機動警察Kanon第108話

 

 

 

 「ええい〜っ!! このままじゃ何も起きないで会期が終わっちゃうんじゃないのよ〜!! 」

目の前で繰り広げられている撤収作業を見ながら真琴は思わず叫んだ。

警察官らしからぬ真琴の発言にあゆは止めにかかる。

「真琴ちゃ〜ん、それじゃあまるで事件が起きた方が良いみたいだよ〜」

「起こった方が良いのよ〜!!」

叫びながらぐいとあゆに詰め寄る真琴。

あゆは思わず額から冷や汗を垂らしながら真琴に反論に転じた。

「そんな不謹慎だよ……」

「いいから聞きなさいよ〜!! 世の中にはね、たった二種類の人間しかいないのよ〜!!

祐一みたいな悪い人間と真琴みたいな良い人間ね!!」

「うぐぅ、分かったよ……って真琴ちゃんは狐……」

「食い逃げ生き霊は黙って聞きなさいよ! 」

「うぐぅ、酷いよ……」

「え〜っとそれで悪い奴はね、ほっておいてもいずれ悪事を働くんだからそれならさっさと悪事を働いて

速やかに世の中から一掃しちゃった方が世のため、人のためでしょ!!」

(……防犯意識が欠片もないよ……)

 

 自らの前科を棚に上げて心の中で思う月宮あゆ(年齢秘密)巡査なのであった。

 

 

 

 

 「よう、久しぶりだな」

祐一は片手を上げながらAVS−99の足下にいる男達に声をかけた。

すると男たち……Key重工の社員たちは一斉に振り返り、そして目を丸くした。

「祐一じゃないか、久しぶりだな」

「一体あれからどこで何をしていたんだ? 」

「その恰好…まさか特車二課に!? 」

数年ぶりの再会に社員たちは一斉に聞いてくる。

そこで祐一はここ数年間の出来事を彼らに話したのであった。




 

 

 「そうか、親の都合で引越か。いきなり音信不通になったから心配したんだぞ」

祐一の説明を聞いたその場のトップ(AVS−99の開発責任者)実山高志は笑った。

「お前が抜けちまったせいでSSL−95はオートバランサーの開発の詰めの甘さから転倒続出の欠陥品。

おかげで給料は減らされるはボーナスはカットだは散々だったんだ」

「そりゃあ俺に文句を言うのはお門違いっていうもんだろう。

確かにKV−93のオートバランサーは俺が組んだけどあくまでも俺はバイトだったんだ」

「年収一千万を軽く越えるのが高校生のバイトにいるか?」

「現に俺がそうだったろう」

実は祐一が名雪たちに百花屋で奢っていた資金源はこれだったのだ。

ぞのせいでイチゴサンデーやらバニラアイスやら肉まんやらたい焼きを毎日奢ることができたのである。

まあさすがに最後の方にはその資金も尽きていたのだが(笑)。

「それはそうだだけどな。それにしてもお前さん程の男が警察官かよ。

祐一だったらうちの会社で2000万円は軽く出すはずだぞ」

「あいにくと金ならいつでも稼げるからな。それよりも面白い方がいいだろう」

「……確かに特車二課、それも第二小隊なら退屈はしないかもしれないな」

「そういうわけ。ところですまんがこいつ動かさせてくれ」

祐一はそう言ってAVS−99を見上げる。

しかしさすがに実山はあっさりと頸を縦に振ることは出来なかった。

「そりゃあ拙い。いくら祐一の頼みとはいえそれは……。

そもそも何でAVSに乗りたがるんだ? 祐一は指揮者なんだろう? 」

「もしかしたら愛機を失うかもしれない相棒がこいつの性能を知りたがっているんでね」

「我々の開発した機体を信用しないのか?」

「Kanonに関しては完全に信用しているよ。だから替えたくないのさ」

「そりゃあ技術者としちゃあありがたいがしかしなあ……」

それでもまだ渋る実山。

「別に壊したりしないさ。ただそこいらをちょっと歩かせてみるだけ」

「祐一、お前勤務中だろう。拙いんじゃないのか?懲戒免職にでもなったら……」

「別に俺のことなんかどうでも良いんだよ、いくらでも働き口はあるんだからな」

「し、しかし……」

まだ渋る実山。そこで祐一は最後の切り札を持ち出した。

「そんなこと言って良いのかな? 奥さんにあの事言っちゃうけど」

「!!!!」

驚愕の表情を浮かべる実山、そして祐一に詰め寄ると小声でささやいた。

「な、何でお前が知っているんだ!?」

「さ〜てね。蛇の道は蛇とも言いますし……。まあ別にいいんだよ、乗せてくれなくても。

実山一家の家庭崩壊というドラマが見られるだけで♪」

「……壊すなよ」

「了解、任せておけって♪」

 

 かくして祐一はAVS−98を動かす許可を貰ったのであった。

 

 

 

 「お〜い名雪、話は付けてきたぞ!!」

「わっ、何?」

いきなり大声を張り上げて帰ってきた祐一に名雪は思わずビックリする。

しかし祐一は全く気にもとめずにケロピーのコクピットへと潜り込む。

「祐一〜、何するんだぉ〜!!」

その言葉に祐一はKanonの起動ディスクを手に、コクピットから顔を覗かせた。

「廉価版の性能を試すのにお前のケロピーのソフトを使わせて貰うんだよ」

「勝手にそんなことしないでよ〜って乗れるの? 」

「おお、そうとも」

祐一はケロピーのコクピットから飛び降り、名雪の前でそう頷いた。

思わず聞き返す名雪。

「ど、どうして祐一が乗れるんだぉ〜!!」

「ちょいとコネがあったんで」

「コネ? 祐一、Key重工の人に知り合い居たの?」

「その通り。昔の知り合いでね」

「……私知らないよ〜」

「当たり前だ。お前と再会する前の事だからな」

「うぅ〜、私知らなかったよ〜」

「お前に俺の過去の何もかも話さなければいけないなんてことは無いからな。それより行くぞ」

「え〜っ!? 一体何処に?」

「お前は廉価版の動くところを見たくないのか?」

「見たいに決まっているよ!!」

「じゃあついてこい」

「わかったよ〜ってねえ、祐一……」

「ん? 一体なんだ」

AVS−98に向かおうとすると名雪が声をかけてきた。思わず振り返る祐一。

すると名雪は不思議そうな表情で祐一に尋ねてきた。

「あの人たちは一体何なの?」

たしかに一般人たる名雪が不思議がるのも無理はなかった。

なぜならばそこには数百人ほどの人間が並んでいたからだ。

しかも小太りで黒縁眼鏡、無精ひげをプチプチ生やしたまん丸いニキビ面の男ばかりだ。

「……あれは明日の催し物に参加しようとするオタクの列だろ」

「明日って何やるの?」

「コミケ」

「コミケって昔真琴がよく漫画を買いに行っていた所? 」

「その通り。正確には漫画じゃなくて同人誌だけどな」

「わ〜、すごいね。まだ明日の催し物まで12時間以上はあるよ。もしかして徹夜でもするのかな〜」

「本当は禁止されているらしいがああやって違反する人間が後を絶たないらしい」

「ふ〜ん、じゃあ逮捕するの?」

「……別に犯罪じゃないからな。俺たちの出番はない」

「そっか」

その時突然行列の中がざわめいた、と見るや怒号が響いた。

 

 「なんやとぉ!この大バカ詠美!」

「なによぉこのおんせんぱんだ!!」

「由宇も詠美も止めろよ!!」

「ぱぎゅ〜、喧嘩はいけないんですの〜」

「…そうです…」

「にははは〜、二人もと相変わらず仲良いよね〜」

「ちょっと和樹、何とかしなさいよ〜!」

「ふははは〜同志和樹よ。

この程度の喧嘩の仲裁も出来ないようではお前も所詮はそこまでの人間だったと言うことだよ」

「こら〜!! 由宇ちゃんに詠美ちゃん、何をやっているの!!」

「やばい、南はんや!」

 

 「どうやら騒動も収まったみたいだし行くぞ。グズグズしている場合じゃない」

「そうだね、行こう」

 

 ようやくと二人はAVS−98へと向かうのだった。

 

 

 

 

 「わっ、本当だ」

名雪は目の前に停車中のキャリアに搭載されたAVS−99が起動準備されている状況に思わず驚き、そう声を上げた。

しかしあんまり驚いているようには感じられないのが名雪の名雪たる所以だろう。

「……お前は俺がうそを付いていると思ったのか?」

「だって祐一、よく私とかあゆちゃんとか真琴に嘘ついたりからかうよ〜」

「……さて乗るか」

都合が悪い事は無視するに限る、というわけでAVS−98乗り込もうとする祐一。

「変なクセつけないでよ〜」

「了解、了解」

軽く手をパタパタ振りながら祐一はコクピットの中へと収まったのであった。

 

 

 「操作の仕方わかるか?」

壊されては堪らないという表情がありありと見て取れる顔で実山は祐一に言った。

すると祐一はコクピットの中をぐるっと眺めると頷いた。

「レイアウトはKanonとほとんど同じじゃないか、大丈夫大丈夫。

それよりハッチを閉めるからそこを離れろよ。危ないぞ」

「わかった、壊さないでくれよ」

最後の最後まで心配しながら実山はAVS−99から離れる。

その姿を確認すると祐一はKanonとは違い、首にあるハッチを閉めた。

そしてもう一度コクピット内を見渡す。

目の前は強化ガラスではあるがガラス張り。

そして正面には目の高さよりちょっと上にやや小ぶりのモニターが付いている。

「……モニターは補助システムなんだな。密閉型じゃないのはちと不安だが」

そう言いながら祐一はシートベルトを締めるとコクピット内にあったインカムをセットした。

そして座席の下に付いているイグニションスイッチを回す。

 

キュィィィィィィィィィ〜ン

 

するとAVS−99に内蔵されている超伝導リニアモーターが一気に稼働する。

「よし、いくか」

そして祐一はフットレバーを力強く踏み込む。

するとAVS−98は力強く立ち上がった。

 

 「よしよし、ちゃんと動くじゃないか」

動き出したAVS−99に祐一は満足げに呟いた。

そして早速動かし始める。

 

ズシャン ズシャ ズシャ ズシャ

 

 きわめて好調にAVS−99は動く。

「なかなかスムーズな動きじゃないか」

思わずニンマリしてしまう祐一。

するとインカムから実山の声が響いてきた。

『祐一!! 無茶な扱いするんじゃないぞ!!』

「……無茶な使い方をするために作ったんだろうが」

祐一は無視してAVSー99を動かすことにしたのであった。

そのころ自分についてとんでもない決断が下っていることを知らずに……。

 

 

秋子さん:「祐一さん、減俸三ヶ月ですね(微笑)」

 

 

 

 

あとがき

ようやくとAVS−98「エコノミー」が動き出しました。

次回のラストぐらいにG9はお目見えできるでしょうか?

こればかりは予断を許しませんね。

 

ちなみにこの話に出てきた「こみパ」メンバーは順番に

由宇・詠美・和樹・すばる・彩・玲子・瑞希・大志・南さんの順番です。

なおもう出番は予定していません。

というわけであさひちゃん・千紗ちゃん・立川さんは出てきません(笑)。

 

でもこの手法でならばゲストキャラは幾らでも出せそうだ。

 

 

2002.03.22


変更:AVS-98ではなくAVS-99に修正しました。

これは「Kanon」がAV-98ではなくAV-99としたためです

 

 

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