだが所詮格闘技は未経験のみちるである。

警察官として柔道経験者の名雪の組み手をほどくことが出来ないのだ。

そこへ名雪が押してきた。

「絶対に離さないんだよ!!」

「にょにょ!! やばい」

いきなり押されたためにグリフォンは転がっていたコンテナに足を取られてしまった。

いきなりこけそうになるグリフォン。

その姿を見た名雪は思わず叫んだ。

「うにゅう、そのまま大人しくするんだよ!!」

しかし当然のことだがみちるは諦めない。

必死に悪あがきをする、とたまたま偶然であろうがグリフォンの拳がけろぴーの頭部を直撃する。

「しまった!! メインモニターをやられちゃったよ!!!」

「チャンスだぁ〜!!」

メインモニター破損のKanonの様子にみちるは勢いを取り戻した。

けろぴーに殴りかかるグリフォン。

しかしそこで奇跡というか神様の悪戯というか。まあ予想だにしていなかった出来事が起こった。

 

 バァン!!

 

 指揮車に据え付けられた37mmリボルバーカノンから発射された弾丸がグリフォンの頭部に直撃したのだ。

「うぐぅ、命中したよ〜。Kanonで撃っても当たらなかったのに!!」

「やかましいわよ、あゆあゆ!!」

それでも嬉しい二人であった。

 

 

 「モ、モニターがいかれた…」

それまでKanonをばっちり捉えていた画面がいきなり砂嵐になったんを見てみちるは呆然と呟いた。

なんせグリフォンの気密性は完璧だ。

そのおかげでかなり無茶な環境でも平気で運用することが出来る。

しかしこの場合はこれが邪魔した。

メインモニターがやられてしまうと外の様子を探る手段が一切なくなってしまうのだから。

 

 

 

 「名雪、そいつを絶対に離すなよ!! 離れたら目の見えないけろぴーに勝ち目はないぞ!!!」

そう叫ぶ祐一。

しかし大声を上げすぎたのであろう、胸を押さえてしゃがみ込んでしまう。

「うぅ〜、肋骨が……」

「寮で大人しく療養していればよかったのに……」

秋子さんはにこにこしながらそう言うのであった。

 

 

 『あ〜、そう言うことなんですが名雪、まだ続けられそうですか?』

秋子さんのその問いかけに名雪はきっぱり言い切った。

「もうこんな奴を延々と相手になんかしたくないよ〜」

『そういうわけにはいきませんよ』

正直な名雪の言葉に秋子さんは苦笑しながらそう言う。

すると名雪も頷いた。

「そんなこと言われ無くったって分かっているよ〜ってわっ!!」

いきなり強い衝撃がけろぴーを襲った。

グリフォンの拳がまともにけろぴーに入ったのだ。

これには名雪は思いっきり怒った。

「わたしのけろぴーに何するんだぉ〜!!」

反撃とばかりにグリフォンをぶん殴る名雪。

すると今度は

「んにっ! 何するだ!!!」

とみちるも殴りつけてくる。

かくして

ベキ ゴキ ガキッ ドゴ グシャ ゲン ベキ ゴキ ガキッ ドゴ グシャ ゲン
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  ベキ ゴキ ガキッ ドゴ グシャ ゲン

とお互いにどつきあうという状態になってしまった。

 

 

 「ひでえ……、まるで子供のけんかだ……」

その様子に呆然と呟く祐一。

「そうですね」

と同意する栞。

「それにしては周りの被害が大きすぎますね」

と言う秋子さん。

まあようはそれくらい原始的な殴り合いを二機は行っていたのである。

そのため両機の頭部はともに完全破損、上半身にもかなりの損傷を受けているようだ。

あちこちに火花が飛び散っている。

「ところで香里ちゃん、一号機の電源はどれくらい持ちます?」

秋子さんの問いかけに香里は一瞬考え込んだもののすぐにきっぱりと答えた。

「もって後数分ですかね? それほど長くは持ちませんよ」

「わかりました」

秋子さんは頷くと名雪に指示した。

「名雪、不要な部分の電源をカットしなさい。このままだと電源不足でダウンしてしまいます」

『わかったよ〜!』

 

 

 「んに〜!! こんなはずじゃないんだよ!!!」

グリフォンのあまりの損害に泣き出しそうなみちる。

しかし名雪は違っていた。

 

 「メインモニター、センサー三系統すべてだめ……」

素早くコクピット内の計器に目を通し、損害をチェックする名雪。

「右マニピュレーター全壊、電源カット。その他駆動系良し。……まだ大丈夫行けるよ」

名雪は自分に気合いを入れる。

「後もう一踏ん張りだ、ふぁいとだよ!」

 

 

 ベキ ゴキ ガキッ ドゴ グシャ ゲン ベキ ゴキ ガキッ ドゴ グシャ ゲン

 

 どつきあいは延々と続いていた。

その結果、Kanonにもグリフォンにも膨大なダメージが蓄積されていく

 

 「みちる、そいつから離れなさい!!」

佐祐理さんはみちるにそう指示する。しかしみちるの返事は帰ってこない。そこで佐祐理さんはもう一度強く言った。

「みちる!! もう良いからふりほどいて離脱しなさい!!!」

『何でよ!?』

納得がいかないのであろう、みちるはすぐには承諾しない。

しかし外からKanonとグリフォンの格闘戦を見ていた佐祐理さんにはもう限界であるのがはっきり見て取れた。

「運が悪かったんですよ。すでにグリフォンの機体にも相当ダメージが蓄積されています。

これ以上やり続けると互角以下の戦いになってしまいますよ!!」

『うぅ〜』

「仇は取ってあげますからね」

 

 

 そのころ現場に到着していた第一小隊の各機は起動させるところであった。

「一号機から順に起動、第二小隊の援護に回りなさい」

由起子さんの指示に頷く川名みさき巡査部長・七瀬留美巡査・柚木詩子巡査。

「それじゃあみんな、行くよ〜」

「任せなさい」

「それじゃあ行こう〜」

そして三機のONEはけろぴーとグリフォンの格闘現場へと向かうのであった。

 

 

バラバラバラ

 

 TTVのヘリコプターは現場上空を飛び続けていた。

つい先ほどまでは現場のすぐ近くで地上からも中継をやっていたのだが真琴に現場を強制退去されてしまった今、

この中継が可能なのは彼らだけだったのである。

「……どつきあいです。なんと低次元と申しましょうか……レイバー同士のどつきあいが続きます。

これは酷い!!……いや、これはすごい!!!」」

まさにその通りであった。

Kanonとグリフォンは互いに殴り合う。まさにどつきあいそのものだ。

しかしレイバーは8mサイズである。その迫力は半端な物ではなかった。

 

 

 

 「これは酷い……」

シャフト本社で中継をTV観戦していた徳永専務は思わずうなった。

そして平光常務もこれに同意する。

「拙い……このままだとグリフォンは警察の手に落ちるぞ」

「ば、馬鹿な……」

しかしもはや彼らの手綱からははずれた企画七課の行動だ。

もはや彼ら二人には何も打つ手は残されてはいなかった。

 

 

 「いい加減に観念しなよ!!」

名雪はグリフォンをぐいぐいと追い込んでいく。

もはや正常に作動中の時とは違い、グリフォンにその動きをはねのけるゆとりは全く残っていない。

ただけろぴーを殴りつけることしかできないのだ。

しかしいきなりその手がけろぴーに届かなくなった。

応援に駆けつけてきた第一小隊のONE……柚木詩子巡査の三号機がその手を押さえていたのだ。

「縛についた方がいいと思うよ」

しかし当然みちるはそんな言葉に乗るはずがなかった。

「邪魔するな!!」

片腕をけろぴーに押さえつけられているにも関わらずグリフォンはONEを吹っ飛ばした。

ONEはそのまま倉庫に突っ込み、そして沈黙する。

しかしもう二機のONEはもすすぐそこまで来ていた。

 

 

 「みちる!!」

とうとう佐祐理さんがみちるをしかりつけるかのように叫んだ。

その剣幕に思わず目を丸くするみちる。

「いい加減にしなさい!!引き上げ時を間違えないでください!!!

このままですと警察の手に落ちて、もう美凪と会えなくなりますよ!!!」

『美凪と会えなくなる……!?』

「…みちるを捨てるべき」

「!!」

舞の提案に佐祐理さんは驚いた。

まさか舞がそんなことを言うとは思ってもいなかったからだ。

「グリフォンがああなった以上いつまでもここにいたら警察の包囲網から突破できなくなる。

みちるとグリフォンを見捨てでも佐祐理はここを脱出すべき」

「舞……」

「佐祐理が無事なら企画七課はいつだって再起できる」

 

 

 ドォン!!

 

 突然の轟音ともにグリフォンの右手が切り離された。

いきなり抵抗が無くなったことでたたらを踏んでしまうけろぴー。

「!?」

まさかレイバーにパーツを切り離す機構があるとは思わない名雪はとまどった。

 

 

 「あははは〜っ、みちるが引き上げる気になりましたね〜♪」

右腕を切り離しグリフォンの姿を見て佐祐理さんは笑った。

どうやら強情を張るのを止めたらしいからだ。

「倉田課長、我々も引き上げます」

「あははは〜っ、そうしてください」

かくして久瀬の運転によって佐祐理さん・舞の二人は現場を後にした。

 

 

 「わっ、びっくり。いったい何なの?」

はっきり言って訳が分からない名雪。

しかし端から眺めていた祐一たちには状況が手に取るように分かった。

 

 「しまった! 奴め、自分で腕を切り離しやがった!!」

「えぅ〜、あんなことするレイバー嫌いです」

「あらあら、なんてカラクリの多いレイバーなんでしょうね」

そんなことを言う祐一・栞・秋子さんの見ている目の前でグリフォンは現場離脱用の翼を展開する。

「名雪、奴はまた空を飛んで逃げる気だぞ!! 逃がすな!!!」

『了解だよ』

 

 もはや完全に死んでいるメインモニターは全く役に立たない。

有視界戦を行おうとシートを上げながらグリフォンに突進する名雪。

するとたちまちグリフォンの背中から白煙が吹き上げる。

現場離脱用のジェットエンジンに点火されたのだ。

「逃がさないよ!!」

そのまままだ残っている左腕を掴む。

しかし左腕も右腕同様轟音とともに切り離された。

「Kanonに……名雪に負けた訳じゃないんだからね!!!」

そして衝撃波とともにグリフォンは空へと舞い上がった!!

 

 

 

 「止めなさい!!」

現場逃走中、佐祐理さんは久瀬に命じて車を止めさせた。

そして空を飛んで逃走中のグリフォンを見、そして携帯電話を取り出した。

「倉田課長、どうしたので?」

久瀬の質問に佐祐理さんは叫んだ。

「あれじゃあ高度が取れていません。あれでは湾内に落ちます」

そして手早くダイヤルする佐祐理さん。

「佐祐理。どこへ?」

「極東マネージャーにみちるの回収を頼みます」

 

 

 「こ、高度が上がらないよ」

不安定なエンジン音ともにどんどん飛行高度を失っていくグリフォン。

やはりKanonとの戦闘によるダメージは大きかったのであろう。

「上がれ!! 上がれ!!!」

必死に操作するが高度は上がらない。

それどころか上昇させるためのフラップが吹き飛んだ。

「わっぷぷ!!」

あっという間に浮力を失い海面へとグリフォンは海面に突入した!!

 

 そして部品を散らしながらグリフォンは海の藻屑と消えたのであった。

 

 

 

あとがき

とうとうグリフォンも海没しました。

あとはまとめ上げれば第一回目のグリフォン編はおしまいです。

その後は……何エピソードか展開した後、廃棄物十三号編に突入です。

それにしても「]V」見たかった。

 

 

 

2002.05.07

 

 

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