機動警察Kanon第083話

 

 





 

 「キャリアを起こしなさい!! ぐずぐずしている奴は東京湾にたたき込むわよ!!」

整備班長美坂香里の言葉に整備員たちがあわただしく駆け回る。

香里はやると言ったらやる。

実際に整備員たちの何人かは東京湾で夏以外…例えば冬であろうと叩き込まれているのだ。

だから整備員たちは必死にやる。

そういうわけであっという間にキャリアは起きあがった。

 

 

 

 「マニュアルは読んだはずだから確認だけするぞ。

これがメインスイッチ、足下のフットレバーは両足に対応しているから。

このレバーが左右の手に対応しているから」

本当におおざっぱなことだけを気絶から回復した祐一は佳乃に説明する。

当然のことだが佳乃は尋ねてきた。

「これで本当に上手くいくの?」

「落ち着いてやれば大丈夫だ。」

そう言うと祐一は一号機のコクピットから離れた。

するとその祐一に名雪が駆け寄ってきた。

そして祐一に詰め寄ると叫んだ。

「危ないよ、もしものことがあったらどうするの?」

「平気だ。それに何かあったところでKanonのコクピット内は安全だからな」

「そうじゃないよ!! もしケロピーに傷でも付いちゃったら……」

「お前の心配はそれか!! だいいち今回のこれは歓迎の儀式だぞ。お前も協力しろよ」

「うぅ〜、心配だよ〜」

その時北川が祐一と名雪の元に駆け寄ってくると行った。

「おう、相沢。一号機の準備は済んだぞ」

「準備って何?」

北川の言葉に名雪は首を傾げて尋ねた。

すると祐一はしたり顔で言った。

「デッキアップ時の誘導装置をONにしておいたんだ」

「それってインチキじゃ……」

すると祐一は開き直った。

「やかましい。初心者にはとりあえず自信をつけることが大切なんだ。

おっかなびっくりちまちまやっていてもちっとも一週間で身につけられないからな」

「それはそうだけど……」

 

 

 

 その頃コクピット内の佳乃は悪戦苦闘していた。

「えっとこれだっけ? それともこうだっけ?」

実は佳乃、あまりきちんとマニュアルを読んでいなかった。

まさかいきなり実機に乗せられるとは思っていなかったのだ。

そのせいで正しい起動方法も覚えていなかった。

ただでたらめにスイッチを押すだけである。

だからKanonは起動したものの…重要なスイッチを切ってしまっていたことを佳乃は当然知らなかった。

 






 

 「よし、それじゃあ落ち着いてやるんだぞ」

Kanonが起動したことを確認した祐一は無線で佳乃に呼びかけた。

すると

『了解』

という可愛らしい返事が返ってきた。

そこで祐一は調子のいい声で佳乃に言った。

「Kanonをキャリアに載せるだけだ。君なら絶対に出来る」

「…よく言うよ」

名雪はこっそり呟いたがその声は祐一には届かなかった……。

 



 

 「それじゃあ始めて!!」

香里の声に佳乃は頷いた。

「かのりん行きます♪」

そう言うとフットレバーを踏み込んだ。

たちまちケロピーは調子よく歩き始める。

その様子を見ていた整備員たちは歓声を上げた。

実にスムーズな動きだったからである。

「このこのこの。これでいいのかな?」

やがて佳乃の駆るケロピーはキャリアの前に立ち止まった。

その様子を特車二課の面々は笑顔で見守る。

ほとんどの人間は祐一と北川の仕掛けを知っているから安心しきっているのだ。

だがそれがとんでもない落とし穴であることにみんなは気がつかなかった……。

 

 

 「よ〜し、それじゃあかのりんの実力を見せてあげるよ♪」

そう言うや佳乃は再びフットレバーを踏み込んだ。

そしてケロピーはその場で180度回転、キャリアに背を向けた。

そしてもう一度フットレバーを踏み込み・・・ケロピーはバックを開始した。

がキャリアに躓いた。

そしてケロピーはたちまちその場でよろめき始める。

その姿を見た北川は思わず叫んだ。

「そんな馬鹿な!?」

デッキアップ時の誘導装置をONにしている以上絶対あり得ない光景だったからである。

しかし現実は違っていた。

一号機ことケロピーはその場で千鳥足でよたついているのだ。

その動きはかなりのものでありとてもオートバランサーで補えるようなレベルではなかった。

しばらくしてとうとうケロピーはハンガー内ですっころんだ。

 

 

 

 「うぅ〜、ケ、ケロピーが……」

名雪は目の前の愛機の惨状に思わず駆け寄った。

そして機体のボディーを撫でながら叫んだ。

「あのきれいなケロピーのボディーに傷が付いちゃったよ〜。私もう笑えないよ……」

「…修理すりゃ良いだろうが」

祐一のつっこみを無視して名雪は嘆いている。

仕方がないので祐一はケロピーのコクピットを開けると中をのぞき込んだ。

するとそこには逆さまになって涙ぐむ佳乃の姿があった。

 

 「お〜い、大丈夫か?」

祐一が声をかけると佳乃は声を上げて泣き始めた。

「ほらほら泣かない。男の子だろ」

「かのりん、女の子なんだけど……」

「まあ気にするな」

そう言うと祐一は操作系統をチェックし、そして笑った。

「佳乃ちゃん、自動誘導装置OFFしたんだな。よく見てな、このスイッチ」

そう言うと祐一は一つのスイッチを指さした。

「私才能ないんだ〜!!」

そう言うや佳乃は再び泣き始めたので祐一は慌ててフォローした。

「大丈夫だって。こういうのは初心者によくあることだし」

「…本当?」

「…まあ滅多にないかも。」

「うわぁ〜ん!!」

「大丈夫。一週間もみっちり特訓すれば平気になるさ」

「泣いたって駄目だよ!!」

その時名雪がいつものほんわかした表情とは違って険しい顔つきで佳乃に迫った。

「あなたの怪我はほっといても勝手に治るけどケロピーはね、どんなに小さな傷でも私たちが手を

加えてあげないと絶対に治らないんだから!!」

その剣幕に佳乃は思わず泣くのを止め、まじまじと名雪の顔を見つめたのだった。




 

 そしてその様子を見ていた香里はくすっと笑うと部下たちに叫んだ。

「今日はこれまで!! クレーンを持ってきなさい」

 

 かくしてすっころんだケロピーはクレーンでつり上げられ無事収容されたのであった。






 

 

 

 「みんなあの子には甘いんだぉ〜」

名雪は湯船でお湯につかりながらそう呟いた。

すると特車二課内で数少ない佳乃を知らなかった美汐が慰めた。

「たった一週間の辛抱ですよ。それに結構あの子、才能あるかもしれませんね。

誘導装置なしであそこまでやれたんですから」

「で、でも…」

「とくにあの180度回転、名雪さんのケロピーを使っているからとはいえ二号機よりも繊細な動きだったんですよ」

「美汐ちゃんまであの子の肩を持つの? 第一何でケロピーを使うの?」

すると美汐は冷静に答えた。

「二号機は真琴独特の癖が染みついているから初心者には向きません。

それに三号機は…ちょっと使われている部品が高すぎて予算的に問題ありますから」

「うにゅ〜」

 

 その時、風呂場の扉がガラガラと開いた。

そして佳乃が顔を出して呟いた。

「あの…名雪先輩、一緒に入っても良いかな?今日はごめんね。深く深く反省しているよ。

私・・・機械がすっごく苦手でビデオのタイマー予約も出来たこと無いし」

そこで佳乃は一息つき、そして叫んだ。

「でも私レイバーに乗りたいの。だから見捨てないでっ!!」

佳乃の言葉に美汐はくすくす笑った。

「ほらほら名雪さん、あんなに言っていることだし一言言ってあげたらどうですか」

すると名雪はふ〜と大きく息をつくと言った。

「仕方がないな〜。レイバー乗りの道は長く険しいけどそれでよければ面倒みてあげるよ」

元陸上部の部長ということでこういうノリには乗せられやすいようだ。

そして名雪の言葉を聞いた佳乃は喜び、そして湯船に飛び込んだ。

「ありがとう、名雪先輩♪ 必死に頑張るから見捨てないでね。

それと名雪先輩をレイバーの教官さん第1号に任命しちゃおうっ」

 

 かくして名雪の一週間ではあるが教官生活が始まった。

 

 

 

あとがき

以外と佳乃を書くのが難しいことに気がついた私。

これはAIR−SSで佳乃編を書くのは無理かな?

とにかくがんばろう。

 

 

2001.11.04

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