機動警察Kanon第101話






 

 

 「調整次第でこんなに差が出ちゃんだよ〜♪

アクチュエーターにかける電圧を変えればもっと……」

北川を前に腕を広げてケロピーに対して熱く語る名雪。






 

 そんな名雪を二階から見下ろしていた秋子さんは珍しく「はぁ〜」とため息をついた。

「愛情が大きければ衝撃も大きいものですし……どうしましょう?」

大事なものを失うことに妙に敏感な愛娘のことである。

今進行している事が決定されればその衝撃は計り知れないであろう。

その時扉が開き中から彼女の甥・相沢祐一が姿を見せた。

この時、彼女はあることを思いついた。

「あら、祐一さん。ちょっと来てくれませんか」

「何ですか、秋子さん?」

すぐさま秋子さんの元へと駆け寄る祐一。

すると秋子さんは祐一に耳打ちした。




 

 

 「…そんなことを俺の口から名雪に言えと!?」

秋子さんから聞かされた事に思わず言い返す祐一。

すると秋子さんはにっこり微笑んで頷いた。

「どんな反応だか見てくだされば構わないんですよ、祐一さん」

「そんなこと言わなくたって分かり切っているじゃないですか」

「でも見たいんですよ♪」

半ば冗談で明るく答える秋子さん。

そんな秋子さんの言葉に祐一は反発した。

「嫌ですよ、自分で言ってください」

「これでもですか?」

「やらせてください!!」

いきなり態度が急変する祐一。

なぜなら秋子さんのその手の中にはオレンジ色の邪夢があったからだ。

そして祐一はいきなり秋子さんに背を向けるとその場を走り去ったのであった。




 

 

 「はぁ〜、やっぱりこっちは暖かいよね〜」

故郷ならばもう雪が降り始めておかしくない時期ではある。

しかしここ埋め立て地では体を動かすと暑くて堪らない。

と言うわけで無防備につなぎとTシャツをパタパタとやって涼む名雪。

その無防備な行為に思わず生唾を飲む祐一。

彼とて木石というわけではない、このような姿を見れば下半身の一部が充血するというものだ(笑)。

しかしそんな男の生理には全く無頓着である名雪は不思議そうに尋ねた。

「どうしたの、祐一?」

「…あのな」

「うん?」

しかし祐一はなかなか話し出せない。

沈黙がしばらく続く。

がやがて沈黙に耐えられなくなった祐一は叫んだ。

「だぁ〜、まどっろこしい〜!! これを見ろ!!」

そう叫ぶと祐一は一枚の写真を名雪に突き出した。

「何なの、これ?」

そこの写真にはテストカラーで塗られた一機のレイバーが写っていた。

しかし見たことはない機体である。だから名雪はそう尋ねたのだ。

「それはKey重工で開発の新型だ。Kanonの廉価版というとこだな」

「へ〜、そんなのを作っていたんだ。確かに廉価版という感じだよね」

素直に感心する名雪。

「ところでこれがどうしたの?」

しかし続いた祐一の言葉に名雪は衝撃を受けた。

「Kanonを下取りに出してそいつを何機か導入しようという動きがあるらしい」

「へぇ〜そうなんだ…って、え〜っ!?」

 

 

 タンタンタンタンタンタンタンタンタン

 

 いきり立った名雪は元陸上部の快速を生かして階段を駆け下りる。

その後を慌てて追いかける祐一。

「落ち着け、名雪!! 落ち着くんだ!!」

「落ち着いているんだぉ〜!!」

そしてすがりついてきた祐一を突き飛ばすと名雪は隊長室へと飛び込んだ。

 

 

 

 「納得できないんだぉ〜!!」

デスクを思いっきり叩いて叫ぶ名雪。

するとなぜだか知らないがNYタイムズを読んでいた秋子さんは顔を上げた。

「あらあら、困ったわね」

「『あらあら、困ったわね』じゃないんだぉ〜!! ケロピーは完璧だぉ〜!!

日々完璧に磨きがかかっているんだぉ〜!!

それなのに今更新型に変えるなんてわたしや真琴が苦労して育てたのは何だったんだぉ〜!!」

その時、ようやく祐一が名雪に追いついた。

「あのな、名雪」

その時秋子さんが恨めしそうな顔で祐一を見つめた。

滅多にそんな表情を見せない秋子さんに思わず祐一はと心の中で思った。

(こんな秋子さんも萌え〜)

すると名雪が祐一を睨み付け、秋子さんは顔を赤らめた。

「うぅ〜っ、祐一極悪だよ〜」

「あらあら、祐一さん。うれしいこと言ってくれますね♪」

「…もしかしてまた言葉に出していた?」

祐一の言葉に頷く二人。

そして祐一は肩を落とした。

「俺のこの癖はいつになったら治るんだろう?」

「奇跡は起こらないから奇跡って言うんですよ」

なぜか栞の声が聞こえた様な気がした。

無論その場(隊長室)には秋子さん・名雪・祐一そして由起子さんがいただけだったのだが。

「…とにかくこうなることは秋子さんだって分かっていたんでしょう!」

祐一の言葉に秋子さんは頷いた。

「まあ確かにそうでしたけどね。まあ名雪の言うことももっともですからね。

上層部にはそう伝えておきますよ。まだ決定したわけではないですし」

「なんだ〜。まだ決定じゃなかったんだ〜♪」

秋子さんの言葉に思わず喜ぶ名雪。

そんな名雪に祐一は呟いた。

「だから俺はそういう動きがあるらしいとしか言ってないだろうに」

「だって…」

「だってじゃない!!」

隊長室でじゃれ始める二人。

そんな二人を微笑みながら見ていた秋子さんは言った。

「ところで名雪、もし正式に決まったことだったらどうしたの?」

「もちろん無茶な命令は断固拒否」

「もちろん命令なら従います!!」

名雪の言葉を遮って叫ぶ祐一。

すると秋子さんは笑いながら二人の背後に回り、そして耳元にささやいた。

「そう言うことにしておいた方がいいですよ。背後には怖い怖い人がいますからね」

秋子さんがそう言った先にはジト目でにらんでいる由起子さんがいた。

「お、おい。任務に戻るぞ」

「だ、だぉ〜。了承だよ〜」

その視線に耐えかねて二人は隊長室を後にしようとしたその時、由起子さんが口を開いた。

「相沢巡査、グリフォンという名前知っているかしら?」

「…それってレイバーの名前ですか?」

祐一の言葉に頷く由起子。

そこで祐一はちょっと考え込んだもののすぐに首を横に振った。

「ちょっと分からないですね」

「そう。ありがとう」

「「失礼します」」

そして二人は隊長室を出ていった。

「…グリフォンって何ですか?」

さすがになんでも知っている訳ではない。

秋子さんの問いかけに由起子さんは首を横に振った。

「分からないから聞いたんですよ」

「もっともな意見ですね」

秋子さんは自分のした質問に苦笑したのであった。

 

 

 

 「お前が悪いんだぞ!! 人が止めるのに抗議しに行くから」

オフィスへ戻る道中、祐一が名雪にそう文句を言うと名雪は祐一に顔を指さししながら叫んだ。

「だって説得力無い計画には反対だよ!!」

そしてオフィスに入る二人。

そして珍しく口論している二人に驚いたのであろう、真琴・あゆ・栞が注目する。

しかし二人はそんな三人を無視して続けた。

「説得力無いか?」

「無いよ。ケロピーが、kanonがどんなものだかは祐一だってわかっているでしょ」

「それはまあ……」

「あれだけ立派に育てたKanonを何で今更別の機体に変えなくっちゃいけないんだぉ〜!!」

「もうそんな話が出ているんですか?」

栞の言葉に祐一は手をパタパタ振った。

「話だけ、話だけ」

「うぐぅ〜、でもKanonと取り替えっこというのは穏やかじゃないよ〜」

「Kanonは高くつきすぎるんだよ」

あゆの言葉を無視して名雪に言う祐一。

「うぐぅ〜、祐一くん、ボクのこと無視した〜」

「あゆあゆは黙っていなさいよ〜。

それよりも新型機に変えるのは第一小隊の方が先じゃないの!?」

「一緒に変えるつもりらしいぞ」

真琴の質問に答える祐一。

「だいだいその新型機って取り替えるに値する性能もっているの?」

「持っていない、と思う」

「ほら御覧」

鬼の首を取ったかのように勝ち誇る名雪。

そして祐一の言葉に真琴はいきり立って叫んだ。

「どういうことよ!! 現行機よりも性能の悪い機械を押しつけて真琴達に何させようっていうのよ!!」

「うぐぅ、それって人海戦術?」

「数で勝負って訳?」

あゆの言葉にそう反応する名雪。

すると祐一は頷いた。

「高い機体で数ある事件を持てあますより、安い機体を大量に投入した方が効率が良い。

まあお偉いさん方は考えたんだろうな」

「何なんだぉ〜!!」

「考えたのは俺じゃないぞ!! お偉いさん方だからな!!」

再び睨み合う二人。

しかしそんな様子を気にもせずに真琴はうなった。

「まずい、まずいわよ…。小隊数が増えるのだけはまずい……」

「どうしたんだ?」

「どうしたの?」

祐一と名雪の質問に、しかし真琴は答えず栞が説明した。

「真琴さんが悩んでいるのは人間関係ですよ」

「「???」」

ハテナマークを思い浮かべる二人とは対照的に真琴は一人苦悩の表情を浮かべるのであった。








 

 

 

 数時間後、会議室にて。

秋子さん・由起子さん・香里・雪見・美汐の特車二課ナンバー5が全員そろい踏みしていた。

ちなみに課長は完全無視だ(笑)。

 

 「というわけでKanonを手放せば深山・天野巡査部長を隊長とする第3・第4小隊を新設したうえで

全ての小隊に新型を導入できるわけですが」

「…もう結論は決していると思いますが」

「私もそう思います」

秋子さんの言葉に美汐と雪見はそう言った。

すると秋子さんは頷いた。

「Kanonを戦列から外すのは得策ではないと?」

「…はい」

「そうです。なぜこんな分かり切ったことを?」

すると秋子さんは苦笑いした。

「まあ確かにそうなんですけどね、一応特車二課の総意というのをまとめておきませんと。

どうです、香里さん?」

すると整備班長たる香里は言った。

「新機種導入に関しては由起子さんが真っ先に賛成するものだと思っていたんですが」

すると由起子さんは髪の毛を手でなでつけながら言った。

「長いことこの仕事をやっているせいか機械の良し悪しを見極める能力をみにつけたみたいでね」

「由起子さんは新型を信頼していないと?」

「仕様書に書かれているスペックほどにはね」

香里の言葉に由起子さんはそう答えた。

その言葉に香里は満足げに頷いた。

「Kanonのソフトがそのまま使えるっていうのが新型のウリなんですけどね。

この使えるっていうのがくせ者なんですよ」

「ソフトが走ると使えるでは全く違うというわけですね」

「はい」

香里は頷くと整備帽を被りながら立ち上がった。

「とりあえず私は現物を見るまで意見保留させていただきますね」

「わかりました。その機会はすぐに来ると思いますよ」

 

 

 「国際レイバーショー!?」

祐一の言葉に素っ頓狂な言葉をあげる名雪。

すると祐一は頷いた。

「そうだ。毎年恒例で新機種を発表する場でな。

kEY重工が新型を売り出すつもりなら間違いなく大々的に出展するつもりだぜ。

たぶんその場で現物にお目にかかれるんじゃないか」

「へ〜、そんなのがあったんだね」

「……おい」

かりにもレイバー専門の特車二課所属の名雪の言葉に呆れる祐一。

だが名雪は気にせずに続けた。

「それでいつ・どこでやるの?」

「…今年の年末、幕張で」

「あと一ヶ月ちょっとだね」

「そうだな、あと一ヶ月ちょっとだな」

 

 そして二人はまだ見ぬ新型機に思いをはせるのであった。

 

 

あとがき

本当ならこのままグリフォン編ですがちょこっと別の話をやろうと思います。

ちなみに第一回目のグリフォン編の場所は晴海から幕張に変えさせていただきます。

十数年前はいざ知らず今更晴海はないでしょうからね。

 

 

2002.02.17

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