機動警察Kanon第117話

 

 

 

 『土浦研究所を脱出した大型コンテナ車は三輌! 鹿島港に向かった!! 

水戸の部隊は追いつけない!!!

繰り返す、土浦研究所を脱出した大型コンテナ車は三輌!

鹿島港に向かった!! 水戸の部隊は追いつけない!!!』

「…ここからでは追跡車の脚でも追いつかないな」

「微妙なところですな」

頷く部下、その言葉に鮫島は顔をゆがませた。

ここからではどうあがいても土浦研究所を強行突破した佐祐理さんとその愉快な仲間達を捉えることは出来ない。

これでは任務の達成は不可能だ。

「……仕方がない、東京の指示を仰ぐ」

そして鮫島は無線のマイクを手に取った。

 

 

 

 そのころシャフトエンタープライズジャパン本社では

徳永専務と平光常務の二人が倉田・グリフォン捕獲の報を待ちわびていた。


 「まだ連絡は来ないかな?」

「いくらなんでもまだ土浦には着かないだろう」

そんな話をしていると電話が鳴った。

「はい、徳永だが」

素早く受話器を取り、応対する徳永。

するとその電話の相手はセキュリティシステムの司令であった。

『専務ですな、倉田は土浦を脱出しました』

「何だと!? 君らは何をやっていたんだね!!」

『私どもが土浦に着くよりはるか以前にガードマンの阻止を振り切って逃走したそうです。

これから私どももさらなる追跡を行いますが追いつくかどうか……』

「そうしろ!! 奴に逃げられたらシャフトはどうなるか……君らにも十分分かるだろう!!」

『当然です、というわけで追跡を続行します。それでは』

 

 受話器を置くと徳永は苦悩に満ちた表情で呟いた。

「まずい、まずいぞ。倉田を取り逃がしたとなると……」

「あの女は鹿島港のさんぐりあ号に逃げ込むつもりか?」

「倉田は…グリフォンを海外に持ち出すつもりじゃあるまいな」

「ボディはともかく本体のASURAとあのガキはこちらに手に入れたい」

「当たり前だ。でなければうちの投資した金は全部パアだぞ」

その時再び電話が鳴った。

「今度は何の報告だ?」

再び受話器を取り電話に出る徳永専務。

だがその電話の相手は全く予想だにしない人物であった。

 

 『あははは〜っ、その声は専務ですね〜♪』

「倉田か!!」

あまりにビックリした徳永専務は思わず叫んでしまった。

その声にあわてて徳永に近寄る平光専務。

しかしそんなことはお構いなしの佐祐理さんは続けた。

『あははは〜っ、専務さんぐりあ号が極東マネージャー扱いの船で手が出せずに困っているんでしょ♪

でも心配はありませんよ。佐祐理はグリフォンを持ってちゃんと東京に戻りますから。

追っ手がかかっているので余り詳しいお話は出来ないんですけど明日の夜半には東京湾に到着しますので♪

そこでのグリフォンの勇姿をお楽しみにしていてくださいね〜♪』

「グリフォンの勇姿って……おい!!」

『本当は一息つこうと思っていたんですけど佐祐理のお尻に火を付けたHな人がいまして。

専務……あんたが悪いんですよ♪』

 

 プツ  ツー ツーツー

 

 「あははは〜っ、言っちゃいました言っちゃいました♪」

携帯電話を懐にしまい込みながら佐祐理さんは楽しそうに言う。

「佐祐理、楽しそう…」

そんな佐祐理さんの様子に舞がそう言うと佐祐理さんは首を傾げた。

「はぇ〜、そう見えますか、舞?」

「はちみつくまさん」

「じゃきっと楽しいんですよ。というわけで出発しましょう♪」

 

 かくしてトイレ休憩を終えた一同は一路鹿島港へと向かったのであった。

 

 

 

 「信じられん!!」

怒りにふるえた徳永専務は革張りの豪華な椅子にドガッと座りながら叫んだ。

「あの女の社会性の無さはいったい何だ!?」

「SSSだって相当社会性は欠けていると思うがね」

平光常務の言葉に徳永専務は面白くなさそうに言った。

「行き過ぎた道楽者と暴力集団のかみ合わせはあまりゾッとせんな」

 

 

 

 「ただちに水戸支社に連絡、さんぐりあ号の出港時間を調べさせろ」

「はっ!!」

東京に残っていたSSS司令は現場に送り込んだ鮫島に代わり指揮を執り始める。

とは言ってもやはり現場の指揮はまかせたままだが。

「常磐道の本隊は東京に呼び戻せ。これより我がSSSは東京湾に警備の重点を移す」

「了解しました、ただちに特殊部隊を呼び戻させます」

あわただしく無線で連絡を取る部下達を後目に司令はこの場に残っている一番優秀な部下に命じた。

「稼働させるキュマイラは四機」

「…キュマイラ四機でグリフォンの相手が出来るでしょうか?

小笠原では97式改と99式を完全に蹂躙したそうですが」

そんな部下の心配を司令は完全に黙殺した。

「さんぐりあ号が入港したら二機を即座に乗り込ませろ。

倉田がグリフォンを運び出す前に取り押さえる」

 

 

 

 同時刻、ようやくと特車二課の出番が回ってきた(笑)。

 

 ルルルルルー ルルルルルー

「はい、こちら特車二課ですが」

隊長室の電話を第一小隊の小坂由起子警部補が受ける。

「水瀬警部補ですか少々お待ちください」

そして秋子さんへと連絡を取る。

「先輩、千葉県警から電話なんですけど」

『千葉県警から? 了承です、こちらに回してちょうだい』

こうして秋子さんは千葉県警からの報告に耳を傾けるのであった。

 

 

 

 「うにゅ、どうかな?」

できたてホヤホヤのみそ汁の味を味見した名雪はちと首を傾げた。

「どうしたの、名雪さん?」

「う〜んとね、味見てくれる? わたしはこれで良いと思うんだけど」

「うん、わかったよ」

そこで小皿に少量みそ汁を取るとあゆに差し出した。

「ん〜っとどうかな?」

小皿に口を付けるあゆ、そして叫んだ。

「熱い! 熱いよ!! 舌、火傷したよ〜」

「だ、大丈夫あゆちゃん?」

慌てて氷を冷蔵庫から取りだしあゆに手渡す名雪。

その氷を受け取ったあゆはすぐに口の中に氷を放りこんだ。

「うぐぅ〜、熱かったよ〜」

「あゆさん、これ火傷用のお薬です」

そこへ四次元ポケット? から薬を取りだしあゆに手渡す栞。

「ありがとう、栞ちゃん」

 

 その様子を見ていた祐一は名雪に言った。

「名雪、お前自分の舌が信頼出来ないのか?」

「人の好みはそれぞれでしょ、だからみんなの意見も聞こうと思って」

「碁石クッキーを作るような奴の舌が信頼できるか。やるだけ無駄だぞ」

「うぐぅ、祐一くん酷いよ〜!!」

当然のことだが祐一を非難するあゆ。しかしそこへとどめの一撃が加えられた。

「まああゆあゆのたい焼きだけの貧相な食生活じゃあなかなか舌も肥えないもんね」

自分の肉まんだけの食生活を棚に上げてあゆをいじめる真琴。

「うぐぅ、真琴ちゃん酷いよ……」

あゆの姿があまりにも可哀想だったからであろうか、名雪が助け船を出した。

「ほら、真琴。そんなこといったらあゆちゃんが可哀想でしょ。謝りなさい」

「え〜っ、何であゆあゆに謝んなくちゃいけないのよ〜」

「あゆちゃんに謝らないと真琴の今日の晩ご飯は沢庵だけにするよ」

「あう〜っ、そんなご飯嫌〜!!」

「じゃあ謝ろうね」

「うん……あゆあゆ、ご免ね」

「うぐぅ、ボクあゆあゆじゃないけど…良いよ、許してあげる」

どうやら真琴は許してもらえたようだ。

というわけで名雪は今度は祐一に言った。

「ほら、祐一。真琴も謝ったんだし祐一もあゆちゃんに謝りなよ」

「な、なんで俺が!!」

「謝らないと祐一のご飯はお母さんの謎ジャ「ごめんなさい!! あゆ、俺が悪かった!!」」

すごい勢いで謝る祐一。やはり謎ジャムの悪夢はもう二度と見たくないのであろう。

そこへ秋子さんが現れた。

「あら、みんな元気ですね」

「それはもう元気だけが第二小隊の取り柄だよ」

元気良く叫ぶあゆ、それに対して祐一が突っ込んだ。

「……あゆ、言っててむなしくなんないか?」

「うん、ちょっとだけ…」

ちょっと落ち込むあゆ。

そんなあゆを笑顔で見ていた秋子さんであったがキッと表情を引き締めるとみんなに言った。

「夕飯前に申し訳ないですけどちょっと言いたいことがあります」

「はい…」

入院中の美汐を除く五人が秋子さんを注目する。

「これは先刻千葉県警から入った情報なんですけど墜落して砕け散った奴なんですけど……どうも幕張の奴じゃないそうです」

「「「「「えっ!?」」」」」

あまりに意外な言葉に戸惑う五人、しかしすぐに秋子さんに尋ねる。

「そ、それはいったいどういう事なのよ〜!!」

「そ、そうだよ。何が根拠にそんな話が出てきたの!?」

「えぅ〜、訳を話してください〜」

そこで秋子さんはみんなの顔を見渡すと口を開いた。

「実は飛行機事故の時と同じように破片の組み立てをしようと思ったそうなんですが……」

「組み立てようがない……?」

祐一のその言葉に秋子さんは頷いた。

「はい、その通りです。

右腕らしきものが二本あったり旧式の油圧シリンダーが混じっていたそうですから」

「それじゃあ墜落はカモフラージュ?」

「はい、そのようです。

墜落現場に破片が残っていなければどんな無能な警察官だってすぐに検問の態勢を整えたでしょうからね」

「うぐぅ、それじゃあ目くらまししておいて本物は巧妙に持ち去ったっていうこと?」

「なんだかドラマみたいで格好いいです、じゃなくてなんて狡賢いんでしょう」

「あぅ〜っ、正々堂々とやって来なさいよ〜!!」

「それにしてもケレン味あふれる手段だぜ!! 俺たちをバカにしてやがる」

「本当だよ。幕張のあのやり口、ケレン味たっぷりだよ」

口々に犯人グループの悪口を言う祐一たち。だが名雪は一人違っていた。

 

 バァーン

勢いよく机を叩くと茶碗にご飯を山盛りによそる。

そしてどっかりと椅子に座り込むと叫んだ。

「考えても仕方がないんだからご飯食べようよ!!」

「お、おい名雪……」

祐一がその様子に恐る恐る尋ねると名雪は不思議そうな顔をした。

「何だよ?」

「い、いや…その……」

「そんなケレン味あふれる偽装工作したって事はもう一回仕掛けてくるってことでしょ?

だったら今のうちにご飯一杯食べて力つけておいて。今度こそあの黒い奴を逮捕してやるんだよ!!」

「そ、そうだよな。確かに名雪の言うとおりだ」

「名雪の言うとおりよ!! 今度現れたら美汐と二号機の仇、絶対に討ってやるんだから!!!」

「うぐぅ、名雪さんの言うとおりだよ!!!」

「ドラマみたいで格好いいです」

 

かくして第二小隊の面々はいざ決戦に備えてご飯をたっぷり食いだめするのであった。

 

 

 

あとがき

水戸やら土浦なんて地名が出てくると引っ越す前を思い出します。

ほんの一ヶ月半前まではこの辺りに私、すんでいたんですよね。

 

 

2002.04.17

 

 

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