機動警察Kanon第058話

 

 

 

 二機のレイバーはお互いに静止したまま向かい合っていた。

どちらも全く動こうとはしない。

現場には緊迫した空気が漂っている。

こういう雰囲気が苦手な祐一は現状を打開すべく名雪に指示した。

「おい名雪、相手は動きを止めている。今のうちに取り押さえるんだ!!」

『わかったよ〜』

名雪は頷くとケロピーを操り、正体不明のレイバーの右肩を極めようとした。

普通ならばこうすればレイバーは動けないのだ。

なぜならば腕が損壊しいてしまい、その能力ががた落ちになってしまうからである。

しかし相手が悪かった……。

 

 

 「本当にやれるんだろうな……」

テロリストAは不安げにつぶやきつつもブロッケンを操り、ケロピーとがっぷり組み合った。

するとどうだろう。

ブロッケンはケロピーをぐいぐいと押して行くではないか。

コクピットの中で名雪は思わず言葉を漏らした。

「ゆ、祐一…こいつ……」

そんな様子を見ていた祐一は思わず叫んだ。

「名雪、そいつから離れろ!! そいつはただのウドの大木なんかじゃないぞ!!」

「わ、わかったよ〜!!」

名雪は祐一からの指示に慌てて正体不明レイバーから離れようとした。

しかし調子に乗ったテロリストA,そう簡単にはケロピーを離したりはしなかった。

「どすこ〜い!!」

気合いの入ったかけ声と共にブロッケンはケロピーにショルダータックルをぶちかましたのである。 

 

 

 「わっ、わっ、わっ〜!!」

正体不明機の攻撃に吹っ飛ばされた名雪は思わずそんな情けない悲鳴声を上げた。

しかしだからといって何かが変わるわけではない。

ニュートン物理学の法則に従ってケロピーは背後にあったマンションへと突っ込んだ。

「あちゃ……」

「…祐一さん、帰ったら始末書ですね……」

という祐一と栞の二人のぼやきとともに……。

 

 



 

 「…あのパワーと装甲、まさか軍用じゃ……」

祐一は目の前にいるレイバーの正体をそう分析した。

見たこともない機体ではあったがあの能力、とても市販の作業用レイバーが持つものではなかったからである。

すると無線から名雪の声が聞こえてきた。

どうやら祐一のつぶやいた言葉を聞いたらしい。

珍しくその声は上擦っていた。

「ゆ、祐一!! あのレイバー、軍用って本当!?」

「そんなこと俺が知るか!! とにかく注意しろよ、ただ者ではないのは間違いないんだからな」

「注意しろ、ってそんな…具体的にどうすれば良いんだよ〜!?」

すると祐一は頭をぼりぼりと掻き、そしてぼそりと言った。

「…ただ注意しろ、それだけだ」

「ゆ、祐一〜!!」

名雪の悲鳴声に祐一は叫んだ。

「やかましい!! 一体何と指揮したら良いって言うんだ!!

背を向けて逃げろなんて言えないだろうが!!」

その時、正体不明のレイバーが動き出した、と見るやケロピーに向かって突っ込んできたのだ。

そこで慌てて祐一は叫んだ。

「前言撤回!! 名雪、逃げろ!!」

 




 

 

 だが名雪は逃げなかった。

そのまま突進してくるレイバーをひょいとかわすとそのまま足をけっ飛ばしたのだ。

すると当然のことであるがレイバーは慣性の力と重力に引かれ、マンションへと突っ込んだ。

 

 「け、けたぐりなんぞ食らわしやがって……貴様それでも警察官か!!」

テロリストAは思わずそう叫んだ。

しかし名雪は怯まなかった。

「言い分なら後で聞くよ〜。今は大人しく縛につくんだよ〜」

そしてケロピーの左腕に装着されているスタンスティックを引き抜くとそのまま正体不明レイバーの

顔部に突き立てたのだ。

するとメインカメラ防護アーマーは吹っ飛び、そのまま正体不明機のメインカメラはお釈迦になった。





 

「くそっ!カメラがやられちまった!!」

テロリストAはコクピット内で悪態を付いた。

このブロッケン、完全密閉型なのでメインモニターがやられてしまうと殆ど外の状況がわからないのだ。

するとどうだろう、サブカメラに白い煙が立ちこめているのが目に飛び込んできた。

よく見るとその煙は彼が乗っているブロッケンから立ち上っているものであったのだ。

「うわぁ!! 一体これ何なんだ!?」

 

 

 すると携帯電話から舞の声が響いてきた。

『…心配ない。ただ煙幕のスイッチが入っただけ』

舞の言葉を聞いたテロリストAはほっと胸をなで下ろした。

いきなり爆発するのではないか、そう思ったからである。

「煙幕なら好都合だぜ。もうこの機体、捨てちまっても構わないよな?」

『…もうやれないの?』

舞の言葉にテロリストAは大げさに頷いた。

「メインカメラがやられちまった。もうこれ以上は無理だな」

『…わかった。でもデータを持ち帰るのは忘れないで』

 

 

 

 そのころ名雪はケロピーのコクピットの中で正体不明のレイバーと対していた。

崩れかかったビルに寄りかかる形で倒れてから動こうとしなかったためである。

まるで完全にその活動を停止したように。

だからといっても迂闊に近づくわけには行かない。

活動を停止したように見えても確認していない、だからいきなり襲いかかってくるかも知れないからである。

「俺、ちょっと様子を見てくる」

現状に厭きた祐一は指揮車を降りるとそう言った。

すると名雪と栞が止めに入った。

『危ないよ祐一〜。まだ活動停止を確認していないんだから〜』

「そうですよ、祐一さん。名雪さんの言うとおり危険すぎま。」

だが祐一は聞かなかった。

「平気だって。でも動き出したら頼むぜ、名雪」

そう言い残して正体不明レイバーへと近づいていった。




 

 

 祐一は壊れたビルの中へとはいると正体不明レイバーへと近づいていた。

ビルの中は様々な残骸が転がっており、惨めな状態である。

「…もうこのビルは建て替えだろうな……」

持ち主の泣きっ面を思い浮かべつつ祐一はさらに近づく。

とやがて祐一は立ち止まり、そして悔しそうにつぶやいた。

「…くそっ!逃げられた……」

 

 祐一のその言葉に名雪はほっと大きく息を付いた。

こうして今回の出動騒動は無事幕を閉じたのであった。

 

 

あとがき

次からはいよいよ彼を出すつもり。

でも上手く書けるかな?

もしかしたらしばらくお休みになるかも知れませんね。

 

 

2001.07.04

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