機動警察Kanon第090話

 

 

 

 「大丈夫、美汐ちゃん?」

とりあえず何かから逃れることが出来た名雪と美汐はちょっとしたピットに待避していた。

あのままでは機体の状況を充分にチェック出来ないからだ。

すると美汐は頷いた。

「バランサー以外は支障ないようです。それより名雪さん、残弾は?」

美汐の言葉に名雪は37mmリボルバーカノンのシリンダーを確認した。

するとそこには…1発の未使用弾が残っているだけであった。

「…残弾は1発だけだよ」

「私は1発も撃っていませんので6発残っていますが訳の分からない何かに対応するには不十分ですね」

「うん、私もそう思うよ」

美汐の言葉に名雪は頷き周囲を見渡した。

すると待避しているピットに多量のボンベ…液化窒素やら液体酸素が置かれていたことに気が付いた。

「これは……」







 

 その時Kanonの計器が再び警報音を響かせた。

一度は逃げ切った何かが再び近づいてきたのである。

すると美汐が前に出ると37mmリボルバーカノンを構えた。

緊迫した空気が流れるの中…とうとう何かがその姿を現した。

その姿は…恐竜というか怪獣というか。

まあ爬虫類に何やら子供が落書きで色々付け加えたような…まあ生物的には訳の分からない化け物であった。

そしてその化け物が牙をむいて襲いかかってきた!!




 

 

 「くっ!」

美汐は冷静に反応した。

即座に37mmリボルバーカノンを発砲する。

 

ズキューン ズキューン ズキューン ズキューン ズキューン

 

 しかしいつものレイバーとはあまりに勝手が違うためその照準は狂っていた。

発射された弾丸は怪物の急所をとらえることが出来ず、その牙は二号機をとらえた。

「きゃぁー!!」

美汐が美汐らしくない声を上げて叫んだ。

まあ誰だってこんな怪物に襲われたら悲鳴を上げざるをえないだろうが。

あわてて美汐は37mmリボルバーカノンで銃握で殴りつける。

そこへ恐ろしいまでに冷たい冷気が吹き付けてきた。

それは…名雪が手にした液化窒素のボンベから放たれたものであった。

たちまち怪物は氷付け、その動きを止めた。

見た目が爬虫類なのでどうやら変温動物? なのかもしれない。

 

 「美汐ちゃん、今のうちに逃げよう」

動きを止めた怪物を目にした名雪はそう言った。

すると美汐は頷いた。

「そうですね、さっさと逃げることにしましょう」

 

 というわけで二機のKanonは再びベルトコンベアーに掴まり、その場をトンずらした。



 

 

 

 

 「うにゅ〜、どうしよう?」

名雪は目の前の状況に非常に困惑していた。

そこは東京湾中部作業タワー。

そこではレイバーを運用することはない、ほとんど機械化された施設である。

というわけでレイバーが稼働できるゆとりはないのだ。

つまり完全に退路は断たれたわけである。

その間にもKanonの計器は警報音をがなり立てている。

今も怪物は二機のKanonに近づきつつあるのだ。

「やはりあれくらいで参る様な奴ではなかったですね。逃げ道もないですしもう王手といったところですか」

「うにゅ〜」

その時名雪はひらめいた。

即座にケロピーを壁中にはりめぐされている鉄骨やら通路に掴まって上り始める。

「名雪さん!?」

美汐は一瞬戸惑ったがすぐに状況を理解した。

すぐにケロピーの後に続いて上り始める。

軽量級のKanonだからこそできる事だ。

 

 

 二機のKanonは順調に上を目指す。

無論その後には累々と壊れた通路やら鉄骨が残っているのだが(笑)。

それでも公務執行中だし命がかかっているのだから誰も文句は言うまい。

だが順調に上る二人にも不安というか心配はあった。

なぜならば彼女たちの後を怪物も付いてきていたからである。

いまも足下の方で金属音がなりやまない。

怪物も彼女たちのように上ってきているからだ。

その時、名雪はとんでもない物を見つけた。

 

 

 「あっ!」

名雪は目の前にある物体に驚きの声を上げ、ケロピーの操作を思わず止めてしまった。

その様子に美汐も機体を止め、名雪に尋ねてきた。

「一体どうしたというのですか?」

すると名雪はさすがに少し慌てたように言った。

「た、大変だよ美汐ちゃん。ば、爆弾だよ〜!!」

「カウントはどうですか?」

美汐の言葉に名雪は爆弾をよく観察する。

そしてすぐにその結果を報告した。

「あと18分ちょっとしかないよ!」

「…それだけでは爆弾の解体は無理です!!」

「うぅ〜、どうするんだよ〜」

「ここで爆発したら大惨事です!! 爆弾をはずしてください!!」

「わかったよ〜!!」

名雪は美汐の言うがままに爆弾をその場からはずした。

仕掛けられている場所が場所だけにトラップは何も設置されていないのが不幸中の幸いであった。

名雪でも問題なく取り外せたからである。

しかしその間にも怪物は二人に接近しつつある。

二人は急いで上を目指して上っていった。

 

 

 

 二機のKanonが東京湾中部作業タワーの頂上に着いた時、すでに太陽は沈みかかっていた。

東京ジオシティーに潜ったのは昼頃、太陽がサンサンと輝いていたのだからもうずいぶん時間が経っていたわけだ。

しかし名雪と美汐の危機はまだ去っては居なかった。

すぐ足下に怪物が迫ってきていたからである。

「美汐ちゃん!! すぐそこまで来ているよ!!」

「わかりました。もうこれ以上の逃げ場所はありません、ここで戦います」

そう言うと美汐はケロピーの隣に二号機を並べ、そして名雪に言った。

「名雪さん」

「一体何?美汐ちゃん」

「…命令違反は許されることではありませんが助けて貰ったことに関してはお礼を言います。ありがとう」

あらたまって言われた美汐の言葉に名雪は思わず照れた。

「や、やだな〜。私たち仲間だよ」






 

 その時、とうとう怪物が東京湾中部作業タワーの屋上に達した。

咆哮を響かせながらその巨体を現す。

その姿を確認した名雪は思わずケロピーの手中にある爆弾に目をやった。

そのカウンターは…残り一分を切っていた。

 

 「うにゅ〜、負けないよ〜」

名雪は即座に37mmリボルバーカノンを引き抜き、怪物にめがけて発砲した。

たった一発だけ残った弾丸はまともに怪物の頭に直撃する…が怪物の致死傷にはならなかった。

ただ痛みに耐えて大きな咆哮をあげるだけである。

それ故に名雪は残弾0のリボルバーカノンを怪物の頭に投げつけた。

それなりに重い物体である故に怪物にもそれなりのダメージを与えられたらしい。

そしてそのまま左腕に装着されているスタンスティックで殴りつける。

たちまち高圧電流が流れ、怪物はさらなる咆哮をあげた。

「残りは何秒ですか!?」

美汐の言葉に名雪は再び爆弾のカウンターを覗いた。

するとすでに爆発まで残り時間30秒あまりであった。

「ど、どうしよう!? もう時間ないよ〜」

その時怪物がケロピーに襲いかかってきた。

思わず名雪は爆弾を手にした左腕で怪物の牙からケロピーを守った。

しかしケロピーの左腕はがっぷり食いつかれた。

爆弾を手にしたまま・・・。

この状況に名雪は焦った。

すでに爆弾爆発まで30秒を切っている。

このままでは爆発に巻き込まれてケロピーもろとも木っ端みじんだからである。

あわててケロピーの左腕に力を入れ、なんとか怪物の牙から逃れようとする。

その時、力を入れすぎたケロピーの左肩がすぐ背後にいた二号機に勢いよくぶつかった。

その反動で二号機は立っていた通路から転落した。

無論黙って落ちるような美汐ではない。

何とか通路にしがみついて落下を免れた美汐は立った一発だけ残っていたリボルバーカノンを

怪物にめがけて発砲した。

その弾丸は…ケロピーの左腕に直撃、何とか名雪とケロピーは爆弾の驚異から一歩逃れることが出来た…

がそのまま背中から転倒した。

そしてリボルバーカノンの弾丸を撃ち尽くした美汐はもうやることは無いと言うことはなくコクピットから飛び出した。

そして急いで屋上に設置してあった大型クレーンへと走る。

そしてその運転席に飛び込むと急いでスイッチを入れた。

たちまち計器類が光を放つ。

そしてきっと運転席から怪物をにらみつけた。

そこでは倒れているケロピーにまさに怪物が襲いかかるところであった。

「くたばりなさい!!」

美汐はそう叫ぶやレバーを一気に押し込んだ。

すると何十トンもある巨大な物資をも持ち上げられる巨大なクレーンがうねりを上げて怪物を襲いかかった。

そして野球のバッドがボールをジャストミートするかのようにクレーンは怪物の胴体を直撃した!!

そのまま怪物は爆弾を加えたまま…東京湾中部作業タワーの頂上から転落した。

 

 そして数秒後…海中で大爆発を起こした!!

 

 「やったよ〜」

巻き上げられた海水が降りしきる中、ケロピーのコクピットの名雪とクレーンの運転席の美汐は感慨深げに

眺めたのであった。




 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 

 「結局報告書にはどう書いたの?」

屋上でひなたぼっこをしていた名雪は美汐に尋ねた。

すると美汐は表情を変えずにきっぱり言い切った。

「何も書いていませんよ」

「えっ!?」

美汐の言葉に名雪は思わず聞き返した。

しかし美汐は気にせずに答えた。

「結局あれの死体は上がりませんでしたからね。第一、誰も信じたりしませんよ」

「それもそうだよね〜」

「でもあれはきっと中生代の恐竜が汚染された環境に適応し、独自の進化を遂げたものに違いありません。

でないと説明つきませんから」

理路整然とした美汐の言葉に名雪は笑いながら言った。

「別にそんな難しく考える必要はないと思うよ。ただの怪獣でいいんじゃない?」

「…名雪さん、あなたはどうしていつもそんな風に気楽に考えるんですか?

もっと現実を直視してください!! ですから失敗が多いですよ!!」

暢気な名雪もさすがにこの美汐の言葉にかちんと来た。

「それじゃあ中生代の恐竜がどうやって生き延びてきたんだよ〜?」

「…ですからどそれが独自の進化ということなんです!!」

「じゃああの怪獣の奥さんや子供は!? それに何を食べていきていたんだよ〜?」

 


 いつのまにか二人の会話は脱線した(笑)。






 

 そんな二人を秋子さん・祐一・あゆ・真琴・栞の5人は微笑ましく見物していた。

「…あの二人は一体何を言って居るんだ?恐竜とか怪物とか」

祐一が腕を組みながらそう言うと秋子さんが微笑みながら言った。

「龍神でもみたんじゃないのかしらね」

「うぐぅ!! 龍神怖いよ〜」

「えうぅ〜、龍神はもういいです……」

神主から伝説を聞いていた貧乳コンビはそう言ったがその話を聞いていなかった真琴は目を輝かせた。

ニコニコしながら真琴は名雪と美汐の口論に割って入った。

「ねえねえ、美汐に名雪〜。龍神を見たって本当〜?」

「龍神じゃないよ!! 怪獣だよ〜怪獣〜!!」

「突然変異した恐竜に決まっています!!」

 

 真琴の乱入は火に油を注ぐ結果となったのであった(笑)。

 

 

 

あとがき

爆弾の時間が刻む緊迫感、さすがに私では表現し切れませんでした。

アニメなら簡単だろうにね。

それはそうとそろそろグリフォン編に突入したいな〜って思っていますね。

 

 

2001.12.02 このSS書いている間に地震あった

 

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