機動警察Kanon 第063話

 

 

 

 「うぐぅ〜、ボク本当に警察官に向いているのかな?」

 

 

 その日、月宮あゆは悩んでいた。

何を悩んでいるのかと言えば最初の台詞にもあるように自らの警察官としての適性だ。

正直言ってあゆは今の自分が特車二課に必要不可欠な人材である! と胸を張ることが出来なかったのだ。

名雪はしっかりとパイロットとして活躍しているし、祐一は指揮者として何ら問題はない。

栞は…あゆと似たところがあるものの失敗するわけではない。

真琴は…結構失敗は多いもののやるときはやるし、美汐に至っては文句のつけようもない。

それに対して自分は指揮者を首になってキャリア担当に回されるし、みんなのお役には立っていないし……。

そう思うとあゆは自分が心底情けなく思えるのであった。




 

 

 その翌日。

出撃から戻ってきたあゆに整備班の北川があゆに伝言を伝えてきた。

 

 「月宮さん、出撃中に電話があったぜ。これがそのナンバー、折り返しかけてくれってさ」

そう言って北川はあゆに一枚のメモを手渡す。

あゆはそのメモを受け取って見てみたがそこにかかれていたのは全く覚えのない番号であった。

「うぐぅ、いったい誰なんだろう?」

「さあ? 俺が受けた訳じゃないし分からないけどかけてみれば分かるだろ」

「そうか、それもそうだよね」

そこであゆはテレホンカードを手に二課構内にある公衆電話へと歩いていった。

 

 

 あゆは受話器を手にするとゆっくり間違えないように電話番号をプッシュした。

そして受話器を耳にあてる。

すると数回のコール音の後、電話の向こうに相手が出た。

「はい、こちら石橋人材開発センターですが」

電話の相手は声から想像すると40歳から50歳と思われた。

 

 「うぐぅ、ボク先ほどお電話いただいた月宮あゆといいますが……」

「月宮様ですね、お電話いただきましてまことにありがとうございます。実は月宮様にお話がありまして……」

こういうと男はあゆに本題を話し始めた・・・。









 「うぐぅ、いきなりこんなこと言われてもボク……」

あゆは男(石橋というらしい)の言葉に困ったような声を上げた。

すると石橋氏はあわててなだめるように言った。

「もちろん面識も無い中、今すぐに決めてくれなどとは申しませんよ。

ただ一度、顔を合わせて真剣に話をしたいんですよ」

「そうなんだ。でもボク……」

あゆはためらったようにそう言おうとした。

すると石橋氏はその言葉を遮った。

「月宮様!! あなたは今のご自分に満足されていますか!!

今のお仕事があなたに適職だと思いますか!!」

「うぐぅ……」

つい昨日も自らの警察官としての適正に疑問を抱いていたあゆは何も言うことが出来ず、

結局次の非番の日に会うこととなった。





 

 

 さらに翌日、いつものように第二小隊第二分隊(真琴・美汐・あゆの編成のことだ)は当直任務として

酔っぱらい運転捕縛のために二課を出撃、これを迎え撃った。

 

 

 「まず目標をあゆさんのキャリアで牽制、相手がひるむなり怒ったところで真琴が隙をついて一撃。

とりあえず状況が状況だけに速攻で片づけます」

美汐は暴れまくって民家をぶちこわしている暴走レイバーを横目にそう言った。

はっきり言ってこうしている間にも被害は拡大中である。

あまりにもおおざっぱかつ、いい加減な計画だがこればかりはどうしようもなかった。

 

 

 (これはひさしぶりにボクの見せ場!?)

あゆは期待に無い胸をふくらませていた(笑)。

自らの警察官の適性に疑問を持つあゆではあったが活躍したくないというわけではない。

むしろその逆、活躍することで自らの適性に自信を持ちたいところだ。

だからあゆはいつになく張り切った。

そしてそれがあだになった……。

 

 

 「それじゃあ行くよ」

あゆは暴走レイバーに対峙するという恐怖におびえつつも自らを奮い立たせていた。

そして大きく深呼吸するとアクセルを思いっきり踏み込んだ。

するとたちまちキャリアはタイヤをきしませ一気に走り出す。

だがそのスピードは速すぎた……。

暴走レイバーを牽制するところではない、早すぎてキャリアのコントロールを失ってしまったのだ。

 

 「うぐぅ〜!!」

あゆは必死になって立て直し、何とか民家につっこむことは免れた。

しかしそれは暴走レイバーの退路を完全に遮断してしまうことになったのだ。

「窮鼠猫もかむ」ということわざがあるように追いつめられた暴走レイバーの犯人は完全に逆上した。

たちまち手当たり次第に周囲の物を破壊し始めた・・・・。









 

 

 「うぐぅ〜」

あゆは全てが片づいた後、キャリアの運転席から降りた。

すると険しい顔つきの真琴があゆに冷たく言い放った。

「あゆあゆ!! あんたあんな簡単な指示もやれないの!!

役に立たないのは良いから足だけは引っ張らないでよ!!」

その言葉にあゆは一言も反論出来なかった。

自分でも心底情けない、そんな結果だったからである。

あゆは結局自信をつけるどころかますます自らの警察官としての適性に疑問を持つのだった。






 

 

 

 そして約束の日がやってきた。

あゆは約束通り、指定された場所にやって来た。

するとそこには一人の中年男が待っていた。

そしてあゆを見るなり頭を下げるのであゆもあわててぺこりとお辞儀した。

そして男は名刺をあゆに差し出したのであゆはあわてて受け取った。

「私は石橋人材開発センターの代表取締役の石橋と申します。今日はどうもありがとうございます」

そして商談というか話が始まった。




 

 

 

 「まずは単刀直入に申し上げます。月宮さん、あなたという人材をほしがっている方がいらっしゃいます」

「ボ、ボクのことを?」

あゆは石橋氏の言葉に耳を疑った。

とても自分のような人材をほしがる会社などいるとは思えなかったからだ。

しかし石橋氏はあゆに破格の条件を突きつけてきた。

「はい、そうです。そして先方はあなたに今の年収の三倍の年俸と、そして部長職を用意すると言っています。」

「今の年収の三倍の年俸と、そして部長職!?」

あゆは思わず耳を疑った。

とんでもない数字と役職だったからである。

ふつうなら迷わずうなずくところだ。

しかし自分に自信が持てないあゆはまだ決断できなかった。

 

 とりあえずあゆは考える時間をもらい、そして石橋氏と別れたのであった……。

 

 

 

あとがき

ブロッケン編の箸休め、と言う感じでこんなの書いてみました。

本当は一話で完結させるつもりだったんですが長くなりそうなのでとりあえず今回はここまで。

後一話、もしくは二話で完結です。

なおパトレイバーの世界ではバブル経済が続いているのでヘッドハンティングも全然おかしくないんですが今のご時世だと変な気がしますね。

 

2001.08.03

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