「うみゅ〜、眠い……」
名雪はロッカーを閉めると更衣室を出た。
そして眠い目をこすりながらネクタイを締めつつ第二小隊のオフィスへと向い始める。
がその途中、ハンガーのところで第一小隊隊長の小坂由起子警部補とばったり出くわした。
「…わっ！！ おはようございます！！」
「おはよう、水瀬巡査。ところで酷い格好ね」
「そ、そうですか！？」
名雪の言葉に由起子さんは眉をしかめながら頷いた。
「ネクタイはしっかり締めること。それに寝癖があるわよ」
「わっ、本当だ。どうしよう……」
「…早いところなおしておきなさい」
そう言うと由起子さんは隊長室へと歩いていった。
「何だか不機嫌みたい……」
名雪は頬に指を当ててかわいげに考え込みながら呟いた。
がすぐに考えるのをやめるとうんうんと頷いた。
「まあ私が考えたって仕方がないよね。それよりも身支度きちんとしないと」
その時カンカンカンと鉄製の階段が音を立てた。
「ん？ 一体誰かな？」
するとそこに祐一が現れた。
そしてお互いに顔を見合わせたまま固まった。
昨日の一件がお互いの脳裏を過ぎったからである。
しかし祐一はすぐに気を取り直すと名雪に言った。
「おはよう、名雪」
「あ…うん、おはよう」
名雪が戸惑ったように応えると祐一は名雪を指さして言った。
「名雪、寝癖にネクタイ」
「うるさいんだよ〜！！」
名雪は立て続けの注意に思わずそう叫んだ。
そしてその言葉を聞いた祐一はむっとした表情を浮かべた。
そして名雪は…思わずはっとした。
（う〜、失敗しちゃったよ）
だが名雪は祐一に何も言えなかった。
そしてそれは祐一も同様であった。
だから祐一は一人先にオフィスへと入っていき、そして後には「うゅ〜」と謎の声をあげる名雪が
一人残されたのであった。
一人先に第二小隊のオフィスに入った祐一が目にしたのは・・・美汐・真琴・栞・あゆの四人が額を
くっつけんばかりにして新聞を読んでいるところであった。
「おはようございます、相沢さん」
「あうっ〜、おはよう」
「おはようございます、祐一さん」
「おはようだよ、祐一くん」
「おっす、おはよう。ところで四人が雁首そろえて何の記事を読んでいるんだ？」
するとあゆが新聞を祐一の方に持って来て言った。
「この記事なんだけど気になる記事が載っているんだよ」
そこで祐一は示された新聞記事の見出しを声を出して読んでみた。
「何々、『自衛隊、警備会社との合同訓練中に事故！？』か」
「記事の内容も内容ですけどその写真が……」
栞の言葉に祐一は新聞記事に添えられている写真に目をやった。
そして祐一は写真に写っているレイバーの姿に見覚えがあることに気がついた。
「おっ！！ これは第一小隊に配属されかかった……」
「そうです。あのSRX-70がどうやら量産されはじめたようですね」
「ふ〜ん、どれどれ？」
その時名雪がようやくと第二小隊オフィスへと入ってきた。
そしてすぐに新聞記事をのぞき込み、そして呟いた。
「そうか、由起子さん。それで機嫌が悪かったんだ」
その時、祐一と名雪の目があった。
しかし気まずい二人はプイとお互いにそっぽを向いたのであった。
「少しは落ち着いたらどうかしら？」
乱暴に自分の席に座った由起子さんに秋子さんは声をかけた。
すると由起子さんはかなり苛立った様子で言った。
「落ち着いていますよ、先輩！！」
「そうかしら？ まあこれでも飲んで落ち着いたら？」
そう言うと秋子さんは由起子さんのデスクの上にマグカップを置いた。
すると由起子さんは中身を見ずに口を付けた。
「うっぷ」
「あら、どうかしたの？」
「…いいえ、何でもありません。」
由起子さんは吐き気をこらえながらそう応えた。
なぜなら秋子さんが手渡したマグカップの中にはあのジャムがたっぷり入ったロシアンティーだったからである。
こんなのを飲み干せるはずもない。
由起子さんはマグカップをデスクに戻しながら現状をごまかすかのように言った。
「もしかしたらこのＨＳＳという警備会社もシャフトエンタープライズと繋がりがあるんでしょうかね？」
「そうですね。まあ由起子さんのショックもわかるけど。
ＳＲＸ−７０……まあいずれ量産され市販されるのはわかりきっていたからそのことは置いておくとして」
秋子さんは両手で何かを脇に置くジェスチャーをすると続けた。
「それよりもこの曖昧な記事の内容の方が気になりますね。一体伊豆大島で何が起こったんでしょう？」
その噂の伊豆大島では……自衛隊による現場検証が行われていた。
「これは火薬を使った銃器による攻撃や格闘戦による損害ではないですね」
格座したサムソンを調査していた副官の言葉に一佐は疑問の声をあげた。
「それじゃあ一体何でやられたんだ？」
「さあ？」
その時、それまで黙っていた舞が口を開いた。
「…ビーム兵器…」
「「ビーム兵器！？」」
二人の自衛官は驚きの声をあげた。
それほど彼ら二人にとっては意外というか。
まあ常識外の答えだったからである。
しかし舞は続けた。
「…噂だとこの間の東京テレポートに現れたレイバーはビーム兵器を装備していたらしい……」
「…そいつがここに現れたと？」
「そこまでは知らない。…それよりも演習は中止？」
舞の疑問に一佐は腕を組んで考え込んだ。
がやがてきっぱりと言い切った。
「演習は続行する。ただし自衛隊のみの演習とする」
「…はちみつくまさん」
「…なんせ今度そいつが現れたらそれはもう演習ではない。
間違いなく実戦だ。だから君たち民間人を巻き込むわけにはいかないからな。悪くは思わないでくれよ」
一佐の言葉に舞は頷いた。
「…とりあえず待機させて貰う。この島を出る足がないから……」
「ああ」
一佐は舞の言葉に頷くと空を仰ぎ見、そして憎々しげに言った。
「しかしあの報道屋のヘリ、何とかならないものかね。」
「…無理」
そう言いつつ舞は腕時計をちらっと見、そしてかすかに笑った。
「時間だ。指示通りやるぞ」
男の言葉に他の二人も頷いた。
そして手回し式のサイレンを鳴らしながら漁船が並ぶ港へと入り込み、港にいる人たちに口々に言った。
「た、大変だ！！海の中にレイバーがいるぞ！！」
「どくろのようなレイバーがいたぞ！！」
その言葉に港にいた人々は口々にざわめいた。
そして三人の男たちはだれにも気がつかられぬようほくそ笑んだのであった。
あとがき
やはり名雪と祐一が難しい。
はやく仲直りさせたいな。
２００１．０９．３０