機動警察Kanon第071話

 

 

 

 

 現場に到着した第二小隊が目にした光景。

それは工事現場で二機のタイラント2000が鉄骨を手に向かい合っている姿であった。

どうやら喧嘩らしい。

ただの喧嘩なら第二小隊が出張ってくる必要はないのだがレイバーを使った喧嘩となれば別だ。

というわけでミニパトを降りた秋子さんは現場の責任者に話を聞いてみた。

「どうしてこんな事態になったんですか?」

すると現場責任者は申し訳なさそうな顔で秋子さんに言った。

「…実は鉄骨を駐車してあった車の上に落としてしまいまして。

それでどっちが悪いかって言い合っているうちにこんな事態に……。

あいつら、良い奴なんですが血の気が多いものですから……」

「分かりました」

秋子さんは頷くと無線で祐一と美汐に指示した。

「一号機・二号機ともにデッキアップ。周囲に被害が拡大する前に仕留めますよ」

『『了解!!』』

 

 

 『一撃で仕留めろよ、名雪』

「わかったよ」

名雪は祐一の指示に頷くと取っ組み合うタイラント2000の背後から接近しようとした。

その時名雪は野次馬の中にどこかで見かけた顔があることに気がついた。

「あれ? 誰だっけ……」

その時取っ組み合いをしていたタイラント2000がケロピーに襲いかかってきた。

 




 「この木っ端役人め!! おまわりなんか引っ込んでいろ!!」

そう叫ぶや乱闘中の親父はケロピーにショルダータックルをぶちかましてきた。

「うわっ!! 何をするんだよ〜!!」

愛しいケロピーに体当たりをかましてきたタイラントに名雪は怒った。

即座に姿勢を整えるとタイラントと取っ組み合う。

とその時、二機の足下を白くて小さいものが横切った。

「わっ!!」

その姿を視認した名雪は思わずフットペダルに込めていた力を緩めた。

なぜならばそれは乳母車だったからである。

大の大人でもレイバーの格闘に巻き込まれれば死ぬであろうにそれが赤ん坊となればなおさらだ。

しかしそれはタイラント2000を操っていた親父には関係ないことであった。

力を緩めた事をチャンスと思ったのであろう。

そのまま一気に力を入れるとケロピーにのしかかってきた。

ただでさえ重量級のタイラント2000,それを力を緩めたときにのしかかれたのである。

当然踏ん張れるはずもない。

ケロピーはそのままタイラント2000に押し倒され、そのまま民家を一軒巻き込みながら転倒してしまったのである。

 

 そんな状況を見て秋子さんは

「あらあら、困ってしまいますね」

と呟いたがやはり困っているようには見えなかった。

 





 

 

 そのころちょっと離れた公衆電話では名雪が目撃した男が興奮したように受話器の向こうの男と会話していた。

「やったよ!! これであの女ももうおしまいさ!!」

『本当か!? 第二小隊に本当に一泡食わせてやったのか?』

「うんうん、本当だよ!!」

『そうか…やったのか……。うふっ、うふふふふふ』

 

 受話器の向こう側で男はうれしさのあまり含み笑いをするのであった。






 

 

 

 

 そしてその翌日。

特車二課課長室に第二小隊の面々は全員呼び出されていた。

そして警備部の最高責任者である警備部本部長も同席している中、課長の説教が始まった。

 

 「何だね!! ここ数ヶ月の第二小隊の体たらくは?」

課長はここ数ヶ月の第二小隊の活動記録をまとめた書類をデスクにパンパンたたきつけながら叫んだ。

その迫力に第二小隊の面々は神妙な表情でおとなしく説教が終わるのを待っている。

「ここ数ヶ月の君たちの出動、そして現場での評価はまことに慚愧に耐えないものがある。

とくに昨日の一件はどうだ!? 市民を守るはずの警官が家一軒を全壊させるとは笑い事ではすまんぞ!!」

「「「「「「うっ!!」」」」」」

この言葉は第二小隊の面々の心に深く突き刺さった。

「今回の件は第二小隊の隊員たちだけの責任では済まされないぞ!! 隊長である君にも責任が……」

すると秋子さんはにっこり微笑んでいった。

「課長、それは私も同感ですわ。実はここしばらくの件に関してある事実が判明しまして」

「ほぉう、それは何かね?」

秋子さんの言葉に本部長は関心を示してきた。

そして本部長の言葉に課長はちょっとイヤな顔をした。

「実はいくつかの物件がありまして」

秋子さんはそう言うと懐から何枚かの紙の類を取り出し、説明をし始めた。




 

 「これはつい最近、私の元に届けられた手紙です」

秋子さんはそう言ってカミソリの仕込まれた手紙を取り出した。

そしてもう一通、なにやら書類を取り出した。

「それでこちらは前特車二課課長の書いた書類です」

秋子さんの言葉に課長は言った。

「前課長といえば謎ジャム…もとい病気療養のために退職したのではなかったのかね?」

「その通りだ。もっとも今は快復して息子さんと整備工場を営んでいると聞いているぞ」

課長と本部長の言葉に秋子さんは続けた。

「この二通を本庁の鑑識課に調べてもらったところ筆跡が完全に一致という結果が帰ってきました。

そしてこの写真は前課長ご子息のものです」

そう言って秋子さんは一枚の写真を取り出した。

そこには非常にさえない二十代中頃の男が写っていた。

そしてその写真を見た名雪は「あっ!」と声を上げた。

「一体どうしたんだ?」

小声で祐一が尋ねると名雪は答えた。

「あの写真の男、例の二課をのぞき込んでいたやつだよ」

だが秋子さんは気にせずもう一枚の写真を取りだした。

「それでこちらは昨日、現場に現れた不審者です。一号機のモニターカメラからプリントアウトしたものです」

「…それはどういうことかね?」

「詳しい話を聞かせてもらおうか。」本部長と課長はそう言うと六人の隊員たちを課長室から追い出した。

 

 

 

 「というわけで第二小隊のおとがめはありません。ただしこのことは他言無用ということで」

秋子さんの言葉に六人の第二小隊隊員たちは小声でささやきあった。

「秋子さん・・・身内の不祥事をネタにお咎めなしにするなんて・・・」

「お母さん・・・まるで神○川○警の上層部みたいだよ・・・(古い!)」

「あうっ〜、秋子さんが・・・」

「・・・さすが秋子さん、老練です。」





 

 

 

 第二小隊の面々の声を聞きつつ秋子さんが微笑んでいると突然大きな声が届いてきた。

「水瀬秋子〜!!!表に出てこい〜!!!!

この俺が天誅をくわえてやる〜!!!!!」

そのあまりにでかい声に六人の隊員は驚いたように声のした方へと駆け出し、名指しで呼び出された

秋子さんは微笑むとゆっくりと歩き出したのであった。

 

 

 

 特車二課の面々(第一・第二小隊・整備班・その他)が声のした所にたどり着いてみるとそこには一台の

大型キャリアが停車していた。

無論特車二課のものではない。そしてその二台には何か巨大なものが載せられている。

と運転席から顔を出した件の写真の男が荷台に声をかけた。

「行くよ、父さん」

その合図とともに荷台からレイバーが体を起こした。

まるで某メジャーロボットアニメのワンシーンのようだ。

それを見た北川は呟いた。

「まるで『ガ○ダム、大地に立つ』だな」

しかしそう格好の良いものではなかった。

デッキアップするなりいきなり膝から崩れ落ちたからである。

その光景を目にした北川はさっきとはうって変わってあきれたように声を上げた。

「なんだアレは? 手作りレイバーか?」

 

 

 その手作りレイバーは必死になって起きあがろうとした。

しかしそのぎこちない動きは何とも情けない。

あきれたように見つめる特車二課の面々の前で手作りレイバーはあちこちに着いた部品を

ばらまきながら立ち上がった。

そして大地をしっかり踏みしめるとキャリアから立ち上がった。

「天に変わってこの儂が貴様を成敗してくれる!!おとなしく出てこい水瀬秋子!!!」

とその時、特車二課の面々の背後に秋子さんが現れた。

すると同じく後ろの方で見物していた整備班長美坂香里が秋子さんに二言三言声をかけた。

その言葉に秋子さんは頷くと特車二課隊員たちの間をかき分けてレイバーに相対した。

 

 

 秋子さんの姿を見つけた前課長はレイバーの背中に背負った銃を取りだし、秋子さんに向けて構えた。

その姿に秋子さんの背後にいた特車二課隊員たちは一斉に散った。

誰だって我が身はかわいいのだから無理もあるまい。

「お母さん!!」

「「「「「「秋子さん!!」」」」」

 

 

 「うふふふふふ…貴様のせいで俺の人生プランはめちゃくちゃだ……。

大人しく我が愛機の錆となれ!!」

前課長は引きつる笑顔で銃のトリガーを引いた。

その瞬間、思わず隊員たちは目を閉じてしまった。

しかし想像していたような銃声は起こらなかった。

「パスッ!!」というまるで花火のような何とも情けない音を発しただけ。

そして銃口からはポロリと鉛弾が転げ落ちた。

「あれ?」

あわてて元課長は銃をガチャガチャいじくる。

しかし決して銃は正常には作動せず、それどころか完全にバラバラになってしまった。

 

 

 その様子を見た特車二課整備班の面々は口々にささやきあった。

「あれ、設計ミスじゃないのか?」

「いや、単に工作の精度が甘かっただけだろう。」

「良い火薬が手に入らなかったので花火の火薬をほぐして使ったんでは?」

「整備不良じゃないのか?いくら何でも試射ぐらい済ましていると思うぞ」

 

 

 しかし元課長の耳元にはそんなささやき声も届かないようであった。

「おのれ、どこまでも儂に逆らうとは……こうなれば踏みつぶしてくれる!!」

そう叫ぶと元課長は手に残った銃を捨てるとフットレバーを踏み込んだ。

 

 そして手作りレイバーは動き出した……が一歩踏み込むなりいきなり右足がぐしゃりとつぶれた。

その様子を見た北川はあきれた声を上げた。

「おいおい、足が強度不足かよ。あれじゃあまともに動けまい」




 しかし元課長はそんな事にはお構いなしだった。

すぐに左足も踏み込ませ、やはり右足同様にぐしゃりとつぶれた。

そのせいで体長8m前後あった手作りレイバーは6m程度の大きさになってしまった。

それでも手作りレイバーはその何とも情けない姿になっても、よろよろと安定しない歩みにもかかわらず

秋子さんへと近づいていく。

がやはりそれは無茶だった。

そもそも足が半分の長さになってしまったのにそのバランスを制御するオートバランサーは元のままなのだ。

当然のごとく手作りレイバーは見事なまでに前のめりにこけた。

それでも必死になって手作りレイバーは立ち上がろうとする。

しかし・・・機体を持ち上げていた腕が肩からはずれた。

もはやこうなってしまってはレイバーは起きあがることが出来ない。

コクピットの中で元課長は号泣した。

「おのれ水瀬秋子め!!

またしてもお前が!!!お前が!!!!」

 

 そんな様子を二階の課長室から覗いていた現課長はぼっそりつぶやいた。

「…あれが私の将来の光景なのか……?」

 

 

 

 こうして第二小隊をおそった怪しい人物の影はこうして解決したのであった……。

 

 

 

 

 

おまけ

栞:「そういえばあの前課長ってどうして秋子さんを恨んでいたんですか?」

美汐:「それは私も知りたいところです。秋子さんの話は興味がありますので」

名雪:「(声を潜めて)みんな、知りたい?」

一同:「(コクコク)」

名雪:「…あの前課長…ずっと日本全国を回っていたらしいんだけど…。

    それが原因でアレのことを知らなかったらしいんだよ」

祐一:「アレってアレのことか?」

名雪:「うん…。それで元課長さんが二課に就任したときにお母さん…例のロシアンティーを出したって……」」

一同:「うわぁ〜!!」

名雪:「前課長さん、それを一気に飲み干して体調を悪くしてしまって結局退職と言うことに……」

あゆ:「うぐっ、前課長さんかわいそうだよ……」

真琴:「あう〜っ、怖いよ〜」

栞:「それはちょっとひどいですね」

 

 

結局いろいろひどい目に遭ったものの元課長を恨むことは出ない第二小隊の面々なのであった。

 

 

 

 

あとがき

何とか三話で書き上げました。

一時は四話になるかな?って思ったんですが。

さて次回はどの話にしようかな?

 

 

2001.09.09

感想のメールはこちらから


「機動警察Kanon」TOPへ戻る  読み物部屋へ戻る   TOPへ