機動警察Kanon第110話

 

 

 

 バギィ

 

 ものすごい音共にトレーラーの荷台から黒い影が飛び出した。

そしてその黒い影はあっという間に真琴の二号機に襲いかかる。

「何なのよ、こいつは〜!?」

真琴は叫びながらも必死に機体を立て直そうと操作する。

しかし不意を突かれたのだ。

どうしようも出来ずに二号機はコンテナを押しつぶしながらぶっ倒された。

「一体何なのよ〜!?」

狼狽する真琴の目に飛び込んできた物、それは漆黒に染まった見たこともないレイバーであった。

 

 

 

 「第一小隊に直ちに応援を要請して! 急げば十分で到着するはずよ」

「うぐぅ、わかったよ」

秋子さんの指示に頷き、そしてキャリアに走るあゆ。

その姿を見送った秋子さんは慌てて駆け寄ってきた名雪に指示した。

「名雪は一号機を起動、急いで!」

「了承だよ」

敬礼し、キャリアに向かおうとする名雪。

しかしそこであることに気が付いた。

「わたしの起動ディスク、祐一がつかっているんだぉ〜!!」

 

 

 

 ミシッ ミシッ

謎の黒いレイバーの強力な腕が二号機の首を締め付ける。

真琴は必死にその腕を払いのけようとしているのだが全く歯が立たない状況だ。

まさに絶体絶命のピンチである。

そこへ祐一の乗るAVS−99が駆け寄った。

「いい加減にしろ!! それ以上やるなら俺が相手になってやるぜ!!!」

しかし黒いレイバーは全く祐一を、いやAVS−98を気にしなかった。

無視したまま二号機を押さえつけている。

「くそっ、安物は無視かよ!」

悪態付くと祐一はさらに二機に近寄った。

すると絶体絶命のはずの真琴が祐一に叫んだ。

「祐一、只物じゃないわよ!! 素人は危ないから下がっていなさいよ〜!!」

「…素人はないだろ、素人は。

そりゃあ今は指揮者なんかやっているがお前と同じ訓練を受けてきているんだ。やれるぜ!!」

そう言うや祐一はフットレバーを大きく踏み込む。

「行くぞ!!」

一気にAVS−99は力強く走り出す。

その様子を見た黒いレイバーはグィと手をひねると二号機の首をもぎ取った。

そして目にもとまらぬ早業でAVS−99へと投げつける。

「わっ!」

何とか腕でその一撃を受け流す祐一。

しかし黒いレイバーの性能は圧倒的な物であった。

あっという間に間合いを詰めるとAVS−99に鋭い一撃をかます。

「どえぇぇぇ〜!!!」

祐一は必死に後退してその一撃をかわす。

しかしピンチはまだ脱してはいなかった。

重心がすっかりが後ろ向き、そのまま背中から倒れてしまいそうだ。

「こらえろ、こらえろ、こらえろ!」

必死に踏ん張る祐一、その甲斐あってか何とかAVS−99の転倒は免れた。

思いっきり機体は沈み込んだものお何とか姿勢に立て直しに成功したのだ。

「な、何だこいつ!? 下半身のバネがフニャフニャじゃないか……。

どうりで乗り心地がいいはずだぜ!! けどオートバランスの性能は一品だ!!!」

黒いレイバーに反撃しようとする祐一。

しかし祐一が想像していた以上に黒いレイバーは性能もパイロットの腕前も圧倒的さがあった。

「何!?」

いきなり目の前に現れた黒いレイバー、そいつが素早く殴りつけてくる。

「………!! 」

今度は完全には避けきれなかった。

頭部に付いている二本のアンテナが砕け散る。

「くそったれ!!」

素早く振り返り黒いレイバーの背中を襲おうとする祐一。

しかしAVS−99の旋回性能よりも黒いレイバーの旋回性能の方が上だった。

いきなりAVS−99にラリアートをぶちかます黒いレイバー。

「ぐっ!!」

衝撃にあらがう祐一、しかしAVS−99はさすがにあらがうことは出来なかった。

そのまま祐一の乗るAVS−99は地面に沈んだ。

 

 

 「うぐぅ〜」

「えうぅ〜」

真琴の乗る二号機と祐一の乗るAVS−99。

共に地面に無惨に転がる状況にあゆと栞はただ呆然として声を漏らすだけ。

しかし秋子さんは冷静だった。

「旗色悪いですね」

「うぐぅ、秋子さん、あの動き見た? まるで生き物みたいだよ!」

「そうですね。まるで生き物みたいです」

 

 名雪が頭にヘッドギアを装着しながらやって来た。

そして呆然と黒いレイバーを見つめ続ける栞に声をかけた。

「栞ちゃん!」

「は、はい。何ですか、名雪さん?」

思わず我に返り、名雪に聞き返す栞。

すると名雪は珍しくきりっとした表情で言った。

「わたし、指揮車で出来る限り接近するから栞ちゃん、運転手やって欲しいんだけど」

「? 何に接近するんですか?」

首を傾げる栞に、説明を続けようとする名雪。

しかしそこで秋子さんが口を挟んだ。

「名雪、一体何をするつもりなの?」

「祐一とケロピーの起動ディスクを回収してくるんだよ!」

「却下!」

秋子さんは一秒で名雪の考えを却下した。

「な、何でなんだよ!!」

「無茶なまねは止めなさい。今行ってもレイバーにぺっしゃんこにされるだけです」

「で、でもそれじゃあいつまで経ってもケロピーが動かせないよ〜」

「第一小隊が来るまで待ちなさい。

それに……あの有様でどうやって祐一さんと起動ディスクを回収するんですか?」

そう言う秋子さんの視線の先には黒いレイバーに首根っこを掴まれ、無惨な姿をさらすAVS−99の姿があった。

 

 

 

「佐祐理、こいつ全然相手にならないよ〜!」

みちるの言葉に佐祐理さんはがっくりきた。

「あははは〜っ、Keyはつまらない物を作ったんですね〜♪」

実際もうAVS−99はピクリとも動かない。

完全にシステムが落ちてしまったのだ。

「みちる、いつまでも安物を相手にしないでくださいね♪

まだKanonは動いていますよ。欲しいのはそっちのデータなんですから」

「にゃははは〜、了解だよ」

佐祐理さんの指示に頷くみちる。

とその時真琴の乗る二号機が立ち上がり、右足に装備されている37mmリボルバーカノンを取りだした。

そしてしっかりと両腕で保持すると黒いレイバーに向けて構えた。

「思い知らせてやるんだからね!!くたばりなさいよ!!!」

そう言うや引き金を引く真琴。

 

 ズキューン ズキューン ズキューン

 

 三発の銃声が辺りに鳴り響く。

そして弾丸は黒いレイバーに見事に直撃、というわけではなく黒いレイバーに盾にされたAVS−98にものの見事に直撃した。

 

 「わあああっ〜!!バ、バカ野郎!!俺を殺す気か!?」

 

 「真琴のバカ〜!!!」

 

 祐一と名雪の悲鳴。

しかし真琴はそれに対して平然と言い切った。

「だから邪魔だって言ったのよ〜!!!」

 

 

 黒いレイバーはそのまま盾代わりに使ったAVS−99を二号機に叩きつける。

 

 ガシャ〜ン

 

 「ぐぁぁ!!」

突然襲った苦痛にうめく祐一。

もはや完全にAVS−99は役立たずであった。

 

 

 

 「もうこれ以上見ていられないよ!! 行くよ!!!」

あまりの惨事に名雪はもはや我慢しきれなかった。

ガスマスクをを片手にガスの中へと突っ込む。

 

 

 

 「あうぅぅ〜!!! もう許さないんだから!!!」

もうすっかり無茶苦茶な攻撃を真琴は黒いレイバーにぶつける。

しかしその攻撃を黒いレイバーはあっさり受け流す。

機体性能もさることながらパイロットの腕前の差が歴然としているのだ。

だからのんびり見物の佐祐理さんは戦闘中のみちるに伝えた。

「みちる、煙幕の方がそろそろ限界に近いですよ〜っ。

いつまでも遊んでいないでちゃっちゃと仕留めちゃってくださいね♪」

『わかったよ〜』

 

 「祐一〜! 祐一、どこ!?」

そのころ名雪は一人、二号機と黒いレバーの格闘する足下を鍛えた俊足で駆け抜けていた。

目指すはAVS−99のコクピット、その中の祐一とケロピーの起動ディスク、この二つを回収するのが目的だ。

しかし周囲は完全にガスに包まれ視界が効かない。

しかもすぐ近くでは二機のレイバーが格闘中、きわめて危険な状況だ。

といきなり頭上から巨大な固まりが落ちてくる。

「わっ!」

とっさに避ける名雪。

すると名雪のすぐ側に巨大な金属の固まりが落ちてきた。

それは……37mmリボルバーカノン、二号機のものだった。

「あ、悪夢だよ……」

それでも必死になって捜す名雪。

やがて名雪の耳元にドシャという音が聞こえてきた。

「祐一!?」

駆け寄ってみるとそこにはAVS−99のコクピットから体を半分覗かせた祐一の姿があった。

「祐一!!」

「よお、花子じゃないか……」

「わたし、名雪……」

「わかっているさ、それくらい……。それよりこれを取り返しに来たんだろう」

そう言う祐一の右手にはケロピーの起動ディスクが握られていた。

「いやはやもう……御覧の通りのざまだけど安心しろよな。

この安物のメカニズムはお前が半年間みっちり鍛え上げたプログラムされた運動能力に対応しきれないのさ。

だがな、お前とお前の鍛え上げたケロピーなら……」

 

 

第111話に続く

 

 

あとがき

とうとう110話目です。

これで番号的には110番と並びましたね。

だからなんだと言われてしまえばそれまでなんですが。

やっぱり格闘戦を文章だけで表現するのはむっちゃ大変です。

こういうときは漫画やアニメの表現力がうらやましいものです。

 

 

2002.03.31

 

 

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