機動警察Kanon第102話

 





 

 

 「この盗人野郎〜!!」

「ふざけるな〜!! 何が盗人だ〜!!」

怒声と共に鳴り響く騒音。

そして

「喧嘩だ〜!!」

「住井と斉藤が喧嘩しているぞ!!」

と現場へ駆け寄る二課の人間たち。

この何気ない日常の一コマが特車二課の面々を羞恥の底へと叩き込む事件の幕開けとなったのであった。





 

 

 「一体何の騒ぎなんだ!?」

慌てて駆けつけた北川。

するとそこには同僚に羽交い締めになっている住井と斉藤の姿があった。

「斉藤!! 貴様か先に手を出したのは!?」

すると斉藤は叫んだ。

「北川!! 俺が作った干物を、俺が丹誠込めた干物をあのバカ猫が!!」

するとバカ猫呼ばわりされた猫を抱いていた住井が反論した。

「俺のみずかをバカ呼ばわりするのは許さないぞ!!」

「お前は黙っていろ!!」

北川はそう叫んだ。

するとその時、人混みの中で異様な気配が発生した。

「ねこ〜、ねこだよ〜!!」

それは喧嘩を見に来た名雪が住井の抱いていたみずかに気が付いてしまったからだ。

たちまち名雪は高校時代に鍛え上げた俊足を活かしてみずかに接近する名雪。

しかしそうは問屋が下ろさなかった。

 

 「あゆ!! 名雪にタックルだ!!!」

「うぐぅ、何でボクが!?」

「それじゃあゆに秋子さん特性の」

「うぐぅ、分かったよ!!」

祐一の脅しに負けたあゆは得意のタックルを名雪にぶちかます。

「ねこ〜、ねこ〜」

転倒してもすぐに立ち上がり住井に飛びつこうとする名雪。

しかしあゆが稼いだ時間は無駄にならなかった。

「大人しく縛につけ!!」

すぐさま追いついた祐一が名雪を取り押さえる。

「祐一!! 私を離してよ〜!!」

泣き叫ぶ名雪。

しかし祐一は離さなかった。

「お前は猫アレルギーだろ!! いつ出動がかかるか分からないのにお前を猫に近づけさせれるか!!」

「うぅ〜、祐一離して!離してよ〜!!」

 

 

 外野が非常にうるさいのが気になるが事の次第を確認しなければならない。

北川は二人に問いただした。

「…被害の規模は?」

すると特車二課で消費されている干物の大半を製造している斉藤は指を折って数え始めた。

「ひい、ふう、みよ・…。しめて200と40枚だ!!」

「うぐぅ、240枚!?」

あまりの数に思わず目を白黒するあゆ。

だが斉藤の言葉を聞いた住井は鬼の首を取ったかのように反論した。

「語るに落ちたな!240枚も干物を平らげる猫が何処にいるっていうんだよ!!」

「だから…穴を掘って隠すとか……」

「そりゃあお前のばあちゃんだろ」

北川の言葉に詰まる斉藤。

すると住井が追い打ちをかけた。

「だいたいお前の干物なんか食い飽きちまってカモメだってひっかけねえよ」

自らの力作を思いっきり否定され思わず悔しさのあまりプルプル震える。

その時、その場に新たな人物が現れた。

 

 「これが騒動の元になった干物というわけ?」

そう言って現れたのは整備班班長の美坂香里だ。

その手には斉藤力作の干物がぶら下げられている。

「なるほど、確かに見事な出来映えよね。このさばき、見事な仕事だもの」

「修練しました!!」

「それにこの香り」

「分かります!?

あらを使った秘伝のタレに半日つけ込み、それから天日干しするのが秘訣なんです。

いや〜、職人の技は職人のみが知る。さすが班長ですね〜」

香里に褒められて思わず胸を張る斉藤。

すると香里の雷が埋め立て地に落ちた。

「この大バカ野郎〜!!」

一瞬にしてその場に居合わせた人間達が固まる。

「ねこ〜、ねこ〜」ととち狂っていた名雪もだ。

だがその一言だけでは香里の怒りは収まらなかった。

「そんなものに入れ込んでいる暇あるなら整備に身を入れなさい!!

斉藤くん、あなたの仕事は魚屋?栄光ある特車二課の整備員でしょ!!」

香里の至極もっともな言葉にぐうの音も出ない斉藤。

そして返す言葉で香里は住井を怒鳴りつけた。

「住井くん!! あなたも誰の許可を得て野良猫を二課で飼っているの!!」

「そ、それは……」

「私の許可するんだぉ〜!!」

「名雪は黙っていなさい!!」

ふざけたことを言う名雪に一括した香里。

そして二課の人間全員ががっかりするようなことを言った。

「干物にしたり猫にやるぐらいなら高速艇を出す必要はないわよね。

高速艇の油代もバカにならないし出漁禁止にするわ!!」

そう言いきって斉藤と住井の二人に背を向けその場を立ち去ろうとする。

「し、しかし班長!!」

思わず叫ぶ北川。

しかし香里は振り返りもせずに叫んだ。

「私が禁止といったら禁止なの!! 北川くん、この場の始末はあなたがつけなさい!!」

「は、はい!!」

そして香里は二課構内へと消えていった。

そんな香里を呆然として見送った北川ははっと我を戻すと叫んだ。

「…事の如何を問わず隊内における私闘を禁じた整備班局中法度に照らし、斉藤・住井両名に

トイレ掃除2週間を命じる。以上解散!!」





 

 

 

 

 「でもさ〜、確かにここんところ変だよね〜」

名雪は紅茶にイチゴジャムを落としながら呟いた。

するとブラック派の祐一は首を傾げながら名雪の意見に疑問を投げかけた。

「そうか?」

「はっきりは言えないんだけど確かにあったはずの物が無かったり。記憶違いかもしれないけど…」

「確かに昨日も私物の佃煮が無いって騒いでいる奴がいたな」

北川が昨日の夕食時の出来事を思い出しながら頷く。

「そう言えば隊長が秘蔵の謎ジャムが無いって騒いでいましたが」

「…それって秋子さん?」

美汐の言葉におそるおそる伺いを尋ねる祐一。

すると美汐は頷いた。

「秋子さん以外に誰が謎ジャムに手を出そうというのです?」

「うぐぅ、誰も出さないよ」

「…そうだな」

「えうぅ〜、嫌なこと思い出してしまいました」

「あう〜っ」

「だぉ〜」

やはり誰もが謎ジャムの驚異は重々承知していたのだった(笑)。





 

 

 「まあお母さんのジャムはおいといて。ここには部外者が滅多に来ないから。

なんだか仲間を疑うみたいで嫌だったんだけど私もあるんだ」

「何か無くなったの?」

北川の言葉に名雪は頷いた。

「買い置きしておいたチョコとかおせんべいとかがね。

はじめ祐一が勝手に食べちゃっていたと思っていたんだけど」

名雪のその言葉にその場にいた真琴・栞も同調した。

「あう〜っ、真琴の肉まんも……」

「えうぅ〜、私のバニラアイスもです〜」

「こりゃあただごとじゃないな」

「ああ」

祐一と北川は腕を組んで考え込んだ。

特車二課の人間が真琴の肉まんと栞のバニラアイスに手を出すはずがなかったからである。

するとその時、勢いよく扉が開いた。

慌てて扉の方に視線をやる第2小隊+北川の面々。

するとそこには目に涙を浮かべ、この世の終わりが来たといった表情のあゆが立っていた。

「うぐぅ、ボクのたい焼きが…たい焼きが……」

 





 

 

 「こりゃあ酷いな」

目の前の惨状に祐一はうなった。

そこには本来あゆが買い込んだたい焼き用の型があるはずであった。

しかしそこには何もない。

影も形も全くない状況であったのだ。

「ここまでやると冗談や悪戯では済まないわよ〜」

自分も肉まんを取られている真琴は憤って叫んだ。

その真琴の言葉に頷く名雪と栞。

そして美汐は真剣な表情で頷いている。

「こうなりますと誰か人が絡んでいるのは間違いありませんね」

「そうだな」

お菓子やら肉まんならば猫や犬でも何とかなるだろう。

しかしさすがにたい焼き用の型となると猫や犬は見向きもしない。

間違いなくこれは人の仕業だ。

「 外部の人間の仕業であれ、内部の人間の仕業であれこれはれっきとした犯罪なんですけど。

でもこの程度の事件で家宅捜索、といわけにはいきませんし」

美汐の言葉に真琴はいきり立って叫んだ。

「こうなったら今夜から交代で武装パトロールよ!!」

「それしかないか……」

嫌そうにため息をつく祐一。

しかしこうなっては仕方がない。

かくしこの夜から特車二課特別パトロール隊が編成されることになったのであった。

 

 「だ、だお〜!! わたし、そんなの出来ないよ〜」

 

 

 

 

 

あとがき

「地下迷宮物件」編です。

読めば分かると思うけどね。

当然の事ながら「ダンジョン再び」編もやるつもりですけどね。

 

 

2002.02.20    昔大やけどを負った日に

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