機動警察Kanon第096話








 

 

 

 「ちょっと、いい加減にしてよね。大人しい真琴でもさすがに怒るんだからね……」

怒りにふるえる真琴は、それでも何とか堪えながら上海亭に電話する。

しかし返ってきた返事は期待していたものではなかった。

『あれ? まだ届いていない? うちもさ、ツトムの奴が出たっきり戻って来なくて困っているんだよ』

「…そっちの事情なんか知らないわよ!! 出前する気あるの、無いの!?」

『だからツトムがよ〜』

上海亭の主人の言葉に真琴の堪忍袋の緒が切れた。

「だからそんなこと聞いていないって言っているでしょ!! 

外回りがいないならアンタが自分で持ってきなさい!!」

『とは言ってももう昼の部終わっちまって火、落としちまったからよ』

親父の返事に真琴はプチンと切れた。



ああそう。持ってくる気がないならそう言いなさいよ!!

でもね、もうアンタの店から出前取らないからそのつもりで!!

このバカ野郎!!



そう言うや真琴は受話器を思いっきりたたきつけた。

その様子を呆然と見ていた祐一たち。

しかしはっと我に返ると真琴に詰め寄った。






 

 「ちょっと真琴ちゃん、出前断っちゃったの!? これから一体どうするつもりだよ!?

うちに出前を持ってきてくれるような酔狂な店、他に無いのしっているだろ!!」

北川の言葉に真琴は反論した。

うるさいわよ!! ごちゃごちゃぬかさないで!!!

「だから真琴に交渉させるなって言ったのに」

「言っていない、言ってない」

祐一の言葉に思わず突っ込む名雪。

「ぐわぁ〜、名雪に突っ込まれるとは…」

「…祐一、酷いよ…」

まあそんな二人はおいておいてあゆがこわごわと発言した。

「うぐぅ、どうするの? 謝ってまた頼む?」

あゆの言葉に真琴は怒った。

「あゆあゆ!! なんで真琴があんな奴に謝らなくっちゃいけないのよ!!」

「うぐぅ。で、でも……」

「真琴はあんな奴に絶対謝らないんだからね!!」

そう言うやまことはあゆに襲いかかった。

「あう〜っ、アンタとしおしおだけ昼ご飯食べるなんてずるいだから〜!!」

「えぅ〜、しおしおなんて呼ばないでくださ〜い!!」

栞の声が混じりつつ、あゆに襲いかかる真琴を何とか阻止する祐一たち。

その傍らを腹を空かせた北川が一人、トボトボと歩いていった。







 

 

 ハンガー内にて。

 

 「今日という今日は我慢ならないぜ!!」

「上海亭め!! 独占状態にあるからってその立場にあぐらかきやがって!!」

「だいたい最近盛りが少なくなったと思わないか!!」

「くそ〜!! 人の弱めにつけこみやがって!!」

口々に上海亭に対する不平不満をもらす整備員たち。

こんな事でもしてかろうじて空腹を紛らわせているのであろう。

そこへ

「諸君!!」

という北川の呼び声が響いた。

その言葉に一斉に静まりかえる整備員達。

そこで北川は一アジうった。

「交渉は決裂した!! 出前は来ない!!」

その言葉に再び騒ぎ出す整備員たち。

しかしまだ話は終わっていない。北川は続けた。

「のみならず特車二課と上海亭は本日をもって断交状態に突入したことを伝えなければならない」

北川の言葉に整備員たちは一斉に泣き崩れる。

当然このことを伝えた北川も滝のように涙を流した。

もはや人間らしい、ごく普通の昼食をとれなくなることが身にしみて理解出来たからであった。

 

 

 「何情けない面しているの!!」

そこへ私服姿の香里が現れ、泣き崩れている整備員達を怒鳴りつけた。

慌てて北川は涙を袖でぬぐいつつ香里の元へ駆け寄る。

 

 「一食ぐらい抜いただけで何よ、そのざまは。いい男がだらしがないわよ!!」

香里の無茶な言葉にさすがに北川は反論した。

「しかし班長、それはあまりにも酷で……」

「うるさいわよ、北川くん。

そもそもこいつらをまとめなければならない貴方がそんなだからこいつらいつまでたっても半人前なのよ!!

わたしはこれから由起子さんと本庁の方に行って来るけど…、こいつらさぼらせるんじゃないわよ!!

良いわね!!」

そう言い残すと整備班長美坂香里は優雅な足取りでハンガー内から出ていく。

慌てて整備員達は香里を見送るべく整列する。

「「「「「「「「「「「「「お疲れさまでした!!!!」」」」」」」」」」」」」」

 

 かくして香里は第一小隊隊長小坂由起子警部補とともに特車二課を出ていった。

 

 

 「メシ食べている奴は冷酷だよな、実際」

北川はそう呟くと整備帽を被りなおした。

そして空腹を堪えつつ指示する。

「よ〜し、作業開始だ!! グズグズしているやつは班長に東京湾に叩き込まれるぞ!!」

北川の言葉と共に空腹の整備員は整備作業に入っていった。






 

 本来ならばこのような状態で作業しようものなら事故が起こりかねない。

しかしこの日の特車二課の面々にはどうしようも出来なかった。

近くのコンビニ(徒歩2時間、自転車でも40分以上かかる)は改装工事のためお休み。

前日までの第一小隊の宿直で完全に備蓄の尽きたお米(川名巡査部長の仕業)。

東京湾で釣り糸を垂らしても一匹もつれない。

こんな日に限って卵を産まないニワトリたち。

そして収穫しきってもはや全く実のないトマト畑。

まさにここまでとどめをささなくっても…と言わんばかりの状況。

さすがに困った祐一たちは秋子さんに相談することにした。




 

 

 「謝っちゃったらどうかしら?」

秋子さんらしい言葉、しかし祐一たちにはもはや選べる手段はなかった。





 

 

 『はいよ、上海亭』

「…こちら特車二課、沢渡真琴よ」

必死に自分の心中を堪える真琴、だが上海亭の親父は気にもしなかった。

『おう、メシ食べてないわりには元気そうだな。何のようだ?』

「あう〜っ、前言を撤回するわよ!! あらためて出前を頼みたいんだから!!」

『へへへ〜、何を言っているんだかよくわからねえね。何の話だ?』

「…だからアンタをバカ野郎呼ばわりしたことを撤回するって言っているのよ!!」

再び切れそうになる真琴に羽交い締めにする祐一たち。

せっかくの出前がパァーにされては堪らないからである。

あわてて名雪が電話に出る。

「うぅ〜、親父さんごめん。真琴本人も反省しているみたいだから」

『…まあいいや。それじゃあ注文は?』

期待していた言葉に思わず満面の笑みを浮かべる特車二課の隊員たち。

あわてて名雪は皆を見渡した。

すると皆、即座に注文を言う。

 

祐一:「ワンタン麺と餃子」

真琴:「あう〜っ、肉まん定食ご飯特盛り!!」

北川:「五目チャーハングリンピースぬきにワンタン麺のワンぬき」

整備員A:「僕、味噌ラーメンと大盛りライス」

整備員B:「チャーシュー麺特盛り!!」

整備員C:「チャーシューワンタン麺爆盛り!!」

整備員D:「ニラレバ炒めに豚汁、ライス大盛り、」

整備員E:「カレーライス大盛り、福神漬けぬき、生卵追加!!」

整備員F:「肉入りピーマン炒め、ライス大盛りに半ラーメン」

整備員G:「もやしそばとチャーハン!!」

整備員H:「大盛り味噌バターコーンラーメンとライス三倍盛り…」

整備員I:「中華丼大盛りは止めて麻婆丼超特盛り」

整備員J:「ニンニク入り肉ネギ四川炒めとニラタマライス大盛り、生卵追加…」

整備員K:「同じ奴でニンニク増量、それに生卵5つ…」

整備員L:「カツ丼大盛り!! じゃなくて天津丼大盛り!!」

整備員M:「エビチャーハンと半ラーメン」

整備員N:「ナス味噌定食大盛り変らず!!」

整備員O:「麻婆ラーメンと餃子ライス」

 

 

 「お母さんは?」

名雪の言葉に秋子さんは首を横に振った。

「ちょっと用事が出来て出かけるからいらないわ」

 

 というわけで秋子さんは特車二課を出て行った。

 

 

 

 「えっ〜!! 出前できないってさっき……」

再び上海亭に出前を頼むべく電話した名雪、そこに想像だにしなかった親父の言葉が聞こえてきた。

『考えてみたらツトムの奴戻らないしよ、それに夜は野犬が出るしよ、悪いな』

そこへ机の上を飛び越えてきた真琴が名雪の持っていた受話器を奪い取ると上海亭の親父を怒鳴りつけた。

「ちょっとアンタ汚いわよ!! 真琴たちの気を持たせておいて!!

もともと出前する気なかったくせに理屈並べて!!

野犬が怖い? いいわよ、真琴たちが護衛してやってもいいわよ!!」

すると上海亭の主人、売り言葉に買い言葉とでもいうのだろうか、その話にのった。

『おもしろい、やって貰おうじゃないか』

「やらいでか!!」

真琴はかつてない勢いで受話器をたたきつけるとあゆの襟首を取った。

「あゆあゆ!! 護衛任務に行くわよ!!」

「うぐぅ、ボクあゆあゆじゃないよ〜」

 

 哀れな犠牲者を引きずって真琴はハンガーへと駆けていった。

 

 

 「特車二課第二小隊二号機!! これより上海亭出前護衛のため出撃するんだから!!」

真琴の言葉に一斉に沸く整備員たち。

「がんばれよ〜!!」

「俺たちのメシ、無事と守りきってくれよ〜!!」

「特車二課に栄光あれ〜!!」

「ジ〜クまこぴ〜!!」

 

 その歓声を背に真琴と、そして哀れなる犠牲者あゆは特車二課を出撃していった。

そして…真琴とあゆは特車二課に戻ってこなかった……。

 

 

 

あとがき

う〜ん、あゆと栞、そして美汐の出番がないですね。

とくに美汐、アニメだと熊上さんの独白でストーリーが進んでいたからな。

こればかりはどうしようもないですね。

 

 

2001.01.06

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