機動警察Kanon第092話

 

 

 

 「ここが有意義な場所な訳?」

名雪は祐一に連れられてやって来た場所を見た瞬間思わずそう言葉を漏らした。

すると祐一は頷いた。

「喫茶店でパンフレットを読んでいるだけよりはましだろ」

「それはそうだけど……」

名雪は煮え切らない態度でそう言った。

なぜならばそこは…ゲーセンことゲームセンター(それともアミューズメントパーク?)だったからだ。






 「私こういう店にはいるのはじめてだよ」

名雪の言葉に祐一は意外そうな顔をした。

「本当か? あの町にもあったのに?」

「だ、だって毎日私は部活で忙しかったしそんな暇無かったんだよ〜」

「それもそうか。つまりこれは名雪にとってゲーセン初体験ということだな」

「そうだよ〜。だからどんなゲームが良いのか分からないよ〜」

そこで祐一は名雪のためにどんなゲームが良いのか考え込んだ。

「オーソドックスなのは格闘ものだが……名雪には無理かな?」

祐一の言葉に名雪は頷いた。

「絶対に無理だよ〜。第一あんなに複雑な技を入力できないよ〜!!」

「それほどのものでもないんだが」

ようは暗記してしまえばそれ程難しいものではない。

しかし初心者の名雪には高すぎるハードルのようだ。

そこで祐一は次に考えついたゲームを言った。

「ダンスゲームはどうだ? あれなら名雪でも出来るだろ」

「それってどんなの?」

そこで祐一は名雪をゲーム機の所へ連れて行くことにした。

様々なゲーム機が立ち並ぶ中を二人はグングン突き進む。





 

 「あ!見てよ祐一〜」

突然の名雪驚いた声に祐一は立ち止まった。

そして名雪が指さした方向を見、祐一も驚いた。

「パトレイバー!? あんなゲーム機、いつの間にか作られていたんだな」

 

 その二人の目の前にはパトレイバーと名付けられた大型の筐体が置かれていた。

白と黒のツートンカラーに染められたそのゲーム機の前には数人の男たちがたむろって居た。

「ちぇー。ミッション3の途中までなら行けるんだけどなー」

ゲームオーバーになり筐体から出てきた男の言葉にたむろっていた友人らしき男たちは声をかけてきた。

「ま、そんなところだろうな」

「そうそう、このゲームは相当難しいもんな」






 

 

 「私やる」

そんな男たちを見た名雪はそうきっぱり言い切った。

そして手にした鞄を祐一に渡すと筐体の中に潜り込んだ。

そして財布から100円玉を取りだし投入する。

するとたちまち“MISSION01”と画面に表示された。

『おいおい、やり方分かっているのか? 説明を読まないでやると金の無駄になるぞ』

筐体の外から祐一が名雪にそう声をかけた。

すると名雪はきっと少しだけ表情を過硬くした。

そして筐体の中にあるスティックやらボタンを押し始めた。

「え〜っとこれが前進、これで後退、それでこれが照準合わせ……。

なんだ、本物とは全然違うよ〜」

そんな名雪に祐一は思わずため息を漏らした。

『何やっているんだ名雪!! もうゲームは始まっているぞ』

「えっ!?」

慌てて名雪は目の前のモニターに目をやった。

するとそこにはミサイルをぶっ放した敵というか目標レイバーの姿があった。

「わっ!! ど、どうしたらいいんだよ〜」

「シールド!! シールドを使うんだ!!」

「ど、どれ!?」

しっかり説明を読んでいなかった名雪はシールドはどうやるのか分からなかった。

だからミサイルは見事に直撃した。

たちまち画面には“ミサイルの直撃を受けました。ダメージポイント50  警告……”と表示された。

そしてその警告メッセージはすぐに消え…見知らぬ光景へと変っていた。

「あれ? さっきと風景が違うよ?」

戸惑う名雪に祐一は即座に指揮した。

『ミサイルの衝撃で向きが変ったんだよ!! 回れ、回れ!!』

慌てて名雪は方向転換した。

すると元に風景に戻り、名雪はただちにミサイルをぶっ放してきたレイバーを探した。

「一体どこにいるんだろう?」

『画面切り替えして地図を映し出せ!!』

「あ〜、いたよ〜」

『暢気にそんなこと言っている場合か!!』

「祐一!! うるさいよ〜」

『やかましい!! 搭乗員は指揮者の指揮に従うべし!!』

「あのね〜ってわぁ〜!!」

 

 続く第二撃が直撃したのだ。

その様子を見物していたギャラリーは思わず失笑した。

「下手くそだな」

「まったくだぜ。俺初めての時でもあんなに酷くはなかったな」

「まあ下には下がいるということなんだろうな」






 そして名雪が筐体から姿を現した。

「このゲーム難しすぎるよ〜」

だが祐一は取り合わなかった。

「腕の差だな。お前が下手なだけだよ」

「うぅ〜、祐一酷いよ〜」

「まあ見ててな」

名雪から受け取っていた鞄を返すと自ら筐体へと潜り込み。ゲームを始めた。

 

 

 

 “GAME OVER”

 

 口ほどになくあっさりとゲームが終了してしまった祐一。

言葉無くうつむいている祐一に筐体をのぞき込んだ名雪は笑いながら言った。

「見せて貰ったよ、祐一♪」

「…結構難しいんだな、このゲーム」

祐一は乾いた笑い声を上げ、筐体から出てきた。

するとそこに「あはは〜」ときわめて朗らかな笑い声が響いてきた。

 

 「何だ?」

祐一が笑い声の響いてきた方向に視線をやると…そこには大きなリボンをしたスーツの美女が立っていた。

「いや〜駄目です、駄目ですね〜♪ 見ていられませんね〜♪

ここは一つ佐祐理がお手本を見せてあげましょう♪」

「…あなたは」

「誰なんですか?」

だが佐祐理と名乗った美女は祐一と名雪の言葉に

「マジカルさゆりんと呼んでください♪」

と言って筐体の中へと潜り込んでいった。






 

 

 筐体の中の佐祐理と名乗った美女は無駄のない動きで敵を撃破していく。

そのあまりの手際の良さというか技量にギャラリーは大いにわく。

そのゲームが非常に難しく、誰一人クリアしていないというのだからなおさらだ。

一機、また一機と撃破していくたびに歓声がわく。

「また倒した」

「すごいぞ!! 後一面で完全クリアだ!!」

「俺、ここまでゲームが進んでいるの初めて見た」

 

 そんなギャラリーの声を無視して美女は目の前のゲームに集中していた。

「あはは〜、これでお仕舞いですよ〜」

そう言うや敵にめがけて発砲する。

しかしその弾丸は目標の腕に命中しただけ、そのまま最後の敵は逃げ出した。



 

 「あ〜!! 惜しい!!」

「最後の敵が逃げちゃうぞ!!」

「頼む!! エンディングを見せてくれ!!」

 

 「あはは〜、お任せください」

すかさず敵を追いかける。

細い入り組んだ道を敵は逃げる。

だが的確に敵の進路に回り込んだ。

そして

「あはは〜、これで決まりですよ〜」

とトリガーを引き絞る。

たちまち最後の一機は爆散、ゲームは終了した。

 

 「警視総監賞ですか。あはは〜、うれしいですね」

美女はそう笑うとハイスコアーを入力し始めた。

もちろんダントツの1位である。

「え〜っとKURATA SAYURIっと」

入力し終えると彼女は筐体の中から姿を現した。

するとギャラリーは一斉に歓声と拍手で出迎えた。

それに対して彼女は手を振ってそれに応える。

そして彼女は祐一と名雪に声をかけた。

「あははは〜、これが見本ですけどいかがですか? もう一回やってみます?

もっともこのゲーム、本職のレイバー乗りでもないとそうとう手こずると思いますけどね」

その言葉を聞いた名雪はカチンと来た。

「祐一、ちょっと」

そう言って祐一の手を引っ張ってゲーセンの片隅に引きずり込んだ。

「な、何だよ名雪?」

「100円玉いっぱい持っている?」

「まだやるつもりなのか?」

祐一の言葉に名雪は頷いた。

「もちろんだよ〜。プロのメンツがあるでしょ。第一ゲームなんかに負けてたまるかだよ〜」

そこで祐一は祐一は財布に突っ込んであった100円玉を何枚か取り出し、名雪に手渡した。

「ありがとう祐一。二面はクリアするんだよ〜」

そう言ってパトレイバーの筐体へと名雪は向かう。

その後ろ姿を見送った祐一は呟いた。

「…二面はクリアしたいか。軽いメンツだな」




 

 するとそこへ美女がやって来た。

そして祐一に尋ねる。

「どうでした? あのゲームをやった感想は」

それに対して祐一は率直に答えた。

「良くできていると思うな。ただ……」

「何ですか? 言ってください」

そこで祐一は思ったことをきっぱり言い切った。

「ゲームとはいえあんなに武装したレイバーがぞろぞろ出てくるのはどうもね」

「あははは〜、現実味に欠けますかね」

「まあそういうことだな。元々レイバーは作業用なんだし」

「将来はどうなるか分かりませんけどね♪」

そして美女はにっこり微笑んだ。

「率直な意見ありがとうございます。実はあのゲーム、うちの会社で作ったんですよ」

「ゲーム屋さんだったんですか」

祐一はビックリして思わずそう言った。

すると美女はスーツの内ポケットから名刺を取りだし、祐一に渡した。

「“倉田佐祐理”さんですか。

えーっとシャフトエンタープライズジャパン企画七課課長さんと」

「あははは〜、佐祐理は堅苦しいのは好きじゃないんですよ〜。佐祐理って呼んでくださいね〜♪」

「佐祐理さんですか。ところで課長さんが何でこんなことを?」

すると佐祐理さんはまた笑った。

「市場調査をかねてPRですよ〜♪」

「それにしてもあのゲームの腕前は大したものです。そうとう練習したんでしょ?」

「はい、手の皮がむけるまで一日中練習していました♪」

「(まったく暇な人だな)」

「別に暇ではありませんでしたけど」

「…何で思ったことが佐祐理さんに?もしかして本当に魔法か何か使えるんですか?」

マジカルさゆりんと名乗っていただけに祐一は佐祐理さんに思わず聞き返した。

すると佐祐理さんは首を横に振った。

「いいえ、口に出していましたけど」

「ぐわぁ!! またこの癖か……」

 

 祐一が自らの悪癖を嘆いていると佐祐理さんはいきなり祐一を無視して筐体へと近づいた。

そしてパトレイバーの前に並んでいたツインテールの少女に声をかけた。

「みちる。こんなところで一体何をしているんですか?」

すると満ちると呼ばれた少女は唇をとがらせた。

「だって佐祐理、みちるの目の前で10面完全クリアしたんだよ〜。

みちるはまだ9面しかクリアしていないのに〜」

すると佐祐理さんはみちるの耳元に小声でささやいた。

「みちるの場合はぶっけ本番で9面ですよ。

佐祐理のように何百回も練習しての完全クリアであはありませんから。

それにみちるにはちゃんともっと立派なおもちゃ用意してあるんですよ」

「1回だけ、1回だけね。10面クリアしたらそれでお仕舞いにするから」

みちるの言葉に佐祐理さんは渋々頷いた。

「それじゃあ1回だけですよ」

「わかっているって。1回で充分だよ」









 

 「このゲーム、絶対本物を扱うよりも難しいよ」

あっさり返り討ちにあい、筐体から出てきた名雪はくやしそうにぎゅっと拳を握りしめながら呟いた。

するとそこへ先ほどの少女…みちるが声をかけた。

「お姉ちゃん、みちると交換だよ」

「このゲーム、難しいんだよ〜」

名雪は自分の率直な感想をみちるに言った。

するとみちるは頷いた。

「知っているよ。それよりちょっと手を出して」

「こう?」

名雪は言われるままに手を出した。

するとみちるは

「仇討ってあげるね〜!! 見ていてね〜♪」

と叫び、名雪の手のひらを力強く叩くと筐体の中へと入っていった。

 

 (本職のレイバー乗りじゃなければてこずるんじゃなかったけ?)

と心の中で考え込む名雪を残して。

 

 

あとがき

御覧の通りバド=みちるです。

「Air」をプレイすれば誰でも納得出来ると思いますけどね。

ちなみに美凪もちゃんと出しますとも。

みちるとセットでね。

とはいえ・・・、しばらくは出番ないだろうな。

 

 

2001.12.16

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