機動警察Kanon第118話

 

 

 

 「…そうです。ええ、それは確かにわたしの勘にすぎないことはわかっていますが……。

はい、それでは書類はきっちりそろえて提出しますので。はい、よろしくお願いします」

 

 チーン

 

 秋子さんは電話の受話器を置くと顔を上げ、ため息をついた。

そして机の引き出しの中から鍵を取り出す。

複製も容易くすることはできない電子キーだ。

「まさかこれを使う羽目になるとは思ってもいませんでしたね」

そうつぶやくと秋子さんは隊長室を後にした。

 

 

 カチャカチャカチャ

密閉された空間にキーボードをリズミカルにたたく音が響く。

ここは警視庁特車二課コンピュータールーム。

警視庁でもトップクラスのハイテク機器を扱う特車二課においてその中枢を担うべき機材が置かれている部屋だ。

ここで今、二人の警察官がコマンドを入力しているところであった。

「これでリターン?」

名雪がそう尋ねると栞はうなずいた。

「はい、そうです」

「それじゃあいくよ」

そしてEnterをぽんと押す名雪。

すると一気に特車二課整備班改造および自作のコンピューターが計算を始めた。

「これで過去のデータから予想される次回出動時のダメージ数値とかが計算されます」

「栞ちゃん、すごいね。こんなプログラムまで出来るんだ」

すると栞はうなずいた。

「ええ。病院で入院中は暇で暇で時間だけはありましたからね。そこで勉強して覚えたんですよ」

「ふ〜ん、わたしはどうもこういうのが苦手でわからないんだよ」

「勉強すれば簡単ですよ。それよりも名雪さん、今日はここまでにしておきましょう」

「そうだね。いつ出動がかかるかもしれないしね」

「はい」

そしてコンピュータールームを出る二人。

しかし二人はドアの陰で祐一が不景気な顔でいるのに気がつかなかった。

 

 

 「あら、祐一さん。不景気な顔ですね」

「……怪我人ですから」

秋子さんの言葉にそう返す祐一。すると秋子さんはうなずいた。

「そうですね、祐一さんは怪我しているんですよね。と言うわけで寮に帰って早く休んだ方がいいですよ」

「怪我人は一人仲間はずれですか」

その言葉に秋子さんは寂しそうな表情を浮かべた。

「…わたしは祐一さんの身を案じて言っているのに……」

そしてよよよっと泣き崩れる秋子さん。

「あ、秋子さん泣かないでください!」

いきなり泣き出してしまった秋子さんにとまどう祐一。必死になってなだめる。

するとと秋子さんはぱっと顔を上げた。

その顔はいつもの微笑みを浮かべており、涙の痕跡などどこにもない。

「…俺をだましたんですか?」

「はい。でも祐一さんの身を案じているというのは本当ですよ。

祐一さんの身に何かあったらわたし上司としても叔母としても姉さんに顔向けできませんからね」

「秋子さんの立場からすればもっともな意見なんでしょうけど俺だって警察官です。

あんなどこの馬の骨ともしれない奴に蹂躙されたままなんてご免です」

「良い覚悟です。それでこそ漢です。」

祐一の言葉に秋子さんは微笑むのであった。

 

 

 「それにしても我が娘ながら名雪は面白いですね」

うれしそうに語る秋子さんに祐一は尋ねた。

「名雪の何がそんなに面白いんです?」

「昨日祐一さんが怪我して病院に運び込まれたときの落ち込みようは酷かったんですけどね。

本日の回復ぶりも母として、隊長としても大変痛快でしたよ♪」

「そりゃあまあ秋子さんは痛快かもしれませんが……絶対無理しているんですよ、名雪は」

「それくらい祐一さんに言われなくてもわかっていますよ。わたしはあの娘の母親なんですから」

「でしたらもう少し何とかしてやったらどうです? 今のあいつは強がって不安を紛らわせているだけですよ」

「昔はそれですら出来ませんでしたからね。成長しているんですよ♪」

「それはそうかもしれませんが……」

今ひとつ納得していない祐一。

そこで秋子さんはきっぱり言い切った。

「『カラ元気でも元気』という言葉があるんです。今のあの娘は『カラ元気』の効用を知っているんですよ」

 

 

 

 カチャン

 

整備班の宿直室のドアが開く音に宿直中の整備員たちは一斉にドアに視線をやる。

するとそこには大きなヤカンを手にした名雪が立っていた。

「夜勤のみんな、ご苦労様だぉ〜!」

「あれ? どうしたのこんな時間に。寝なくて良いのか?」

「そうだぞ〜! 出撃の時に眠くて…なんて洒落にならないぞ」

「お眠むの時間じゃないのか?」」

名雪のことをよく知っている整備員は口々に尋ねる。

しかし名雪はその言葉に首を横に振ると若干口をとがらせて文句を言った。

「酷いよ、みんな〜! せっかく特別サービスでお茶をいれに来たのに〜!!」

名雪のその言葉に整備員のみんなは笑いながらも名雪に謝った。

「すまんすまん。悪いこと言っちゃったね」

「珍しく気が利いているんでついからかっちゃったんだよ」

「水瀬さんの入れてくれたお茶なら最高だよ。ところでどうしたんだ? 俺たちにサービスしても何もでないぞ」

その言葉に名雪は真剣な表情を浮かべた。

「……今度の出動ではかなり無茶な取っ組み合いをするかもしれないから。

わたしも精一杯がんばるのでけろぴーの方をお願いするよ」

そして深々とお辞儀をする名雪。

その言葉に整備員たちは一斉に笑った。

「言われなくったってやるよ。俺たちはプロの整備士なんだぜ」

「そうそう。けろぴーは俺らに任せろよ」

「まーかして!!」

 

 

 

 ザアアアアーン ザアアアアーン

 

 真っ暗な夜の海を一隻の船が進んでいた。

船の名前はさんぐりあ号、そう佐祐理さんと部下一同、それにグリフォンが乗ったあの船だ。

 

 「あははは〜っ、もうすぐで東京湾ですね♪」

甲板の上で海を眺めていた佐祐理さんがうれしそうに言うと舞は口を開いた。

「……もうとっくに東京湾」

「はぇ〜、そうだったんですか?」

あまりこういうことに詳しくない佐祐理さんは小首を傾げる。

「はちみつくまさん」

そんな佐祐理さんに対してこくんとうなずく舞、そして目の前に現れてきた巨大な何かを指さしながら言った。

「あれがバビロンの城門……東京港の玄関」

「ふぇ〜、大きいね舞。でももう東京港と言うことはもうすぐゲームのスタートだよね♪」

「はちみつくまさん」

「それじゃあ下に降りようか。みちるを激励しないといけないもんね♪」

そして佐祐理さんは黙ったままの舞の手を取ると船内へと降りていった。

 

 

 

 「みちるの調子はどうですか?」

船内に降りてきた佐祐理さんはみちるの主治医?である遠野美凪に尋ねる。

すると美凪はこくんとうなずいた。

「……昨日はよく寝ていましたしお米もはんばあぐもいっぱい食べていましたので今夜はもつと思います」

「あははは〜っ、それは上々ですね〜♪」

その笑い声に気がついたのであろう、グリフォンのコクピットからみちるが体を乗り出して叫んだ。

「佐祐理〜!! 今度は絶対に成功させようね!!!」

「あははは〜っ、当たり前です。佐祐理たちにはもう後がありませんからね♪」

そんなみちるを微笑ましげに見とれていた美凪は佐祐理さんに言った。

「…みちる本人は楽しんでいるからストレスは全くナッシング」

「あははは〜っ、佐祐理だってありませんよ〜」

 

 そんな楽しそうな佐祐理さんたちの姿を見て開発関係者はぽつりとつぶやいた。

「……後がない、か」

「まあこうなったらそうだよな。それより俺たちも楽しもうぜ」

「……そうだな。どうせやるなら楽しまなきゃ損か」

「そういうことだ」

 

 

 「よっこいしょ、っと」

みちるは狭いグリフォンのコクピットの中へと体を潜り込ませる。

このグリフォン、機体のサイズは現行のレイバーとほとんど変わらないのだがコクピットは異常に小さい。

これはグリフォンを制御するためのコンピューターASURAの大きさがコックピットを圧迫していたのだ。

このためみちるのような子供がパイロットとして選ばれたのである。

「あいかわらず狭いコクピットだよね」

つぶやきながら専用コントロール・ヘルメットをかぶるみちる。

 

ピピピピピピ

音を立ててみちるの網膜とデータを照合する専用コントロール・ヘルメット。

この専用コントロール・ヘルメットは非常に優れものでみちるの頭の動きに連動するという代物だ。

そのためにこのグリフォンは抜群の視界を誇っているのだ。

 

 

 「網膜識別完了」

グリフォンの機体をチェック中の開発者はモニターに表示されるコマンドを読み上げる。

 

「間脳電流コンタクト!」

 

「ASURA起動!!」

 

 

「いつでも行けるよ!!!」

 

かくしてグリフォンは起動した。

こうして12月25日クリスマスの夜は更けていった。

 

 

 

あとがき

ちょっと間があいてしまってすいません。

PCの改造をやっていたもので更新できなかったんです。

ちなみにまだ改造は終わっていません、あとは電源の感想とATA100カードを載せるだけ。

本当はケースも改造したいんですけどね。

まそれはさておきいよいよグリフォン編が本格的に進行します。

どれくらいの長さになるのかな?

 

 

2002.04.24

 

 

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