機動警察Kanon第060話

 





 

 

 二人の客、すなわち国崎往人と神尾観鈴両刑事が特車二課に来て早一週間が経とうとしていた。

この間、二人は特車二課に泊まり込み、出動とあらばいつも一緒について来て捜査に当たる。

もっともその大半というか今のところその全てがブロッケンとは全く関係がない。

ただ普通の事故処理とか酔っぱらい運転、まれにテロや強盗があるものの彼らの出番は全くなかった。

そんな中、かなり環境の悪い特車二課にいるのだからかなり不満がたまっている。

と思いきや二人は結構楽しんでいた。

国崎往人部長刑事は日頃よほど酷い食生活を営んでいたらしく特車二課の粗食をも涙を流さんばかり

にしておいしそうに食べている。

神尾観鈴巡査は同年代の隊員たちと馬があったのか仲良くしていて楽しそうだ。

かくして捜査は全く進展しなかったものの彼らはうまく特車二課にとけ込めたのであった。




 

 

 

 「もう一週間ね」

秋子さんはロシアンティーを優雅に飲みながらそうつぶやいた。

むろん中に入っているのはあの邪夢だ(笑)。

そんな秋子さんの様子を見ないようにしながら第一小隊隊長の小坂由起子警部補は聞き返した。

「何が一週間なんですか?」

「あの二人が二課に来てからよ」

その言葉でようやくとわかったらしい、由起子さんは溜息をついた。

「警官二人をこんなところにわざわざ置かなくったって捜査ぐらいできると思うのだけれど一体上層部は

何を考えているのかしら?」

すると秋子さんは一瞬険しい表情を浮かべた。

「…それはきっと捜査の手がかりが全くないからじゃないかしら」

「つまり次の事件が起きたら現行犯逮捕すると?」

「まあそんなところね。きっと上層部の考え方はこうよ。

『ちくしょう、もう一回やつら動かないかな。そうすれば絶対逮捕してやる』ってね ♪」

秋子さんの言葉に由起子さんはうんざりといった表情を浮かべた。

「やめてほしいわよね、そう言うことは。実際に矢面に立つのは私たちなのに」

「本当よね」

秋子さんはそう言うとロシアンティーをきれいに飲み干したのであった。






 

 

 

 そんなやりとりから数日後の台風の日。

その日は朝から特車二課は忙しかった。

様々な事件や事故処理で当直中の第一小隊はてんてこ舞いだったのだ。

そして夕方近くなった頃、とうとう第一小隊だけでは処理出来なくなり、待機中の第二小隊にも

出動要請がかかったのである。





 

 

 「こんな雨の中出動するなんていやだよ〜」

名雪はヘッドギアを抱えながら外を見てそう愚痴をこぼした。

せっかくピカピカに磨き上げたケロピーが汚れてしまうのが気に入らないらしい。

だがこれはいつものことなので祐一と栞はその言葉を完全に無視した。

「栞、雨に風だからな、起動の時は注意しろよ」

「分かっていますよ祐一さん。ちゃんと研修だって受けているんですから」

「まあそれはそうだろうが……実地では初めてだろう、心配だな」

「祐一さん心配してくれるんですね、うれしいです♪」

すると二人の会話を聞いていた名雪がむくれたような顔をしてつぶやいた。

「私を無視して何か良い雰囲気で話しているんだよ〜」

そこで祐一は名雪の方を見ると言った。

「なら仕事いやがっていないで出動だ。さっさと行くぞ」

「うぅ〜、わかったぉ〜」

「はい、行きましょう」

 

 こうして三人は特車二課を出ると事故処理へと向かったのであった。

 

 

 

 

 それからおよそ三十分後。

ふたたび特車二課に通報があった。

某埠頭でレイバーが倉庫街を破壊しているというのである。

そこで秋子さんはただ一機特車二課に残っていた真琴・美汐・あゆたちに出動を命じた。




 

 「みんな!久しぶりの出番なんだから張り切って行きましょうね」

秋子さんの言葉に三人は力強く頷いた。

ただでさえ出番がないのだからせっかくのチャンスを逃してしまっては惜しいという物だ。

真琴とあゆは無論のこと、日頃物腰の上品な(おばさんくさい)美汐も妙に張り切っていた。




 

 「よ〜し、あゆあゆ。ぐずぐすしないでさっさと出撃よ!!」

「うぐぅ。ボクは準備が時間かかるんだから待てっよ〜」

真琴の言葉にあゆはそう反論した。

実際のところ、確かに大型のキャリアは準備が大変であった。

しっかりとした暖機運転に各部の油圧ジャッキ等のチェックに整備用の機材の状態など。

無論あゆ一人でチェックするわけではなく整備員たちも総出で行ってくれるがやはり指揮車や

ミニパトに比べるとどうしても遅くなってしまうのだ。

だが真琴はそんなことはお構いなしであった。

久しぶりの出番に、しかも発砲するチャンスでもあるのだ。

まるで狐ではなく、今すぐにでもイノシシのように突進しそうな勢いであった。

その様子に不安を覚えたのであろう、美汐が真琴をたしなめた。

「真琴、みんな急いで頑張っているのだから急かすのは止めなさい」

「あぅ〜。で、でも美汐……」

真琴は美汐に反論しようとした、しかしその言葉を口にすることは無かった、いや出来なかった……。





 

 

 やがて準備も完全に整ったところで秋子さんに率いられて第二小隊第二班は特車二課を後にした。

 

 

 数十分後。

四人が現場に着くとそこは台風の最中だというにも関わらず真っ赤に燃えさかっていた。

テロリストの破壊工作によって引き起こされた火災なのであろう。

しかし本来ならば駆けつけてくるはずの消防車の類は一台も目にすることはなかった。

まだ現場に犯人のレイバーが健在で、しかも破壊活動を行っている真っ最中だからである。

つまり火災を鎮火させるにはまずテロリストを排除しなければならない。

秋子さんはさっそく真琴に起動を命じた。

そして美汐の乗る指揮車とともにテロリストを捜索、これを発見しだい排除するよう命じた。

その単純明快な命令に真琴と美汐はさっそく行動に移った。



 

 

 

 「あぅ〜、雨がコクピットの中にも入り込んでくるよ〜。」

真琴はKanonのコクピットの中で思わず叫んだ。

一応天井のハッチは閉めてあるのだが隙間からポタッポタッっとたれてくる。

しかもそれがちょうど真琴の首筋と来てはさすがにたまった物ではなかった。

だがそれも美汐に比べればずっとましだった・・・・。

美汐は外の様子をしっかりと確認するために天井のハッチを開け、そこから顔を出して周りを見渡す。

おかげで全身びっしょり、指揮車の運転席も完全に水びだしであった。

「水も滴るいい女」とはまさにこのことであろう。

だがその甲斐はあった。

センサー系が充実したKanonよりも先に美汐はMK−1アイボールセンサー(ようは肉眼)でテロリストと

おぼしきレイバーを発見したのである。





 

 

 「真琴!! 二時の方向に所属不明のレイバーを発見!! 向かいなさい!!」

「わかった!!」

美汐の指示に真琴はKanonを走らせた。

そしてあっという間に目標レイバーの背後へと着く。

そして真琴は脚部から37mmリボルバーカノンを取り出し構えるとマイクで勧告した。

「そこの所属不明のレバー、止まりなさい!! さもないと撃つわよ!!」

だが真琴の本心は別の所にあった。

(止まらないでよ、本当に止まらないでよ。私に銃を撃たせてよね)

 



 

 その時、目標レイバーが振り返った。

「なっ!?」

その姿を確認した美汐は一瞬息をのんだ。

そして叫んだ。

「真琴!! 撃ちなさい!!」

『OK〜!!』

真琴は嬉々として銃を発砲した。

しかしその弾丸はすべて目標レイバーの厚い装甲に阻まれた。

その光景を目にした美汐は無線で秋子さんに叫んだ。

「ブロッケンです!! 奴が現れました!!」




 

 

 そう約10日ぶりに今警察を震撼させていたブロッケンがとうとう姿を現したのである。

そして美汐の報告を受けた秋子さんは即座に第二小隊一斑、すなわち祐一に連絡を取った。

「祐一さん、ブロッケンが出現しました。即座にこちらと合流してください!!」

 

 

 こうしてブロッケンとの第二ラウンドが始まった・・・。

 

 

あとがき

ブロッケン編の第二弾です。

漫画がベースになっていますが今回のエピソードは殆どオリジナルですね。

おかげで結構手こずりました。

次も頑張ろうっと。

 

 

2001.07.08

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