機動警察Kanon第094話

 

 

 

 「けろぴ〜♪ けろぴ〜♪」

名雪は鼻歌を歌いながらケロピーにワックスがけしていた。

暇さえあればやっている名雪の行動である。

そんな名雪へ声をかけてきた人物がいた。

「あれ? まだ磨いているのか?」

「うん♪そうだよ北川くん」

名雪は即座に答えた。

そう、名雪に声をかけてきたのは整備班No2の北川潤その人だったのである。

「相変わらず熱心だな」

北川が感心したように言うと名雪は笑った。

「本当は整備のお手伝いとか出来たら良いんだけどね、私には難しすぎて分からないから。

せめてピッカピカに磨いてあげることぐらいはしてやらないとね♪」

そんな名雪の言葉を聞いた北川は、グッときたのだろう。名雪の喜ぶことを言った。

「それなら簡単に出来る整備、教えてやろうか?」

「本当!? 本当に教えてくれるの?」

「ああ」

名雪の言葉に北川は頷き、そして腕を組んだ。

「…でも班長に何か言われないかな?」

「香里が? どうして?」

「ああ見えても結構職人気質だからな。部外者にいじらせるのいやがるんじゃないかと」

「北川くん!!」

「はい!!」

いきなり現れた私服姿の香里の言葉に北川は直立不動で敬礼した。

ちなみにその額からは冷や汗が一筋たれている。

だが香里は気にせずに続けた。

「私は先に帰るから出動中の第一小隊と訓練中の二号機の世話、ちゃんと見ておくのよ」

「はい!! おつかれさまでした!!!」

その言葉に満足げに香里は頷くと一歩足前へ出、そして足を止めていった。

「私はそんなケチな性分じゃないわ。任務の差し支えない程度なら構わないわよ」

突然お言葉に思わずポカンとした名雪と北川であったがその意味する事を察するとパーッとあかるい表情を浮かべた。

「は、はい!!」

「香里!! ありがとう〜♪」

「いいのよ、別に」

そして香里は再び歩き始めようとした。

その時ハンガー内にサイレンが鳴り響いた。

その場にいた三人に緊張感が走る。



『臨港区第二21工事区にて海の家を名乗るレイバー出現。機種はサターンと判明。

第二小隊、直ちに出動せよ。繰り返す、第二小隊、直ちに出撃せよ』





 「やれやれ、また帰り損ねたわね」

香里はそう呟くと大声で叫んだ。

「ぼやぼやしないで!! 二号機のバッテリー交換急いで!! それと1号機、キャリアの載せて!!

ぼやぼやしていると東京湾に叩き込むわよ!!」

香里のいつもの大声に、特車二課はあわただしくなった。








 

 

 

 爆発音がとどろき赤々と炎が闇夜に照らし出す。

そんな中、一機のサターンがたたずんでいた。

その周囲には破壊活動を止めようとサターンを襲い、逆に返り討ちにあってしまったレイバーが

数台稼働不能状況になっていた。

そしてその側の資材置き場の片隅に一台のバンが止まっていた。

無論その中には佐祐理さん・舞・みちるの三人が第二小隊到着を待ちわびていた。





 

 「サターンも悪くありませんけど佐祐理の好みではないですね〜♪」

佐祐理さんがそう言うとみちるも頷き、そして言った。

「ちゃんとKanon来るのかな? 第一小隊のポンコツとはやりたくないんだから」

第一小隊隊長の小坂由起子警部補が聞けば激怒では済まされない暴言を吐いたみちる。

そんなみちるに舞は振り返りもせずに言った。

「…大丈夫。別の場所でもお祭りをキープしておいた。

そっちに第一小隊が確認済みだからこっちに来るのは……」

その時遠くからサイレンの音が響いてきた。さらに赤色灯の点滅まで見える。

どうやらこのお祭りの主賓の到着のようであった。

「やっと騎兵隊の登場ですね〜♪ みちる、しっかり見ておくんですよ」

「は〜い」

相変わらず緊迫感のない二人であった。

 



 

 

 「さ〜て、どうやろうかだぉ〜?」

すでに日がくれて今は夜、それ故に半分眠りかかっている名雪の言葉に真琴はきっぱり言い切った。

「そんなの決まっているわよ!! こういう暴力メカは蜂の巣にしてやるんだから〜!!」

そう言い切るや真琴は37mmリボルバーカノンを取りだし突貫する。

「往生しなさい〜!!」

だがサターンは冷静だった。

その場にはとどまらず、真琴に向かって同じく突っ込む。

そのせいで真琴は37mmリボルーバーカノンを発射するタイミングを逸してしまった。

弾丸が発射されない銃など単なる鉄のかたまりである。

というわけで何ら驚異にはならないリボルバーカノンを無視してサターンは二号機の顔面を殴りつけた。

たちまちガラスやら何やらの破片を撒き散らし二号機はその場にぶった倒される。

「わっ、ビックリ」

目の前の状況に名雪は思わずビックリした。けっしてそうは思えないがビックリしているのだ。

慌てて寝ぼけ眼で周囲を見渡す名雪。

そして名雪は何かを考えついたのであろう、ケロピーの股間部に装備されているワイヤーを手にした。

 

 

 「あう〜っ!」

名雪が何かしている間、真琴はずっとサターンに追い回されていた。

なかなか態勢が立て直せない中、サターンの拳で殴られまくり。

まるで石原行政改革担当大臣のごとくのサンドバック状態だ。

 

 

 そんな真琴を後目に名雪はケロピーの手にしたワイヤーを脇の鉄骨に投げた。

たちまちワイヤーはビルの基礎になる鉄骨に絡みつく。

「これでよしっと」

名雪は自分のやったことに満足げに頷いた。

そして真琴とサターンの方に機体を向ける。

 

 

 「くたばれ〜!!」

真琴はサターンに向かって37mmリボルバーカノンを数発ぶっ放す。

だがサターンは素早く避けると二号機に向かってエルボーを食らわす。

「あう〜っ!!」

何とか真琴はサターンのエルボーを避けきった。

 

 

 「上手いんだぉ〜」

そんな真琴の様子に名雪は思わずそう漏らした。

すると指揮車から祐一の怒声が響いてきた。

『上手いじゃない!! さっさと二号機の援護をしろ!!』

「わかったよ〜」

祐一の指示に名雪はケロピーもろとも突貫を開始した。

 

 

 「あ〜っ、あれお姉ちゃんの機体だ!!」

ケロピーの姿を見たみちるは思わずそう漏らした。

そして続ける。

「ビデオで見たときはあっちのやられているKanonより良い動きしていたよ。」

「あははは〜、そうですね〜♪」

 

 

 「真琴から離れるんだぉ〜!!」

突っ込んでくる名雪に迎え撃つサターン。

そのままサターンは二号機同じように顔面目指して殴りつけてくる。

「させはせん、させはせんのだぉ〜」

某中将のような台詞と共に名雪はサターンの攻撃をしゃがんで避ける。

だが完全には避けきれなかった。通信用のアンテナがサターンの拳で折られる。

 

 

 「へったくそ〜!!」

「何をやっているんですか!!もっと早く避けられるでしょうに!!!」」

みちると佐祐理の言葉に舞は呆れた表情を浮かべた。

「…二人はどっちの応援をしているの?」

 

 

 だが名雪は気にもとめていなかった。

サターンの一撃をかわした後、名雪はケロピーの態勢を立てなおす。

むろんサターンもすぐに振り返り、ケロピーに相対する。

「名雪!! そいつ取り押さえられなかったら許さないんだから!!」

「わかっているんだよ〜」

そう言うや名雪はケロピーが手にしたワイヤーをピンと張る。

するとワイヤーはサターンの足に引っかかった。

「かかったよ〜!!」

さらに名雪はケロピーの手にしたワイヤーを引き、さらにワイヤーを巻き込む。

するとワイヤーに足を取られたサターンは背中からぶっ倒れた。

その状況を見るや名雪はケロピーの左腕に装備されたスタンスティックを引き抜くと、サターンの

顔面に突き立てた……のは真琴だった。

「あ〜、真琴ずるいんだぉ〜!!」

「うるさいわね〜。早い者勝ちなんだから」

そしてサターンの顔面をスタンスティックでえぐり続ける。

「真琴、乱暴だぉ〜」

すると真琴は反論した。

「乱暴なのはこいつの方よ〜。見て、この顔。こんなに酷いんだから!!」

たしかに二号機の顔面は酷いものだった。だが…

 

 「あそこまでやる必要はあるのか?」

「…さあ?」

「真琴ちゃん、キレてる……」

「帰ったらお仕置きです」

呆れたように祐一・栞・あゆ・美汐はそう呟くのだった。

 

 

 

 

 そのころ様子を見ていたバンの中では佐祐理さん達が感想を言い合っていた。

 

 「なるほど、ワイヤーの長さには限界があるからぎりぎりのところで避けたと。

あはははは〜、なかなかやりますね〜♪」

佐祐理さんの言葉に舞は振り返り、言った。

「…あんな度胸がある操縦者だとは思わなかった」

「にょ〜、機械を信じているんだ〜。度胸もないくせにあんな無茶、意外と手強いかも」

「あはははは〜、そうですね」

佐祐理さんはみちるの言葉に同意した。

「これでますます楽しそうな予感してきたでしょう〜♪」

「うん♪ 楽しみ楽しみ」

「…それじゃあ車出す」

目的を達した三人は現場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 それから数日後のシャフトエンタープライズジャパン土浦研究所内。

そこでは佐祐理さんと開発責任者が歩きながら話しているところであった。

「この間の対戦ビデオ、見ましたよ。指先の器用さはさすがですね」

技術者らしい言葉に佐祐理さんは苦笑しつつも尋ねてみた。

「あははは〜、新型機にも出来ますか?」

すると開発責任者は頷いた。

「当然です。Kanon以上の器用さを与えて見せますよ。ただ規格からは完全にはずれますが」

「あははは〜、前から言っているようにこの機械で商売する気はないですから気にしなくていいですよ〜♪」

「それを聞いて安心しました。課長の許可を得ていたので思いっきり趣味に走ったものですから」

開発責任者はアクリル板をスリットに差し込み、暗証番号を打ち込んだ。

静かな機械音とともに重い頑丈なスチール扉が開く。

「さあ見てください。シャフトエンタープライズジャパン土浦研究所謹製TYPE−J9『グリフォン』です」

窒素ガスが漂う底では漆黒の巨人が整備員達の手によって着々と準備を整えているところであった。

「ブロッケン三機とファントムのデータを修正してこいつに移植します。

ですからみちるの負担は相当軽減できるはずですよ」

「あははは〜、あと一週間で動けるようになるんですね〜♪ 待ち遠しいです」

 

 

 

 これが特車二課とグリフォンとの長きにわたる戦いの始まりなのであった。

 

 

 

あとがき

いよいよグリフォン参上です。

といっても2・3話違うエピソードを展開、その後本格的に一回目のグリフォン編に行きます。

そうなれば美凪も出てくるはずです。

たのしみにしていてくださいね。

 

 

2001.12.24  一人淋しいクリスマスイブの日に

感想のメールはこちらから


「機動警察Kanon」TOPへ戻る  読み物部屋へ戻る   TOPへ