機動警察Kanon第075話

 




 

 

 伊豆大島での出来事の翌日。

自衛隊の面々による現場検証が終わった数時間後。

第二小隊隊長の水瀬秋子警部補は課長に呼び出された。

 

 

 「単刀直入に言おう、君。それと君の第二小隊、伊豆大島に行ってくれ」

「…伊豆大島ですか?」

やって来て早々の課長の言葉に秋子さんは困惑したように聞き返した。

すると課長は頷いた。

「その通りだ。実は伊豆大島で異変の件だよ」

「新聞に載っていたあれですか?」

「うむ。そこでの断片的な目撃者の証言によるとそこに現れたのは君たちが東京テレポートで撃退した

謎のレイバーと同型らしい」

そこまで言ったところで課長は一息つき、窓の外を眺めた。

「その目的は不明だが夕べの自衛隊のこともある。

現在はたまたま居合わせた 民間の警備会社が警備にあたっているんだがね。

第二小隊はただちに出動、警備を引き継いでくれ」

課長の言葉に秋子さんは眉をひそめた。

「…それって絶対に行かなくては駄目ですか?」

「了承」以外の言葉に課長は一瞬驚いたもののすぐにむっとした表情を浮かべて言った。

「何を言っているんだ水瀬君!! すでにフェリーまで用意してあるんだぞ。

それに君たちが行かなくてどうするつもりだ。」




 

 

 

 「本当は誰も行かない方がいいんだけど」

出撃準備を見守っていた秋子さんは真剣なまなざしでぼっそりつぶやいた。

すると隣にいた第一小隊の小坂由起子警部補が不思議そうな表情を浮かべて尋ねてきた。

「先輩、それってどういう事なんですか?」

すると秋子さんは表情を変えずに言った。

「…東京テレポートで暴れた謎のレイバー、これの目的があれとやり合うこと出したとしたら?」

「あれですか?」

?マークを浮かべている由起子さんに秋子さんは指し示した。

「もしかしてKanonですか?」

「考えすぎかもしれないですけどね」

秋子さんは眼下で行われている作業を見ながら呟いた。

「例えば名人を相手に将棋を指すのとへぼを相手に指す。どちらのほうが成長すると思います?」

「それは…やはり名人が相手のほうが……ってまさか!

謎のレイバーの目的はKanonと戦うことで経験値を上げることですか!?」

「それだけではありませんよ」

秋子さんは続けた。

「Kanonと互角にやり合えるということは現用のあらゆるレイバーを凌駕しているということですからね。

ずばりKanonは恰好のテスト材料というわけなんですね」

「それじゃあ今度やり合うのは前よりも強くなっている?」

「そういうことになりますね。それにこれは杞憂だと良いのですがこの間のブロッケン」

「まさか!?」

「目的も犯人も不明ですし十分考えられますよ」

秋子さんの言葉に由起子さんはほぉ〜とため息をついた。

「最新鋭機を装備する隊にも悩みってあるんですね」

今や旧式になりつつあるONEを使ってお仕事している第一小隊の隊長さんはしみじみしてそう言った。

すると秋子さんは笑いながら言った。

「やはりどんなことにも苦労というのは付き物なんですよ」

その時眼下でキャリアがブロロロロ〜と音を立ててハンガー内から出発した。

そしてそこには準備をしていた祐一・名雪の二人がいた。

が二人は顔を合わせることなくプイと横を向くとお互いに別々の方へと去っていった。




 

 

 「先輩、あの二人どうかしたんですか?」

珍しい光景に由起子さんは秋子さんに尋ねた。

すると秋子さんは微笑みながら言った。

「あの二人もまだまだ青いですね。」

 




 

 

 

 同刻。

舞台は変わって自衛隊の基地。

そこでは河崎重工社製のC−4に実弾完全装備のヘルダイバー三機が搭載されているところであった。

 

 「神尾一尉、たった今待機命令が出ました!!」

部下Aが敬礼しながらそういうと積み込み作業を見守っていた神尾晴子一尉は頷いた。

「おっしゃ〜、やったでぇ〜!! 上の方にはレイバーの積み込みは終わった。

これより待機任務に入るっ上の方にて伝えとき」

「は!!」

「それと警視庁の動きはどうや?何か変化あったんか?」

「行き先は不明ですが第二小隊が出動したとのことです!」

そう言うと部下Aは駆け足で司令部の方へと走り去った。

 

 そしてその部下Aの背中を見送った晴子さんは青空を仰ぎながら呟いた。

「第二小隊……。また彼女に会えるかいな? その時はあの借り、返してやるで〜!!」

 

 

 

 そして同日夕刻。

「オ〜ラ〜イ〜!! オ〜ラ〜イ〜!! 大丈夫だぉ〜!!」

名雪は大きな声を張り上げながら一号機を載せ、栞が運転するキャリアをフェリー内に誘導していた。

その後には真琴が二号機を載せ、あゆの運転するキャリアを誘導している。

そんな様子を後目に秋子さんは祐一と美汐の二人の指揮者を呼び寄せていた。

しかしすぐには何も言わずに黙り込んでいる。

「一体何用です?」

「そうですよ、今は忙しいというのに」

秋子さんの様子に変な感じのした祐一と美汐はそう言った。

すると秋子さんはポンと手を叩くと言った。

「祐一さん、あなたは八王子に行ってください」

「俺が八王子ですか?伊豆大島ではないので?」

祐一がそう尋ねると秋子さんは頷いた。

「はい。そして三号機を受領して、それから伊豆大島の方に向かってください」

「しかし……」

「今回は三号機が切り札になるかもしれませんので。是非お願いします」

「はぁ……」

そう言って祐一は美汐の顔を見た。

レイバーの操縦は祐一よりも美汐の方が圧倒的に上だったからである。

だが秋子さんは首を横に振った。

「美汐ちゃんの適性はパイロットよりも指揮者にありますから」

「そうですね」

祐一はそうは言ったものなかなかうなずくことが出来ない。

すると美汐が祐一に言った。

「名雪さんのことでしたら心配しないでください」

「別に心配はしていないがな」

祐一はそう照れくさそうに反論すると秋子さんに向かって敬礼した。

「了解。相沢祐一巡査、これより三号機受領のためKey重工八王子工場へ向かいます」

「了承」

 






 

 

 「塩っ気が多いからケロピー、錆びちゃわないかな?」

名雪は一号機ことケロピーの載せられたキャリアを見上げながら呟いた。

すると背後にいたあゆが名雪に声をかけた。

「帰ったらしっかり洗わないと錆びちゃうかもしれないね」

「う〜、すごく心配だよ。それにしてもあゆちゃん、何か顔色良くないね」

名雪はあゆの顔色の悪さに気がつき、そう言った。

するとあゆは暗い顔のままうなずいた。

「うぐぅ〜、実はボク船酔いに弱いんだよ」

「わ。あゆちゃんそうだったんだ」

「それだったら酔い止め、差し上げましょうか?」

すると栞が二人に声をかけた。

「栞ちゃん、何か良いのあるの?」

あゆの言葉に栞はうなずいた。

「ええ。どんな酔いでもイチコロ、すごくよく効くのがありますよ」

「うぐぅ〜、何か効き目が気になるけど……とりあえず貰うよ」

「それじゃああゆさん、ちょっと待っていてくださいね」

そういうと栞はポケットに手を入れると探り始めた。

 

 

 

 「はい、見つかりましたよ」

栞はポケットから一つの薬瓶を取りだして言った。

それに対して名雪とあゆは呆然とした表情を浮かべ、声も出せない。

しかし栞は気にせずに続けた。

「あゆさん、とりあえず三錠飲んでくださいね。その後は食後に二錠づつってあゆさん、聞いていますか?」

ここまで言ったところで栞はようやく二人の様子がおかしいことに気がつき、思わず尋ねた。

するとようやくと気を取り直したあゆが言った。

「うぐぅ、栞ちゃん……そのポケットは一体?」

おびえた様にみつめるあゆの視線の先には多量の薬が山のように積み上げてあった。

「だ、だぉ〜!!」





 

 その時、美汐の乗る二号指揮者がフェリー内に入って来た。

それと同時にフェリーの巨大な扉(正式名称不明)が閉じられる。

その状況を見て、逝きかけていた名雪はふと我に返った。

そして指揮車から降りてきた美汐に声をかけた。

「美汐ちゃん、祐一は?」

「相沢さんでしたら八王子に行くそうです」

「八王子?」

「はい、そうですよ」

落ち着いた物腰で肯定した美汐の言葉に名雪は思わず戸惑い、そして名雪は走り出した。







 

 

 「出港してよろしいでしょうか?」

「了承」

秋子さんはフェリーの船長の言葉に一秒了承した。

すると即座にフェリーの錨が上げられ、フェリーは出港し始める。









 

 出港するフェリーを見送った祐一は大きくため息をつくと指揮車に乗り込んだ。

そしてエンジンを吹かすと埠頭を後にする。

その背後に甲板に駆け上がった名雪がいたことも知らずに……。

 

 

 

あとがき

アニメ・漫画とちがって文章だけで状況を表現しきるのは難しいです。

本当、プロの作家ってすごいね。

 

 

2001.10.06

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