機動警察Kanon第111話

 

 

 

 黒いレイバーは強かった。

もはやピクリとも動かないAVS−99を完全に無視して真琴の乗る二号機を容赦なく攻撃する。

両足そろえての必殺のドロップキック。本職のやくざもまっさおのやくざ蹴り。

機体を完全に取り押さえての膝蹴り連発。

おかげでコクピット内の真琴はすっかりふらふら、完全にグロッキー状態だ。

 

 『佐祐理〜! Kanonの動き止めたよ〜!!』

みちるからの報告に佐祐理さんはうれしそうに笑った。

「あははは〜っ、ご苦労様です、みちる。急いでそいつのハッチをこじ開けちゃってくださいね。

後は舞たちがやりますから♪」

「課長、もう煙がもちません!」

運転席の久瀬の言葉に佐祐理さんは頷いた。

「急いでくださいね♪」

みちるを急かすと佐祐理さんは携帯電話を切って呟いた。

「ここまで来たんです、今更後には引けませんからね」

 

 

 

 ブロロロロ〜

事件発生より約十分後、ようやくと第一小隊の応援が駆けつけてきた。

すぐにキャリアを停止させるとONEの起動に入る。

「秋子さん、第一小隊が到着、配置を開始したよ」

あゆの報告に秋子さんは頷いた。

「ようやく到着ですね、いよいよ反撃開始です。ところで祐一さんの具合どうなんですか?」

「うぐぅ、祐一くん? 肋骨にひびが入ったみたいだよ。今さっき、救急車で病院に行ったみたいだよ」

「それはよかったです」

そして秋子さんはインカムのマイクを口元に近づけた。

「名雪、聞こえました? 祐一さんは大丈夫みたいですよ。

それよりも真琴が苦戦中です、助けてあげてきてくださいね」

『分かったよ!』

名雪の返事と共にケロピーが秋子さん・あゆの脇を走り抜けていった。

 

 

 

 「さ〜って佐祐理に頼まれたことだし、さっさと片づけちゃうことにしようっと」

みちるはそう呟くと操縦桿を動かした。

その動きに会わせて黒いレイバー……グリフォンの腕が真琴の二号機を強引に持ち上げる。

といきなりKanonの右腕がグリフォンの腕をはねのけた。

「にょ、にょにょにょ! こいつまだ動けるの!? 」

思わずビックリするみちる。

さすがにAVS−99の10機分のお値段(あくまでも中古買い取り価格)はダテではないようだ。

「うにゅ、こうなったらみちるの最強の技をもって一撃でとどめを刺すんだから!!」

指をそろえて右腕を大きく引くグリフォン。

あとはこのまま勢いよく突き出せばKanonはお終いだ。

「覚悟!!」

『あーあー、所属不明の黒いレイバーに告ぐ!!!』

「によわっ、一体何?」

慌てて周囲を見渡すみちる。

するとそこには第一小隊のONEが三機、いつでもグリフォンを取り押さえられるよう万全の準備をして待ち構えているところであった。

『完全の周囲は完全に包囲しました!!

何の目的があっての行為かは知りませんが無駄な抵抗は止めて大人しく投降しなさい!!!

いかに機体に自信を持っていようとこの後さらに四機のレイバーと五台のキャリアを愛当てにする覚悟はあるのですか!!!』

四機で一機をたこ殴りにできる状況に第一小隊隊長の由起子さんはすっかり自信満々だ。

しかし佐祐理さんの考えは違っていた。

「あははは〜っ、みちる気にしないで大丈夫ですよ〜♪

どうせ相手は時代遅れのポンコツなんですからね、いくらでも突破する方法ありますよ〜っ♪

それよりさっさとそのKanon,やっちゃってくださいね〜♪」

気楽にけしかける佐祐理さん。

しかし相手は旧型のONEだけでは無かったのであった。

「課長!!」

「あははは〜っ、何事ですか?」

久瀬の突然の叫び声にも動じず相変わらずの佐祐理さん。

しかしすぐに佐祐理さんもビックリした。

もう一機のKanon……名雪のケロピーがいきなり現れたからだ。

「もう一機のKanon!? 何で今頃出てきたんですか!?」

 

 

 

 「公務執行妨害、騒擾、器物破損、ならびに傷害の現行犯で逮捕するっ!

大人しく縛に付くんだよ!!」

名雪の言葉にグリフォンはぴくりとも動かない。

コクピット内のみちるは佐祐理さんからの指示を待っていたからだ。

 

 

 『……佐祐理、もう中心部の煙幕が限界。

それにグリフォンとKanonが近すぎて接近できない。

もう一戦やっている間に煙が晴れてしまう。そうなったら……』

Kanonの起動ディスクを奪うためにグリフォン付近で待機していた舞の言葉だけに佐祐理さんは頷いた。

「あははは〜っ、わかりました。残念ですけど引き上げましょう。

今回はグリフォンの経験値を上げただけで良しとするしか有りませんね。

大雑把な計画でしたけどとっても楽しかったですね〜♪」

 

コンコン

 

 その時車の窓を叩く音がした。

そして誰かが佐祐理さんに向かって言う。

「避難してください。ここは危険です」

佐祐理さんが窓の方に顔を向けるとそこには一人の特車二課隊員がいた。

「!!」

思わず驚愕する佐祐理さん。

しかしそれは相手も同じだった。

「リリー=田!?」

そう叫ぶやいなや腰にパッと手をやる特車二課第二小隊天野美汐巡査部長。

「あ……丸腰……」

しかし特車二課の隊員は原則銃を装備していない。

だからその腰に拳銃があるはずがないのだ。

その隙をついて運転席から久瀬がルガーMK2を懐から取り出すと美汐に向ける。

 

 パシュ パシュ パシュ

 

 サイプレッサーを通してほとんど聞こえないLR22が美汐の体を貫く。

「くっ!」

そのまま地面に崩れ落ちる美汐。

 

 キュキュキュー!!

 

 タイヤを鳴り響かせて佐祐理さんの乗った車が走り出す。

「な、何で撃ったんですか!?」

「す、すいません!!あいつが腰に手をやったものですから……」

思わず弁解する久瀬。

「それに課長の香港時代も知っていましたので……」

しかし佐祐理さんは許さなかった。

「美汐さんは私と舞のお友達だったんですよ!!

それなのに酷いことするなんて……。後で舞に言ってお仕置きです」

「か、課長〜!!」

「久瀬さんは黙っていなさい!!」

久瀬を一括すると佐祐理さんは携帯電話を取り出すと素早くダイヤルする。

『もしもし、みちるだけど』

「みちるですか。すいません、こっちで大失敗をやらかしてしまいました。

大急ぎで撤退してください!!」

『え〜っ! まだ名雪と遊んでいないのに〜!!』

不満そうなみちる。

しかし今はそれどころではない。

みちるとグリフォンを撤退させるため佐祐理さんは言い切った。

「Kanonとはもう一度やらせてあげますよ!! だから早く撤収してください!!!」

 

 

 

 「かかってこないならこっちから行くんだよ〜!」

一向に動こうとしないグリフォンに焦れた名雪はケロピーの左腕に装着されたスタンスティックを引き抜いた。

そしてフットペダルを一気に踏み込むとグリフォンへと突進する。

「くたばるんだぉ〜!!」

振り下ろされるスタンスティック。

しかしグリフォンはその一撃をあっさり受け流すとケロピーを避ける。

「わっ、わっ、わっ」

いなされて転けそうになる名雪の乗るケロピー。

しかしケロピーは真琴搭乗の二号機ではない、なんとか体勢を立て直す。

「おのれ、こしゃくだぉ〜!!」

その時いきなりグリフォンの背中に付いている何かが跳ね上がった。

その何かはまるで翼のようだ。

 

 ヒュ〜ウ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 「な、何だぉ〜!?」

何やら奇妙な音まで鳴り始める。

すっっかり名雪は腰砕け状態だ、といきなり轟音が鳴り響いた。

 

 ズボォ〜ン

 

 「わっ!?」

突然発生した衝撃波に思わず一瞬目をつぶってしまう名雪。

そしてその衝撃波と共にグリフォンは空へと舞い上がる。

「なっ!?」

レイバーが空を飛ぶというとんでもない状況に唖然とする名雪。

しかしそれは名雪だけではない、現場にいた誰もがそうだった。

 

あゆ:「うぐぅ!! レ、レイバーが空飛んだ!?」

栞:「そんな嘘つく人、嫌いです……って本当ですか!?」

秋子さん:「……了承」

 

 

四菱の人:「……これは映画の撮影か?」

目立の人:「……にしては警察もずいぶん協力的ですね……」

トヨハタの人:「本当の事件だと思いますが……」

Keyの人:「ど、どこの誰なんだ!? あのレイバーを作ったのは!!」

 

 

由起子さん:「わ、私目が悪くなったのかしら?」

みさき:「わっ♪ すごいね雪ちゃん、レイバーが空飛んだよ♪」

雪見:「……こういう状況ではアンタのその図太さがうらやましいわ……」

 

 

 「そ、そんな……そんな……そんなー!!」

名雪の絶叫が幕張に響く。

だが名雪の叫びを無視してグリフォンは空高くへとグングン上昇していく。

 

 

 

 「やったら勝っていたんだけどな」

コクピット内でつぶやくみちる。

そしてグリフォンは雨雲の中へと消えていったのであった。

 

 

あとがき

美汐と佐祐理さん・舞は香港時代のお友達と言うことにしました。

まさかジオで百合な関係をするわけにはいきませんので。

それと佐祐理さんの名前は変わっていません。

内海=リチャード王のような名前が思いつかなかったのであいすいません。

リリー=田にしました(2002.04.11)

 

 

2002.04.03

 

 

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