機動警察Kanon第093話

 





 

 

 「それで名雪は結局その生意気なガキンチョに仇を取って貰ったわけ?情けないわね〜!!」

翌日の第二小隊オフィスにて昨日の出来事を話したところ、真琴は速攻そう言いきった。

そのため名雪は思わずむくれた。

「ひどいよ〜、真琴〜!! すっごくあのゲームは難しかったんだから〜!!」

「でも名雪はクリアできなかったゲームをそのガキはクリアしたんでしょ」

「うぅ〜、それはそうだけど……」

「それじゃあやはり情けないじゃない」

「…あの子がゲームの天才だったからだよ〜!!」

名雪の言葉に真琴は大げさにため息をつくと髪をかき上げて言った。

「ならそのゲーム機、ここに持って来なさいよ〜。真琴がクリアするんだから」

「だ、だぉ〜。あんな大きいの持ってこられないよ〜」

 

 

 そんなあほな会話を祐一・美汐・あゆ・栞は情けない顔で見守るだけであった。

 





 

 

 

 「…それにしても佐祐理には呆れた。まさか帰国早々ゲームセンターに行くなんて。

社の方ではずいぶん佐祐理を捜していたみたい」

部下である川澄舞の言葉に佐祐理さんは「あははは〜」と乾いた笑い声をあげた。

「舞の言葉は容赦ないですね〜♪ でも別に遊びに行った訳じゃないですよ〜。

ちゃんとお仕事してきたんですからね〜♪」

「…何の?」

舞の素朴な疑問に佐祐理さんは胸を張って答えた。

「あはは〜♪ 市場調査とPRですよ〜♪ あそこに置いてあるゲーム機の半分は我が社の製品ですからね〜♪」

「…本音は?」

「あはは〜♪ 久しぶりに帰国したのにむさい中年おっさん達と顔を合わしたくないですからね〜♪」

佐祐理さんの言葉に舞は手のひらを額に当てた。

「…そのむさい中年おっさんたちがどう思うと考えているの?」

「あはは〜♪ 人がどう考えようと佐祐理には関係ありませんよ〜♪

やるべきことはちゃんとやっているんですからね♪」

「ねえねえ佐祐理〜♪」

その時、それまで傍らで黙ってテレビの画面に見入っていたみちるが声を上げた。

佐祐理と舞がみちるを見るとみちるはテレビの画面を指さしながら尋ねた。

「ねえねえ、みちるのおもちゃってこれのこと?」

そこには第二小隊と二度にわたって交戦したファントムの姿が映し出されていた。

だが佐祐理さんは首を横に振るとはきっぱりと言い切った。

「あははは〜♪ 残念ですけどそのレイバーはもう無いんですよ〜♪」

「なんだ、やられちゃったんだ」

みちるのなんらオブラードにくるんでいない言葉に佐祐理さんは苦笑し、舞に話を振った。

「舞〜♪ 答えてあげてくださいね〜♪」

すると舞は無表情のまま、それでいてちょっとだけ困ったような子を浮かべて口を開いた。

「…佐祐理は人が悪い。反省した。レイバー戦の基本は格闘戦だということをよく分かった」

舞の言葉に佐祐理さんは満足げに頷いた。

「あはは〜、舞も分かってくれたんですね〜♪

ビーム兵器も対電子戦用兵器もわざわざレイバーに載せる必要無いんですよ〜♪

もっともあれはあれでデータ収集の役に立ってくれましたけどね」

「…ファントムはグリフォンの肥やしというわけ」

「舞に正しいけれん味を見せてあげますね〜♪」

「佐祐理、これ!!」

その時みちるが叫んだ。

佐祐理さんがふたたびみちるに目をやるとみちるは再びテレビの画面を指さしていた。

「これってあのお姉ちゃんじゃない!?」

そこにはケロピーのコクピットに収まっている名雪の姿が映し出されていた。






 「あはは〜、これはビックリですね〜♪」

一瞬驚いた佐祐理さんではあったがすぐに気を取り直すとそう言った。

すると舞が険しい表情を浮かべて佐祐理さんに尋ねてきた。

「…佐祐理、知っているの?」

「あははは〜、昨日会いましたよ♪」

「…呆れた。少しは自重して」

舞は心底呆れたようにそう言ったが佐祐理さんは気にしていなかった。

「あはは〜、これはすごく楽しみですね〜♪」

楽しそうに笑う佐祐理さんの傍らでみちるもうれしそうにニンマリと笑い、画面に釘付けなのであった。




 

 

 

 

 「でやぁ〜!!」

「うりゃあぁ〜!!」

周囲に名雪と真琴の雄叫びが響き渡った。

それと同時に二機のKanonは勢いよく接近する。

「名雪、覚悟〜!!」

真琴はそう叫ぶや二号機を駆りケロピーを殴りつける。

「やらせはしないんだよ〜!!」

名雪は慌てることなく二号機の拳をかわした。

そしてそのまま片足を刈り、掌底を二号機の上半身に食らわせる。

「あう〜っ!!」

完全にバランスを失った真琴の二号機はそのまま背中から転倒した。

 

 「やったんだよ〜♪ 私の勝ちだね〜」

「あう〜っ、やられた〜」

グラウンドから響いてくる名雪と真琴の言葉に整備班長美坂香里は腕を組みながら呟いた。

「だいぶ様になってきたようね」

それに対して傍らの北川は意外な顔をした。

「へぇ〜、香里にしては最大級の褒め言葉だな」

 

 ガスッ

 

 「班長と呼びなさい、班長と」

「あい……」

香里の裏拳を食らった北川は鼻血をたらしながらそう頷いた。

その北川の返事に満足げに頷くと香里は指示を与えた。

「データのバックアップと機体のチェック。さっさとしなさい」

「へい!!」

そして香里はその場を去っていった。

 

 

 

 

 「あう〜っ、悔しいよ〜!!」

悔しそうに二号機からハンガーへ降りてきた真琴。

そんな真琴に対して名雪は笑顔で胸を張った。

「柔よく剛を制す。まだまだケロピーの方が体さばきは上だよね〜♪」

すると真琴は反論した。

「あう〜っ、いい気にならないでよね!! 剛よく柔を制すともいうんだから!!

。それに実戦の相手は私みたいに行儀良くないんだからね!!」

「で、でも…」

名雪が反論しようとすると真琴はきっぱり言い切った。

「実戦で何より有効なのはね、しゃ」

「射撃っていうんでしょ」

「そ、そうよ!なのになぜその射撃の訓練をやらせてくれないのよ!!」

「真琴」

背後からの突然の声に真琴はびくっとすると振りかえった。

「見せて貰いましたよ、真琴。だいぶ動きは良くなったようですね」

「こ、これも美汐のおかげ!!」

美汐の褒め言葉に真琴は直立不動のまましゃちほこばって答えた。

すると美汐はかすかに微笑んだ。

「そう言ってもらえるのはうれしいです。しかしまだまだ甘いようですね」

「そ、そう!?」

「ええ、そうです」

真琴の言葉に美汐は頷くととどめを刺した。

「今日も居残り特訓です。逃げないように」

そして美汐はハンガーを出ていく。と突然くるりと振り返った。

「真琴」

「な、何!?」

「『剛能く柔を制す』ではなくて『剛能く柔を断つ』です。ちゃんと覚えておいてくださいね」

「あう〜っ……」

そして美汐は今度こそ出て行ったのであった。

 






 

 

 

 ところかわって茨城県土浦市。

数多くの企業の研究所が建ち並ぶこの町にシャフトエンタープライズジャパンの研究所もあった。

そのシャフトエンタープライズジャパン土浦研究所内。

そこに佐祐理さん・舞・みちるの三人がいた。

 

 

 

 「あははは〜、資料見せて貰いましたけど精度今ひとつですね〜」

佐祐理さんの歯に衣着せぬ言葉に開発責任者は苦笑しながら頷いた。

「反応速度と精度の向上は今のところ限界です。

一応材料の選別からもう一度洗い出してみますが…良いんですか?

またかなりの金食いますけど」

開発責任者のもっともな心配、しかし佐祐理さんはいつものように笑い飛ばした。

「あははは〜♪ まだ戦闘機10機分も使っていないじゃないですか〜♪」

「しかし生産ラインに載せられないものを設計しても……」

開発責任者はもっとも至極なことを言う。

だが佐祐理さんは相も変わらずマイペース(傍若無人ともいう)だった。

「あははは〜、あなたたちは営業マンじゃないんですからそんなことは気にしなくていいんですよ〜。

前も言いましたけどこの機械に関しては採算度外視して構わないんですよ〜♪」

「…それだと会社は赤字を出すことになりますけど」

やはり開発責任者はまじめだった。

だが佐祐理さんはやっぱりマイペース(傍若無人ともいう)だった。

「あははは〜、心配症なんですね〜♪ でも気にしなくて大丈夫ですよ〜。

儲けは他の部門で出せば良いんですからね。スペースシャトルから爪楊枝まで。

うちの会社はそれが十分出来るんですからね♪」

そう言うと佐祐理さんは振り返った。

「みちる〜♪ 寄り道しちゃだめですよ〜」

「は〜い」

みちるが駆け寄ってきたところで開発責任者は一枚のアクリル板を壁のスリットに突き刺した。

すると透明なアクリル板に1から0までの10個の数字が浮かび上がる。

「いいなにくよくやくよ、っと」

開発責任者は手早く暗証番号を打ち込んだ。

すると核の直撃にも耐える分厚い鉄の扉が開き始める。

「…これがみちるのおもちゃ」

舞の言葉にみちるは真剣な表情で開く扉を見続ける。

やがて完全に扉が開ききり、部屋の中に一歩足を踏み入れたみちるはおもちゃに目を輝かせた。









 

 

 「やけにうれしそうですね♪」

土浦からの帰り道、車中で助手席の佐祐理さんは後部座作席で満面の笑顔のみちるにそう声をかけた。

するとみちるはニヘラ〜と笑いながら頷いた。

「ねえねえ佐祐理、あれいつから動かせるの!?」

「…形になるまであと一週間。…動かせるようになるのは二週間後」

「え〜、そんなにかかるの?」

佐祐理さんに代わって答えた舞の言葉にみちるは不満を漏らした。

するとそんなみちるを佐祐理さんはたしなめた。

「あははは〜。みなさんも徹夜で頑張っているんですからね〜♪ 我が儘は言っちゃ駄目ですよ〜♪」

「それはそうだけど…」

すると舞がぼっそり言った。

「…その代わりと言っては何だけど今夜はイベントを用意した」

「何何!?」

みちるの質問に舞ではなく佐祐理さんが答えた。

「みちるは生でkanonが動いている所見たいって言っていたよね〜♪」

そんな佐祐理さんの言葉にみちるは目を丸くしてポカンとするのであった。

 

 

 

あとがき

今回は圧倒的に佐祐理さんメインでしたね。

それにしても舞は台詞が少ないし、みちるも結構難しいかもしれない。

まああゆと栞は台詞はおろか出番も無かったんですけど。

なお美凪はもうしばらくお待ちください。

 

 

2001.12.23  名雪の誕生日に

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