機動警察Kanon第115話

 

 

 

 ズダァアァン ズダァアァン ズダァアァン

 

 特車二課のハンガー内で大きな音が鳴り響く。

真琴に投げ飛ばされた名雪が畳に叩きつけられる音だ。

そりゃあもう見事なぐらいの投げられっぷりだ。

まあ真琴が柔道二段なのにたいして名雪は初段、実力差から言えば無理ないことだったのだが。

 

 

 「班長、ここは俺たちの仕事場ですよ。あんなことに使わせて良いんですか?」

どうやらハンガー内で名雪と真琴が柔道をしているのが気に入らないらしい。

そう言う整備員の一人の言葉にちょっと早い昼食を食べていた香里は頷いた。

「整備はもう終わっているでしょ。

屋上が昨夜の雨で濡れて使えないし、ちょっとぐらい貸してあげなさいよ」

「はぁ、班長が構わないのでしたら」

しぶしぶ頷く整備員。

誰も整備班班長の香里の言葉には逆らえないようだ(笑)。

 

 

 「はぁ はぁ はぁ」

息を大きく荒げて名雪は膝待ついた。

「ま、真琴……ちょっとタンマ」

名雪のその言葉に真琴は大声で叫んだ。

「何よ、だらしがないわね!! 人に稽古付き合わせておいて先にダウンする奴がいる!?」

「こ、呼吸を整えるだけだから……」

そして呼吸を整える名雪。

元陸上部というバリバリの体育会系の名雪である、すぐに呼吸は整った。

 

 

 「うぐぅ、名雪さん全然こっちのことに気が付かない……」

「そういう奴なんだよ、名雪は。なんていってもマイペースだ」

 

 

 「よし!」

呼吸を整えると名雪は柔道着の乱れを直し、黒帯をぎゅっとしめた。

そして気合いを入れる。

「もう一本お願いします!」

「どっかからでもかかってきなさいよ!!」

 

 

 「先輩の娘さん、何をしているんです?」

「気合いを入れているところですよ」

 

 

 名雪と真琴は激しい組み手争いをする。

力は長年部活で鍛えてきた名雪が上、しかし格闘技のセンスは真琴の方が圧倒的に上だ。

そのため思うように名雪は真琴の襟や袖を掴むことが出来ない。

しかしほんの一瞬真琴に隙が出来た。

その瞬間を逃さす名雪は真琴の右袖左襟を取る。

「今だよ!」

名雪はそのまま真琴の懐に潜り込むと背負い投げに入る。

「あぅ!」

しかし背負い投げは成功しなかった。真琴もろとも畳の上に沈み込む名雪。

 

 「…………」

「ちょっとしっかりしなさいよ名雪」

しかし名雪は答えない。そのまま拳を思いっきり力強く畳に叩きつける。

「ちょっとどうしたのよ?」

すると名雪はか細い声を上げた。

「…非力だよ……」

「名雪の非力さは今に始まった事じゃない」

あっさり言い切る真琴。容赦の欠片もない。

「だって昨日だって役に立たなかったんだよ。

真琴も美汐ちゃんも助けられなかったし……それに祐一も……」

「別にあたしは名雪に助けて貰おうなんて思っていないわよ。

それに昨日のドタバタは全部祐一が悪いんだから!!」

 

 

 「あのアマ……」

「祐一くん、安静安静!!」

 

 

 「何も出来なかったのにわたしあの黒い奴が墜落したらしいって聞いほっとしているんだよ。

わたしは情けない奴だよ」

「それに気が付いただけ上出来よ」

あっさり言う真琴。なんだか今日の真琴は名雪に厳しい。

 

 

 「いくらボキャブラリーが少ないからってもう少し違う言い方があるだろう……」

「真琴ちゃんは不器用だからね、ああいう言い方しかできないんだよきっと」

 

 

 パァーン

両手で両頬を力強く叩き、気合いを入れる名雪。

「痛いぉ〜」

はっきり言ってバカである。

「少しは目が覚めたの?」

「うん、大丈夫。しっかり目が覚めたよ」

そしてにっこり微笑む名雪。こういうところはやはり秋子さんの娘だと感じられる。

「そろそろ昼飯だからあたしはもう行くわよ」

「真琴ありがとう」

「自虐の為の稽古なんか真琴はもう付き合わないんだからね」

 

 

(気合い、少しは入りましたかね?)

 

 

 更衣室に行くためサンダルを履こうとする真琴。

しかしそこで何を思ったのか名雪の元に戻ると真琴は叫んだ。

「それからね!! そういう愚痴は全部祐一に話しなさいよ〜!! 真琴は、真琴はね、すっごく困るんだから!!!」

そして今度こそ真琴は更衣室へと駆け込んだのであった。

 

 

 「どうです、由起子さん? うちの小隊の子たちは? みんな初々しいでしょ」

「まるで小学生か中学生ですね……」

 

 

 「ふぅーっ」

目をつむり名雪は大きく息を付くと軽くノビをした。

そして目を開けて顔を上げるとそこに信じられない者を見た。

「ゆ、祐一!?」

「よう、元気だったか?」

シュタっと手を挙げて挨拶する祐一。

しかしそのゆとりは長くは続かなかった。

「祐一、入院していたんじゃなかったの!?」

そう叫ぶやいなや感激の余り祐一の元へと駆け寄る名雪。

「バ、バカ!! 止せ!! わーっ、抱きつくな!!!」

 

 そして祐一は本日三度目の地獄を見た。

 

 

 

 ドタドタドタ

 

 「佐祐理知らない?」

急いで走ってきた舞の言葉にグリフォン開発スタッフの一人は廊下の奥を指さしながら言った。

「課長でしたら奥のファクトリーにいましたけど」

「ファクトリー……。わかった」

そして舞は再び走り出した。

 

 

 

 「どうしますか? 専務の筋からは再三帰還命令が出ていますが」

開発責任者の言葉に佐祐理さんは椅子をクルッと回らせ、背中を向け言った。

「ふぇ〜、仕方がないですね。グリフォンをばらしてコンテナに収めておいてください」

「えっ!?」

「ここまで来て計画の中止ですか!? ここまで来て!?」

詰め寄るスタッフに佐祐理さんは反論した。

「あははは〜っ、二人とも怖い顔しないでください♪

佐祐理だって腸が煮えくりかえる思いなんですから」

「すいません。とてもそうは見えなかったので……」

そう謝るスタッフの一人。だがコレは無理はあるまい。

だれが佐祐理さんの笑顔を見て怒っていると思うのだ。

そこへ舞がドアを勢いよく開けて入ってきた。

「…佐祐理!! 東京の明石から変な情報が来た。

専務が『セキュリティー・システム』を使うって」

「あははは〜っ、一体何のためです?」

佐祐理さんが舞にそう聞き返す。

するとそこへ第二の乱入者が現れた。

「佐祐理!! 話聞いたぞぉ〜!!」

「みちる、なんて恰好ですか。女の子がはしたないですよ」

佐祐理さんの言葉は無理無かった。

なぜならばみちるは下着姿のまま、ロリペドが喜びそうな恰好だったからでである。

そのせいで開発スタッフの面々は思わず目をむき、そして我に返った者は皆一様にそっぽを向いている。

ここでみちるを凝視してロリペド扱いはされたくないのだ(笑)。

 

 「ここまで来てなんで計画を諦めなくっちゃいけないのよ!?」

佐祐理さんに詰め寄るみちる。

それに対して佐祐理さんはちょっとだけ困ったような表情を浮かべた。

「あははは〜っ、社命ですからね、仕方がないんですよ」

「何サラリーマンみたいなこと言っているのよ!」

「はぇ〜、佐祐理はサラリーマンだったんですよ。みちるは知りませんでした?」

「知らない!!」

そこへ白衣姿の美凪が現れた。

「……みちる、まだ健康診断の途中です」

「だって美凪〜、グリフォンが動かせなくなっちゃうんだよ」

「……それは佐祐理さんの考えること、私たちは私たちにしかできないことをしないといけないの。

みちるがグリフォンの操縦をするように、私がみちるの健康診断をするように」

「あははは〜っ、美凪さんの言うとおりですよ〜♪」

「ぽんぽこたぬきさん」

美凪のみならず佐祐理さんと舞も同意見だ。

こうなってはみちるが幾ら我が儘を言っても覆ることはない。

だからみちるはこれ以上我が儘を言うのを止めた。

もちろん大切なことを伝えることを忘れはしなかったが。

「佐祐理や美凪や舞が何と言おうとみちるは諦めるの反対だからね!!

まだゲームオーバーの赤ランプはついていないんだから!!!」

 

 そのみちるの一言は佐祐理さんの心に深く刻み込まれた。

(そうですね。たしかにまだゲームオーバーになったわけではありませんよね)

 

 

 

あとがき

ようやく遠野美凪の再登場♪

みちるに比べると出番無茶苦茶少ないけど。

あと7〜10回ぐらいですかね?グリフォン編終わるの。

 

 

2002.04.13

 

 

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