機動警察Kanon第089話







 

 

 

 「それにしても封印されていた古井戸からあなた達が出てきたときは肝を冷やしましたぞい」

神主は笑いながら秋子さんにお茶を勧めながら続けた。

「私はてっきり龍神が出てきたのかと思いましたでな」

「龍神って何ですか?」

秋子さんは出されたお茶をすすりながら神主に尋ねた。

すると神主は頷き、語り始めた。

この地で昔から語り付かれてきた古き物語を……。














 

 

 

 「柳也どの、出陣の準備は整われたのか?」

目の前にいる大鎧に身を包んだ武者に少女が声をかけた。

少女はたいそう立派な着物を着ており、その身分の高さが伺われる。

すると柳也と声をかけられた武者は頷いた。

「ああ、見れば分かると思うがな」

確かにみれば柳也が準備を整えていたのは一目瞭然であった。

兜こそ被っていないものの腰には太刀を、背中には矢を、手には大弓をしていたからである。

すると神奈は口をとがらせた。

「それくらい余とて見てすぐに分かるわ!ただ…心構えとかを聞いておったのじゃ!!

…それよりも何でおぬしが龍神退治に出るのじゃ? 
おぬしの役目はこの屋敷の警護であろうに」

すると柳也は首筋をポリポリかきながら答えた。

「仕方があるまい。このド田舎にはもののふの数は少ない。

まして俺のように実戦経験豊富な優れたもののふはな」

「しかしじゃな……」

「あまり柳也様を困らせてはいけませんよ、神奈様」

そこへ声が割り込んできた。

しかし神奈は振り返りもせずに声の主に向かって叫んだ。

「裏葉は黙っておれ!! 余は柳也どのを心配して申しているというのに……」

神奈のその言葉に柳也と裏葉は即座に反応した。

「おっ、俺のこと心配してくれているのか?」

「あらあら、神奈様いつのまに柳也様とそのような関係に?」

「二人とも余をからかうは止めい!!」

神奈は顔を真っ赤にして叫んだ。

が柳也と裏葉の二人はニヤニヤと言うかニコニコというか、まあ笑っていた。

「それではいい加減に神奈をからかうのはやめにするか」

「そうですね。私もそう思いますし」

「…お主らは主を何だと思っておる」

 

 主君にたいしてこれっぽっちも尊敬の念のない二人の言葉に神奈は人知れず心の中で涙するのであった(笑)。




 

 

 

 「あなた、気をつけて行ってくださいまし」

夫の出陣に白穂は不安げに言った。

すると彼女の夫は笑い飛ばしていった。

「柳也様と一緒だから大丈夫に決まっている。それに子供の顔を見ずに死ねるか」

「はい」

夫の言葉に白穂は自分のお腹を愛おしげに撫でた。

ちょっとだけ大きくなったそこには彼女と夫の愛の結晶がすくすくと成長しているところである。

そんな白穂をうれしそうに夫は眺めていたが傍らに置いてあった長刀を手にすると言った。

「それじゃあ行って来る」

夫は白穂を軽く抱きしめるとポンポンと背中を叩いた。

そして……仕える主の元へと走っていった。

 




 やがて出陣? の時がやってきた。

柳也の郎党が馬の手綱を手にやってくる。

「…気をつけて行って来るがよい」

「お気をつけて柳也様」

神奈と裏葉の言葉に柳也は頷くと兜を被った。

そして馬にひょいと飛び乗る。

「それでは行って来る」

そしてちらっと二人を一別すると柳也は馬に軽く鞭を入れると数人の郎党を…屋敷を後にした。

この地を荒らす龍神を退治するために……。













 

 

 「はぁ〜、愛する男女が戦いのために引き裂かれる……。ドラマみたいで素敵です……」

神主の話を聞いた栞はホーッとうっとりとした目つきでため息を漏らした。

するとその言葉を聞いたあゆが反論した。

「でも栞ちゃん、それじゃあかわいそうだよ!!」

だが栞は「わかっていませんね」と言わんばかりに人差し指を振りながら言った。

「あゆさん、分かっていませんね。こういう話は必ず最後に夫は愛する妻の元に帰ってくるものなんですよ。

そうだったんですよね、神主さん?」

すると神主は苦笑いしながら言った。

「残念ながらこの話は作り話ですので続きと言われても……」

「え〜っ!? 作り話ってどういうことですか!?」

栞の剣幕に神主は腰が引けつつも何とか答えた。

「じ、実はこの話は…江戸時代に作られた話でしてね。

まあ龍神退治の伝説は平安時代ですからあきらかに作られた話というわけでして……。

第一、妊婦が鎧に触れるというのは超一級の御法度だったんですよ」

「そ、そんな……」

栞は絶望の声を上げたが、すぐに気を取り直した。

「で、でも同じようなことはきっとありましたよね!?」

「残念ながら当時の文献によると龍神退治に参加した100人、誰一人帰らずその近くに住んでいた

翼を持つ聖人がその霊力で竜神を封じ込めたとありますからたぶん戻ってはこれなかったと……」

「えぅ〜、そんなこという人、嫌いです」

 

 そんな栞の話をニコニコしながら秋子さんは言った。

「するとあそこにあった沢山の人骨はその時の武士たちのなれの果てですかね?」

その時、持ってきた無線機が呼び出し音を発したので秋子さんは無線機を手にした。

「はい、水瀬ですけど」

すると無線機から祐一のあわてふためく声が響いてきた。

『秋子さん!! 名雪たちとの交信が途絶えました!! 音信不通です!!』

「あら、そうですか」

秋子さんは落ち着きはらってそう答えたがあゆと栞はすっかりあわてふためいていた。

「ど、どうしよう!? 名雪さんと美汐ちゃんが……」

「た、大変です!! す、すぐに救出に行かないと……」




 

 そんなあわてふためく二人を見た手錠をかけられた犯人は「ふっ」と鼻で笑って言った。

「どうやら山彦は失敗したようだな。だがもう一つ、海彦は別の場所で時を刻んでいるのさ。

みんな爆発するのだ。うふ、うふふふふふふふっ…」

怪しい奇声を発する犯人にあゆと栞は思わず引いたが秋子さんは違っていた。

「海彦ですか。東京湾中部作業タワーですね」

秋子さんの言葉に犯人はビックとした。

「何なんですか、その東京湾中部作業タワーって?」

栞が聞くと秋子さんは説明し始めた。

「東京ジオシティーは掘った土砂を地下の海底トンネルを使って東京湾の一角に運び出し、人工の島を作るんですよ。

これは確かバビロンプロジェクトの一環だったはずです。そうですよね」

秋子さんの言葉に犯人は何も答えなかった。

しかしその態度が何よりも真実を表していたことは確かであった。

だから秋子さんは気にせずに続けた。

「その土砂を海底から運び出す作業棟が東京湾中部作業タワーです。

たしかにここを爆破すればトンネルを通ってジオシティーに浸水し、作業は中断。

バビロンプロジェクトは計画変更を余儀なくされるわけですね」

「ど、どうしてそれを……」

秋子さんの的確な読みに犯人は思わずそう漏らした。

すると秋子さんはにっこり微笑みながら言った。

「あら、本当だったんですか。言ってみるものですね♪」

「あっ!!」

「場所は城南島沖2Kmですよ」

「畜生!! はったりかましやがって〜!!」

自分で仕掛けた爆弾の位置を教えてしまった犯人は秋子さんにつかみかかろうとした。

しかしそうはならなかった。

秋子さんが手にしていた銀色のスプーンを犯人の口に突っ込んだからである。

これによって犯人は悶絶、気を失った。

そしてその口からは…オレンジ色のアレが一筋垂れており、その状況にあゆと栞はおびえつつ尋ねた。

「な、名雪さんと美汐ちゃんは…?」

「そ、そうです…。だ、大丈夫なんですか?」

だが秋子さんは心配していないように笑顔で頷いた。

「大丈夫ですよ。名雪も美汐ちゃんもしっかりしておるんですから」

「そう言う問題じゃないと思うんですけど」

「うぐぅ、ボクもそう思う」

やっぱり秋子さんの考えていることはわからない、そう思う二人だったのであった。







 

 

 

 

 その頃名雪と美汐は爆発のあったさらに下の・・・土砂搬出に使われている海底トンネルの中にいた。

爆発の影響で東京ジオシティーと海底トンネルが抜け、転落していたのだ。

しかしそのおかげで正体不明の何かから逃げることが出来たのであった。

 

 「美汐ちゃん、大丈夫?」

名雪の言葉に美汐は頷いた。

「私は大丈夫です。しかし二号機のバランサーがやられました」

その言葉に名雪は顔を曇らせつつ言った。

「何か生き物みたいだったけどまた襲ってくるのかな?」

その時、Kanonの計器が警報音を発した。

それは…かなり巨大な熱反応が二機のKanonに近づいてきている事を示していた。

 

 「どうしよう? また襲ってくるよ〜」

名雪の言葉に美汐はきりっとした表情で言い切った。

「名雪さんはこの場を逃げてください。私が足止めをしますので」

「だ、駄目だよ〜!! 美汐ちゃんも一緒に逃げるんだよ」

だが美汐は首を横に振り、言い切った。

「水瀬巡査!! これは命令です!!」

確かに指揮者であり巡査部長である美汐には名雪に命令する権利がある。

しかし人の良すぎる名雪には美汐を残して逃げる事など出来なかった。

何か無いかと周囲を見渡し、それに気が付いた。

すぐにケロピーを操り二号機を持ちあげる。

「何をするんですか、名雪さん!!」

「水瀬巡査、今の命令を無視します。

美汐ちゃんそれに捕まれば歩けない二号機でも大丈夫だよ」

そう言う名雪の視線の先には土砂を運び出すベルトコンベアーがあった。

確かにこれに掴まればKanonの一機や二機ぐらいどってことなく運べるであろう。

しかし美汐はすぐには決断できずに躊躇した。

だが着実に二号機のバランサーを破壊した何かが近づいてくる。

「美汐ちゃん早く!!」

「…分かりました」

名雪に促され美汐は頷いた。

そして二号機とケロピーは何とかその場を逃げ切ったのであった。

 

 

 

あとがき

柳也と神奈と裏葉と白穂、時代編の四人が登場です。

と言ってもこれっきり、もう絶対に出てくることはありません。

他のキャラはいざ知らずもう出る余地はないですからね。

ちなみに柳也と神奈と裏葉の三人は書きやすかったし書いていて楽しかった。

また書いてみたくなりましたね。

ちなみに白穂は……名前、忘れていました(笑)。

 

 

2001.12.01  ○○内親王が生まれた日に

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