機動警察Kanon第122話

 

 

 

 「にょにょにょ、こりゃまたえらい物持ってるな〜」

グリフォンのコクピット内でみちるは呟いた。

たった今暴発したばかりのライアットガンから放たれた銃弾は見事なまでにアスファルトに大きな穴を穿いている。

その威力ははっきり言ってレイバーにはきわめて脅威だ。

しかしみちるの戦意は衰えることを知らずに、逆に沸いていた。

みちるはにやっと笑うとグリフォンをけろぴーに突撃させながら叫んだ。

「どんなに強力な銃だって飛び道具として使わないなら怖くも何ともないのだ〜!!」

 

 

 

 「それにしてもよく動きますね」

副官の言葉に鮫島は頷いた。

「確かにな。グリフォンが一方的に押しているようにしか見えんよ」

「……高性能なKanonですらグリフォン相手には防戦一方ですからね。

残ったキュマイラ一機で奴を押さえることは出来るのでしょうか?」

「……難しいな。やはり倉田を押さえなければ打開は出来ないかもしれんな」

 

 

 というわけで鮫島にの命令でさんぐりあ号に数名のSSS隊員たちが到着した。

そのまま追跡車を降りるとさんぐりあ号へと続くタラップを駆け上がっていく。

すると先に来たのであろう、二人の隊員がタラップを降りてくる。

「おい、どうした!?」

すると尋ねられた隊員はぶっきらぼうに行った。

「……中に入れてもらえない。極東マネージャーの承諾をとってから来いって」

「何だと!? くそっ、SSSを馬鹿にしてるのか!!」

激昂したSSS隊員たちはタラップを駆け上っていた。

タラップを降りてきた二人を除いて……。

 

 

 

 「お〜い、持ち場を離れるな!!」

グリフォンとKanonの格闘戦現場周囲を固めていたSSS隊員の一人が持ち場を離れて行動している一台の追跡車を発見、これを呼び止めた。

すると追跡車はブレーキをかけた。

「おい、いったいどこへ行くつもりだ?」

すると追跡車から身を乗り出していた隊員が叫んだ。

「…あっちに行く」

「あっち?」

言われた方向に思わず視線をやってしまうSSS隊員。

これがすべての過ちであった。

「そう、あっち!!」

そう叫ぶや抜き放たれた刀にSSS隊員は地面へと崩れる。

それと同時にいったん停車した追跡車は再び走り始める。

その背後を追跡するものが無いのを確認するとSSS隊員の格好をした舞は追跡車を運転中の佐祐理さんに声を掛けた。

「佐祐理、車の運転なんかさせちゃってごめん」

舞のその言葉に佐祐理さんは朗らかに笑った。

「あははは〜っ♪命あっての物種です、運転でも残飯あさりでも何でもしますよ〜♪

それにこう見えても佐祐理、運動神経には自信があるんですから〜♪」

確かにそう言う佐祐理さんのハンドル裁きはプロ顔負けであった。

 

 

 

 「車両を下げろ!!!」

「後退だ、後退!!」

警察官の怒号が現場に飛び交う。

なぜかと言えば……そこへグリフォンに押されたけろぴーが突っ込んできたからだ。

そのせいで多少使い込んでいるもののまだまだ十分使えるはずのパトカーがぺしゃこにつぶされる。

はっきり言ってもはや修理などとても不可能な状況だ。

そして肝心のけろぴーは…埠頭にある倉庫にグリフォンもろとも突っ込んでしまう。

 

 「にょにょにょ!! なかなかやるな〜」

グリフォンのコクピット内のみちるはうれしそうに呟くが、ケロピーのコクピット内の名雪はそれどころではなかった。

「うぅ〜っ、化け物だぉ〜」

 

 

 

 そのころ現場から少し離れたところで真琴は名雪の戦っているよ様子を不満げに眺めていた。

「何をやっているのよ、名雪は!! せっかくの飛び道具をどーして使わないの!?」

「うぐぅ、真琴ちゃん、真琴ちゃん」

「あう〜っ、何よ!?」

あゆの問いかけに振り向く真琴。

するとそこにはKanon用の巨大な37mmリボルバーカノンを抱きかかえるあゆの姿があった。

「手伝ってよ、真琴ちゃん。こんな大きいのボク一人じゃ取り付けられないよ」

「何よ〜だらしがないわね、あゆあゆは。こんなの一人で取り付けなさいよ〜」

「うぐぅ、じゃあ真琴ちゃんが一人でやってよ〜」

あゆがそう文句を言ったとき、二人の乗った指揮車の無線が鳴った。

「はい、真琴だけど?」

すると無線のマイクから秋子さんの声が流れてきた。

『真琴、聞こえます? 実は格闘現場の足元を人がうろうろしているらしいんですよ』

「あう〜っ、それって報道屋さん?」

『はい。というわけでその排除をお願いしたいんですけど』

「名雪はそれで発砲しないの!? わかった、真琴が報道屋を始末してくる』

そして真琴は指揮車を飛び出すと格闘現場へと走り出す。

「うぐぅ、真琴ちゃん〜!!」

と37mmリボルバーカノンに押しつぶされそうなあゆを残して(笑)。

 

 

 

 ブロロロロ

 

 ディーゼルエンジンの音を立てて第一小隊の増援が到着した。

即座にミニパトを降りると第一小隊隊長の由起子さんは現場で指揮している秋子さんの元へと駆け寄る。

「先輩!」

「あら、由起子さんじゃないですか。心強い援軍ですね」

「心にもないことを言わないでください。

悔しいですけど第二小隊のKanonがかなわない相手にうちのONEがかなうはず無いですから。

ところで今状況はどうなっているんですか?」

「ご覧の通りですよ」

そう言われた由起子さんは周囲を見渡す。

するとそこには無数の負傷した警察官の姿が、そしてもはやエンジンすらかからないスクラップ状態のパトカーが転がっていた。

「……蹂躙されるがままじゃないですか!! こんな光景久しぶりに見ました」

まるで特車2課が編成される前のレイバー犯罪の現場のようだ。

それはKanonが全くグリフォンに抗しきれていないことを示している。

「どうにも相手の足を止められなくって。Kanonはよくやっているんですが」

「うちの小隊は何をしたらいいのかしら?」

「あいつに飛びかかる気あります?」

「……」

思わず秋子さんの顔を見つめてしまう由起子さん。

そこへ第一小隊No.2の深山雪見巡査部長が現れて言った。

「命令があればいつでも行きますけど」

「深山さん、止めなさい」

深山巡査部長を止める由起子さん。

しかし秋子さんはそんな二人を気せずに珍しくぼやいた。

「課長や部長は現場に来ないのかしら?少しは現場の苦労を見てほしいものです。

これだからキャリアは……」

その時無線のマイクが秋子さんを呼びだした。

あわてずに、しかし素早く無線に出る秋子さん。

「はい、水瀬ですけど」

『秋子さん? 報道屋さんを現場で発見、誠心誠意説得した結果現場を立ち退いてくれるって』

真琴のその報告に秋子さんは微笑んだ。

「さすが真琴ね。帰ったら肉まんご馳走してあげる♪」

『やった〜! ありがとう、秋子さん』

「まだ喜ぶのは早いわよ。あゆちゃんが困っているから早く戻ってあげなさい」

『あゆあゆが? まったくあゆあゆは真琴がいないと何も出来ないんだから〜』

あゆが聞いたら思いっきり反論しそうな真琴の言葉だが秋子さんは気にしない。

満足げに頷くと名雪を呼びだした。

「名雪、聞きました?これで心おきなくやれますよ」

『言うほど楽じゃないよ〜』

そうはいったものの確かに気がかりが一つなくなったのは朗報だった。

 

 

 「動くんじゃないよ!!少しでも動いたら今度は即座に発砲するよ!!!」

ライアットガンをグリフォンにぴったり照準を合わせて叫ぶ名雪。

するとグリフォンは動きを止めた。

そしてグリフォンのコクピット内のみちるはつまらなそうに呟いた。

「飛び道具なんて卑怯よ〜」

しかし遊びのみちるとは違い、名雪は仕事でレイバーに乗っているのだ。

卑怯も糞もない、ただ犯人を逮捕するのにもっとも効率のいい手段を選択するだけだ。

 

 しかし動きを止めたグリフォンを好機と捉えた者もいた。

 

 

 「秋子さん、埠頭の方から一機、目標に接近するレイバーがいるよ」

そう秋子さんに報告する真琴。

それはグリフォンを爆破するための爆弾を抱えたSSSのキュマイラであった。

素早くグリフォンに接近するとその背後にキュマイラは回り込む。

その姿を認めた名雪はライアットガンの照準をグリフォンから外すと叫んだ。

「わっ、目標の後ろに立つんじゃないよ〜!!」

しかしキュマイラはそんなことは聞くわけがない。

『悪く思うなよ、グリフォン!!』

爆弾を抱えて突っ込んでくるキュマイラ。

そんな背後からの気配を察したみちるは即座に回避に入る。

「動くんじゃないよ! 本当に撃つよ!!」

動き出したグリフォンにライアットガンの照準を合わせて叫ぶ名雪。

しかしグリフォンは動きを止めない。

「本当に撃つからね!!」

ライアットガンのトリガーを絞る名雪。

 

ドン

 

 轟音とともに無数の散弾が音速を超えて目標に突き進む。

が動き始めたグリフォンに弾は当たらなかった。

そのままグリフォンの背後から接近してきたキュマイラの左足に直撃する。

「だぉ〜!! 後ろの方に弾が当たっちゃったぉ〜!!!」

キュマイラに直撃したライアットガンの弾はその威力を完璧なまでに発揮した。

見事にその直撃した左足を木っ端みじんに粉砕。

そのせいでキュマイラはその場に崩れ落ちる。

「だ、だぉ〜!!」

 

 「今度はもらったよ〜!!」

動揺した名雪の隙をグリフォン搭乗のみちるは見逃さなかった。

そのままけろぴーに襲いかかる。

(やられる!!)

心の中で思わず覚悟してしまう名雪。

しかしそうは行かなかった。

 

ドガァ〜ン!!!

 

 キュマイラの手にした爆弾が何かの拍子に爆破したのだ。

その威力はレイバーを木っ端みじんにしてなお余りあるほどの威力である。

その爆風に巻き込まれけろぴーとグリフォンの二機は勢いよく吹っ飛ばされた。

 

 

 「いったい何が起こっているというんだ?」

現場に到着したばかりの祐一は訳も分からずにとまどうだけ。

しかしこれは祐一一人のことではなかった。

SSSを除いた人員以外、つまり秋子さんを始めてとしてこの場にいたほとんどの人間が事態を把握していなかったのである。

 

 「あははは〜っ、やってくれましたねSSS」

相も変わらず笑顔の佐祐理さんを例外として……。

 

 

 

 

あとがき

栞と美汐の出番が全然ありません。

美汐は入院中だから仕方がないとしても栞がかわいそうですね。

でもひろみちゃんの出番も少ないし仕方がないかな?

 

 

2002.05.04

 

 

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