機動警察Kanon第076話




 

 

 

 「ク〜ス〜ピ〜 ク〜ス〜ピ〜」

二号機パイロット沢渡真琴はフェリーの寝室で心地よく眠りこけていた。

その寝顔は実に幸せそうであり、見る者の心を和ませるかのよう。

しかし同室の人間にはその寝顔はどうでもいいこと、いびきがきになって仕方がないのであった。

 



 

 「うぐぅ、真琴ちゃんのいびきがうるさくて眠れないよ!!」

月宮あゆがそう嘆くと美坂栞も同感とばかりにうなずいた。

「本当です。私を眠らせないなんて世界の敵です」

 

 二人はそう言っていたものの熟睡している真琴の耳には届かない。

いびきをかく真琴のせいで二人はちっとも眠られないのであった。

 

 

 

 そのころその隣の部屋では…名雪と美汐の二人が眠っているはずだった。

 


 「うぅ〜、眠れないよ〜」

いや何の天変地異の前触れか?深夜にもかかわらず一号機パイロット水瀬名雪は眠ってはいなかった。

すると目を閉じたままの二号機指揮者天野美汐が声をかけた。

「名雪さん、少しでも仮眠を取っておかないと明日がつらいですよ」

「それは分かっているんだけど……」

淋しそうな表情を名雪は浮かべると「はぁ〜」とため息をついて天井を見上げた。

しかしその行為は何ら名雪の問題は解決してくれないのであった。




 

 

 

 

 同時刻〜Key重工八王子工場

そこでは一号機指揮者相沢祐一の目の前で三号機の改造が手際よく勧められているところであった。

「設定の変更とソフトの書き換えが済んだらテスト開始!! 3班、外装の取り付け準備良いか?」

改造の責任者の言葉を聞いた3班の責任者は叫んだ。

「外装装着準備良し!!」

すると現場責任者はうなずき、3班に命令を下した。

「同時に平行作業できるところは早々にかかれ!!」

「「「「「「了解!!」」」」」

3班の人間が元気よく命令を開始する。

その様子を見た現場責任者は祐一の方を振り返っていった。

「相沢巡査、あと二時間ぐらいで終了します。その後は名取りまで運んでコンテナ船に載せて……」

「コンテナ船?」

祐一は思わず驚いた。

まさかKey重工の方で船を用意してくれるとは思わなかったのだ。

そのことを祐一が尋ねると現場責任者は笑った。

「実はおたくの隊長さんに頼まれてね」

「秋子さんが!?」

祐一は秋子さんの底知れない人脈の繋がりに驚いた。

それと同時に船をしっかり手配しておいたことを教えてくれればいいのに・・・。

そう思わざるをえない祐一なのであった。

 

 

 

 

 そのころ伊豆大島では。

警察・自衛隊が総力を挙げて謎のレイバーに対して警戒していた。

とはいえ警察と自衛隊が協力してではない。

戦前の頃から軍隊と警察が仲が悪いというのは常識である。

お互いに相手に手柄を立てさせないように警戒しながらである。

当然のことであるがきわめて非効率的な配備になってしまっているのでなかなか発見できないでいた。




 

 

 「索敵中のスカウトヘリからの入電、第6管区異常なし」

通信士の言葉に司令である一佐は重々しく呟いた。

「問題はどこで発見するかだな。」

「…たしかに我々は演習地域外で行動することは出来ませんからね」

一佐の言葉に副官もうなずいた。

するとその背後に立っていたHSSのレイバー部門の顧問みたいなことをやっている川澄舞が声を出した。

「…それは何とかなる」

舞の言葉に一佐と副官はまじまじと舞の顔を見つめた。

「…行きがかり上、警備をやってるけど戦闘は本意ではない。

でもうちのレイバーを使って目標を演習地域内に誘導することは出来る」

「「なるほど」」

二人は感心したようにうなずいた。

するとその時通信士が新たな情報を伝えてきた。

「司令!! 習志野の空挺レイバー隊が発進許可を求めています!!」

すると司令(一佐)は首を横に振った。

「駄目だ!! 目標の所在を未確認のまま出撃命令を出すわけにいかん!!」

その言葉を聞いた舞は傍らにいた部下Aに目で合図した。

すると部下Aは誰にも気がつかれないよう、するするとテントから出ていった。

 

 

 

 キキィー


 ブレーキの制動音とともに一台の自転車が岸壁の上に止まった。

そして運転していた男は懐中電灯の光を海の方に向ける。

そしてぼっそり呟いた。

「夜の海っていうのは結構不気味だな〜」

しかしこれはいつものこと。

毎日毎日深夜のパトロールの時にはお約束の台詞なのだから珍しいことではない。

たとえ今、ここ伊豆大島で何か異変が起こっているとしても。

だから警察官はまたパトロールへ戻ろうと自転車のペダルに足をかけた。

その時「キュ〜ン」という何かの機械音がした。

「ん? 一体何の音だ」

そう呟くと警察官は懐中電灯を再び海の方に向けた。

するとそこには・・・彼は知らなかったが東京テレポートに出現、特車二課を壊滅状態に追い込んだ

あの謎のレイバー・・・ファントムが胸から上を海面に突き出して立っていた。





 

 

 

 『目標、こちらに接近中。これより阻止にかかる……』

海岸線警備を行っていたHSSのレイバーからの報告に司令部は色めきだった。

直ちに司令と副官は戦況をしめす大型ディスプレイに詰め寄る。

しかしその間も通信機からは刻々と状況を伝えてきていた。

『目標、まで500mを切った。これより攻撃開始する……』

接敵したHSSのレイバーはオプションで非致死性のエアーガンを装備しているキュマイラだったのだ。

だから遠距離攻撃も当然出来るわけだ。

しかし相手は強力なビーム兵器を装備している。

よって所詮かなうような相手ではなかった。

やがて

『うわぁ〜!!』

という絶叫とともに交信は途絶えた。




 

 

 

 自衛隊、ならびにHSSの人間は交信が途絶えた現場に直ちに直行した。

するとそこでは赤々と燃えさかる一機のキュマイラの残骸が横たわっていた。

 

 「…乗員は大丈夫?」

現場にやってくるなり舞は先行していた部下にそう尋ねた。

すると部下Bはうなずいた。

「パイロットは脱出して大丈夫です。とりあえず今は島内の病院に搬送していますが」

その言葉を聞いた舞は振り返り司令に言った。

「…上陸した」

「そのようだな。しかし……」

司令がそこまで発言した時、最初に謎のレイバーを発見した警察官が口を挟んだ。

「私、ことの一部始終を目撃していましたがこいつをぶちこわしたレイバー。

やつは北西の方向に向かって消えていきました」

するとただ一機、現場に突っ立っていたSR−70「サターン」のパイロットがスピーカーで報告した。

『熱反応、9時方向、北西に向かって残っています!!』

「だからそう言っているでしょ!!」

サターンのパイロットの報告に警察官は地団駄を踏んだ。

そして司令は副官に向かって命令を伝えた。

「残っている97式改を演習地域の南に集めろ。ここで迎え撃つ。それとヘルダイバー隊を」

「了解!!」

副官は敬礼すると司令部へと連絡へと向かった。





 

 

 そんなやりとりを舞は表情を変えずに見つめていた。

が副官が立ち去ったのを確認すると舞は司令に声をかけた。

「…そろそろ私は港へ。警視庁の方々に警備を引き継ぎますので」

「うむ」

 

 

 司令の承諾を得た舞は一人港へと向かったのであった。

 

 

 

あとがき

・・・今回はKanonキャラが目立たないストーリーですね。

というか戦闘・陰謀がメインだと大変だ。

 

 

2001.10.07

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