翌日の小笠原。
そこでは陸と空と海で大規模な捜索が行われていた。
傘型で密林の中を突き進む自衛官たち。
その手には実包の装填された89式小銃やらパンツァーファウスト3やらとにかく完全武装だ。
いつもの訓練とは違い緊張感あふれた表情である。
やがてトップを取っていた分隊長が右手を挙げる。
“止まれ”。
そのハンドシグナルに合わせて一斉にしゃがみ込む自衛官たち。
(…何か焦げ臭いな・…)
鼻につく匂いに眉をしかめつつ分隊長は前進命令を下した。
一斉に姿勢を低くして前進開始する。
やがて彼らの目に目的物が見えてきた。
“散開しろ”。
ハンドシグナルによって散開する自衛官たち。
“前進しろ”。
そして彼らは目的物へと近づいていった。
「神尾一尉!! 大丈夫でした…か…?」
思わず言葉が詰まる分隊長。
なぜならばそこでは破壊されて行動不能になっているヘルダイバーの足下でレイバーン隊の
隊長神尾晴子一尉が非常用のレーションをぱくついているところであったからである。
「出迎え遅かったやないか。待ちわびたで」
その足下には焦げ付いた缶詰が数個転がっている。
どうやら非常用に積まれていたレーションで腹ごしらえしていたようである。
焦げ臭い匂いの発生源はどうやらこれであるらしい。
「…神尾一尉?」
「何や? あんたらも腹減っているんかいな。でもやらんで」
呆れる自衛官たち。
その側では部下A&Bが心底情けない表情で、しかし同じくレーションをつっいていたのであった。
「どうだ?海の中にはいないか?」
伊豆大島の一件で水中から上陸してきたという前例がある。
だから水中をも捜索する陸上自衛隊の面々。
しかし所詮は陸上自衛隊、海の上まではそれほどというか全くカバーしていない。
だから彼らが使っている船は…ただのゴムボート(船外機付)である。
おかげで揺れること揺れること。
だから
「うげぇ〜、酔った…」
「気持ち悪い……。吐きそうというか吐く……」
「………」
と轟沈者続出。
海上での捜索は全く機能していなかった(笑)。
陸と海の捜索はきわめて頼りない状況では合ったが空からの捜索は順調であった。
まあ元々本職のスカウトヘリを複数飛ばしているのだから無理もあるまい。
というわけで一機のスカウトヘリのパイロットは海岸にある物の痕跡を発見、憮然としたように呟いた。
「…ふざけたものを残していやがる……」
その言葉に反応しパイロットの視線の先に目を向けた無線手。
そして彼もパイロットの意見に同意した。
「…一体何考えているんでしょう? あんな事書き残していって……」
「知るか!! それよりも本部に連絡入れておけよ」
「了解っと」
そこには何を考えてだかは分からないが明らかにレイバーで書かれたサイズでデカデカと
『ぐりふぉん参上だ〜!!』と書かれていたのであった。
「あはは〜♪」
目の前のテレビ画面に映し出された光景に思わず佐祐理さんは笑ってしまった。
しかし傍らの舞は仏頂面で苦言を言った。
「…みちるはふざけすぎ。もっとまじめにやらないと」
そこではレイバーのマニュピュレーターが砂浜に文字を書いているところを映し出していた。
そう、その画面はグリフォンのメインカメラが捉えた映像をビデオテープにダビングしたもの。
戦果確認のために二人はビデオでチェックしていたのだ。
だから舞の言うことはもっともである。
しかし佐祐理さんは気にしなかった。
「あはは〜♪ 痛快ですね〜♪」
「…佐祐理、みちるを厳しくしかっておかないと」
だが佐祐理さんは首を横に振った。
「大丈夫ですよ舞。あのくらいのサインぐらい残しても何の証拠にもなりませんよ〜♪」
「…でもこれは調子のりすぎ。ほっておくとどんな失敗をするか……」
「あはは〜♪」
佐祐理さんは笑いながら立ち上がるとドアノブに手をかけ、そして振り向きながら言った。
「舞は心配屋さんですね〜♪」
そして佐祐理さんはドアを開けた。
するととたんに潮風が佐祐理さんを包んだ。
そう、そこは海上。佐祐理さんと舞は一隻の船の上にいたのだ。
「じゃあ舞♪ 残りのチェック任せましたよ〜♪」
そして佐祐理さんは一人、グリフォン格納庫へと足を進めるのであった。
「あはははは〜♪ みちる、初めての実戦はいかがでしたか?」
格納庫に入った佐祐理さんはグリフォンの整備様子を見ていたみちるに声をかけた。
するとみちるは笑顔で答えた。
「にょはっっ〜、楽勝だったよ〜。物足りないぐらい」
「あははは〜、今回はまだ慣らし運転ですからね♪」
佐祐理さんの言葉にみちるは張り切った。
「ねえねえ!! 今度はめいいっぱい動かしてもいいんだよね!?」
「あはははは〜、そうですね♪」
そこまで言ったところで佐祐理さんはちょっとだけまじめな表情になった。
「ところでみちる、医務室へは行きましたか?」
佐祐理さんのその言葉にみちるは首を横に振った。
「みちる、体中いじくり回されるの嫌〜!!」
「…そうですか。みちるは私のことが嫌いになってしまたのですね……」
その声に慌てて振り返るみちる。
するとそこには白衣姿で目を潤ませた遠野美凪が立っていた。
「にょ! み、美凪!! こ、これは誤解!!」
慌てて言い訳するみちる。しかしその効果は無かった。
「…でもみちる、私に診断してもらうの嫌いだって……」
「べ、別に美凪が嫌いなわけじゃないよ!!」
みちるのことばに美凪の顔はパッと笑顔に変った。
「それじゃあ早速健康診断しましょうね」
そして美凪はみちるの襟首を掴むと医務室へと引きずり出す。
「にょっ〜!! み、美凪に犯される〜!!!」
辺りにみちるの悲鳴声が響き渡る。
しかし誰もみちるを助けようと美凪を止めたりしない。
それどころか
「あはははは〜♪ みちるがグリフォンをめいいっぱい動かしても体がついてくるのか。
真剣に遊ぶにはそれなりの覚悟が必要なんですよ〜♪」
と温かく見送るのであった。
「それはそうとグリフォンは超出来物でしたよ♪ 初の実戦で見事な戦果をあげましたからね♪」
みちるが格納庫から姿を消すなり佐祐理さんは開発責任者に声をかけた。
すると開発責任者はちょっと眉をひそめた。
「初の実戦にしてはずいぶん乱暴に扱ったものです」
「どこか壊してきたんですか?」
「足回りがちょっと……。もっとも問題点は早めに出た方が良いんですけどね」
そこまで言ったところで開発責任者は部下に呼ばれた。
「課長、すいません。ちょっと行ってきます」
そして部下達を指示し始めたのであった。
「我ながらすごい物を作ったと思いますよ。97式改15機、99式3機大破。でも……」
自慢するように、しかしそれでいてちょっと寂しそうに呟く開発責任者。
そこへ舞が口を挟んだ。
「…でも何なの?」
「胸を張って世間に公表できないのが恨めしい……」
「あはははは〜♪ グリフォンに穴掘りのデモンストレーションでもさせれば良かったっていうんですか?
いずれグリフォンの優秀性は世界中が認めてくれますよ♪ 評価はその時高まります♪」
佐祐理さんはそう言うが開発責任者は懐疑的だった。
「しかし商売になりませんよ。
現行のレイバー規格とフォーマットが全然違うしコストがべらぼうにかかる。
売れると思いますか?」
「…基礎理論だけでも売れる」
舞はそう行ったが佐祐理さんは気にせずに微笑んだ。
「おまけにKey社のAVオペレーションシステムもつけちゃいましょう♪」
その言葉に思わず舞と開発責任者は驚いた。
「Key社のAVオペレーションシステムってKanonに載せているアレですか?」
「そうですよ♪それならいくらでも買い手がつきますよね♪」
「確かに現行のフォーマットにあってもっとも優秀な物だと思いますが……」
「……軍事機密並みにガードが堅い。まさか?」
「稼働中のKanonを一機捕獲すれば良いんですよ。そのためもあってグリフォンを作ったんですから♪
でも出来ることなら221って肩に書かれている方が良いですね♪」
二人の言葉に佐祐理さんはにっこり微笑むのだった。
「ふぇ、ふぇ、ふぇへっくしょん!!」
つなぎ姿で愛しのケロピーにワックスがけしていた名雪。
それがいきなり大きなくしゃみをした。
「どうした、名雪?風邪でも引いたか?」
「何だろう?いきなり鼻がムズムズしてきちゃって」
「どこかから猫でも入り込んだか?」
祐一がそう言うと名雪の表情は一変した。
「猫!? どこどこ祐一!?」
そんな名雪に祐一は呆れた。
「バカ。誰かがお前の噂でもしていたんだろうよ」
「う〜っ、祐一極悪だよ〜」
ぬか喜びに終わった名雪は不満いっぱいだった。
あとがき
やっと美凪が登場。
これで「Air」キャラは一通り出そろいました。
脇役は勘弁してください(笑)。
ちなみに美凪の役は漫画版に出てくる女医さんです。
というわけでみちる程ではなくとも出番はあると思います。
2002.02.03