機動警察Kanon第107話

 

 



 

 「あははは〜、驚きましたね♪」

朗らかに笑いながら言う佐祐理さん。

「佐祐理、お二方が警察官だったなんてちっとも思いませんでしたよ♪」

その言葉に祐一は頭をかいた。

「普段着だととても分からないだろうからな。制服着ていてもらしくないって言われるぐらいだし」

「あははは〜、それは良いですね♪

ところで祐一さんと名雪さん、第二小隊ということはお二人が動かしているのはKanonなんですね」

「ええ、そうですよ」




 

 

 その頃名雪は祐一と佐祐理さんの側でみちると会話しているところだった。

「にゃはは〜、名雪あっちの方上達した?」

「うにゅ〜? あっちって何?」

みちるの質問に聞き返す名雪、しかしすぐに何を聞いているのか分かった。

「ああ、ゲームの方〜? それなら六面までは行けるようになったんだよ〜」

「え〜っ、まだそんなモン?」

「…悪かったわね。でもわたし、色々と仕事が忙しいんだよ」

思わずむっとする名雪。

しかしみちるは全く気にせず朗らかな笑顔で言い切った。

「名雪はみちるの敵じゃないね。みちる、本物のレイバーで戦っても名雪に勝つ自信あるよ」

「み、みちる!!」

無礼なみちるの言葉に佐祐理さんは慌てて止めにはいる。

そして名雪に謝った。

「すいません…。この子口のきき方を知らないんですよ〜」

「まあ子供の言うことですし……」

内心ではむかむかしているもののこの場でみちるを怒るのは非常に大人げない。

仕方が無く名雪はそう答える。

「あははは〜、そう言ってくれると助かります〜って!?」

いきなり目を丸くする佐祐理さん。

その場でみちるを抱えたままクルッと180°回転、二人に背を向ける。

そのあまりの変わり様に思わず祐一と名雪の二人は言葉も出ない。

 

 

 とその時、二人の耳元に聞き覚えのある声が響いてきた。

「相沢さん、名雪さん。二人ともきちんとレシーバーを装着してください。

緊急の連絡に対処できないでしょう」

振り返るとそこにはちょっと怖い顔をしている天野美汐巡査部長の姿があった。

「よう、天野。相変わらずおばさんくさいな」

「祐一〜、天野さんに失礼だよ〜」

名雪はそう祐一をたしなめるが美汐はいつものやりとりで返した。

「失礼ですね。物腰が上品と言ってください」

「どこいらへんが?」

「そこはかなく」

どうやら美汐の方もだいぶ祐一のあしらえ方をわきまえてきたようだ。

軽くいなす。

そんな二人を見ていた名雪に佐祐理さんは声を落として言った。

「あははは〜、すいません名雪さん。佐祐理、用事思い出してしまいました。また会いましょうね〜♪」

 

 そして佐祐理さんはみちるを抱えたままその場を去ったのであった。




 

 

 「誰?相沢さんと名雪さんのお知り合いですか?」

佐祐理さんの後ろ姿を見て不思議そうに首を傾げる美汐。

しかし佐祐理さんのことを祐一と名雪の二人がどれだけ知っていようと言うのだ。

今日を入れなければ前に一回ゲームセンターで会った事があるだけなのだから。

だから二人は

「…知り合いと言えば知り合いだけど……」

「うにゅう、詳しくはわからないよ」

と答えるしかないのであった。

 

 

 

 国際レイバーショーの開催期間は一週間。

テロの活動予告が出ている以上、その間24時間体制で警備しなければならない。

まだ機動隊やら一般の警察官は休みが取れるから良い方だ。

しかし特車二課の代わりは誰にも務まらない。

なんせ日本中見渡してもパトレイバーを保有しているのは警視庁だけ。

その警視庁ですら予算不足の関係上、つねに人手が足りないのだ。

だから第2小隊の面々は休暇返上、キャリアを寝床に警備に当たるのであった。

 

 

 

 「退屈〜、早く悪人出てきなさいよ〜!! 真琴が蜂の巣にしてあげるんだから〜!!」

退屈のあまり二号機コクピット内にて思わず愚痴をこぼす真琴。

『真琴、お仕事中です。しっかりしなさい』

「あう〜っ!」

不謹慎なことを言って美汐にしかられるのはもはや常であった。

 

 

 「うぅ〜、夜は寒いぜ。そうは思わないか?」

指揮車の天井から頭を突き出し、周囲を警戒しながらもぼやく祐一。

しかし返ってくるはずの声がない。

「…おい、名雪。起きているか?まさか寝ているんじゃあ・・・」

『くぅ〜 くぅ〜 くぅ〜』

やっぱり名雪に夜の警備は無理だった(笑)。

 







 「これのシステムのメカニズムについて教えていただけません?」

メモを片手に展示場で開発者に尋ねる栞。

その側では同じくメモを手にしたあゆも一緒だ。

すると二人が特車二課の人間であったからであろうか、快く申し出を承諾、解説し始めた。

「これはですね。駆動素がSCLで構成されていまして、これをコントロールすることで衝撃吸収が可能なんです。

このため一部を除いて…って話聞いています?」

一生懸命話を聞いている栞の後ろであゆはつまらなそうにあくびをしていたからだ。

思わず栞は恥ずかしくなった。

「あゆさん!! せっかく説明してくださっているんですから欠伸は止めてください、欠伸は!!」

「うぐぅ、だって話を聞いていてもチンプンカンプンなんだよ〜」

「それはあゆさんが不勉強だからです!!」

きつい栞の言葉に思わずあゆはいじけた。

「うぐぅ、栞ちゃんだって本当はわかっていないんじゃないの?」

「分かっています!! これでも私はお姉ちゃんの妹なんですよ!!」

「うぐぅ、そう言われるとなんか説得力ある……。やっぱりボクは役立たずなのかな……」

「あゆさん…。大丈夫、大丈夫ですよ。

きっとあゆさんにしか出来ない何かが必ずありますから」

「うぐぅ……。ボクが役立たずってところは否定してくれないんだね……」

「えぅ〜。そ、それは……」

「あの〜、説明はもう良いんですか?」

無視される開発者。

やっぱりあゆにレイバーシステム工学は難しすぎたようであった(笑)。

 

 

 

 まあ色々な出来事が起こりつつも国際レイバーショーは平穏無事、とくにこれと言った事件は無く過ぎていった。










 

 

 「何も起きなかったね」

国際レイバーショーも無事終了、撤収作業を見ながら名雪は言った。

するとこれも一応レイバー絡みということでここ幕張に来ていた国崎往人部長刑事は頷いた。

「確かに何も起こらないな」

「騒ぎがあったといったら置き引きスリぐらいだったもんね、往人さん♪」

久しぶりの出番に嬉しそうな神尾観鈴巡査だ(笑)。

「こうなるとテロ活動予告ってガセだったんじゃないのか?」

祐一の言葉に往人は同意した。

「今となると確かににそうかもしれないな」

「これだけの厳重な警備をとらせやがって、今頃影でニヤニヤしているんだろうな」

「だとすると腹立つよね〜」

ちっとも腹が立っているようには聞こえない口調で頷く名雪。

そしてそれに呼応する形で観鈴も天然ボケな事を言った。

「観鈴も往人さんもみんなもごくろーさんだね」

「………」

「………」

思わず沈黙する祐一と往人。

「…もうすぐ終わるな。最後に秋子さんに挨拶して帰るとするか」

「が、がお…。無視しないでよ、往人さん……」

ポカッ

観鈴の母親晴子に言われたとおり殴った往人は一人国際展示場を出ていった。





 

 「痛い…どうしてそういうことするのかな」

「大丈夫、観鈴ちゃん?」

涙目の観鈴に心配そうに尋ねる名雪。

すると観鈴は頷いた。

「にははは〜、観鈴ちん大丈夫だよ。それよりも往人さんがいない間見回りしてこないと」

そして観鈴も国際展示場を出ようとする。

その時、名雪はあることを思いついた。

「そうだ、観鈴ちゃん。ちょっと良いかな?」

「わ、何かな?」

「う〜んとね、今日は暇かな?」

名雪の言葉に思わず考え込む観鈴。そして答えた。

「う〜ん、ちょっとわかんないや。ところで何用かな?」

「実はね、今日わたしの誕生日なんだよ。

というわけで埋め立て地に戻ったらみんなでぱ〜っとやろうという話なんだけどどうかな?」

「…それってお誘い?」

「うん、そうだよ♪」

名雪の言葉に観鈴はパッと明るい顔になった。

「本当!?  往人さんの予定次第だけど行けたら行くよ♪ でも…いいのかな?」

「人が多いほど楽しいからね♪ 大歓迎だよ」

「ありがとう〜。それじゃあ都合があったら行くよ〜♪」

そして観鈴は見回りへと出ていったのであった。




 

 

 

 「秋子さん、様子はいかがで?」

相手が“あの”水瀬秋子警部補であるからにして妙に丁寧に尋ねる国崎往人部長刑事。

すると秋子さんはにっこり微笑んだ。

「あら、往人さんご苦労様。何事もなく平穏無事ですよ。ところでそんなあらたまっていなくても構わないですよ」

「了解。やはりガセだったか?」

「そうですね、何事もないことを見るとそうかもしれません。でもその方が良いことですよね」

「まあ確かに。ところで秋子さん、レイバー関係のプロと見込んで聞きたいことがあるんだが?」

「了承」

一秒了承が飛び出てきたこともあり、国崎往人は今回のレイバーショーについて聞いてみた。

「今回の展示品は妙に人型が多かったんですが何か意味でもあるのか?」

「別に土木機械があそこまで人型である必要性は無いんですけどね。

技術力のPRには恰好のスタイルなんですよ」

「そうなのか」

「そうなんですよ」

「将来のこと考えるとおっかない話ですよね」

その時、二人の側にいた栞が話に加わった。

しかし栞の言葉を専門外の往人は理解できない。

「おっかないって何がだ?」

「ここまで技術力が上がっている以上今年あたり市場に出る製品には反映されるわけですからね」






 

 

 「それがつまりどうゆうことかと言うとだ。

一度レイバー犯罪が発生した場合、もはや第一小隊の“ONE”では手に余る状況が生まれつつあると言うことだ。

小隊の新設と新型機導入は急務なんだ。それは理解しろよ」

「理解はしているよ」

祐一の言葉に名雪は頷いた。

「じゃあ何でKanonを手放すのを嫌がっているんだ?」

「うぅ〜、だってケロピーは私が愛情を持ってここまで育ててきたんだよ〜。

そのケロピーと引き替えにするからにはそれ以上の性能を見せてくれなきゃ納得できないよ〜」

「どうすれば良いんだ?」

「動かしてみれば分かると思うよ〜」

「…そうだな。動かしてみれば分かる訳だよな」

 

 一人納得する祐一に???の名雪なのであった。

 

 

 

あとがき

名雪と観鈴のやりとりが長くなってしまって予定より進みませんでした。

それにしても「AIR」キャラは書くのが難しいです。

みちるは簡単だけど。

 

 

2002.03.17

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