機動警察Kanon第112話

 

 

 

 夕方から降り出した大雨が特車二課ハンガーの屋根を打ち付けけていた。

すでに幕張で黒いレイバーに二号機を撃破され、逃走されてから数時間が経っている。

しかし未だ雨が止みそうな気配はない。

依然として強い雨が降り続いていた。

 

 

 

 「右上腕部アクチュエーター。第一、第二……全部ダメだ。腰椎基盤、回転系……ちっ、これも全部ダメだ!

腰のダメージが致命的だったよ、これはもう」

Kanon二号機の損傷を確かめていた北川はもうお手上げ、といわんばかりに叫んだ。

それを聞いた美坂香里整備班長は頷いた。

「これはメーカー修理に出すしかないわね」

「そうですね。ここまでやられたらうちじゃあお手上げです」

「細かいチェックリスト作っておきなさい。明日の朝一番に修理に出すわよ!」

「「「「「「了解!」」」」」」

ハンガーにいた整備員たちは頷くとKanonの故障箇所チェックに入る。

その様子を満足げに見ると香里は一人ハンガーを出、隊長室へと向かったのであった。

 

 

 

 「何だか第二小隊が出来てから徹夜仕事が増えて仕方がないですよ」

ぼやく香里に秋子さんは申し訳なさそうな顔をした。

「ご迷惑をおかけします、香里ちゃん」

「香里ちゃんは止めてください、香里ちゃんは。部下に示しがつきませんから。

……それはそうと今回はずいぶんとまた派手にやられたそうじゃないですか」

「ええ、そうなんです」

秋子さんは大きく頷いた。

「今回ばかりは本当参ってしまいました。二号機の被害もさることながら……人的損害も大きくて」

「二人入院だそうですね。しかも一人は銃で撃たれたとか」

「どうにも得体の知れない事件でして。それに香里ちゃん……信じられます?

今度の奴は空飛んで逃げちゃったんですよ」

「香里ちゃんは止めてください。……ってあきれますね」

「はい、全く」

「つまり真琴ちゃんは飛行機と格闘戦をやらかしてボロボロにされたということですか?」

「まあ……そういうことになりますね」

 

 

 

 「飛行機ではないんですから相当無理しているはずです

燃料だってそう沢山は構造的にも搭載できるはずありませんし」

美汐と祐一がいない第二小隊の中では唯一の頭脳派である栞はそう言いきった。

しかし頭が悪い真琴(笑)は訳が分からず思わず栞にかみついた。

「無理があろうが無かろうがあの黒いレイバーは空飛んで逃げたじゃない!!」

「ですから真琴さん、私が言いたいのはですね…。

あれが現場離脱の為だけの機構だとすればそう遠くまでは言っていないと。

ねえ?名雪さんもそう思いませんか?」

いきなり振られて名雪は思わずビックリした。

「へっ!? わ、わたし? あははは〜っ、難しくてよくわかんないよ」

「んで結局遠くないって黒いレイバーはどこへ逃げたのよ〜!!」

「ん〜っとね」

栞のアシスタントをしていたあゆは地図にコンパスで丸く書いた。

「東京湾中央部から千葉県中央部にかけての範囲ぐらいかな?」

「そうですね。それぐらいだと思います」

「……その範囲に犯人はいるって訳?あゆあゆ」

「うぐぅ、そうだけどあゆあゆって呼ばないでよ〜」

「…そんな広い範囲指定してどうするのよ!!!」

思わずあゆの首を掴んで絞める真琴。

「う、うぐぅ〜!!」

 

 そこへ秋子さんが現れた。

「祐一さんと美汐ちゃんがいないと寂しいでしょ、真琴?」

「「「あっ、秋子さん」」」

「お母さん」

四人の言葉が見事に重なる。

どうやらやはり小隊の要である二人が欠けてしまっているだけにやはりいつもとは勝手がちがうらしい。

そんな様子を察して秋子さんは言った。

「戦力半減以下かしら?」

その言葉に真琴は猛然と反発した。

「いくら秋子さんでもその言葉は聞き逃せないわよ〜! 真琴が祐一や美汐の分まで働いてみせるんだから!!」

「あらあら、その心意気だけは買いますけど真琴、あなたの二号機はメーカー修理に出すのでしばらく返ってきませんよ」

「あう〜っ!!」

秋子さんお言葉に呆然とする真琴。

おおかた美汐のいないうちに好き勝手しようとしたのだがそうは問屋が下ろさない、というわけだ。

 

 「名雪」

「は、はい!」

母親に声をかけられて直立不動になる名雪。

そんな名雪に秋子さんは真剣なまなざしで言った。

「パートナーである祐一さんが怪我して心配でしょうけど惚けている場合ではありません。

なすべき仕事があるなら一つ一つ片付けていきなさい。正義の味方は常日頃心構えが大切ですからね」

「わかったよ」

頷く名雪。

「とりあえずお茶入れてくるよ」

そう言ってお盆を持ち、給湯室へと向かう名雪。

その背中に秋子さんは微笑みながら言った。

「私はロシアンティーでお願いね。あっ、ジャム多めでよろしくね♪」

 

 

 「名雪さんは大変ですね」

名雪がオフィスから出ていったのを見送るとしみじみと言う栞。しかしそれは無理もあるまい。

なんせ指揮者は二人とも戦線離脱状態、二号機も稼働不能。 

予備の三号機は部品取りに使っていてやはり稼働不能。

もはや第二小隊で戦力になりそうなのは名雪とケロピーだけだったのだから。

「名雪さんもとんだ誕生日になっちゃったね」

あゆの何気ない一言に秋子さん・栞・真琴は「あっ!」という顔をした。

「そういえば今日は名雪さんの誕生日でしたっけ?」

「あう〜っ、すっかり忘れていたわよ〜」

「さっきまではずっと覚えていたのだけれど今日のごたごたで忘れてしまっていたわ」

娘のことを秋子さんが忘れるぐらいなのだから栞や真琴も忘れていてもちっともおかしくない。

それよりもよくもまああゆが覚えていたものである(笑)。

「美汐ちゃんは当分入院だろうし祐一さんもどうなるか分からないし。

どうせなら二月ぐらいにみんないっぺんに済ませちゃいます?」

「あっ、それいいですね。名雪さんとあゆさんと真琴さんと私。

みんなおそろいでやるのも楽しそうです♪」

ご機嫌な栞。

「そうだね。みんな一緒って楽しそうだよ」

「あう〜っ、秋子さんがそう言うんなら……」

 

 

 「お茶、おまたせ〜」

名雪がロシアンティーなど各隊員のお茶を入れて戻ってくると第二小隊の面々はTVを真剣なまなざしで見つめていた。

「あれ〜?何かおもしろいのやってるの?」

すると栞が名雪の腕を引っ張ってTVの方へと連れて行こうとする。

「わっ、栞ちゃん危ないよ」

「名雪さん、お茶なんてどうでも良いですからTV見てください」

「一体何だぉ〜?」

そして名雪がTV画面を見ると歌謡番組がやっていた。

その画面の中では一週間ほど見習い隊員として二課にいたきかのりんこと霧島佳乃(第82話〜86話参照)が歌っていた。

「佳乃ちゃんがどうかしたの?」

「名雪さん、そこじゃないよ。すぐに出ると思うから待っていて」

その場にいた秋子さん・真琴・あゆ・栞の四人がいずれも真剣なまなざしであったので名雪も真剣にTV画面を見つめる。

 

ピンポン ピンポン

 

 臨時ニュースおなじみの音が鳴り響く、と同時に『臨時ニュース』のテロップが流れる。

 

 『千葉県山中に謎の飛行物体墜落。東京幕張でのレイバー乱闘事件との関連を捜査中』

 

 その意外な展開に第二小隊の面々は只驚くしかなかったのであった。

 

 

 

あとがき

物語中では12月23日ということで名雪の誕生日。

ですからちょっとネタで振ってみました。

ところで実際に幕張でこういった事件起きたらコミケって中止ですかね?

 

 

2002.04.07

 

 

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