機動警察Kanon第120話

 

 

 

 バラバラバラバラ

 

 一機のヘリコプターがけたたましい音を立てながら夜空を飛んでいた。

機体には大きくTTVと書かれている。

どうやら報道屋さんの取材用ヘリコプターのようだ。

 

 「あとどれくらいで現場に到着するんだ?」

東京港近辺の倉庫火災の取材のために現場に向かっていたヘリの中でカメラマンはパイロットに尋ねた。

するとパイロットは笑った。

「あと少しだよ。現場は逃げないんだから落ち着けって」

「現場は逃げないかもしれないが特ダネは消えちまうんだよ。もっと急いでくれ」

「これ以上は無理だよ……ってあれか!?」

パイロットは岸壁でおこった閃光に気がついた。

そのすぐ側では巨大な影……レイバーが数機向かい合っている様子がはっきり見て取れる。

「間違いない、あれだ!!」

カメラマンもその様子に気がついたのであろう。

カメラを回しながらパイロットに言った。

「社に連絡してくれ!! いまならばニュースにまだ間に合うぞ!!!」

 

 

 

 「それにしても黒いレイバーの目的ってさっぱりですね」

秋子さんのその言葉に香里は不思議そうな顔をした。

「秋子さんの口からそんな言葉を聞くことになるなんて思ってもいませんでしたね」

「わたしだって人間です。全知全能の神様なんかじゃありませんよ」

「そうなんですけどね。それよりもいったい何なんです?」

「幕張の事件といい、今夜の騒動といい動機というものがちっとも判然としないでしょ」

「…あたしが思うに一種のデモンストレーションだと思うんですけど」

「デモンストレーションですか?」

聞き返す秋子さんに香里は頷いた。

「ええ、そうです。

もっとも正体不明の機体のデモンストレーションしたって買い手がつくかどうかまでは知りませんけどね」

「ブラックマーケットなら十分ありえますね」

「はい」

「だとすれば今までの疑問もすべて解けますね」

「今までの疑問って何です?」

今度は香里が秋子さんに尋ねると秋子さんは頷いた。

「わたしはですね、ここ最近の訳の分からない事件…ブロッケンやら東京テレポート・大島でのビーム砲装備のレイバーから今回の黒いレイバーまでが一貫した犯罪じゃないかって思っているんです」

「根拠はなんです?」

「最初は単に警察に対する挑戦かと思っていたんですけどね。

ブロッケンの三度目くらいからどうも第二小隊が標的になっているんじゃないのかと思いまして」

「……そういえばほとんど第二小隊が相手にしていますね」

「デモンストレーションならば十分納得できます。ブロッケンは予行練習だったのかもしれません」

「それじゃあビーム砲装備のは…?」

「あれもデモンストレーションだったのかもしれません。ただ性能が今ひとつだったこともあり新しいのを用意したのかも……」

「だからいつもKanonばかりを相手に?」

「ええ、そうだと思います。由起子さんには申し訳ないですけど奴は第一小隊のONEよりもKanonとやりたがっているんです。

それがデモとしてはもっとも効果的ですから」

「…立派な動機ですね」

「全くですよね。というわけでそれじゃあ行って来ます」

「行ってらっしゃい」

 

 香里に見送られ、秋子さんはミニパトへと乗り込んだ。

 

 

 「フー」

名雪はけろぴーコクピット内で大きなため息をついた。

そしてパンパンと両ほおをたたいて気合いを入れる。

「けろぴー、頼むよ」

 

 その時機外から一号キャリア担当の栞が叫んだ。

「名雪さ〜ん!! 出発しますよ〜!!!」

「了解だよ!!」

名雪はけろぴーを操作してすぐ側に置いてあったライアットガンを取るとキャリアにまたがった。

そして電源節約のためにすぐにけろぴーの電源を落とす。

「今夜はボロボロになるまでやるんだよ!!」

 

 そして第二小隊は特車2課を出発した。

 

 

 

 ファンファンファン

 

 警察のサイレンがあたりに鳴り響く。

そんな場所に一大のワゴン車が停車した、とみるやすぐにワラワラと数人の男たちが車から降りてくる。

マイクやらカメラやらを持っている男たち……そう、彼らはTTVのカメラクルーたちであったのだ。

「おい、早くしろよ。警察が周りを固めちまうと良いショットが撮れなくなるぞ」

「りょ〜かい、りょ〜かい」

「……なんだか光量が不安だな」

「それなら車もついてこさせようぜ」

命知らずな彼らは危険も省みず、特ダネを物にするために現場へと駆け寄る。

「ヘリ班なんかに負けてたまるかってえの」

すぐにSSSのキュマイラとグリフォンの格闘戦のすぐ側に彼らは到達する。

「いたいた!! あれだ、あれ!!!」

そこでは今まさに乱闘騒ぎが起こる直前であった。

 

 

 

 「ほらほら〜。邪魔すると怪我するんだから〜。雑魚は引っ込んでいなさいよ〜」

しかしSSSのキュマイラたちはジリジリとグリフォンに迫ってくる。

彼らとて本職のレイバー乗りである。

子供が乗っているのを知っている以上、性能の差が歴然としていても逃げるわけにはいかないのであろう。

「……全くうざいんだから。みちるが用があるのはKanonだけなの!!」

その時一機のキュマイラがグリフォンに襲いかかった。

その長い腕を使って掴みかかってくる。

「こざかしいのよ!!」

その一撃をあっさり受け流すみちる。

そのせいで襲いかかってきたキュマイラは前のめりになって転びかかる、とその背後からもう一機キュマイラが現れた。

勢いつけて走ってきたキュマイラはそのまま味方のキュマイラを足場に高々と飛び上がる。

「味方の俺を足蹴にした!?」

そんな味方の動揺を余所に自分に酔ったキュマイラのパイロットは叫ぶ。

「食らえ!! ジェットストリームアタック!!!」

 

 しかしその一撃はグリフォンには通用しなかった。

「やかましいわよ!! もうガンダムネタは飽き飽きよ!!!」

みちるの叫びとともにグリフォンの鋭い一撃がキュマイラを真っ二つにする。

「れ、れ、練習したのに〜!!!」

 

 

 

 「す、すげえ…」

「ああ……本当だな……」

地上でグリフォンの活躍?を撮影中のスタッフはただ唖然として見ているだけであった。

 

 そこへ彼らが「負けてなるものか」と対抗意識を燃やしていたヘリ班が現場に到着した。機体下面に取り付けられたサーチライトにグリフォンを捉えると生中継を始める。

 

 「ご覧いただけるでしょうか?コンテナ埠頭に上陸した黒いレイバーです。

いったい何が目的でどこへ向かうのか? まったく不明です。

おっと黒いレイバーが今動き始めました。今、幹線道路に向かって歩き出しました!!!

なおこの映像は実況生中継でお送りしています」

 

 

 「専務を」

ニュース映像をテレビで見ながらSSS司令はSEJ本社へと電話を掛ける。

するとすぐに徳永専務が電話に出た。

「専務ですか。残念ながらグリフォン上陸阻止に失敗しました」

『テレビで見ているから知っている!! 君らはいったい何をやっているんだ!?

百戦錬磨のプロではないのかね?』

「プロには違いないですが素人、それも狂人相手では我々も実力を発揮できませんな」

『能書きはどうでも良い!! はやく倉田を何とかしろ!!!』

徳永専務のその言葉にSSS司令はにんまり笑った。

「了解しました。

それではグリフォンが警察の手に落ちるような事態に陥った場合は爆破する。

それでよろしいですな」

『ま、待て!! そんな依頼は出していないぞ!!!』

しかしSSS司令はそんあ徳永専務の言葉を無視してあっさり電話を切るのであった。

 

 

 

 「まだかな、まだかな〜♪警察の、Kanonはまだかな〜♪」

その昔、TVCMで流れていた某教育教材の会社のCMソングにあわせて歌いつつ幹線道路へ向かうみちる。

 

 するとその目の前に一機のレイバーが行く手を阻んだ。

我らが警視庁警備部特車2課第二小隊のけろぴーだ。

「あっ! やっと出てきた(はあと)」

満面の笑みを浮かべるみちる。

すると目の前のけろぴーはライアットガンのチャンパーに弾丸を送り込むと叫んだ。

「止まるんだよ!! それ以上の狼藉は警察が許さないんだからね!!!」

緊張感がかけらも感じられない名雪の言葉であった。

 

 

 「すいません秋子さん、ちょっとよろしいですか?」

「はい? いったいなんです栞ちゃん」

栞の問いかけに笑顔で答える秋子さん、すると栞は言った。

「名雪さんに引き金引けるんでしょうか? 真琴さんに変わった方がよかったんじゃあ?」

「いいえ、平気ですよそれに引けなければ引けないなりに工夫すると思いますよ」

 

 

 「騒乱罪、器物破損、その他諸々まとめつけて現行犯で逮捕するよ!!」

名雪のその言葉を聞いたみちるはうれしそうに笑った。

「んにゅにゅー、その声は名雪だね!」

そして名雪の乗るけろぴーに近づこうとするみちる。

しかし名雪はその気配を察知したのかライアットガンをグリフォンにねらいを定めて叫んだ。

「動くんじゃないよ!!」

 

 

 かくしてにらみ合いが始まった。

 

 

 

あとがき

WXV(今公開中の新作映画ね)を見たいと思ってネットで調べたら全然公開している映画館が少ない…。

これはビデオなりDVD発売まで待たないといけないのだろうか?

 

 

2002.05.01   メーデーに

 

感想のメールはこちらから


「機動警察Kanon」TOPへ戻る  読み物部屋へ戻る   TOPへ