機動警察Kanon第103話

 

 

 

 北川潤は懐中電灯を片手に一人パトロールしていた。

まあ念のためにということで特車二課で飼っている警察犬見習いのポチ(笑)も一緒だ。

「…しかし最近は冷え込んできたな」

すでに季節は12月なろうとしている。

故郷の北国に比べれば温かいのだがそれでも夜はやっぱり寒いと言うわけだ。

その時、突然ポチが立ち止ると警戒態勢をとった。

そして低い声でうなり始める。

「誰かいるのか!!」

懐中電灯の光を前方に向けて北川は叫ぶ。

するといきなりばっと人影が飛び出した。

そしてあっという間に草むらの影へと消えていく。

「くそったれ!!」

北川は悪態を付きながら作業着のポケットから呼び子を取り出す。

そしてその呼び子を加えるや勢いよく吹く。

 

ピィィィ〜!!!

 

 呼び子のけたたましい音共にそれまで静かであった特車二課が一気に騒がしくなる。

サイレンが鳴り響き、サーチライトが暗闇を照らす。

「くそったれ! 食い物の恨みは怖いぞ!!」

「俺の佃煮〜!!」

「特車二課の食料源を絶ちやがって!!」

鉄パイプやらバールやらレンチを持って怒り狂った整備員達が飛び出す。

もちろん

「うぐぅ!ボクのたい焼きの型!!」

と叫ぶあゆと

「真琴の肉まんを取った恨み!!往生させてやるんだから!!」

と実弾装填済みのショットガンを振り回す真琴もいたが(笑)。




 

 無論北川の仕事は呼び子を鳴り響かせただけではない。

警察職員である以上、整備班No.2の彼とて犯人逮捕に参加しなくてはならないのだ。

「行け!! ポチ!!」

北川はポチをつないでいた綱を外す。

するとポチは勢いよく人影を追いかけ始める。

そしてベルトに挟み込んでいた金属バットを手に草むらへと足を踏み入れていった。





 

 「待て待て〜!!」

「大人しく縛につけ〜!!」

必死で草むらの中を逃げていく人影を追いかける特車二課の面々。

しかし暫くほったらかしだったために人の背丈ほどに伸びてしまった雑草の中。

追いかける特車二課の面々はやがてその人影を見失ってしまう。

「くそっ!! 何処へ行きやがった!?」

「わからん!! 姿を見失った!!!」

思わずうろたえる特車二課の面々。

しかし冷静な一人の言葉がそのうろたえを吹き飛ばした。

「大丈夫だ!! このまま追いつめろ!! 向こうは海だぞ!!」

「「「「「「おっー!!!」」」」」

大声を上げると特車二課の面々は海に向かって突進していった。

 

 

 

 「…何処にもいませんね」

「ああ、そうだな」

栞の言葉に頷く祐一。

目の前には穏やかな波が岸壁に打ち寄せているだけ。

その場に居合わせた誰一人として人影を見ることは出来ない。

「おかしいな? 確かに追いつめたはずなんだが」

「はい」

しかし人影は何処にもない。

ただ傍らにあゆが

「うぐぅ〜、ボクのたい焼きの型が……」

と泣き崩れているだけだ(笑)。

ちなみに名雪は今の騒動にもかかわらず宿直室で眠りこけている(笑)。

とその時銃声が鳴り響いた。

あわてて銃声がした方に視線をやるとそこでは真琴が海面に向かってショットガンをぶっ放しているところであった。

「出てきなさいよ〜悪党!!」

そして再装填すると再び海面にぶっ放す。

「真琴の肉まん、返しなさいよ〜!!」





 

 

 とりあえず見失った人影を捜索するのが先決だ。

特車二課総員が一列に並んで草むらを捜索する。

その手にはみな一様に鎌を持っている。

ついでに草刈りをしているのだ(笑)。

その時、誰かが声を上げた。

「北川さん〜!! こっちこっち!!」




 

 

 慌てて駆け寄る北川、そして第二小隊の面々。

するとそこではぐるぐると唸りながら布きれをかんでいるポチの姿があった。

「よしよし、落ち着けポチ」

そうなだめると北川は布きれをポチの口から取る。

それを北川は祐一に手渡した。

「これは犯人の遺留品か?」

「多分そうだと思うが」

「…ポチにかがせてみるか。『ここ掘れわんわん』ってやってくれるかもしれんぜ」

「…これでもポチは警察犬だぞ。見習いだけどな」

 

 かくしてポチを使って犯人の捜索を行うこととなった。

 

 

 

 「ぽち、これが犯人の遺留品だ。よく嗅げよ」

ポチの鼻面に布きれを差し出す北川。

するとポチはくんくんと勢いよくかぎ始める。

「何処へ行くんだ?」

そんな祐一達の疑問を余所にポチはトマト畑を出る。

犯人が飛び出していった穴を抜けて。

そしてすぐにポチはすっかり草を刈り終えた一角へと足を踏み入れる。

やがてポチはある一点で足を止めた。

その目の前には特車二課の誰もが知らなかったマンホールがあったのであった。










 

 

 

 「地下ですか!?」

「秋子さんは聞いていませんか?」

香里の言葉に秋子さんは首を横に振ると、側にいた由起子さんに尋ねてみた。

「由起子さん、知っていました?」

「知りませんね」

すると香里は笑いながら言った。

「お二方が知らなかったのも無理はありませんけどね。使われていたのもここに特車二課が来る前のことですし。

埋め立て地にゴミを運び込む為の地下搬入口ってやつですよ。

工事終了と同時に廃棄されたはずなんですが今でもここらの地下には網の目のように残っているそうですよ」

「そんな物があったんですか」

「はい」

香里は頷くと真剣な表情を浮かべ、そして続けた。

「その中には工事中死んだ者や行方不明者がそのまま残されているとか」

「怖い話ですね」

ちっとも怖そうには見えない表情で言う秋子さん。

そんな秋子さんの言葉を気にせずに香里は言った。

「こんなの何処に出もある話ですよ。

それよりも秋子さん、せっかく閉めた扉、わざわざ開けることはないと思います」

「コンクリートか何かで埋めちゃいましょうか?」

秋子さんの言葉に珍しく由起子さんが反論した。

「ちょっと待ってください、先輩。

確かに被害と言っても食料品ばかりですけど
一応警察の敷地内で起こった事件ですよ。

管轄外だからってほっておくわけには行かないと思います」

「それはそうなんですけどね……」

秋子さんは由起子さんの言葉に浮かない顔をしたのであった。

 

 



  翌朝、秋子さんは第2小隊の面々を前に司令を下していた。


  「…(中略)…というわけです。

この程度の事件で本庁の人間の手を煩わすのも何ですし、私たちも色々と言われても警察官ですからね。

自力で事件を解決しなければいけません。

このマンホールのどこかに隠れているであろう被疑者を保護するのが今回の任務です。

この困難な任務に志願してくれた沢渡・月宮両巡査に感謝します♪」

そして二人を見る秋子さん。

そこには満面の笑みを浮かべショットガンを担いだ真琴と、この世の終わりが来たという感じのあゆがいた。





 

 「真琴はやる気満々だな」

二人の姿を見た祐一は小声で名雪にささやいた。

すると名雪は苦笑いした。

「真琴はこういうイベント好きだからね。でもあゆちゃんは可哀相…かな?」

「そうですね。でもあゆさんも大事なたい焼きの型を取り返すためですし構わないのではないですか♪」

人ごとなのであっさり言う栞。

もっとも栞もこういうイベントは真琴並みに好きそうだったがそのことを重々承知している祐一。

だから栞の言葉に一切突っ込まなかった。

「しかし由起子さんも良い性格しているよな。こういういかがわしい任務はいつも第2小隊だ」

「仕方がないよ、祐一。第一小隊は待機任務中なんだしね」

 

 

 

 思いマンホールの蓋を整備員が二人、力を合わせて持ち上げる。

たちまち新鮮な空気がマンホールの奥、地下坑道へと吸い込まれていく。

その奥を祐一達は思わず見下ろす。

しかしそこは完全な闇であり全くその先を見ることは出来なかった。

「うぐぅ、怖いよ…」

 

 

 とりあえずマンホールを空けた特車二課。

暇なというか物好きな整備員達はすぐさまその上に櫓を組む。

降りるのにこの方が便利だからだ。

「お〜い、準備は出来たか?」

「任せてよ〜!!」

「うぐぅ、出来たよ……」

そう言って現れた二人はショットガン・懐中電灯を手に、長靴を履いていた。

「よおし、それじゃあ早速降りられるな」

「もちろんよ!!」

 

 かくして二人はロープに掴まってマンホールの底へと降りていった。

 

 

 

 「うぐぅ、何だかとっても不気味だよ……」

懐中電灯のみが光源の地下にて、あゆは不安げな表情で呟いた。

しかしそんな繊細な感情とは無縁の真琴はあゆを笑い飛ばした。

「何よ〜!! あゆあゆは臆病すぎるのよ〜!!」

「で、でも……」

「分かったわよ!あゆは大人しくしていなさいよ!!」

そう言うと真琴はあゆが担いでいた無線機を奪い取るとスイッチを入れた。

「こちら真琴、これより捜索を開始するんだから〜」

すると無線機から北川の声が聞こえてきた。

『真琴ちゃんか!? それじゃあ発信器のスイッチを入れてくれ、どうぞ』

 

 

 パッ

 

 臨時の捜索指揮所の壁面にかかった大型液晶ディスプレイ。

そこに一点の赤い光点が現れた。

「「「「「「お〜っ!!」」」」」」

一斉にどよめく二課の面々。

「この点が真琴たちの現在位置?」

そんな中、一人個性的な発言した名雪の言葉に北川は胸を張った。

「そうだぜ。まあこんな短い時間で当時の地図なんか手に入らないからな。

こんなのでもないよりはましだろうさ」

そう言いながら北川はマウスを手早く動かし続ける。

その視線の先には次々と追加されていく地図があった。

 

 

 

 「やっぱり怖いよ……」

真琴の背中にすがりながら捜索するあゆ。

するとうっとうしさを感じたのであろう、真琴が口をとがらせて文句を言った。

「ちょっとあゆあゆ、邪魔だから離れなさいよ〜」

「で、でも怖いんだよ……」

「アンタが怖いのは真琴の知ったことじゃないわよ〜!!」

「うぐぅ、真琴ちゃん冷たいよ……」

 

ボコッ

 

 その時目の前で何か音がした。

慌ててショットガンを構える真琴。

懐中電灯で音のした方を照らすあゆ。

すると水中に何かがいる。それともある?

とにかく何かが接近してくるのだ。

「と、止まりなさいよ〜!!」

さすがに真琴も恐怖に引きつる、しかし虚勢を張って叫んだ。

しかし水中の何かは近づいてくる。

そして二人の目の前でその何かは正体を現した。

「あうぅ〜!!」

「うぐぅ〜!!」

そして二人は同時に絶叫したのだった。

 

 

 

あとがき

順調に地下迷宮物件編第2話めです。

好きな話だけにすらすら書けます。

でも明日は更新しません。

引越なので無理なんですよね。

 

 

200202.21

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