機動警察Kanon第80話

 

 

 

 ファントムを追いかけた名雪はすぐにその後姿をとらえた。

そこで一気に加速をかけ、ファントムに追いついた。

 

 「大人しく縛につくんだぉ〜!!」

名雪はそう叫ぶとファントムの背後から飛びついた。

するとそれまで逃げの一手であったファントムもさすがに反撃してくる。

たちまちその剛腕をもって殴りつけてくる。

しかし名雪の駆るケロピーはその攻撃を避けるとファントムと組み合った。

 

 

 「う〜、抵抗するなんて極悪だよ〜」

コクピットの中で名雪は思わずそう呟いた。

それだけだと暢気そうなこの捕り物、しかし実際にはそうでもなかった。

かなりの重量級であるファントム(名雪は名前を知らないが)である。

そのパワーはKanonを遙かに凌駕しているのだから組み合えばただでは済まない。

とファントムの腹部が光り出した。

ECMジャミング装置と一緒に装備されている目くらまし用のフラッシュである。

前回は第二小隊の面々もやられてしまったブツである。

しかし同じ手に何度もやられるような第二小隊ではない。

「同じ手が何度も通用すると思わないんだよ〜」

名雪はそう言うとバイザーを下ろし、ケロピーの右肘をたたきつけた。

するとガラス片を撒き散らしながらフラッシュは砕け散った。

そしてそのまま体を右ひねりすると背負い投げの態勢にはいる。

しかし十分にくずししていないファントムを投げることは出来なかった。

そのためファントムと組んだままであった右手の指が吹き飛んだ。

「う〜、ケロピーの指が壊れちゃったよ〜」

 

 だが名雪には嘆いているゆとりはなかった。

組み合いが解けたファントムは即座にケロピーをその剛腕で抱きしめた。

そしてそのまま力任せに締め付ける。

いわゆるベアハッグというやつである。

 

キキキィー

 

 金属音が辺りに鳴り響く。

ケロピーが軋みを上げているのだ。

「う〜、このままじゃケロピーが壊れちゃうよ〜!!」

その時名雪はファントムの背後から接近してくる一機のレイバーを発見した。

SR−70「サターン」である。

「警備会社のレイバー!?」

名雪は思わず喜びの声をあげた。

背後からあのサターンが一撃してくれればファントムを仕留められるからだ。

するとサターンは左脇腹から銃を取りだした。

42mmオートカノンである。

そしてケロピーをベアハックしているファントムに向けて構えた。

そして銃口を上げ…ケロピーに照準を合わせる。

 

 「えっ!? な、何で?」

思わず名雪は狼狽した。がこれは無理もあるまい。

自分以外に向けられるはずの42mmオートカノンをいきなり向けられたのだから。

だが名雪ははっと気がついた。

それは神尾一尉が別れ際に残した…「もう一機、銃を持ったレイバーがいる。気を付けろ」という言葉…

「まさかもう一機の銃を持ったレイバーって!?」

だがそれはまさかではなかった。

紛れもない現実であった。

そしてサターンは引き金を引き絞ろうとする。

このまま42mmオートカノンから発射された弾丸がケロピーを襲えば搭乗している名雪もただでは済むまい。

 

ズキューンー!!

 

 そして銃声が鳴り響いた。

その音にに名雪は思わず目をつぶった。

そして…目を開いてみると自分の体はぴんぴんしている。

「あれ? 私…まだ生きているの?」

そして辺りをきょろきょろ見渡した。

するとサターンが一機のレイバーに体当たりを食らって倒れているところであった。

それはKanonとほぼ同型…改修されたばかりの3号機の姿であった。

「祐一!?」

名雪は思わずそう叫んだ。

すると3号機のコクピット内の祐一はにやっと笑った。

「待たせたな、名雪」

そして祐一は37mmリボルバーカノンを取り出すとコクピットを狙いから外して立て続けにぶち込んだ。

あっというまにサターンは行動不能に陥る。

その状況に慌てたようにファントムは力を込めた。

一号機にとどめを刺すためであろう。

しかしそうは問屋は下ろさなかった。

 

 「名雪、受け取れ!!」

そう叫ぶと3号機の右腕に装備されたスタンスティックを引き抜き、ケロピーに向かって投げる。

そしてそのスタンスティックを受け取った名雪…ケロピーは両腕で頭頂部に深々と突き刺した。

そしてファントムは地面に崩れ落ちた。

 

 

 

 「川澄さん!! ファントムが!!!」

戦闘現場からかなり離れてたところでモニターしていた部下は思わず叫んだ。

すると舞は慌ててファントムの機体状況をリアルタイムに表示しているモニターをのぞき込んだ。

するとその画面はすっかり真っ赤になっていた。

かなりの損害であることは間違いないようだ。

舞は部下に尋ねた。

「…ファントムの回収は可能?」

すると部下は首を横に振った。

「無理です!! スカウト機も行動不能な今、二機のKanonを相手に逃げるのは……」

それを聞いた舞はすかさず決断した。

「…回収は断念、データを転送、終わり次第ファントム爆破!!」

「わかりました!!」

部下は頷くと非常用の自爆装置を力強く押し込んだ。

 

 

 

 「今度は間違いなくやったんだよ〜」

名雪は「ふぁいとだよ」といわんばかりにガッツポースして喜びを表した。

すると祐一が声をかけてきた。

「名雪やったな」

「うん♪」

そして二人はお互いに顔を見つめ合った。

そして何とも気まずい雰囲気が漂う。

まだ喧嘩別れしたまま、仲直りをしていなかったことに気がついたのだ。

そのときけたたましい音が辺りに響いた。

慌てて名雪と祐一は辺りを見渡す。

すると地面に崩れ落ちていたはずのファントムが立ち上がったところであった。

そして立ち上がったファントムは両手を大きく開きながら仁王立ちになった。

 

 「うにゅ? 何だろう?」

だが祐一は何か怪しさを感じた。

慌てて3号機でケロピーをかばう、とファントムは爆発、周囲に爆風と爆煙・破片を撒き散らした!!

 




 

 やがて爆風・爆煙が収まったとき、コクピットの中の名雪は祐一に声をかけた。

「ねえ祐一……」

「ん、何だ?」

すると名雪は秋子さんばりに微笑んでいった。

「…ありがとう」

「どういたしまして」

 

 こうして二人の冷戦は終わったのであった。

 

 

 

 「ファントムの反応の消失を確認。爆破終了したようです」

部下の言葉に舞は頷き言った。

「…撤収」

「了解!!」

そして舞たちを乗せたヘリは潜んでいた森を飛び立っていった。



 

 

 

 「あらあら、何とも派手にやっちゃいましたね」

秋子さんは頬に手を当てながら目の前の光景にそう呟いた。

目の前には爆散したファントムの破片が飛び散っている。

その範囲はきわめて広く、何百メートルも向こうにまで届いているのだ。

これではこのあとの事件処理が大変であろう。

鑑識課の苦労を考えて秋子さんは苦笑していると上空を一機のヘリが飛んでいるのが目に付いた。

そして秋子さんは言った。

「名雪、あのヘリ落とせる?」

すると名雪は本気で考え込んだ。

「う〜ん、37mmリボルバーカノンはビームで壊されちゃったし3号機のは弾切れだし……」

すると秋子さんは首を横に振った。

「冗談よ名雪。そんなこと命じる分けないでしょ」

「そっか〜、そうだよね」

 

 しかし秋子さんは真剣なまなざしでヘリを見つめ続けたのであった。

 

 

 









 

 そして事件から数日が経った……。

 

 「HSSには川澄という人間はいなかったそうよ」

秋子さんお言葉に第一小隊隊長小坂由起子警部補は頷いた。

「予想はしていたけどやはりそうだったんですね。で先輩としてはまだけりが付いていないと?」

「あの二人のこと以外はね」

そう言って見つめる秋子さんの視線の先には仲直りして元の鞘に戻った名雪と祐一の姿があったのであった。

 

 

 

あとがき

これでファントム編終了!!

やっとグリフォン編に突入できるんですけどしばらくはくだらない日常話を展開していきたいな。

その方がKanonらしいしパトレイバーぽいし。

 

2001.10.21  HP開設一周年の日に

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