機動警察Kanon第109話

 

 





 

 (乗り心地は悪くないな)

AVS−99のコクピットの中で祐一はそう思った。

その昔、祐一はKanonのシミュレーターに搭乗する機会があったのだがその時の乗り心地とは明らかに

異なっていた。

その時の感想としては「天にも昇るような気持ちで地獄行き」だったのだ。

しかるにAVS−99は違っていた。

Kanonが悪路をサスが壊れた状況で走っている車ならばAVS−99は舗装された道路をリムジンが走って

いるかのようだ。

しかし祐一はそれだけでAVS−99の性能を見極めたりはしなかった。

(この手のレイバーは乗り心地じゃないからな)

 

 そこで祐一はAVS−99で屈伸運動を始めたのだった。

 

 

 

 「あははは〜っ♪ Keyの新型が動いていますよ〜♪」

「そうですね、倉田課長」

双眼鏡でAVS−99が稼働中なのを見て嬉しそうに笑っている佐祐理さんに運転席の久瀬は頷いた。

しかし佐祐理さんはそんな久瀬を一顧だにしなかった。

「これで新型機さんの性能が試せます♪」

そう言って佐祐理さんは車内に置いてあったごっついスクランブル機能を搭載した携帯電話を手に取る。

通常の携帯電話やらPHSだと「盗聴してください」といっているようなもの。

やはり悪事をたくらむにはそれなりの装備が必要なのだ。

「あははは〜っ♪ 舞、聞こえますか〜」

『…聞こえる……』

「それじゃあ楽しいパーティーの始まりですよ〜♪ 会場は幕張の国際展示場。OKですか〜♪」

『…はちみつくまさん…』

「それじゃあちゃっちゃと片づけちゃいましょうね〜♪」

そして佐祐理さんは電話を切った。

「あははは〜、グリフォンの勇姿楽しみですね〜♪」

 

 

 「佐祐理からの指示、幕張に入れろって」

「了解しました」

佐祐理の指示を舞が伝えるとトレーラーの運転手は指でOKサインを出す。

そしてクラッチを踏み込み、ギアを入れるとアクセルを踏み込んだ。

たちまちトレーラーはメインイベントへと向かい始めた。

「……どうする? ここから帰ってもいいけど?」

「冗談でしょう」

舞の言葉にグリフォン開発責任者は首を横に振る。

「ここまで来たら一蓮托生、最後まで見届けますよ」

「……良い覚悟」

 

 こうして賽は投げられた。

 

 

 

 「あうぅ〜っ!!! 」

真琴の叫び声に秋子さんを除く4人は思わず耳を塞いだ。

それ程けたたましい叫び声だったのだ。

しかし真琴は周りのことなどお構いなし、立て続けに叫んだ。

「祐一が勝手に新型機を動かしているですって〜!?

うらやましい……じゃなくって持ち場を離れて勝手のし放題!!!

例え秋子さんが許しても真琴は許さないんだから〜!!!!」

「別に許したわけではありませんよ」

「そうでしょ、そうでしょ。大体祐一には公務員としての自覚がたりないんだから〜!」

自分のことは棚に上げて秋子さんの言葉にうんうんと勢いよく頷く真琴。

しかし秋子さんの続く言葉にはさすがの真琴も絶句した。

「ただ黙認しただけですから」

「「「「「…………………秋子さん(お母さん)」」」」」

「あらあらみんな、どうしたのかしら? 」

そんな五人の様子を気にもせずに笑顔の秋子さん。

そこへ名雪がおそるおそる発言した。

「お母さん、さっきの祐一は減俸三ヶ月って?」

「私の命令で行動したならいざ知らず勝手な行動でしょ。仕方がないわよ」

「黙認したって言ったのに……」

「それとこれとは別問題。ようは上の人が納得するかしないかの問題だから」

「……祐一は本当に三ヶ月の減俸ですむの?

なんだか最近警察官の処分って不祥事が相次いだ結果不当に厳しいんだけど」

「それくらいで話はつけてみますよ。

なんといっても祐一さんの給料を減らした上に新型機の性能が分かるんですよ。

これはもう警察のもうけものと考えてもいいですからね、クビになんかさせませんよ」

「……お母さん」

「うぐぅ、秋子さんが……秋子さんが……」

「そんなこと言う人、嫌いです」

「そんな酷なことはないでしょう」

「あう〜っ〜」

やっぱり秋子さんは凄い、そう思う五人であった。

 

 

 「うぐぅ、それにしてもこんなことやっていると益々第2小隊の評価って落ちちゃうよね」

あゆがしみじみというと秋子さんはジト目であゆを見た。

「あゆちゃん、益々はないんじゃないかしら……」

「安心しなさいよ、あゆあゆ!!」

「真琴ちゃん、何か良い考えあるの?」

あゆが真琴に尋ねると真琴は頷いた。

「こうなったら第2小隊は自決主義で行くのよ!!!」

「うぐぅ、ボク自殺は嫌だよ……」

勘違いするあゆ。どうしてこんな知能で警察官になれたのか? 本当に謎だ。

そこで栞があゆの間違いを正す。

「あゆさん、自殺の自決ではなくて自分で決めるの自決なんですよ」

「うぐぅ、そうだったの? ボク知らなかったよ」

「バカあゆは黙っていなさいよ!! 

それより祐一はね、私たちの手でどーにかしなくちゃいけないんだから!!!」

「どーにかって?」

名雪の疑問に二号機のコクピット内で真琴は胸を張って答える。

「見ていなさいよ〜!! 真琴が祐一を取り押さえてくるんだから〜!!!」

「結局やっていることは同じだと思うのだけれど」

秋子さんはちょっとだけ困った顔をしたがすぐに笑顔に戻った。

「美汐ちゃん、お願い」

「はい、分かりました。指揮車出します」

「はい。お願いね」

 

 

 「あははは〜っ♪ いよいよ役者が揃ってきましたね♪」

 

 

 「ああん? あれは真琴の二号機じゃないか。なにかあったのか?」

祐一は近づいてくる二号機を見て思わずそう言葉を漏らす。

するとあと100mというところまで迫ったとき、突然二号機のスピーカーから真琴のけたたましい声が

響いてきた。

「こらあ、祐一!!!」

「? 俺のことか?」

「そうよ、あんたのことなんだから!! 」

 

 

 

 「アレ……おたくの部下が乗っているんですか?」

「はいそうです」

何事かと思って近寄ってきた警備の警察官の言葉にうなずく秋子さん。

しかしすぐにあらっという顔をした。

「そう言えば黙っていればわからなかったですね」

「……お母さん!! まじめに考えているの!?」

 

 

 「とっととその機体から降りなさいよ!! さもないと真琴が力づくで引きずり出してやるんだから!!!」

真琴の乗る二号機が祐一搭乗のAVS−99を指さして叫ぶ。

しかしその態度からはどう考えても「私に抵抗しなさいよ〜!」としか思えない。

(あんな態度で説得したってそりゃあまあ犯人が投降するわけないよな……)

すでに第2小隊に来てから半年余り、真琴が未だかって格闘戦無しで犯人を捕まえたことのない理由が

何となく分かった祐一だった。

そんなことを考えている間にも真琴はどんどんまくし立てる。

「ちょっと〜! 何黙っているのよ〜!! 

そっちがその気ならいくら祐一だからって手加減してあげないんだから〜!!!」

(真琴にねじ伏せられるようじゃあ話にならないわけだよな、この機体)

そう思った祐一はAVS−99の性能評価に真琴を使うことにした。

それには真琴に襲いかかってもらうのが一番。

そこで祐一は真琴を挑発した。

「やれるものならやってみろよ」

 

 「減俸六ヶ月ですね、祐一さん」

 

 「言ったわね、祐一〜!! もう許さないんだから!!!」

そう叫ぶや否や真琴の乗る二号機は一気に襲いかかった。

あっという間に100mの距離はなくなり、二号機の手がAVS−99に届くか否かというところに来たとき

それは起こった。

いきなり大型トレーラーが二号機とAVS−98の間に割り込んできたのだ。

慌てて二号機を止める真琴。

するとトレーラーから白い煙が漏れ出す。

しかし真琴は白い煙の正体には気にもとめず、いきなり割り込んできたトレーラーの運転手に向かって

叫んだ。

「ちょ、ちょっと危ないじゃないの〜!! 一体何のつもりよ〜!!!」

すると運転手は顔も見せずに答えた。

「すいませんねえ!次の催し物の目玉なもんで大急ぎで運んできたんですよ!」

「次の催し物ってこんなにばかでかいのコミケのどこに使うのよ〜!!!」

叫ぶ真琴。

さすがに昔コミケに通っていただけはある、というか暇さえあれば冬コミに行きたいはずだ。

その時、真琴を指揮するために美汐がようやく現場に到着した。

そしてドアを開けると指揮車から降りる美汐。

しかしその顔は一気にこわばった。

周囲に漂う白い煙、この正体に気が付いたのだ。

「状況、ガス!! 待避しなさい!!!」

叫ぶ美汐。

するとわらわらと集まってきていた警察官やら野次馬が一斉に逃げ始めた。

「ガスだと!? まさかイソプロピルメチルホスホノフルオリデートじゃないだろうな?」

「何だそれは!?」

「サリンよ、サリンだわ!!きっと某宗教団体の残党の仕業よ!!!」

「タブンか!? それともソマン!? きっと塩素ガスだ!!!」

「イペリットガスだぞ!! ガスマスクを!! 防護服をくれ!!!」

「某教団の仕業ならO-エチル-S-ジイソプロピルアミノエチルメチルホスホノチオレートか!?」

「ルイサイト!? それともVX?」

「同じだ、同じ!!」

一瞬でパニック状態になってしまう群衆。

そのため美汐はその対処に気を取られ、指示するのが遅れた。

 

 「いいんですよ、これで。だって次の催し物はたった今から始まるんですから」

「なっ!?」

運転手の言葉にはっとする真琴。

そこへ慌てて美汐の指示が飛ぶ。

「真琴!気を付けなさい。そいつは……」

しかしその指示は遅かった。

 

 

 「みちる、手早くやっちゃってくださいね」

「にははは〜、任せて〜♪」

 

 

 一気にトレーラーから黒い巨大な影が飛び出し、真琴の乗る二号機に襲いかかったのであった。

 

 

 

あとがき

とうとうKanonVSグリフォンスタートです。

ここから先が長いんだよな〜。

何話ぐらいかかるんだろう?

 

ちなみに出てきた毒ガスですがネットで調べて出てきた物です。

サリン・・・説明しなくても分かるぐらいメジャーな毒ガス。松本や営団地下鉄で使われました。

      ちなみにイソプロピルメチルホスホノフルオリデートはこいつの学会名。

タブン・・・Gガスとも呼ばれる。サリンより一世代前の毒ガスで致死性はサリンよりは低い。

ソマン・・・タブン・サリンと続いて開発されたGガスで威力は最強。

塩素ガス・・・世界で一番最初に使われた毒ガス。家庭用洗剤の一部を混ぜると発生することもある。

イペリットガス・・・通称マスタードガス。結構有名でしょう。

VX・・・これも某教団が殺人事件に使ったやつで結構有名。

    ちなみにO-エチル-S-ジイソプロピルアミノエチルメチルホスホノチオレートはこいつの学会名。

 

 

2002.03.27

 

 

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