機動警察Kanon第098話



 

 

 

 「うぅ〜!!」

名雪はケロピーのコクピット内で思わず叫んだ。

目の前にいる謎のレイバーがケロピーを次々と殴る蹴ると攻撃を加えてくる。

たちまちパトライトは砕け散り、左腕のシールドが吹っ飛ぶ。

さらにFRP製のKanonのボディーも砕け散る。

「うぅ〜、ケロピーが傷だらけになっちゃうよ〜」

 

 まさにその通りであった。

目の前の謎のレイバーは容赦なくケロピーに攻撃を加える。

たちまち繊弱な関節が音を立てて砕け、ケロピーの右足が吹っ飛んだ。

同様に左腕も吹っ飛ぶ。

「わっ、わっ、わっ〜!!」

そこへケロピーの顔面に謎のレイバーの拳が襲いかかる。

その攻撃にケロピーの頭部はもろかった。

センサー系統が吹き飛び、そしてバランスの取れないケロピーはそのまま崩れ落ちた。

 

 「ま、真琴〜!! 早く助けてよ〜!! このままじゃケロピーが!!」

コクピット内で叫ぶ名雪。

我が身の安全と愛しのケロピーがかかっているのだから名雪も必死だ。

しかしそんな名雪の目に特徴ある二号機の頭部を謎のレイバーが掴んでいた。








 

 

 

 「だぉぉぉお!!」

いきなり跳ね起きた名雪。

そして寝ぼけ眼のまま自分の回りを見渡す。

そこは現在の名雪の住まい……警察寮の一室であった。

時計を見るとまだ03:00ちょい過ぎ、いつもの名雪ならば決して目を覚まさない時間である。

「にゅう・…? 夢だったの?」

今見ていた悪夢の様な状況が本当に悪夢であったことにほっとした名雪はそのまま

「お休み、ケロピー……」

と緑色のふさふさカエルのぬいぐるみに語りかけるとまた深い眠りに入ったのであった。

 

同じ頃、遠く離れた孤島で起こっていることも知らずに……。

 




 

 

 

 深夜の熱帯雨林。

そこでは複数の鋼鉄の巨人がジャングルの中を突き進んでいた。

 

 『ダイモス1よりダイモス2・3。状況を報告せよ』

『ダイモス2,オールグリーン』

『ダイモス3、オールグリーン』

そして一斉に密林の中から姿を現す三機のサムソン。

その手には皆一様にセーフティのはずされた90mmチェーンガンを手にしている。

『小隊長!さっきのあれは?』

だが隊長はその言葉に答えずに叫んだ。

『ダイモス3!!左だ!!!』

隊長の言葉に慌てて索敵するダイモス3。

そしてそのメインカメラに黒い影か写った。

そしてあっという間にその影はダイモス3に接近すると一撃食らわせた!

即座に大破して行動不能になってしまうダイモス3。

そしてそのまま黒い影はジャングルの密林の中へと消える。

 

 「ど、どこへ消えやがった!?」

緊張のあまり荒く息を付きながらモニターの向こう側を睨み付ける隊長。

とジャングルの木々が騒いだ。

同時に巨大な熱源がものすごい勢いで動いていく。

「くだばりやがれ!!!」

そう叫ぶや密林に向かって90mmチェーンガンをぶっ放す。

たちまち木々が弾け飛ぶ。

しかしその手応えは無い。

慌てて周囲を索敵を再開する隊長。

しかし赤々と燃える木々に熱源と光源を邪魔され視界が悪くなっている。

とても発見することは出来ない。

といきなり密林の中から黒い影が飛び出してきた。

「うわぁー!!」

しかし隊長に出来たのはただ大きな声を張り上げることだけであった。

あっという間に黒い影の拳に隊長の乗るダイモス1も行動不能になってしまう。

 

 残ったダイモス2は焦った。

何せ指揮官を失ってしまったのだから無理もあるまい。

慌てて自分で判断、スモークディスチャージャーからチャフ・スモーク・フレアをぶっ放す。

これで視界も悪くなるが相手も同じ、今のうちに逃げる逃げることにしたのだ。

しかしそうはいかなかった。

すぐに密林の中から黒い影が飛び出してきたのだ。

慌てて90mmチェーンガンをぶっ放すダイモス2。

しかし弾丸は全て黒い影をかすめることなく外れた。

そして一瞬のうちに背後に回り込んだ黒い影によって最後まで残ったダイモス2も行動不能に陥ってしまったのであった。

 

 

 

 バラバラバラバラバラバラ

 

 強力なサーチライトで地面を照らしながらジャングルを捜索するスカウトヘリ。

やがてヘリは一点でホバリングを開始した。

「くそっ!ダイモス隊も全滅している!!」

「一体何があったんだ!?」

そこには煙を吐いて行動不能に陥っている三機のサムソンの姿があったからである。

「おい、早く本部に報告しろ」

「了解」

パイロットの言葉に偵察手は頷くと無線機に向かって報告し始めた。

しかしノイズが酷く交信できない。

「本部!本部!!本部!!!応答願います!!!」

ただ偵察手の声がむなしく深夜のジャングル上空に響いたのであった。

 

 

 

 そのころ本部では

 

 「各小隊とまったく連絡が取れません。ジャミングによる通信妨害と思われます」

無線機を必死にいじりながらも無線手は現状をそう報告せざるをえなかった。

少なくとも機械はまったく壊れていなかったのだから。

「一体どうなっているんだ?」

あまりに不可解な現状に疑問を投げかける指揮官。

そんな指揮官の疑問に副官はおずおずと答えた。

「まさか伊豆大島の再現では?」

しかし指揮官は首を縦には振らなかった。

「まさか。そのこともあってわざわざ訓練地を小笠原にしたんだぞ。

しかも今回の訓練は新型弾の評価テストも兼ねた超極秘行動だぞ」

「そ、それはそうなんですが……」

しかし考えても解決する問題ではない。

そこで指揮官は無線手に尋ねた。

「現存する部隊はどれくらいだ?」

すると無線手は申し訳なさそうに、しかしきっぱり言い切った。

「最後に連絡を取れた部隊は……レイバーン隊だけです」

「レイバーン隊か……」

指揮官はレイバーン隊の小隊長の顔を思い浮かべ、不安げに呟いた。

「あのアル中で果たして大丈夫なんだろうか?」

 



 

 

 「へっくし!!」

噂のレイバーン隊小隊長神尾晴子一尉は大きなくしゃみをした。

そして少し出た鼻水をすすりながら呟いた。

「おかしいな。こんな南方の島で風邪かいな?」

その言葉に部下Aが笑いながら答えた。

『だれか隊長の噂でもしているんじゃないですか?』

「やっぱりそうかいな。うちみたいな美人、自衛隊にはそういないへんもんな」

『『………』』

思わず呆れる二人の部下。

しかしその脱力感は長くは続かなかった。






 

 「ちょっと様子がおかしいで。何かあったんと違うか?」

くさび形のトップを取って移動中だった神尾一尉は思わず機体を停止させてそう呟いた。

いきなり緊張モードの晴子の言葉に思わず戸惑う部下AとB。

だがすぐに二人も緊張した様子で周囲を警戒し始める。

周囲に漂う異様な雰囲気に気が付いたのである。

『……隊長、どうします、引き返しますか?』

「そうやな……」

晴子は考え始めた。

しかし晴子の考えはまとまることはなかった。

なぜならば先ほどダイモス隊他訓練中の全部隊を壊滅させた謎の影がいきなり襲いかかってきたからである。

 

 「うがぁ〜!!」

いきなり謎の影の攻撃を受けたレイバーン3の部下Bは悲鳴を上げる。

しかし彼に出来たのはそれだけだった。

たった一撃でサムソン同様ヘルダイバーも無力化されたのだ。

そんな僚機の様子に恐怖したレイバーン2の部下Aは慌てて30mmチェーンガンを向ける。

しかしもうそこには謎の影は無かった。

「ど、どこへ行った!?」

思わず戸惑う部下A。

そしてその戸惑いが彼にとって致命傷となった。

いきなり脇から現れた謎の影にレイバーン2はあっさりと撃破されてしまったからである。

 

 

 「な、何が起こっているんや!?」

あっという間に部下二人の乗るヘルダイバーを撃破されてしまった神尾晴子一尉。

思わずそんな言葉を漏らす。

しかしダテに一尉という階級を持っているわけではなかった。

二人の部下よりも早く気を取り直した晴子は半装填状態の弾丸を30mmチェーンガンに込め、

密林に銃口を向ける。

「どこや!! どこにいるんや!?」

その時レイバーン1の背後にいきなり謎の影が現れた。

そしてそのまま頭と脇を押さえつける。

「何や、これは!?」

しかし躊躇している間はない。

背後に30mmチェーンガンを向けるとぶっ放す。

たちまち薬莢が地面に散らばり、そして轟音と共に装甲車両をも一撃でスクラップにする現在評価中の

新型弾……劣化ウラン弾が虚空を突き抜ける。

そう、謎の影は上手く身をかがめて弾を避けていたのだ。

これではいくら強力無比な劣化ウラン弾でも謎の影を破壊することは出来ない。


 

 「くそったれめ!!」

その時いきなりヘルダイバーのエスケープハッチが開いた。

本来ならばこのハッチがパイロットの意志無しに開くはずがない。

機体外部に付いているスイッチを切り替えることさえなければだが。

だから晴子は驚愕した。

「何やて!?」

そこへいきなり巨大な手……レイバーのマニピュレーターがその姿を現した。

エスケープハッチからコクピット内に進入してきたのだ。

思わずハーネスをはずし腰を上げる晴子。

いつでも脱出できるように…のつもりだったがそれは無理だった。

なぜならばエスケープハッチがマニピュレーターで塞がってしまっていたのだから。

やがて巨大なマニピュレーターはその太い指…中指がクンと曲がった。

そしてコンコンと晴子の被っているヘルメットを叩く。

「何やて!?」

やがてマニュピュレーターはコクピットから消えた。

それと同時に謎の影も姿を消す。

 

 「遊ばれたんやな……」

悔しそうに晴子は呟くともはや行動不能の愛機から飛び降りたのであった。

 

 

 

あとがき

一週間更新できませんでしたが「機動警察Kanon」ここに無事お届けです。

どうもすいませんでした。

何せ風邪引いて寝込んでいたんで書けなかったんです。

健康には注意しましょうね。最優先事項ですよ(笑)。

 

 

2002.01.27

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