機動警察Kanon第119話

 

 

 

 ボォォォォォォォ〜 ボォォォォォォォォ〜

 

 霧笛を鳴らしながら一隻の船が東京港へと入港しつつあった。

SSSによって待ち伏せされているグリフォンを運搬中のさんぐりあ号である。

それゆえ港で待ち受けていたSSSは動きを慌ただしくし始めた。

 

 「さんぐりあ号が東京港に入った!! キュマイラの配備を開始せよ!!!

繰り返す、キュマイラの配備を開始せよ!!!」

その命令によってトレーラーに搭載されたキュマイラ四機は一斉に起動したのであった。

 

 

 

 「それじゃあくれぐれも事故など起こさぬよう注意してくださいよ」

警察官の注意にSSSの一人はうなずいた。

「わかっていますよ。任せてください」

なんともなくものものしいSSSの警備に不信感を持ちつつもとりあえず今のところは何もしていないので大人しくパトカーへと戻る警察官。

そして運転席の同僚に声をかけた。

「船の積み荷の警備だそうだ」

「レイバー四台でか? ずいぶんものものしいな」

「まあ昨日、幕張であんな事件があったばかりだからな」

「それはそうだがな。それにしても軍隊みたいなやつばかりで気に入らないな」

きびきびと命令によって動くSSSのメンバーを横目に言う警察官。

その言葉に同感の意を表しつつも次の行動を促した。

「まだ何も起こしていない奴を逮捕するわけにはいかないさ。それよりパトロールの続きしようぜ」

「おう、そうだな」

 

そしてパトカーは港を出ていった。

 

 

 「あのパトカーは邪魔だな」

出ていくパトカーを見送った鮫島はそうつぶやいた。

するとその副官は鮫島に提案した。

「近所に事故でも起こしてそちらにでも行ってもらいますか?」

「……適当にやっておいてくれ」

「了解しました」

そして副官は鮫島から離れるとその辺にいた部下数名に命じた。

「これから一区画向こうで火事が起こるからそのようにな」

「「「了解」」」 

そしてその場を走り去る部下数名。

そんな部下たちを後目に鮫島はこれからの手はずを指示した。

「さんぐりあ号接岸と同時に乗り込む!! 

グリフォンが船内にいるうちに勝負だ!! 時間を一秒たりとも無駄にするなよ!!!」

 

 

 

 「何度言ったらわかるんだ!! 今夜は仕事で帰れんのだよ!!!」

徳永専務は受話器の向こう側にいる奥さんに向かってそう言った。

しかしどうやら奥さんは旦那のことを信用していなかったらしい。

『本当にお仕事なの?』

そう尋ねてくる始末だ。

「……俺が嘘つくと思っているのか!! 今は本社だ!!!」

『はい、はい分かりました。分かりましたから怒鳴らないでくださいよ』

「おまえが怒鳴らせているんだろうが!!!」

『それじゃああなたがもっと怒鳴りたくなる話してあげる。洋子がね、今日は外泊』

「外泊!? まさか男か!!」

『そうじゃないかしら? あのくらいの年頃ですもの、無理ないけどね』

奥さんの言葉に思わず徳永は愕然とした。

「受験勉強はいったいどうなっているんだ!! 母親のおまえがしっかりしなくてどうする!?」

『なら早く帰ってきたら? 子供は親の背中をみて育つのよ』

「……俺が悪いっていうのか!?」

『そう聞こえたならそうなんでしょうね。まあせいぜい会社に忠勤することね』

チィーン

あっさり旦那の電話を切る徳永夫人。

「くそっ!」

そんな奥さんと外泊中の娘に心の中で悪態をつきながら徳永専務はいすに座った。

それに対して平光乗務はにやにや笑いながら言った。

「娘さんが心配だろう。家に帰ったらどうかね?」

「冗談言うな!! 俺は倉田の首ねっこを取り押さえるまではとても安心して家になど帰れんよ!」

 

 

 

 所変わってSEJ企画七課。

数人のSSS隊員によって警備(監禁ともいう)されているこの部屋に届け物があった。

 

 「これ何です?」

そう尋ねるとSSSの隊員は無表情のまま言った。

「差し入れだ」

「……ありがとうございます」

一応礼を言って袋を受け取る明石。

それは某有名牛丼チェーン店の大盛り牛丼みそ汁付きであった。

「……川澄さんがこの場にいたら大喜びだろうな」

そう明石がつぶやくと翠川はくすっと笑った。

「そうね、川澄さんだったら大喜びでしょうね」

「あの人はあんなに美人なのに牛丼に目がないんだからな、もっといくらでも似合う好物ぐらいあるだろうに」

「そのアンバランスが良いんでしょうよ」

「そうかもな。ところで課長たちは土浦を無事出たのかな?」

明石の言葉に翠川は腕時計をちらっと一瞥すると言った。

「順調ならばそろそろ東京港にさんぐりあ号が到着する時間だけど……。

私たちが未だに人質扱いされているところから見ると……課長たちはまだ元気に騒動を巻き起こしているってことよ」

 

 

 

 「あははは〜っ、いますね〜♪ みなさん、キュマイラまで持ち出していますよ♪」

港に接岸するそのとき、佐祐理さんは船上から見下ろしながらうれしそうに言った。

そこにはSSSが保有するキュマイラが四機、さんぐりあ号が接岸するのを今か今かと待ち受けている。

ピカッ

とそこへ強力な光が佐祐理さんを包み込んだ。

岸壁のSSSがサーチライトでさんぐりあ号を照らしたのだ。

 

 「いたぞ、倉田だ」

佐祐理さんを確認した鮫島はうなずくと命令を下した。

「突入用意! あの女がグリフォンを動かす前に取り押さえろ!!」

しかしその命令が実行されることはなかった。

なぜならば部下の一人がさんぐりあ号船上にそびえる巨大な影を発見したからだ。

「隊長!! あ、あれを!!!」

「何だ!?」

部下の指さす方向にサーチライトの光が照射される。

そしてその場にいたSSS隊員たちは一斉に固まった。

なぜならばそこにはTYPE−J9……グリフォンの姿があったからだ。

「ば、馬鹿な!!!」

それは彼らSSSの常識から言ってもとうていありえない非常識な行為であったからだ。

 

 

 

 『そんな馬鹿な!! 倉田はグリフォンをさらけ出したまま入港してきたというのか!?』

受話器の向こう側から響いてくる徳永専務の声に多少眉をひそめながらもSSS司令は頷いた。

「その通りです、あの女はクレージーですな

『……こうなったら奴を東京に上げさせるな!! なんとしても食い止めろ!!!』

徳永専務のその言葉に司令は満足げに頷いた。

「了解しました、専務。ただもはや穏便な手段は取れないとお考えください」

『なっ!?』

思わず絶句してしまう徳永専務、だがすぐに気を取り直すと再び叫んだ。

『おい!! いったい何をするつもりだ!?』

しかし司令はその質問には何も答えず電話を切ると部下に命じた。

「倉田だ。あの女を消す」

 

 

 

 「でりゃ〜!!」

みちるのかけ声とともにグリフォンの右手が一閃する、とそのたった一撃で一機のキュマイラは片腕が吹っ飛んだ。

「くそったれ!!」

必死に反撃を試みるものの所詮キュマイラはキュマイラ、グリフォンの敵ではない。

あっという間に一機、また一機と吹っ飛ばされる。

それでも四機がかりである。

SSSのキュマイラ四機とグリフォンはその場で大乱闘を繰り広げ始めた。

 

 

 

 ゴオオオオオオオ

轟音とともに東京港すぐ近くの倉庫が燃えていた。

火の気など全くない場所での火事……おそらくは放火だ。

しかし今はその捜査をしている状況ではなかった。

とにかく周囲に飛び火しないよう、一秒でも早く消火する。

これが現場にいた人間の共通の認識であった。

そこへある一報が舞い込んだ。

 

 「何!? コンテナ埠頭でレイバー同士の格闘だと!?」

「はい、しかもその片方は……幕張のあいつらしいです」

「…黒い奴か!?」

 

 そしてそんな会話をたまたま取材中だった報道クルーも耳にしたのであった。

 

 

 

 プルルルルルー

 

 「はい、こちら特車2課ですが」

いつもの笑顔で電話を受ける宿直中の秋子さん。

しかしその表情は一瞬にして固まった。

そして手元にある館内放送用のスイッチを入れた。

 

 「東京港、コンテナ埠頭に黒いレイバー出現! 繰り返す、コンテナ埠頭に黒いレイバー出現!!

 第二小隊出動せよ!!!」

 

 そのアナウンスに肉まんを、たい焼きを、バニラアイスを、イチゴサンデーを夜食に食べていた

真琴・あゆ・栞・名雪の動きは止まった。

がすぐに残りを無理矢理口の中に押し込めると(笑)一気に駆けだした。

 

 

 

 「まさに黒船来航ですね」

秋子さんは慌ただしく出撃準備のために走り回る整備員たちを横目にハンガー内へと入った。

そこで落ち着いた様子で部下たちを指示している整備班長御坂香里に声を掛けた。

「香里ちゃん、よろしいですか?」

「何でしょう、秋子さん?」

そこで秋子さんはポケットから電子キーを一本取り出すと香里に手渡した。

「へーこいつを使うんですか。よく許可がおりましたね」

香里の言葉に秋子さんはしれっとした表情で頷いた。

「後始末がちょっと大変そうですけどね」

「…ちょっとですか?まあそれはさておき名雪はこんな長物使いたがらないんじゃないですか?真琴ちゃんならいざ知らず」

「そんなこと言っていられる状況ではありませんからね。

今回は普段通りのやり方で対処できる相手じゃないんですから。

名雪一人で真琴の分もやってもらわないと困ります」

「それもそうですね」

秋子さんの言葉に頷きながら香里はレイバーの手でも壊すことができない頑丈な金属製倉庫をあけると中から巨大な円柱状の物体を取り出しながら叫んだ。

「手の空いているの!! 十号ロッカーを開けてこいつを詰めておきなさい!!!」

「じゅ、十号ロッカー!? 班長、あれ使うんですか!?」

 

 

 

 「あう〜っ、こ、これは……」

「だ、だぉ……」

「うぐぅ」

「えうぅ〜」

 出撃準備のためにハンガーに集まった第二小隊の面々の目の前に十号ロッカーから取り出された物……ライアットガンがその姿を現した。

ここ特車2課で自主開発され、そのあまりに強力すぎる威力故に封印された代物。

それが今ここにある危機によって封印が解かれ、その姿を再び彼らの前に表したのである。

「出来ればハリネズミのように武装させて送り出したいのが親心なんですが。

とにかくこれがうちにある武器の中では一番の大物です。これで穴があく相手かどうかは分からないですけどね」

「で、でもこんなの使ったら……」

ためらう名雪 。しかしこれは無理もあるまい。

こんな強力すぎる武器を使いこなす自信がないのだろう。

もっともその傍らでは真琴が一人

「なんであたしのKanonは修理中なのよ!!」

と嘆いていたのだが。

 

 「自信ない?」

秋子さんのその言葉に名雪は頷いた。

「だってむやみに撃ってもしパイロットに当たっちゃったら……」

「心配ありませんよ名雪」

「何で心配ないんだぉ〜?」

あっさり言いのけてくれる秋子さんにちょっぴり不満な名雪。しかし秋子さんはとんでもないことを言ってのけてくれた。

「別に射殺しちゃっても何のお咎めもありませんよ。だってほら、射殺許可証を裁判所からいただいていますし」

「だ、だぉ〜」

「うぐぅ〜」

「あう〜っ」

「えぅ〜っ」

思わず奇声をあげる四人。まさかこんなものまで用意してあるとはこれっぽちも思っていなかったのだろう。

 「使用の判断は名雪、あなたに一任します。

相手は化け物よ、命が惜しかったら全力で奴をしとめなさい」

「わかったぉ〜」

 

こうして第二小隊は出撃した。

 

 

 

あとがき

ようやくとグリフォンとの直接対決が近づいてきました。

あと何回ぐらいかな?

 

 

2002.04.28

 

 

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