機動警察Kanon第123話

 

 

 

  ドガァ〜ン!!!

 

 大音響とともに強力な爆風がKanonとグリフォンを襲う。

たちまちその爆風に翻弄される二機。

そして二機は仲良く数十メートル吹っ飛ばされる。

 

 そのあまりの衝撃のせいであろう。

二機はぴくりとも動かない。

そんな二機を見た数名の警察官が恐る恐る近づく。

もしグリフォンがもはや動くことが出来なのならばコクピットをこじ開けてパイロットを逮捕したいというのであろう。

しかしそうは問屋がおろさなかった。

警察官たちがグリフォンまであと数メートルまで近づいたところでグリフォンの首が動いたのだ。

グルグルと周囲を見渡すその動きに警察官たちはあわてて逃げ帰る。

レイバーの乱闘に巻き込まれたら生身の人間などひとたまりもないのは明白だからだ。

 

 

 「名雪、相手はまだ動きますよ。もう一息です、立ちなさい」

グリフォンが体を起こそうとしているのを見て秋子さんは無線でそう指示した。

しかし名雪からの返事はない。

「名雪!? どうしたんですか? 返事をしなさい!!」

いつも冷静というかマイペースの秋子さんらしからぬちょっと焦った口調だ。

しかしやはり名雪の返事はなかった。

というか

『ク〜 ク〜 ク〜』

という寝息が聞こえてきただけ。

「もしかして名雪さん、コクピットの中で寝ているんじゃあ?」

「…そうみたいです」

栞の言葉に不本意な顔で頷く秋子さん。

どうやら爆発の衝撃で張りつめていた緊張の糸が切れてしまったらしい。

いつもならとっくに寝ている時間である、そのため睡魔に負けてしまったのであろう。

名雪らしいといえば名雪らしいのだがこの状況で寝るのは危険だった。

 

 「名雪!! 早く起きなさい!!!」

「名雪さん!! このままだと本当危険ですよ!!」

名雪を起こそうと叫ぶ二人。

そこへ様子を見に来た祐一がその場に現れた。

「秋子さん!! さっきの爆発はいったい何なんですか!? それに名雪は!?」

「それがですね……」

秋子さんは手短に現状を説明する。

そして名雪がコクピット内で眠りこけていることを知った祐一は思わず天を仰いだ。

「秋子さん、お宅の娘さんですがぶん殴ってもかまいませんか?」

「一応嫁入り前の娘ですのでそう言うのはちょっと……。でも祐一さんが責任取ってくれるのならかまいませんよ」

「謹んで辞退させていただきます」

「そうですか、残念ですね。それじゃあ祐一さん、名雪を起こしていただけません?

わたしや栞ちゃんではどうやら起きないようですから」

「わかりました」

祐一は秋子さんから無線のマイクを受け取ると腰に手を当て、そして胸を張った。

そして大きな声で叫んだ。

「名雪、起きろ!!!」

 

 しかしやっぱり名雪は起きなかった。

『く〜、わたしらっきょだって食べられるよ…』

しかも寝ぼけている。

どうやらすっかり熟睡しているようだ。

しかしそうしている間にもグリフォンは姿勢を立て直しつつある。

焦った祐一はつい禁断の技を使ってしまった。

「名雪、早く起きないと秋子さんの謎ジャムを食わせるぞ!!!それでおまえは良いのか!?」

『にゅう?』

「にゅう? じゃない!! 相手はもう復活しているぞ!! 立て!!! 立つんだ、名雪!!!!」

 

 

 「うにゅ〜、今の爆発は何だったのよ〜」

くらくらする頭を抱えつつみちるはグリフォンを立ち上がらせた。

そして視線を下に向けるとそこにはまだ倒れたままのKanonの姿があるではないか。

「やりなおしよ〜!!」

グリフォンはその鋭い腕をKanon目がけてぶち込む。

しかしいきなり起きあがったKanonはその一撃を辛くも避けた。

 

 

  『あれ? わたし寝てた?』

復活したけろぴーのコクピット内の名雪の言葉にほっと胸をなで下ろしつつも祐一は悪態付いた。

「何が寝ていた? だ、このボケ娘!」

『うぅ〜、祐一酷いよ〜』

ボケ娘呼ばわりされて口をとがらせる名雪。

しかし祐一はそんな言葉を無視して続けた。

「ほんの一分ほどの居眠りだってこの状況だと命取りになるぞ!! 寝たけりゃ目の前の奴をしとめてから寝ろ!!」

『うぅ〜、祐一冷たいよ〜。こっちは流血しているんだから』

「何!?」

名雪の言葉に祐一は驚いた。

そしてあわてて怪我の様子を尋ねる。

「ど、どこをやられたんだ!? だ、大丈夫か、おい!?」

『唇、切った』

「……ふざけるな!! 名雪の分際で俺をからかいやがって!!!」

「あの〜、もしもし祐一さん。わたしの娘をいったい何だと思っているんです?」

さすがの秋子さんも尋ねる。

しかしこのことに祐一が答えることはなかった。

なぜならば続く名雪の言葉がそんなことをきれいに吹き飛ばしてしまったからである。

 

 『祐一、わたしやっぱり強くなれないよ』

「? ? ?」

いきなりの名雪の言葉に頭の中はクエスチョンマークだらけの祐一。

しかし名雪のとんでもない話はまだまだ続く。

『だから…祐一に甘えてもいいのかな? ……祐一のこと。支えにしてもいいのかな?」

「な、な、何を言っているんだ!?」

『あの言葉、信じて良いんだよね?』

「あの言葉って何だ!?」

あまりの事態に祐一はもはやパニック状態、そして秋子さんと栞は興味津々といった様子で祐一と名雪の会話に側耳を立てている。

『約束破ったら祐一のご飯だけぜんぶ紅しょうが。

お茶碗山盛りの紅しょうがを、紅ショウガをおかずにして食べるの。おつゆはショウガの絞り汁』

「へっ!?」

もはや名雪が何を言っているのかさっぱり分からない祐一。

すると名雪はくすっと笑った。

『冗談だよ、祐一。でも祐一に甘えたいのは本当だよ』

「な、何!?」

冗談といったはずなににこの台詞? 祐一の顔はもはや真っ赤だ。

『わたし、優しい言葉を掛けられちゃうとつい甘えちゃうんだ』

「………」

思わず呆然としてしまう祐一、しかしすぐに我を取り戻すとしとろもどろに弁明する。

「俺は別にお前のことを思いやって言っているわけではなくってだな……。

職務を果たすにあたっての心がまえというか何というか……」

「何を言っているんですか祐一さん?」

「そうですよ。なにもそんなに弁明しなくても二人の関係なら了承ですよ」

栞と秋子さんにまでからかわれてしまうことになるのであった。

 

 「それじゃあやることやってから寝ることにするんだぉ〜」

 

 

 「やはり名雪を起こすのは祐一さんが一番のようですね」

秋子さんの言葉に祐一は笑った。

「いや〜、お恥ずかしい限りで」

「ところで祐一さん、早く起きないとわたしの特製ジャムを食わせるってどういうことですか?」

そう言う秋子さんの顔は笑顔のままであったが目は全く笑っていなかった。

「え〜っとそれはですね……」

そう言いながら助けを求めるように周囲に視線をやる祐一。

しかし周囲にいる誰もが祐一と目を合わせようとはしない。

栞ですら祐一を見捨てたようだ。

どうやら秋子さんの謎ジャムの脅威は誰もがすでに知っているらしい(笑)。

「もしかしてわたしのジャムっておいしくないですか?」

ここは是非とも首を縦に振りたかった祐一、しかしそれは自殺行為だ。

あわてて首を横に振る祐一。

すると秋子さんはにっこり微笑んだ。

「それはよかったです。それじゃあ明日にでもジャムをたくさんご馳走しますね♪」

「……はい…」

そう言う祐一は端から見てもしょんぼりしているようにしか見えなかったそうな。

 

 

 

 「な、何でなのよ」

グリフォンのコクピット内のみちるは震える声で呟いた。

「小笠原でも幕張でも簡単に相手を捕まえられたじゃない。なのに何でこいつは捕まらないのよ!!」

そしてけろぴー目がけて突っ込んでくるグリフォン。

その姿を名雪は妙に冷静なまなざしで見つめていた。

 

 (あの強力な攻撃をここまでしのげたんだよ。怖い相手には違わないけど力の及ばない相手なんかじゃないよ!)

 

けろぴーに突っ込んできたグリフォンはそのままけろぴーの首根っこをつかんだ。

「つ、捕まえたよ〜!!」

そう叫ぶみちる、しかしそれは名雪にとっては異なる認識であった。

「つかまえたのはこっちなんだよ!!」

そう叫ぶやふっとレバーを踏み込み、スティックを操る名雪。

その動きにけろぴーは素早く反応した。

左手でグリフォンの右手をつかむとそのままグリフォンの懐へと飛び込む。

そして右腕を軸にグリフォンをものの見事にぶん投げた。

柔道の技の一つ、今や懐かしいヤワラちゃんの得意技一本背負いだ。

そのままグリフォンは勢いよく地面にたたきつけられる。

 

 

 「反撃開始だ!!」

「名雪さん、すごいです♪」

その光景に現場にいた祐一や栞、警察官たちは大いに沸いたのであった。

 

 

 

 「課長、無事で何よりでした」

佐祐理さんを笑顔で出迎える下っ端Aこと久瀬。

そんな久瀬を完全に無視して佐祐理さんは思わず愚痴った。

「あははは〜っ、SSSの馬鹿どもが動かなければこんなことにはならなかったんですよ!!」

 

ギィイイイイイイイ

 

その時、異様な金属音が鳴り響いた。

思わず耳を澄ませる佐祐理さん、そしてその音の発生源がグリフォンである気がつくと佐祐理さんは思わず眉をしかめた。

「佐祐理、どうしたの?」

舞の質問に我に返った佐祐理さんはいつもの笑顔を取り戻すと舞に言った。

「あははは〜っ、グリフォンの音が変なんですよ。あんな音をたてる機械じゃないんですけどね」

 

ギュォオオンン

キュィイイイン

 

 確かに変な音だ。

そのことに気がついた舞はすぐさま携帯電話を取り出すとさんぐりあ号に残っている開発責任者を呼び出した。

「……あの音は何?」

舞がそう尋ねると開発責任者は受話器の向こうで思わず叫んだ。

『ここまで確かに聞こえていますけどね!!あれは正常な作動音なんかじゃありませんよ!!

何か爆発音のような音も聞こえましたがそちらでは今何が起こっているんです?

はっきり言わせてもらいますけど私には責任撮れませんよ』

舞からその答えをもらった佐祐理さんは思わずうなった。

「あははは〜っ、爆発時の影響ですね〜♪ まったくSSSの犬どもは本当、疫病神ですよね〜」

 

自らの楽しみを台無しにされてしまった佐祐理さんはすっかり怒り心頭なのであった。

 

 

 

あとがき

今日は佐祐理さんの誕生日です。

というわけで無理矢理延長して佐祐理さんの出番を差し上げました。

やはり佐祐理さん&舞は良いですね♪

 

 

2002.05.05   子供の日&佐祐理さんの誕生日に

 

 

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