『目標はビーム兵器・電子兵器を使用。東京テレポートに現れた機体と同型を思われます』
美汐からの報告に秋子さんは頬に手を当てると「あらあら」と困った様な声を上げた。
がすぐに元の笑顔に戻ると頷いた。
「了承。やってしまったことは仕方がないですからね。真琴が無事なだけ良しとしましょう。
起動ディスクを回収するのを忘れないでくださいね」
『分かりました』
美汐との交信を終えた秋子さんは無線のマイクを置いた。
すると眠そうな声で名雪が秋子さんに尋ねてきた。
「うにゅ~。お母さん、いつまでここにいなくちゃいけないんだぉ~?」
「あらあら、名雪。もう眠いの?」
秋子さんは苦笑しながら言った。
確かにいつもなら名雪はとっくに眠っている時間なのだから無理もあるまい。
しかし名雪は首を横に振った。
「うにゅ~、眠いのは眠いけどそうじゃなくて~」
「何かことがおこるまでとにかく待ちましょうね」
秋子さんは名雪の言葉を遮ってそうきっぱり言い切った。
しかし当然のことであるが名雪は納得しなかった。
「何かって何なんだぉ~」
「企業秘密です」
秋子さんの決めぜりふに名雪はそれ以上発言できないのであった。
そのころ夜の森の中では一機のヘリコプターが潜んでいた。
そしてその機内では・・・今回の一件に深く絡んでいる重要人物が事の推移を見守っていた。
「…欲しい」
「何をですか!?」
舞の突然の言葉に配下の部下は戸惑った声を上げた。
しかし舞は気にせずに続けた。
「第二小隊の一号機のこと。あれが一番良い教師になってくれそう。ファントムをぶつけられる?」
「し、しかし一号機がいるのは民家にも近いですし、あまりリスクを負うわけには……。
それにもうすぐ夜が明けますし」
「…危険に見合うだけの価値は十分にある」
かくして舞の一言で事件はさらなる展開を見せることとなった。
カシャンカシャンカシャ
ファントムは森を出て市街地を歩いていた。
その後を二機のヘルダイバーが追跡していた。
しかしすでに市街地ということでとっくに演習地域を出てしまっている。
というわけでベル2のパイロット部下Aは思わず叫んだ。
「神尾一尉!! すでに演習地域を離れています!!」
「そんくらい分かっておるがな」
神尾一尉は苛立ったように反論した。
しかし部下Aはさらに続けた。
「これ以上の追跡がマスコミにばれると問題に……」
「言うな!! だいいち責任を取るんはうちらやない、司令や!!」
「…そ、それはちょっと酷いのでは……?」
「良いから行くで!!」
神尾一尉は渋る部下を引き連れ、命令無視し市街地の方へとヘルダイバーを駆って突進していった。
緊迫した雰囲気が特車二課第二小隊の面々を包み込んでいた。
秋子さんはいつもの笑顔はどこに行ったのやら真剣なまなざしで暗闇を凝視し、
栞はキャリアの運転席で緊張していた。
そして名雪はコクピットの中で必死な表情を浮かべていた。
とはいっても緊張とかそう言うことではない。
睡魔と必死になって戦っていたのだ(笑)。
とその時モニターにノイズが走り、そしてすぐに砂嵐で画面はいっぱいになった。
「来たんだぉ~!!」
名雪の声と同時にビームが闇夜を貫いた。
しかし真琴同様、名雪にも、もはやビームを避けることは不可能ではなかった。
素早くその場を横っ飛びにしてビームを避ける。
そしてはずれたビームはキャリアの前輪に直撃した。
「えぅ~!!」
栞は思わず叫び声をあげた。
しかし誰も気にもとめてくれなかった。
それ以上の問題が目の前に現れたのだから無理もなかったが。
「一体どこにいるんだよ~!!」
名雪は37mmリボルバーカノンを構えつつそう叫んだ。
するとビームの第二発目が名雪とケロピーを襲った。
そしてそのままケロピーの手にあった37mmリボルバーカノンが吹き飛んだ。
「早くなっているわね」
秋子さんは誰にも聞こえないような声で呟くと名雪に指示を与えた。
「名雪、落ち着きなさい!! 奴の目標はここから貴方を引き離すことにあるのよ。
一歩もここから離れないで!!」
「で、でも……」
その時突然周囲にけたたましい銃声が鳴り響いた。
ヘルダイバーの30mmチェーンガンの発砲音だ。
とうとう神尾一尉とその部下Aがファントムに追いつき、攻撃を仕掛けたのである。
立て続けにファントムに30mm弾が直撃する、がその全てが強固な装甲で弾かれる。
「クソったれ!! タングステン徹甲弾もきかへん!!これやから政治家は嫌いなんや~!!」
威力十分な劣化ウラン弾ならあっという間に蜂の巣に出来ただろうに…。
不十分な威力に神尾一尉は部下にも続けざま発砲を命じる。
「後で問題になりませんか?」
部下Aの言葉に神尾一尉はしかりとばした。
「どあほう!! 今はそんなこと言っている場合やない。レンズを、頭部のレンズを叩くんや!!」
「…分かりましたよ!!」
というわけで二機のヘルダイバーはファントムの弱点と思われるポイントを狙って攻撃した。
「お母さん!! 私も加勢するよ!!」
さっきまでの眠気はどこへ行ったのやら。
名雪はそう叫ぶとケロピーを駆って交戦地点へと向かおうとした。
しかしというべきか当然というべきか。
秋子さんはその行動を制止した。
「止めなさい、名雪!!」
しかし名雪はその言葉に耳を貸さずにその場を走り去った。
「…行ってしまいましたね。まったくしょうがない子なんだから」
秋子さんは「はぁ~」とため息をつくのであった。
「間違いないんですね」
美汐はようやくと意識を取り戻した真琴に問いただした。
すると真琴は頷いた。
「もちろんなんだから。あの木立の中にもう一機別のレイバーがいたんだから」
「それは本当なの?」
あゆが疑いの言葉をあげると真琴はきっとあゆをにらみつけた。
「あゆあゆは黙っていなさいよ!! 間違いなくあそこにもう一機レイバーいたんだから~!!」
真琴の言葉に美汐は頷くと状況を確認するため、「ボク、あゆあゆじゃないよ…」と呟くあゆを残して
指揮車へと歩いていった。
「うちがあいつに接近するさかいな。援護するんやで」
神尾一尉は部下Aに命じた。
すると部下Aは頷き、そして30mmチェーンガンを使って制圧射撃を開始した。
そのためファントムは自分の機体を守るので精一杯、一歩もその場から動けなくなってしまった。
その間に神尾一尉は木々の間をすり抜け、ファントムの背後に回り込んだ。
と同時にベル2の射撃がやんだ。
すると慌ててファントムは背後に回り込んだベル1に攻撃しようとした。
しかし重量級のファントムと軽量級のヘルダイバー、その差は歴然であった。
ファントムが何も出来ない内に神尾一尉の乗るヘルダイバーは物の見事に腕の関節を絡め取り、動きを止めた。
そして叫んだ。
「今や!! こいつのタマ取ったれ!!」
その言葉にベル2は腰に装備していたコンバットナイフを引き抜き、腰だめに構えると一気に突貫した。
そしてその手にしたコンバットナイフがファントムの腹部を貫く直前、銃声が鳴り響いた。
とベル2の頭部が吹っ飛んだ!!
「な、何事や~!?」
驚愕した神尾一尉には一瞬の隙が出来てしまったのだ。
当然の事ながらその隙を見逃すようなファントムではなかった。
そのままベル1を吹っ飛ばしたのだ。
慌てて30mmチェーンガンを神尾一尉はファントムに向けようとした。
しかしファントムはそのチェーンガンを右腕ごと踏みつぶした。
そして腹部に装備されたECMジャミング装置を展開する。
その状況を見た神尾一尉は顔色を変えた。
この至近距離で強力なECMを食らえばヘルダイバーは完全にお釈迦になることは明白だったからである。
するとその腹部…ECMジャミング装置にスタンスティックが突き刺さった。
慌てて振り返ったファントムの頭部に名雪の駆るケロピーの拳が直撃した。
たちまちファントムの頭部センサーが周囲に破片をまき散らす。
その状況は交戦ポイントから離れた舞たちのいる所にも届いていた。
「ファントム損傷!! データ転送に異常発生!!」
部下の言葉に舞は顔色一つ代えずに叫んだ。
「ファントム回収!! 援護を回せ!!」
「また助けられたようやな。」
ようやくと立ち上がったヘルダイバーのコクピット内から神尾一尉は名雪に礼を言った。
すると名雪は照れくさそうに笑いながら手をパタパタ振った。
「気にしないでください。お互い様ですし。」
その時ファントムは腹部に突き刺さったスタンスティックを排除するとそのまま撤収していく。
「逃がさないんだぉ~!!」
そのあとを追跡しようとした名雪に神尾一尉は声をかけた。
「待ちや!!」
「何ですか?」
名雪は一歩踏み出したまま立ち止まった。
すると神尾一尉は笑い、そして言った。
「もう一機銃を持ったレイバーがいるで。気を付けや。」
「了承だよ!!」
名雪はそう叫びとファントムを追って暗闇へと消えていった。
あとがき
今日何気なくアニメ誌を読んでいたら「ⅩⅢ」の記事を発見。
一般公開は来春だとか。
制作発表を知ったのが大学二年の時。
三年もかかったのか・・・と思うと感慨深いものがありますね。
楽しみ楽しみ。
それにKeyの新作も制作発表されたし。
もしかするとこの話の中に出てくる機会はあるのかな?
2001.10.14