それはとある一日のことであった。
なぜかは知らないが秋子さんは除く第二小隊の面々と整備員の北川が二課玄関前に整列していた。
「あう〜っ、まだ来ない。予定の時間はとっくに過ぎているに〜!!」
真琴は苛ついたようにそう叫んだ。
そしてぱっと振り返ると北川を怒鳴りつけた。
「ちょっと!! 嘘だったら酷いんだから!!」
すると北川は胸を張り、堂々と言い放った。
「本当だって。ちゃんと秋子さんが電話で話しているのを聞いたんだから」
その言葉に祐一はニンマリ笑った。
「それにしても楽しみだよな。あの霧島佳乃ちゃんが一週間、体験入隊するっていうんだからな。
実に楽しみだ」
しかし名雪は首を傾げて尋ねた。
「…霧島佳乃ちゃんって誰?」
名雪のその言葉に真琴はキレた。
「何、名雪!! まさか佳乃ちゃんのこと知らないの!?」
「し、知らないけど……」
名雪の返事を聞いた真琴は思わず天を仰いで嘆いた。
「まさかこんな身近にこんな人間がいたなんて……」
「ねえ、佳乃ちゃんって誰?」
だが真琴は名雪の言葉を聞いてはいない。
ただ天を仰いで嘆き続けるだけ。
「ねえ、美汐ちゃん。佳乃ちゃんって誰?」
「えっ?そ、それはその……」
どうやら美汐もよく分からないようである。するとそこへ栞がそう口を挟んだ。
「佳乃ちゃんは妹にしたいNO.1・撫で撫でしたいNO.1などの称号を持っている人気アイドルなんです」
さすがにこの手の情報に関しては美汐は頼りにはならないというわけだ。
「名雪さんはいつもケロピーの事で頭がいっぱいだから芸能人のことまでは知らないんだよ」
あゆがそうフォローすると名雪は頷き、そして言った。
「そもそもなんでそんな芸能人がやって来るの? うちには関係ないと思うけど」
「Kanonの搭乗訓練だよ」
その言葉に第二小隊の面々が振り返るとしばらくの間口を挟み込めないでいた北川の発言であった。
「それってどういうこと?」
名雪の質問に北川はふんふんと頷きながら答えた。
「レイバーの安全運転週間初日にに行うパレード。
このとき佳乃ちゃんがKanonに乗ってパレードの先導をするんだ」
「「「「へ〜」」」」
北川の言葉に名雪・あゆ・栞・真琴は感嘆の声をあげた。
「…真琴、お前は佳乃ちゃんのファンのようだが知らなかったのか?」
祐一のつっこみに真琴は、むきになって反論した。
「何よ!! 真琴は盗み聞きなんて真似しないんだから!!」
「うぐぅ」
「…北川くん、ボクの台詞とらないでよ〜」
「すまなかった」
あゆにそう謝ると北川は続けた。
「まあとにかくチャンスだと思うよ。
上手くいったら落ちこぼれだの猫の手の方がましだの言われている第二小隊の株もぐんとアップ。
これでボーナスの査定もぐんとアップ、もう決算時にねずみ取りにかり出されなくて済むかもよ」
「不謹慎なこと言わないでください」
美汐は北川の言葉にそう反論した。
その時、特車二課の門を見張っていたあゆが叫んだ。
「うぐぅ、ようやくと来たみたいだよ!!」
その言葉にその場にいた七人の視線は完全に釘付けになった。
するとそこには一台のリムジンが二課構内へと入ってくるところであった。
「あら、みんな。そろっているのね。」
敬礼してリムジンを迎えた七人の前に秋子さんがにこやかな顔で降りてきた。
そして言葉を続ける。
「もう知っていると思うけど新しく見習いが加わることになったわ。
霧島佳乃名誉巡査、みんな仲良くしてあげてね」
その秋子さんの言葉が終わると同時にリムジンの後部座席のドアが開き、その姿を現した。
「ぴこぴこぴこ〜っ」
「「「「「「「あれ?」」」」」」」
七人は思わず素っ頓狂な声をあげた。
そこに姿を現したのは白い毛玉の何かだったからだ。
「…こちらが霧島佳乃ちゃん?」
名雪の言葉に佳乃のことを知っている5人は首を横に振った。
すると続いて少女が車から降り立った。
「この子は私の親友のポテトだよ」
少女はそう毛玉を紹介するとにっこり微笑んで自分を指さした。
「それから私は霧島佳乃だよ。かのりんと呼んでね」
その姿を見た北川は二課に向かって叫んだ。
「野郎共!! おいでになさったぞ!!」
その言葉とともに整備員総員が一斉に窓という窓、ベランダというベランダから姿を現した。
そして続いて見張り台からは「歓迎 WE LOVE かのりん」という巨大な垂れ幕が下りた。
そして一斉に
「WE LOVE かのりん」
と叫ぶ。
その様子を見た佳乃は目を丸くしてビックリした。
「わぁ〜、すごいよ〜」
その時祐一はまじめな顔で右手を差し出した。
「特車二課へようこそ。特車二課を代表して歓迎します」
差し出された祐一の手を佳乃が握手しようとした時、祐一の首筋に冷たい何かが突きつけられた。
「…佳乃に何をする気だ、貴様は」
その殺気のこもった言葉に祐一はピクリとも動けなくなってしまった。
だがその殺気はすぐに立ち消えることとなった。
「お姉ちゃん、ただ握手をしようとしていただけなんだからそのメスはしまってよ」
「「「「「「「お姉ちゃん!?メス!?」」」」」」」
第二小隊の面々+北川はその言葉に驚愕した。
確かに祐一の背後に回った女性…霧島聖の手には4本のメスが握られている。
とそのメスはあっという間に消えた。そして聖は祐一の背後から離れた。
「すまなかったな。つい勘違いしてしまった」
そう謝ってくる。
がメスを突きつけられた祐一は謝られても腹の虫は収まらなかった。
「おい、あんた!! 本当に佳乃ちゃんのお姉さんなのか!?」
すると聖は頷いた。
「ああ。佳乃の姉でマネージャーの霧島聖だ。よろしくな」
「ああ、こちらこそよろしく…って警察官に向かって刃物を突きつけるとは何事だ!!
これは間違いなく犯罪だぞ!!」
「そうか? まあ気にするな。私は気にしないから」
「俺は気にするんだ!! 一体どこへメスをしまい込んだ?」
だが聖はしれっとしたまましらばっくれた。
「メス?知らないな。目の錯覚じゃないのかね」
その言葉に祐一は怒った。
そして聖のボディーチェックをしようとして…名雪・あゆ・真琴・栞・美汐に轟沈させられた。
「女性の体を触るなんてそんな酷なことはないでしょう」
「うぐぅ〜、祐一くんエッチ〜」
「そんなことする人、嫌いです」
「祐一…ひどいよ」
「あう〜ぅ、祐一変態……」
だがその言葉を祐一が聞くことはなかった。
完全に気を失っていたからである。
「それじゃああなた達の任務を伝えるわね」
気を失っている祐一を無視して秋子さんは任務を発表した。
「霧島佳乃名誉巡査がKanonの操縦が出来るようにすること。
名雪、あなたが面倒見てやってね」
「私が?」
秋子さんの言葉に名雪が聞き返すと真琴が口を挟んだ。
「いやなら真琴が代わってもいいんだけど」
「…真琴ちゃんじゃあ無理だよ」
あゆの言葉に真琴はむっとした。
「何よ〜。あゆあゆのくせに生意気よ〜!!」
「あらあら、喧嘩は駄目ですよ。それじゃあみんな、名雪のフォロー、お願いね。
聖さん、行きましょう」
秋子さんの言葉に聖は頷いた。
「それじゃあ佳乃の事を頼む。私は色々とやらなければならないことがあるからな。
それじゃあ佳乃、一週間がんばるんだぞ。ポテトも佳乃をよろしくな」
「まかせてよ、お姉ちゃん」
「ぴこぴこぴこ〜っ」
かくして一週間限定ではあるものの特車二課に一人と一匹が加わったのであった。
あとがき
「AIR」から霧島佳乃&霧島聖&ポテトの登場編です。
といっても今回限りのはずですが。
ちなみに元ネタはTVアニメ第18話「スキスキ野明先輩」です。
まあ知っている人ならすぐに分かるでしょうけど。
個人的にはかなり気に入っているキャスティングですね。
2001.11.03
「機動警察Kanon」TOPへ戻る 読み物部屋へ戻る TOPへ