機動警察Kanon第064話

 





 

 

 「すいません、まだ決心つかないんです」

あゆは目の前にいる石橋氏に向かって頭を下げた。

ここは一軒のしゃれたカウンターバー。

前回の約束に基づいて仕事明けにあゆは石橋氏と接触していた。

だがあゆは一週間時間をもらい、いろいろ考えたものの考えがまとまらなかったのだ。

だが石橋氏はそのことについて怒ったりはしなかった。

にこやかに笑うとうんうんとうなずき、あゆに言った。

「一生に関わる重要なことですからね、悩むのは当然です。

実は今回はあなたに会いたいという人がいるんですよ」

その言葉にあゆは聞き返した。

「うぐぅ、ボクに会いたいっていったい誰が?」

すると石橋氏は苦笑いした。

「本当はヘッドハンティングする側とされる側をこうやって会わせるのはルール違反なんですけど」

 

 

 そしてその場に現れた人物はあゆにとって懐かしい人間だった。

 

 「おじさん!?」

「やあ、あゆちゃんお久しぶりだね」

そこに現れたのはあゆがその昔、学生時分に行きつけにしていたたい焼き屋の親父であった。

「どうしておじさんがここに?」

するとたい焼き屋の親父は笑いながら言った。

「実はあゆちゃんのヘッドハンティングを頼んだのはわたしなんだよ」

「うぐぅ、そうだったんだ」

「…とりあえずこの場は二人に任せます。気の済むまで話し合ってください」

二人での会話が弾みそうになったので石橋氏はそう言うとその場を立ち去った。

 

 

 

 「実はね、わたしはあのたい焼き屋を全国展開しようと思っているんだ」

おじさんの言葉にあゆは目を輝かせた。

あのたい焼きが日本全国どこでも食べられる。

これはまさにあゆにとってパラダイスそのものだったからである。

だがすぐにあゆは疑問にぶち当たった。

「でどうしてボクをヘッドハンティングする必要があるの?」

「それはだね、たい焼きに関してあゆちゃんほどうるさい人を知らないからだよ」

おじさんの言葉にあゆは凹んだ。

「うぐぅ、なんだかほめられている気がしないよ」

「まあそういわないで。ようはあゆちゃんのたい焼きに関する舌を買っているんだよ」

「…それが年収の三倍の年俸と、そして部長職というわけ?」

「そういうことだよ」

おじさんはあゆの言葉にうなずき、さらにあゆが驚くようなことを言った。

「なんだったらあゆちゃんと共同経営でもいいよ。あゆちゃんの実力なら問題ないからね」

「うぐぅ!! 急にそんなこと言われても・・・」

あゆはさらに話が大きくなったことに戸惑い、そしてそうつぶやいた。

するとおじさんはうんうんとうなずいた。

「やはりあゆちゃんは昔とちっとも変わっていないね。

だからこそわたしはあゆちゃんという人材がほしいんだ」

「で、でも……」

そんなあゆの様子におじさんはちょっと寂しげに笑った。

「店の方の準備もあるからね、断っても別に構わない、ただ結論は一週間後に頼むよ」

そしておじさんは店を出、そして後には一人悩むあゆが残された。

 

 

 

 

 そしてその翌日。

特車二課第二小隊のオフィスではあゆを除くみんなが様子のおかしいあゆのことをひそひそ噂していた。

 

名雪:「あゆちゃんの様子がなんだか変だよ〜」

祐一:「うむ、たしかに。たい焼きがきれたのか?」

栞:「あゆさんはたい焼き中毒患者なんですか?」

祐一:(「バニラアイス中毒患者が何を言うか……」)

栞:「そんなこと言う人、嫌いです!!」

名雪:「祐一…声に出てたよ。」

祐一:「しまった!! この癖、本当に早く治さねば……」

真琴:「あうっ〜、真琴があゆあゆのことを怒ったから落ち込んでいるのかな?」

美汐:「あれは真琴が正しいです。真琴が言わなければ私が言っていました」




 

 しかし結局隊員たちにはあゆの悩みは全然分からなかった。






 

 

 (…やっぱりボクは二課には必要不可欠な人材じゃないよ。

それよりもボクを必要としてくれているおじさんの方が……)

あゆの心の中はすっかり辞めることに傾いていた。だがやはりまだ決断は着かない。

そこであゆは人生の先輩であり、そして上司でもある秋子さんに相談してみることにした。

 

 

 コンコン

 あゆは隊長室のドアをノックした。

すると第一小隊隊長の小坂由起子警部補が顔を出した。

「あら、月宮さん。どうしたの?」

そこであゆは由起子さんに言った。

「あのう、うちの隊長はいますか?」

「秋子先輩?居るわよ、じゃあ呼んでくるわね」

 

 そしてすぐに秋子さんが隊長室から顔を出した。

「あら、あゆちゃん。私に用っていったい何かしら?」

「じ、実は相談があって……」

あゆがそこまで言ったとき、突然二課構内にサイレンの音が鳴り響いた。

「うぐぅ、ビックリしたよ〜」

あゆは突然の音にビックリして思わずそう言葉を漏らしたが、秋子さんは一瞬だけ真剣な表情を浮かべた。

「あゆちゃん、相談は後回しね。今は出動よ!!」

「は、はい!!」

 

 

 

 第二小隊が出動した現場、そこは今までのレイバー犯罪とは訳が違っていた。

きわめて凶悪なテロリストが逃走中に工事現場のレイバーを奪取、人質を取って立てこもっていたのだ。

そのために機動隊だけではなくSATも出動、犯人を取り逃がさないように完全に現場周囲を固めていたのだ。

ちなみに人質はすぐそばを通りかかっていた小学生の女の子だった・・・・。

 

 

 

 そのことを聞いた第二小隊の隊員たちはみな憤りを隠せないでいた。

どんなに崇高な目標を口にしてもやっていることは単なるテロ。

ましてやいたいけな女の子を人質に取るなんて言語道断だったからである。

「秋子さん!! あいつやっちゃっていい?」

「了承」

秋子さんの了承も得られたもののさすがにいきなりはまずいので第二小隊は行動を開始した。

 

 

 

 「とはいうもののどうすれば良いんだ?人質がいるからな……」

祐一の言葉に美汐は頷いた。

「そうですね。確かに人質を何とかしないと……」

二人は考え込んだ。

そして祐一は一つ良いことを考え込んだ。

「ちょっと耳を貸してくれ」

そして祐一は美汐にささやいた(そのまえに耳に息を吹きかけるというお約束があったのはいうまでもない)。

「……、それは良い考えかもしれません。しかし誰がそれを犯人に届けるんです?」

「そうだな。名雪と真琴はKanonから離れるわけには行かないし…俺とおまえも指揮車から離れるわけには

いかないし……、
ここはやはりあゆか栞のどちらかだろうな。」

「たしかに相沢さんの言うとおりですね。ではどちらを?」

祐一は再び考え込み、そして言った。

「あゆにしよう。あいつは警察官の中でもっとも警察官に見えないやつだ」

「…それって褒めているんですか? 貶しているんですか?」

「今は褒めている。それじゃあまずはこれで行こう。ダメならば……射殺でいく」

「そうですね」

指揮者二人の意見は一致した。

そこで祐一は秋子さんに作戦の鍵となる物を頼み込んだ。





 

 「秋子さん、例の物お願いできますか?」

「了承です」

秋子さんの了承をもらったので作戦は無事発動の見込みとなった。

 

 

 

 「助かりましたよ、秋子さん」

「なんでしたら祐一さんもどうですか?まだいっぱいありますよ」

「却下です!!(0.1秒で)」

 

 

あとがき

結局三話になってしまいましたね。

でもさすがに次でおしまいです。

 

 

2001.08.05

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