機動警察Kanon第100話

 



 

 

 「夢!?」

祐一は名雪の言葉に素っ頓狂な言葉を上げた。

すると外の洗い場で手を洗っていた名雪は頷いた。

「そう、それも酷い夢なんだよ〜。相手の姿は全く見えなかったんだけど。

私のケロピーなんかもうボロボロ、殴られるは蹴られるは酷い有様で。

で思わず真琴に助けを求めたんだけど……」

「夢って不条理だな。何でそんな無駄なことするんだ?」

「…そう、無駄だったの」

「真琴の2号機とっくに破壊されていただろう」

「わっ、祐一すごいね。何で分かったの?」

すると祐一はもったいぶって腕を組んで呟いた。

「部分的には妙にリアルなんだよな」

「正夢だったらどうしよう〜」

「明け方の夢は正夢って言うぞ」

笑いながら祐一がそう言うと名雪は心底情けない表情を浮かべた。

「うぅ〜、祐一意地悪だぉ〜」

「あのな名雪、お前はケロピーの事を異常に大事しているだろう。

だからズタボロにされたのは戦闘に対する恐怖が増幅されたされたものだろうし

、真琴機が先に壊れているのはいつものことだろ。

なっ、それで全て説明つくだろう」

祐一のその言葉に名雪はホット胸をなで下ろした。

「そうだよね〜。

ケロピーもメカが動きになじんできたところだしこれからはもっと高いレベルで働けそうだっていう時に

予知夢だったら堪らないよね〜」

「そうだろう」

そして祐一と名雪は笑ったのであった。

 

 

 

 「何を暢気に笑っているのよっ」

二階から暢気に笑ってる祐一と名雪を見た真琴は腹立たしく呟いた。

すると傍らに立っていた美汐が真琴に言った。

「真琴、よそ見をしている暇があったら目の前の問題に手をつけてください」

「あう〜ぅ」

思わず嘆く真琴。

その目の前には「警察官行動規範書」というタイトル分厚い問題集が置かれている。

「しっかりと覚えるんですよ」

美汐の言葉に渋々と問題集に取りかかり始めた。

 

 そして30分後。

「何で私一人だけこんなに分厚いのを解かなければいけないのよ〜!!」

とうとう切れて叫ぶ真琴。

だが美汐は冷静だった。

「真琴がしっかりと勉強していればこんな勉強会をする必要はなかったんですよ。

現に相沢さんに名雪さん、栞さんもあゆさんもちゃんと覚えていたんですから」

「あう〜ぅ」

思わずうめき声をあげる真琴。

しかし美汐には通用しなかった。

「しっかり勉強してくださいね」

 

 かくして真琴はしばらくの間美汐から解放されないのであった(笑)。

 








 

 

 「はぁ〜、やっと終わった」

疲れ果てた真琴は第2小隊のオフィスにトボトボと入って来た。

するとそこでは栞がノートパソコンでデータを打ち込んでいるところ、

あゆは手書きで書類を書いているところであった。

「真琴ちゃん〜。追試ごくろうさま〜」

あゆがそう声をかけると真琴は思わずむっとした。

「あゆあゆにそう言われると腹が立つのよ〜っ」

思わずあゆの襟首を掴んで迫る真琴。

「真琴ちゃ〜ん!!」

そのあまりの苦しさにあゆは叫ぶ。

「あゆあゆ!! いっちょ道場でもんであげる!?」

「真琴ちゃん!! 美汐さんになって言われたのかは知らないけどボクにあたらないでよ〜!!」

「何よ〜!! あゆあゆのくせに生意気よ〜!!」

自分の言ったことにますますいきり立った真琴にあゆは思わず失敗を悟った。

慌てて話を逸らそうとあゆはとっておきの最新情報を真琴に耳打ちした。

「ところで真琴ちゃん、さっき事務の人から聞いた話なんだけどね、新部隊創立の動きがあるんだって」

その話に少しだけ力を緩める真琴。

しかしすぐに気を取り直したのか再び力を込めると真琴は叫んだ。

「それが何だって言うのよ〜!!」

「うぐぅ〜!!」

そのあまりの惨状にデータを打ち込んでいた栞は助け船を出した。

「分からないんですか、真琴さん?」

「何よ、しおしおまで〜!!」

「しおしお……、まあいいです。それよりも小隊増設となれば新しい隊長が必要ですよね」

「…それが何?」

ちょっとだけ気弱になったか力を緩めた真琴。

その間隙をぬってあゆは真琴に言った。

「だれが考えたって隊長職への最短距離にいるのは美汐ちゃんか第一小隊の深山さんだよ」

あゆの言葉に思わず冷や汗を垂らす真琴。

そこへ栞がとどめを刺した。

「真琴さん、もしそうなったら美汐さんにますます頭が上がらなくなりますね」

「あう〜っ!!」

 

 思わず顔を青ざめる真琴なのであった。








 

 

 

 そしてその日の夕方。

東京都千代田区桜田門前にある警視庁正面玄関。

そこから二人の女性…第一小隊隊長隊長小坂由起子警部補と第2小隊隊長水瀬秋子警部補が出てきた。

 

 「どうするんですか先輩?」

「どうするって?」

由起子さんの言葉に聞き返す秋子さん。

すると由起子さんは大きなため息をついた。

「今回の話ですよ。

うちの小隊はともかく新型機の導入が決まったら第2小隊はKanonを捨てなければいけないんですよ。

彼女たち、納得するかしら?」

「まだ正式に決まったわけではありませんよ」

「…部長は完全にその気のようでしたが」

「部長の考えなんていくらでもなりますから」

そう言ってにっこり微笑む秋子さん。

しかしその怖さを知っている由起子さんはその笑顔の向こう側に隠されている何かに恐怖した。

しかし秋子さんはそんな後輩の様子には気が付かないようで、というか気が付かない振りをしながら言った。

「そうそう由起子さん、せっかくここまで来たんですからおいしい料理食べに行きません?

良い店知っているんですよ」

しかし由起子さんはその秋子さんの誘いに首を横に振った。

「すいません、先輩。先約があるんですよ」

「あら、あなたに先約なんて珍しいわね。男?」

「…先輩も知っている人ですよ。自衛隊に入った神尾さんです」

「あら、晴子さんなの。じゃあお酒入っちゃうわね」

「はい。ですから夜勤の先輩は拙いと思います」

由起子さんの言葉に考え込む秋子さん。

やがて仕方がなさそうにため息をついた。

「別に多少の酒ぐらいにつぶれる私ではありませんがさすがに拙いですからね。

仕方がありません、食事はまたの機会にしましょう」

「そうしてください」

ほっと胸をなで下ろした由起子さん。

「それじゃあお先に失礼しますね」

秋子さんと別れると一番最寄りの有楽町線桜田門駅へと歩き始めたのであった。

 



 

 

 「ホンマ久しぶりやな。仕事もう終わったんやろ」

そう言って瓶ビールを突き出す陸上自衛隊一尉の神尾晴子。

「ええ、久しぶりね」

そう言ってコップを突き出す由起子。

すると晴子は由起子のコップにビールを注いだ。

「「乾杯」」

そしてビールを一気に飲み干す晴子に由起子は笑った。

「相変わらずよく飲むのね」

すると晴子は胸を張った。

「うちから酒を取ったら何が残るというや!!」

 

 

 「娘さん、元気にしてる? 確か婦警になったんだよね」

コテでお好み焼きを器用にひっくり返しながら由起子はそう言った。

すると晴子は半ば呆れた顔をした。

「何言っているや。うちよりあんたの方が観鈴と顔合わせているやろ」

「…何処で?」

由起子の言葉に晴子は今度は心底呆れた顔つきをした。

「…今は特車二課に間借りして捜査しているそうやが?」

「…まさか警察庁からやって来ている神尾巡査って?」

「そのまさかや。なんやあんた観鈴のこと気が付いていなかったんやな。

うちの方は観鈴からあんたの話聞いておったおったちゅうに」

「…あんなにきれいになっているとは思っていなかったのよ。

私が前にあったときはまだずっとちっちゃかったし」

「まあ7.8年は前やったっからな」

「そういうことよ。それよりももう良いんじゃないかしら」

すでに鉄板の上のお好み焼きは程良く焼けている。

そこで二人はコテを使ってお好み焼きをぱくつき始めたのであった。




 

 

 「ところで仕事は順調かいな?」

唐突な言葉に一瞬目を丸くしたものの由起子はすぐに気を取り直すと首を横に振った。

「はっきり言ってきついわね。ソフトがハード以上に働きを強いられているでしょ。

それでも最新型とうちのONEの性能差はいかんともしがたいしね」

「ふ〜ん、そうやんか。

ところで話はかわるんやけど今限りなく人間に近いレイバーってどれくらいあるんやろうか?」

「…限り泣くって言うのが難しいわね」

「まずあんたんとこのKanonが筆頭やろ」

「私の所じゃなくて秋子先輩の第2小隊のなんだけど」

「同じようなもんやんか。ところで先輩元気かいな?」

「元気よ。今日もこの後仕事がなかったら来たんじゃないかしら?」

「忙しい職場は大変やな。うちらは時間通りに訓練するぐらいやし、って話脱線してしもうたな。元に戻しましょ」

「わかったわ。えーっと後はSEEのブロッケン、少し落ちてトヨハタのサターン。

後はあなたのところのヘルダイバーぐらいかしらね。

ところで何かあったの?」

由起子の言葉に晴子はうつむいて答えた。

「別に何もあらへんよ」

その言葉にまじまじと晴子の顔を見つめる由起子。

しかしすぐに

「まあいいか」

と言ってお好み焼きに舌鼓をうつ由起子。

これには晴子の方が驚いた。

「アンタ変ったんやな」

「へっ!?」

「昔のアンタやったらそんな風にうやむやにはしなかったで」

「そうだったかしら?」

「そうだったで」

「私も埋め立て地の影響を受けているかしら?」

「かもしれへんが良いんやないか?」

晴子の言葉に考え込む晴子。

しかしすぐに「まっ、いいか!」と笑うのであった。

 

 

 

 2時間後。

明日のこともあるし酒席を締めた二人は表通りに出てきた。

そしてタクシーを一台止めると晴子は乗り込もうとし、そして振り返ると由起子に言った。

「なあ、グリフォンって名前知っているかいな?」

「グリフォン!?」

聞き慣れない言葉に考え込む由起子。

しかしすぐに首を横に振った。

「残念ながら知らないわ」

「そうかいな。それじゃあ今日は楽しかったで」

 

 そして晴子はタクシーに乗り込むとその場を去っていったのであった。

 

 

あとがき

100回記念SSです。

都は言っても別に特別な内容ではありませんがね。

記念はもう一本のほうでお楽しみを。

 

 

2002.02.11  建国記念日に

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