機動警察Kanon第073話

 

 

 

 「おう、名雪。さっきは悪かったな」

祐一は片手をすちゃっとあげながらさわやかにそう言った。

しかし名雪は相変わらずというべきか、怒ったままである。

まあ誤解している内容が内容だけにまあ無理もないが。

それでも「鬼の美坂整備班長」の通り名を持つ香里にメリケンサックをちらつかされながらの命令だ。

断ったらどうなるか……、その結果が目に見えていた祐一は実行するしかなかったのだ。

だが名雪はそんな事情を知るはずもない。

ちょっとふてくされたように祐一に言った。

「一体何のよう? 祐一の顔なんか見たくもないんだけど」

(むかっ)

名雪のとげとげしい言葉に祐一は腹が立った。

しかし香里の命令だ。

祐一は怒りをこらえて名雪に謝った。

「さっきは俺が言い過ぎた。すまん、謝る。」

「…わかったよ。でもそれなりの誠意は見せてもらわないとね」

(なんじゃ、それは〜!!)

祐一は名雪の言葉を聞いて心の中で思わず叫んだ。

名雪の言う誠意とはたぶんイチゴサンデーのことであろう。

あゆや栞、真琴なら100円前後のたい焼き・バニラアイス・肉まんですむというのになぜ名雪には

1000円近くするイチゴサンデーを缶ジュースを奢るかのようにほいほいと奢らなければならないのだ。

祐一の給料は名雪と同じ、その事を考慮してくれてもいいではないか。

腹が立った祐一は香里の恐怖も忘れて思わず言った。

「言っておくがイチゴサンデは奢らないぞ」

「へっ!?」

思わず名雪は間抜けな声を上げた。

祐一がこの期に及んでイチゴサンデーを奢らないとは思っていなかったのであろう。

だがすぐに気を取り直しと祐一に言った。

「祐一、許して欲しかったんじゃないの?」

「もちろん許しては欲しいさ。だがな名雪、俺は自分の財布にかけてここで折れるわけにはいかないんだ。」

「祐一おかしいよ!! イチゴサンデー7杯で解決するんだよ!! それとも私よりお金の方が大事なの!?」

「そんな訳ではないがな、だが何でも物で解決という状況が気に入らないんだ!!」





 

 かくして交渉は決裂した。

だがこれは無理もないことであった。

今回のこの件に関しては二人の意見は決して相容れることはなかったのだ。

こうして特車二課第二小隊内にて昔懐かしい冷戦が勃発した。





 

 とは言ってもそれほどたいしたことではなかった。

ただ顔を合わせればお互いにそっぽを向く。

必要最低限なことしか口を利かない。

食事の時にも一番離れた席同士につき、顔を見ようともしない。

互いにこれではいけないとはわかっているのだが意地もある。

かくして周囲を巻き込みつつ第二小隊はギスギスした雰囲気に包まれた。








 

 

 

 その夜〜伊豆大島にて

 

 「警備会社にこれほどの訓練が必要ですかね?」

一佐の言葉に舞はこっくり頷いた。

「はちみつくまさん」

「「はい?」」

舞の言葉に一佐とその副官は思わず聞き返した。

だが舞はそんなことを気にせず続けた。

「…こういった体験は隊員たちの志気を高める」

「まあそれはそうだが……」

「あっ!! 始まりました」

その時副官がモニターの様子に叫んだ。

自衛隊のレイバーとHSSのレイバーが接触したのだ。

三人は固唾をのんで状況に見入った。

 

 

 

 完全な暗闇の中、90mmチェーンガンを構えたAL97B「サムソン」が進軍していた。

左肩に装備されたセンサーが周囲をくまなく捜索していく。

と暗闇の中に何かを発見したサムソンはチェーンガンをぶっ放した。

とたちまち真っ赤なペイント弾が地面に突き刺さり、真っ赤に染め上げる。

とその中から一機のレイバーが飛び出してきた。

右肩に非致死性のエアーガンをオプション装備した軍事/警備用のレイバー「キュマイラ」である。

そしてキュマイラはそのままサムソンに組みかかる。

しかしサムソンはその一撃を避けるとそのまま勢い余って背中を向けたキュマイラにチェーンガンを向けた。

そして一瞬の躊躇もなくサムソンのパイロットはトリガーを引いた。

とたちまちキュマイラはペイント弾によって真っ赤に染め上げられた。





 

 

 「どうやらうちがまず一勝ですね。」

副官は目の前の巨大なモニターに映し出された演習中の映像を目にしてうれしそうに言った。

それに呼応するかのように一佐もうんうんとばかりに頷いた。

確かに自分たちが勝ってうれしいのは分かる。

しかし…舞はこの二人を心の中で笑い飛ばした。

(国民の血税で養われている戦闘のプロが最近習い始めたばかりの初心者に勝って当たり前……)

その時、三人の目の前の巨大なモニターに砂嵐が走ったかと思うとブラックアウトした。

その光景を目にした二人の自衛官は突然の出来事に思わず取り乱した。

「い、一体何が起こったんだ!?」

「わかりません!! 交信不可能!! とりあえず今、スカウトヘリが現場に直行中です!!」

困り果てる二人の自衛官を後目に舞はかすかに笑った。




 

 

 そのころ噂のスカウトヘリは夜空を飛んでいた。

しかしヘリに乗っている二人の搭乗員は困り果てていた。

「おい、本部との連絡は取れたか?」

「いいえ、まだ交信不可能です。何やら電波状況が悪くて……」

「くそっ!! 一体何が起こっているんだ!?」

「知りませんよ!!」

苛立ったように叫んだ通信手の方に視線を向けようとしたパイロットは闇夜に光る二種類の何かを見つけた。

一つは明らかに爆発…それも何かに攻撃された爆発だった。

そしてもう一つ…それは未だかって目にしたことのない…危険な光だった。

 




 「「…これは一体?」」

二人の搭乗員は口をそろえて同じ言葉を発した。

それ程彼らの目に飛び込んできた光景は尋常ではなかったのだ。

正直言って二人の自衛官は考えられない異常事態に恐怖した。

しかし彼らも偵察のプロである。

確認もせずにこの場を逃げるわけには行かない。

恐怖心を押さえた彼らはスカウトヘリを駆ると何かが起こっている現場上空へと向かった。

するとそこには何か攻撃を受けて各座した三機のサムソンとHSSのキュマイラ……そして何やら妖しい光を

放っている所属不明のレイバーがいた。

「…何だあのレイバーは?」

「…何だかやばい気がする。逃げるぞ!!」

しかし彼らの判断は遅かった。

ヘリがその場を去ろうとしたとき・・・謎のレイバーの頭部と背中が蒼く光り出した。

その光は非常にまがまがしい。そして頭部から光が放たれた。

「「うわぁ!!」」

蒼白い光に包まれた二人は思わずそう叫んだ。

そして二人の意識は永遠に消え去った・・・。

 

 

 

あとがき

名雪と祐一の喧嘩…。

すごく書きにくいですね、本当。

やはりこの二人はほのぼのしているのが一番です。

でもしばらくは我慢してくださいね。

 

2001.09.29  DC版「AIR」を完全クリアした日に

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