機動警察Kanon第081話

 

 

 伊豆大島の事件から三日後。

ブロッケン事件専従捜査班である国崎往人と神尾観鈴の二人は事件の関連性を

調べるために伊豆大島へと上陸していた…。



 

 

 「こいつは…酷いな」

目の前の惨状に警察庁広域犯罪捜査官国崎往人部長刑事は呟いた。

彼の目には目の前の光景がくっきりと映し出されている。

辺り一面に飛び散った謎のレイバーの破片が飛び散っている。

大きな部品はすでに回収済みのはずなのだがそれでもまだ細かい部品は多量に、

かつ広範囲に散らばっているのだ。

そのため通常の鑑識の人間だけでは手が足りずに機動隊の人間まで加わって捜査に

当たっているのだ。

だから往人と隣にいた神尾観鈴巡査は「うわぁ〜」という表情を浮かべた。

「往人さん、みんな大変そうだね」

「…言わずと知れたことを口に出すな。それよりも大変そうと思うなら手助けしてやったらどうだ?」

「にははは〜、そうだね。往人さんも一緒にやろ♪」

「いやだ。やりたければ一人でやれ」

「が、がお…。どうしてそう言うこというのかな」

その言葉に往人は即座に反応した。

ポカッ

辺りに乾いた甲高い音が鳴り響き、そして観鈴は目に涙を浮かべた。

「痛い…。どうしてそんなことするのかな?」

「晴子との約束だ…ってそういえば晴子もこの島にいるのかな?」

ふと自衛官である神尾晴子の事を思い出し、往人は呟いた。

すると観鈴は首を横に振った。

「お母さんの所属する部隊とこの島で演習中の部隊は全然所属が違うから」

「そうなのか?」

自衛隊のことは全く疎い往人は観鈴に問いただした。

すると観鈴は頷いた。

「お母さんの部隊はヘル…何とかというレイバーだけどここのはサムソンっていうのだから違うよ」

「なるほど、俺にはよくわからん。だがもうこの場にいる必要はないだろう。捜査本部に行くぞ」

そう言うと往人は歩き始めた。

そしてそのあとを観鈴は子犬のようにテトテトとついていったのであった。

 




 

 

 「これが件のレイバーか。」

捜査本部の置かれている大島警察署、その一角に臨時に建てられたプレハブ小屋の中。

そこで国崎往人はそう声を上げた。

その目の前には四散したパーツをおおざっぱにではあるが組んで復元したレイバーが横たわっていた。

むろん完全にぶっ壊されているので動くわけがない。

しかしそれでもかなりの迫力である。

観鈴はちょっとびびっているようだ。

「にはははは〜。往人さん、すごい迫力だね」

「ああ、そうだな」

往人はぶっきらぼうにそう頷くと傍らにいた現場の責任者とおぼしき人物に声をかけた。



 

 

 「あんたがここの責任者か?」

すると白衣を着て指揮を執っていた男が振り返り、頷いた。

「ああそうだが君は?」

すると往人は懐から警察手帳を取り出し、白衣の男に提示した。

「警察庁広域犯罪捜査官の国崎往人部長刑事だ。ブロッケン事件との関連性について調査しに来た」

「私は神尾観鈴巡査だよ。往人さんの相棒。にはははは〜、ブイ」

 

 観鈴の自己紹介に沈黙が走った。

「………」

「…こいつは気にするな。それよりもあんた、こいつを調べてどう思う?」

するとショックから立ち直ったのであろう、白衣の男は咳払いをすると口を開いた。

「まだ詳しく調査した訳じゃないから断定は出来ない。それでも良いのなら私見ぐらいは述べれるが?」

「それで構わない」

往人のうなずきを確認した白衣の男は話し始めた。

 

 

 「が、がお…観鈴ちん、無視されちゃった」

ポカ

「痛い…。どうしてそんなことするかな?」

 

 

 「まず調査して分かったことから話そう。

このレイバー…パイロットを乗せるべきコクピットが存在しない」

「それはどういうことだ?」

国崎往人は思わず叫んだ。

彼の乏しい知識においてもレイバーにコクピットが存在しないというのはかなり異常なことだったのだ。

「言葉通りだ。このレイバー、基本的なプログラムに基づいて行動している無人機ということだ。

まあこれだけでは無いはずだ。

たぶん指揮車のようなものが現場近くで監視、必要な行動を指示していたと思うが」

「…例の川澄舞という女がそうなのか…?」

往人はそう呟いたが、白衣の男は気にせずに続けた。

「基本的な構成としては全体的にシャフトのレイバーに似ている。

いや、似ているというレベルでは済まないな。

ほとんどそのままシャフトのブロッケンそのままといってもいいだろう」

「本当か!?」

白衣の男の言葉に往人は叫んだ。

ついに事の核心を突く言葉が専門家の口から飛び出してきたのだ。

声をあげずにはいられなかったのだ。

「私の言葉を疑うというのかね?」

だが白衣の男はむっとしたようである。

そこで慌てて往人は男をなだめた。

「いや、疑っている訳じゃない。こっちの聞きたい情報がズバリ出てきたんでつい」

「よかろう。とにかくこのレイバー、間違いなくブロッケンをベースに開発されたものだ。

まあECM・ビーム兵器を運用するために多量の電池を装備してはいるがな。

無論それだけではない、Keyやら四菱やら川崎やらの技術が集合していると言っても過言ではない機体だな」

「…製造元は断定出来るか?」

往人のその言葉に白衣の男は首を横に振った。

「無理だな。こいつを開発したチームの癖、私は見たことがない。

たぶんまだ世に出てきていない天才的なチームによるものだろうな」

「…地道に捜査するしかないか」

往人は真剣なまなざしでそう呟いた。

ちなみにその背後では出番のない観鈴がいじけて蟻さんと戯れていた……。

 

 

 

 

 そのころシャフトエンタープライズジャパン企画七課では。

係長である川澄舞が海外にいる倉田佐祐理課長に報告を入れているところであった。

 

 

 「佐祐理、ごめん。また失敗した」

舞の言葉に佐祐理さんは「あはは〜」と笑い、首を横に振った。

『舞は気にしなくて良いんですよ。

そもそも余所の所で開発中だったファントムの性能が良くなかったからKanonに負けちゃったんですし。

やはり自主開発した方が良いみたいですね』

「…そう思う。」

舞は佐祐理の言葉に頷いた。

「…ファントムの開発意図は意味不明。

十数発ビーム撃っただけでエネルギー切れになるしECMを使うとしばらくこちらの指示も不可能になるし」

『あはは〜。お馬鹿さんの頭の中身は理解できませんよね〜♪』

明るい声で佐祐理さんは酷いことを言う。

だが舞は気にしなかった。

即座にテレビ電話の向こうにいる佐祐理に質問した。

「…自主開発の話だけどどうするの?」

すると画面の向こう側の佐祐理さんは笑いながら舞に言った。

『こっちで設計は完了済みですからそっちにスタッフごと送りますね』

「…わかった。任せて」

『それじゃあ設計書、送っておきますので資材の調達、スタッフが着く前に済ませておいてくださいね』

「…いつまで?」

すると佐祐理さんは笑顔で即座に言った。

『あはは〜、三日後ですよ〜♪』

「…佐祐理、それはさすがに無理」

『はぇ〜、そうですか?』

舞はこくんと頷いた。

テレビ電話でなければさっぱり分からないところである。

「…秘密裏にそろえるんだから普通の場合の三四倍の時間は見て貰わないと」

『あははは〜、佐祐理は頭悪い娘だからあまり難しいことはわからないんですよ〜♪』

「…とにかく急いでやる。けど予算はどうするの?」

『あはは〜、好きなだけ使って良いですよ。佐祐理がいくらでも調達しますんで〜』

 

 

 

 

 かくして特車二課とシャフトエンタープライズジャパン企画七課との戦いはまだまだ続く……。

 

 

 

あとがき

ファントム編の完全な締めです。

これ以後、グリフォンの開発が進むわけですね。

それとそろそろ“「機動警察Kanon」バドは誰が良い?”も締めようと思います。

自分なりにキャスティングも済んだんで。

さて誰がバド役をつとめるんでしょう?ってたぶんバレバレでしょうけどね。

 

 

 

2001.10.28

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