その日、会議室には特車二課の隊員たちが揃っていた。
滅多に姿を見せない課長、そして第一小隊に第二小隊の全員。
さらには本庁警備部の人間から外事に公安に捜査課の人間まで。
これだけの人間が一堂に会する機会はまずあり得ない、というか前代未聞のことだ。
ではなぜこのような会議が特車二課で開かれたのか。
それには幾つかというか二つほど原因があるのであった。
まず第一は第二小隊が2機目のブロッケンを逃してしまったこと。
これによって犯人を逃してしまったのだ。
そして第二が事件から10日後の昨日、その逃がしたブロッケンが海底から発見されたことである。
このブロッケンはすぐに海底から引き上げられ、綿密な捜査が行われたのである。
そしてその結果、海中に放棄された機体から起動ディスケットが抜かれていたことが判明した。
撃破したブロッケンは二機…そしてボスニアから盗まれたEU軍のブロッケンは三機。
第三ラウンドは間違いないだろう。
こういう考えに基づいてその対策会議が催されることとなったのであった。
「このたびの諸君らの行動は非常に慚愧に耐えない!!」
40歳代後半、すでに子供も大きくなって家庭内粗大ゴミ扱いされている課長は大げさに、
もったいぶって第二小隊の面々に向かって叫んだ。
普段はきわめて無気力で部下たちのやることに一切関心を持っていない課長であるが今日は勝手が違う。
どうやら他の部署にいる同輩たちに自分の力を見せつけようとがんばっているらしい。
だがそれは無駄な努力であった。
その場にいた特車二課の皆、特に叱られているはずの第二小隊の面々が適当に聞き流しているからだ。
隊長の秋子さんもそうだし真琴・美汐・栞・祐一もそうだ。
名雪に至っては完全に熟睡しているほどだ。
ただ一人、あゆだけが「うぐぅ〜」「うぐぅ〜」とダメージを受けていたが。
「ふわぁ〜、ようやくと終わったね」
名雪は大きなあくびをしながら隣を歩いている祐一にそう言った。
すると祐一はあきれた顔つきで名雪に反論した。
「お前は会議中、ずっと寝ていただろうが。そこからどうしてようやくとなんという言葉がでてくるんだ?」
その言葉に名雪はむくれた。
「うぅ〜、祐一ひどいよ」
「事実だからな。それにそういわれるのがいやならしっかり起きていろよ。
課長なんか今にも怒鳴りつけたそうにしていたぞ。まあ無駄足になるからそうしなかったがな」
「…祐一、私のこと嫌い?」
「いや、嫌いじゃないぞ。なんせ俺とお前は仲間、フォワードとバックアップは一心同体じゃないといけないからな。」
「うぅ〜、なんか誤魔化されたようだよ」
「それはそうと名雪、会議の内容の説明してやろうか?」
祐一は会議が始まるなり眠りについた名雪のためにその内容を教えてやろうとした。
すると名雪は首を横に振った。
「うんん、大丈夫だよ。ちゃんと眠りながらだけど話は聞いていたからね」
その言葉に祐一は思いっきり驚いた。
「何だと!? お前は寝ながら人の話を聞くことができるというのか?」
すると名雪はうなずいた。
「うん、そうだよ。もっとも特別に意識していなければだめだけどね」
それにしてもすごい話だ。
ふつう寝るというのは脳を休ませる行為なのに寝ている最中に話を聞くことができるなんて。
だがこの話で祐一は合点がいった。
「さては名雪、高校生の時はこれでしのいでいたんだな!!」
「えへへへ〜、実はそうだったんだ」
「ずるいぞ、名雪!!」
二人はこの後高校生時代の話題で盛り上がった。
「はっ!? そういえばこんなことしている場合じゃなかった」
「そういえばそうだよね」
ふと二人は我に返った。
ついつい学生時代の話が盛り上がってしまい、本題をすっかり忘れてしまったのだ。
だが無理もあるまい。
社会人となってしまった今となってはいやな思い出もひっくるめて、学生時代の思い出というのは懐かしく、
それでいて良いものなのだ。
ってまた脱線しているので話を元に戻します。
「やっぱり第三ラウンドあるって上層部も判断したよね」
名雪の言葉に祐一はうなずいた。
「ああ。二機目からも起動ディスケットが抜かれていたからな。やる気がなければ放置していくだろうし」
「…この間の奴、前に比べて動きが良くなっていたもんね」
「おや意外だな、お前もそう思ったか」
「祐一、私のことなんだと思っているの?」
「猫アレルギーのくせに猫が好きな天然ぼけの居眠り女」
一瞬の躊躇もなく答えた祐一の言葉に名雪はショックを受けた。
「うぅ〜、祐一ひどいよ……」
「馬鹿、冗談だ。それより早くオフィスに戻るぞ。いつ出動があるかわからないからな」
「うん♪」
こうして二人は仲間の待つオフィスへと歩いていった。
このころ、都内のあるボロアパートの一室では二人の男が密談中であった。
テロB:「それにしてももったいないよな。あれだけの機体、あっさり放棄するはめになるんだから」
テロA:「仕方がないだろ!! 水中でも動ける、って話を信頼して潜ったらどうだ!!
動けるだけで性能がた落ちじゃないか。
俺が海底から脱出するのにどれだけ苦労したと思っているんだ!!」
テロB:「それはそうなんだけどさ……」
テロA:「それにしてもおかしな話だぜ。ちょこっとレイバー乗って大暴れ。
これだけでものすごい大金が俺たちに転がり込んでくるだぜ」
テロB:「そういわれると不気味だな。そうたいそうなこともしていないのに……」
テロA:「今ふと思ったんだが俺たち、何かの実験台にされているんじゃ……」
そこまで話したとき、突然「ピンポーン」と玄関のチャイムが鳴り響いた。
あわてて二人はついていたテレビを消し、玄関へと音も立てずに忍び寄った。
そしてドアスコープからそっとのぞき見ようとする。
するとドアの外から声がかけられた。
「…MHKの集金に来ました」
「うちはMHKは見てないから払わないよ」
聞こえてきた声にテロリスト二人はほっと胸をなで下ろした。
彼らの敵、すなわち警察ではなかったからである。
ところが外から声をかけてきた何者かはさらに続けた。
「…それじゃあ宅配便。でなければ新聞の勧誘というのも……」
「ふざけるな!!」
思わずテロリストAはドアを開けると思いっきり叫んだ。
そして驚愕した。
そこには彼らにブロッケンを貸与していた女…川澄舞が立っていたからであった。
「俺たちはもうやらないからな!!」
ショックから立ち直るなりテロリストAは舞にそう宣言した。
隣に立っているテロリストBも同感とばかりにうなずいている。
だが舞は何も答えなかった。
そしてポケットから三機目のブロッケンの起動ディスクを取り出し、テロリストAに渡そうとした。
するとテロリストAは烈火のごとく怒り、叫んだ。
「俺らはもうあんたの依頼は引き受けないことにしたんだよ!!」
その言葉を聞いた舞は顔色一つ変えずに、そして目にも止まらぬスピードでどこに隠しておいたかは
わからないものの小太刀を抜刀、テロリストAの首筋に突きつけた。
「な、なっ……」
突然の出来事にテロリストAおよびBは全く反応できない。
ただあたふたというか頭の中がパニック状態に陥っているだけだ。
そんな二人に舞は淡々と宣告した。
「…あなたたちにそれを決める権利はない。決めるのは私」
度胸のないテロリストA&Bは結局またブロッケンに乗る羽目になってしまったのであった。
あとがき
今回はほとんど漫画そのままですね。
一応Kanonキャラの台詞には変換したつもりですが。
問題は次回、ブロッケンVSKanon第三ラウンドなんですよね。
原作まんまでは筋道があわないのでオリジナルでいきたいと思います。
2001.07.24